修羅場の義姉妹
手を引いて
笑い合って
殴り合って
配点(義姉妹)
side喜美
兄さんに連れて来られてデパートの最上階、レストラン街に来る。
まぁ鉄板かしら?なんて思っていたら兄さんはラーメン屋を選んだ。
デートでラーメン屋ねぇ……
減点1だが、たまにはいいだろう。
高級レストランも食べ飽きた。
「押忍!失礼しやす!」
「うっす!」
「豚骨おにゃしゃす!」
「押忍!」
ラーメン屋の店員と仲良く話している。
というか兄さん、私の注文は?
「喜美はどうする?」
「オススメは?」
「豚骨」
「私も豚骨お願いするわ」
「豚骨2つでおにゃしゃす!」
「うっす!」
ひょっとしてそれがやりたかっただけ?
「いやぁ、よかったよかった」
兄さんがホッとした顔になる。
それにしてもこのお店、知佳姉さんを連れて来たら歓喜しそうだ。
知佳姉さん、ラーメンが大好物だからね……
「あら、おいしい」
「そうだろ?知佳……ゴホン、俺の情報に狂いはない」
「フフフ、今日の壮は頼りになるわ」
「今日のって何だ、今日のって」
「言葉通りよ?」
「言ったなこの野郎」
「フフフ」
イチャイチャする。
やっぱり兄さんは面白い。
じゃれあいながらそう思った。
sideイリヤ
「じゃあお開きってことで!」
「「「異義なーし」」」
織火の号令で会議が終了した。
細かい計画や役割分担も煮詰まった。
「これからどうする?私、今から街のほうに出るんだけど」
「あ、私ちょっとシマを締めに行かないと」
「私は今から考えないとですね」
「母さんが心配」
約1名オカシイ奴がいるけれど誰も気にしない。
じゃあ私1人で街に出ることになりそうだね……
ちょっと洋服を見に行きたかったのだ。
壮が喜んでくれるような服、見つけられるかな?
side壮
お昼も無事食べ終わった。
知佳マップによれば次は映画へ行くらしい。
映画はあまり好きじゃないんだけどな……
「喜美、お前映画好きだっけ?」
「あら、鉄板ね。好きよ」
喜美が好きなら行くしかない。
映画館に到着して、上映している映画を見る。
……恋愛映画はなぁ……うん……詰まらない。
結果がわかっているんだもん。
「喜美、何が見たい?」
「恋愛映画以外なら何でも」
お?
喜美もひょっとして恋愛映画が嫌いなのか?
side喜美
兄さんが恋愛映画のCMを見た瞬間、顔をしかめた。
兄さん、恋愛映画は嫌いそうね……
私は嫌いではないのだが、兄さんが詰まらないのも頂けない。
「恋愛映画以外なら何でもいいわよ?」
だからそう言って助け舟を出した。
途端に兄さんは笑顔になって映画を探し始める。
ここらへんの芸当はイリヤにはできないだろう。
「よっしゃ!これに決めた!」
『考えるな、感じるんだ……アッタタタタタタタタアアアァ!!』
カンフー映画ーッ!?
デートでこれを選んだ兄さんを尊敬するわ!
『お前にも見えるか……あの北極星が……隙ありいい!アッタタタタタタタタアアアァ!!』
しかも卑怯な主人公だあああぁ!?
兄さんはノリノリでシャドーボクシングを始めている。
微妙に再現できているから恐ろしい。
「フフフ」
思わず笑みが零れる。
「あのー、彼氏さんの暴走を止めたほうがいいんじゃ……」
隣の客に言われて隣を見ると兄さんが映画を見ていた格闘家と殴り合いを始めていた。
「迷惑になるから止めなさい壮!」
「離せ喜美。俺はこの西斗真剣の名に賭けてこの男を倒さねばならぬのだ……!」
「来いよ西斗。この東斗真剣継承者が倒してやる」
「いい加減にしなさい馬鹿ども……!」
私が本気を出して叩きのめしてその場は収まった。
「すまんスマン。つい感情移入してな」
「ついで役に入り込むのは止めなさい……とりあえず私以外と映画に行かないことね」
「そうしようかな?」
よし。
兄さんの行動に楔を1つ打った。
「ねぇ、次行ってみたいお店があるの!いいでしょ壮?」
「うん?あ、あぁ……いいぜ……」
だから私は上機嫌になって兄さんの腕に抱き着き、そう言って自分から誘った。
この瞬間、警戒が緩んだ。
sideイリヤ
「……」
「ねぇ、次行ってみたいお店があるの!いいでしょ壮?」
「うん?あ、あぁ……いいぜ……」
「………………」
side壮
喜美に連れていかれた先はアクセサリーショップだった。
値札を見ると以外にも良心的である。
いつもなら手は届かないが、今の俺なら……やれる!
