百五十二話 魔族の救世主
72体の魔族がゆっくりと俺を取り囲む。
すべての魔族は、肉を失い骨の姿だと言うのに、一体、一体に迫力がある。
人の形をしている者が多いが、獣が混ざっているミアキスのような獣人タイプも混ざっていた。
72体どころか、一体だけでも俺は勝てないだろう。
「……まて、それ以上近づくな」
右手を広げて前に出し、ストップの体制をとってみる。
ダメ元で試したのだが、ゆっくりと近づいていた魔族たちの動きがピタリと止まった。
「どうした? 久遠匠弥。まさか、怖気付いたのではあるまいな」
カミラに抱えられ、宙空にいるドグマがカタカタと歯を鳴らして笑っている。
どうやら、操っている不死王ドグマと魔族たちは、連動しているようだ。
「まさか、こんなものが俺に通用すると思っているのか?」
めちゃくちゃ通用するのだが、なんでもいいから話して時間を稼がなくてはならない。
「無駄なことはやめないか。死体を破壊するなんて、悪趣味だからな。そいつらは昔の仲間だろう? お前も、コイツらが粉々になるのは見たくないんじゃないか?」
「構わんよ。元から魔族なぞ、我々が設定で作っただけの駒にすぎん」
え? そうなの? 驚くべき衝撃の事実だが、きらめきおもちゃ少年フェイスを保ったまま、話を聞く。
「負の感情の爆発。人間や獣が、傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲といった感情を爆発させた時に、我々が変化させてきた。それが魔族だ」
お、おおう。思ってた以上に、シリアスな内容にちょっと引いてしまう。
四天王お笑い担当からのギャップについていけない。
「長い間、共に過ごしてきて、情はわかなかったのか?」
「そんな感情はとっくに無くなった。この世界はゲームなんだよ、久遠匠弥」
ドグマの言葉と共に、止まっていた72体の魔族が再び動き出した。
やっばい。
動きはゆっくりだが、四方を囲まれ逃げ場がない。
時間だ。とにかくダビ子が戻ってくるまでの時間を稼がなければっ。
「ファ、ファイナルタクミクエストンッ!!」
とりあえず、俺の必殺技を叫んでみた(ほんとはないけど)。
当然ながら、魔族たちは何事もなかったように迫ってくる。
「ウィルス攻撃かっ。だが、残念ながら死体には通用しないようだなっ」
うん、生きてる人にも通用しないんだけどね。
ドグマたちが警戒して、離れてくれたら操れなくなると思ったが、どうやら、かなりの距離でも操れるらしい。
もうダメぽ……
迫りくる魔族たちに、あきらめて目を閉じた時だった。
パタパタパタパタパタパタ、と背後で激しくなにかが動く。
えっ、なにっ? 今度はなにっ!?
あわてて後ろを振り向くが、そこにはなにも見えない。
なのに、パタパタ音は鳴り止むどころか、ますます大きくなっていく。
「あれ? これ、ボルト山の時と……」
おんなじ、と思った瞬間。
「っ!? あついあついあついっ!!」
突然、全身が熱湯をかけられたみたいに熱くなる。
「なにこれっ!? なんかはじまったっ!! ちょっとまってっ!! 心の準備ができてないよっ!! ぎゃーーっ、あついあついあついあついィィィィッーーーー!!!」
叫びとともに、俺の口から、カッ、と光が溢れ出す。
それは巨大な紅い光の球になり、宙に浮かぶドグマやカミラを超えて遥か上空へと飛んでいく。
「あ、あついのなくなった」
満身創痍で、空を見上げると光の球は、さらに巨大化して、まるで二つ目の太陽のように、あたりを真っ赤に染めている。
そして、その膨張は止まらずに、やがてぱんぱんになった風船が弾けるように……
ばんっっっっっっっっ、と爆発音を上げて破裂した。
「な、なにっ!? なんなのこれっ!? ドグマっ!!」
「知るかっ!! よけろっ!! よけてっ!! にげてぇっ!!」
パニックになるドグマとカミラ。
砕け散った光の球は、紅い閃光となり、まるで血の雨のように、大地に降り注ぐ。
魔王の大迷宮の入り口で、72体の魔族たちは、紅い閃光に包まれた。
「え? どういうことだ、これ?」
しばらくして、声を上げたのはドグマだった。
コウモリ傘を持ったカミラと共に、空中からゆっくりと降りてくる。
「ファ、ファイティングデッドっ!!」
ドグマが魔族たちを操ろうとするが、何も起こらない。
「う、うん、死体もういないよ?」
そこには見事に蘇った七十二人の魔族が並んでいた。
パタパタパタパタパタパタ、とリズム良い羽音が聞こえてくる。
まさか、俺の中にいる朱雀が、ボルト山の復活に続き、数千年前に滅んだ魔族たちまで復活させたのかっ!?
「なんだ? オレたち、生き返ったのか?」
「すげえ、肌がピチピチしてるっ」
「誰だっ! 誰が生き返らせてくれたんだ?」
「あの人じゃないか。紅い羽、パタパタさせてるぞ」
「あれ、四神柱の朱雀かっ! 合体してるのか? すげえよ、あの人っ」
「救世主だっ、魔族の救世主だっ!」
後で盛り上がる魔族たちに、ドグマが取り乱す。
「ふざけるなっ、お前たちっ! お前たちの主はこのドグマだっ! は、早くっ、そいつを倒すんだっ!」
「おい、なんか言ってるぞ」
「アイツ、オレらのこと駒とか言ってなかったか?」
「言ってた、言ってた。仲間じゃないとか、情もわかないとか」
「前から嫌いだったんだよ、アイツ」
「四天王(ドグマを除く)だしな」
ヒクッ、と骸骨の顔が歪むドグマ。
どうやら、操れるのは死体だけのようだ。
「お、お前たち、歯向かうつもりかっ!? や、やめろっ、いやっ、やめてっ、ちょっ、カミラっ、助けっ! あれっ、どこっ、いねぇっ!?」
いち早く状況を察したカミラは、とっくの昔に、飛び去っていた。
「み、みぎゃアアアアアアッ!!」
72体の魔族に囲まれて、不死王ドグマの断末魔が響き渡った。