「ねぇ、壮。こんなのはどう?」
「うん?いいんじゃない?」
「ホント?じゃあちょっと着けて頂戴」
「それくらい自分で付けろよお前……」
「それくらいいいでしょ?」
仕方ない。
今日は喜美を楽しませる日だ。
俺は喜美からネックレスを受けとった。
side喜美
男落としの必殺テク、ネックレス着けからの香水攻撃。
ネックレスを着けるということは必然、女性の首に顔を近づけることになる。
女性のうなじは性的な感情を呼び起こすポイントだ。
もしそのうなじに顔を近づけた時に、甘美な匂いが漂って来たらどうなるか。
ほとんどの男はこれで撃沈し、あとは私の思うがままだ。
兄さんがネックレスを着けてくれる。
ちょっと手がくすぐったい。
兄さんの鼻先が首に近づく。
さぁ……嗅ぎなさい!
「うん?」
よし!罠にかかった!
「いい匂いだなぁ、うん」
そして罠を踏み壊した!
結論、兄さんは常道の恋愛テクでは落とせない。
恋愛達人の私がやってダメなのだから誰もできないだろう。
イリヤは浮気の心配をせずに済みそうね……
「よし、これでどうだ?」
「あら、結構いいわね」
あまり目立たないが、それくらいで十分だろう。
「でも他に探してみるわ」
「そうか?」
side壮
喜美がゴソゴソと他のネックレスを探す。
俺はネックレスのことなど知らないので隣の時計を見ていた。
眼球が飛び出そうな値段だな……
「ねぇ壮。こんなのはどうかな?」
「うん?いいんじゃないか?……うん?」
どうかな?
かな?
喜美ならどうかしら?のはずだ。
慌てて声を巻き戻す。
『ねぇ壮。こんなのはどうかな?』
「……………………ニ、ニアッテルトオモウヨ、イリヤ」
振り返ると笑顔のイリヤがいた。
笑顔が微動だにしない。
能面の如く固定化された笑顔は無表情と同一である。
「ねぇお兄ちゃん。どうして、こんなところにいるのかなぁ?」
「え、えっと、それはだねイリヤさん」
「男の人が1人で来るところじゃないよねぇ?あ、わかったよお兄ちゃん」
「わかっちゃいましたか?」
「イリヤのためにネックレスをプレゼントしようとしてくれたんだね?だから頑張ってこんなお店に入ったんだよね?」
「……」
違うと言えば殺される。
真剣にそう思った。
幸か不幸か喜美は店の奥まで探しに行ったらしい。
おかしい。
なぜ俺はやましさを感じる?
兄妹で遊んでいるだけだろうに。
「フフッ!そうだよねぇお兄ちゃん?お兄ちゃんがそれ以外の理由でこのお店に入る理由なんて、ないよね?」
イリヤの追求は続く。
喜美が帰って来ればアウトだ。
とりあえずこのお店が明日営業することはできない。
「ま・さ・か!他の女と来ていた、なんてわけ……ないよねぇ?」
「……」
「どうしてだんまりになっちゃうのお兄ちゃん?大丈夫。本当のことを言えば許してあげるよ?」
イリヤが俺の腕を握る。
い……痛いです……
それに本当のことを言えば殺されちゃうよ
いや、でも兄妹が遊んでただけだぜ?
別にセーフじゃね?
……本当に?
「お兄ちゃん、もういいよ。お兄ちゃんのその気持ちで十分だよ?それより私、お兄ちゃんと一緒に洋服見たいなッ!」
イリヤが強引に俺の腕を引っ張る。
が、俺の体は動かなかった。
俺が抵抗したから、ではない。
「……何してんの、アンタ」
喜美が俺の左腕を握り締めて踏ん張っていた。
イリヤがそれを見て驚いた、というように目を見開く。
「奇遇だねぇ、喜美。喜美もネックレス見に来ていたの?」
「……そうよ」
喜美の口数が不気味なほど少ない。
「へぇ、そうなんだ。じゃあね喜美!今から私、お兄ちゃんとデートだから」
イリヤが思い切り腕を引っ張る。
しかし喜美は俺の腕を持ったまま微動だにしない。
……跨が裂ける。
跨が裂けたらどうなるんだろう?
チ○コが真っ二つ?
キ○タマが零れ出るのだろうか?
知りたい。
俺のじゃなければな!
「喜美、手ぇ放せ?」
「……アンタが放しなさい」
俺を挟んで2人の戦いがヒートアップする。
店員さんがどうしたの?とばかりに様子を伺いに来た。
俺は目線で助けを求める。
店員さんは黙って奥に戻り、みんなで集まってこちらの観戦を始めた。
「喜美、お兄ちゃんは私の婚約者なの。夫なの。意味わかる?」
「だからってアンタの所有物ではないわ」
「お兄ちゃんは私とデートするんだよ……!」
「今こっちがデート中だっつうの……!」
周りの女性陣の俺に向ける目が厳しくなる。
「お兄ちゃん……!」
「兄さんッ!」
そこで俺に目を向けるか、お前ら。
できれば俺のパンツが破ける前にそうして欲しかった。
ズボンの股間が破けたら泣くぜ俺は。
「イリヤ。今日は喜美と遊ぶ約束をしていたんだ」
俺はイリヤの目を見てしっかりと言う。
下手にごまかせば喜美とイリヤのダブルラリアットを喰らう恐れがある。
「フフフ!だそうよ?イリヤ」
「……へぇ、そうなんだ」
イリヤが俺の腕から手を放す。
すぐに喜美が俺の腕を抱きしめる。
「お兄ちゃん、お兄ちゃんは私と喜美、どっちが大切なの?」
うわぁ!
来ちゃったよ私と○○どっちがパターン!
男なら絶対にされる質問だよね、これ。
そして大抵選べない選択であることが多い。
カレー味のウ○コ問題と同じである。
「どちらが大事なんてねぇよ。喜美も、イリヤも、家族だろ?」
必殺、家族。
家族と言えば大抵許されるのが現代の風潮だ。
家族の絆万歳ッ!
「え、えへへ……家族……」
「兄さん……」
ほら見ろすげぇな家族!
「ごまかさないで」
ハハハ……ダメか……
「じゃあ答えよう。今は喜美だ。今日は喜美のサービスデーだからな」
「兄さん……!」
「婚約者よりも?」
「婚約者よりも、だ。イリヤ。今日は喜美の日感謝デーだ」
「ふぅん。そうなんだ。へぇ……」
イリヤの機嫌が加速度的に悪化する。
「イリヤはいつも仲良くしているだろ?」
「足りないよお兄ちゃん」
「足りないくらいが丁度いいんだ、イリヤ」
笑って言ってやる。
「……まぁ、そうだね。今日は私が無遠慮だったね。ゴメン、喜美」
「いいわよ、イリヤ。私も怒って悪かったわ」
喜美が俺の腕から手を放してイリヤと握手する。
「イリヤ、今日兄さんにいい古着屋を教えてもらったの。一緒に行く?」
「いいの?やった!」
「フフフ、ほら、行くわよ」
と、イリヤの手を繋いで喜美が店から出る。
アクセサリー買ってないけどいいんだろうか?
と、隣のレジを見ると喜美が選んできたアクセサリーがあった。
……買えってことですね、喜美さん。
「体が軽い!どこまででも飛んでいけそうだぜヒャッハァ!」
「喜美、壮が壊れたよ?」
「いつものことでしょ、ほうっておきなさい」
「買いすぎたかな?」
「大丈夫よ。今日の兄さんは金持ちだったから」
「ナチュラルに過去形だね……」
「畜生ッ!なんて奴らだッ!」
俺の財布は極限まで減量を成功させたのだった。




