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デート場の兄妹

手をつないで

笑い合って

買い物して

配点 (デート)

side喜美


家に帰ったら先に兄さんが帰っていた。


「お帰り、喜美」

「ただいま、兄さん」


久しぶりに会った感触だ。


「どうだった?」

「栄光もかなり鍛えてきたわ。けっこう危なかったもの」

「へぇ。春秋先生もようやるなぁ……」

「兄さんは負けたの?」

「笑えよ喜美……」

「アッハッハッハッハ!」

「笑った!コイツ笑いやがった!知佳でも笑わなかったのに!」

「笑って何が悪い!」

「あぁ!ツッコミまで進化して帰ってきやがった!」


フフフ、やっぱり兄さんは面白い。


しかし、どこかぎこちない感じがするのは気のせいだろうか?


「え、えっとな、喜美」

「うん?どうしたの兄さん?」


やっぱりぎこちない。


私じゃなくて兄さんが。


いったいどうしたと思う。


まさか……


「私のブラジャーを勝手に着けたわね……!!」

「ホントに悪かった!出来心だったんだ!」


やっぱりそうかこの腐れ兄貴!


「着けてわかったけどマジで胸すかすかなのな!ストンって落ちたもん!決めた!俺は織火にデカブラジャーをプレゼントするぜ!って違うわ!」


織火に対するひどい嫌がらせを計画したと思ったら自分で突っ込んだ。


「喜美!」

「な、何?」

「デートしませんか!?」

「……はぁ?」


唐突な発言が来た。


「……どういうことなの?兄さん」

「えっと、いや、なんと言うか。ホラ、最近俺、イリヤのことばかりだっただろ?だから喜美のことずっと放っておいた形になるから……」


まさか、と思う。


胸がドキッとする。


「喜美のことも大切にしないとさ、うん。だからデートしよう」

「……ホントに?」

「本当だとも。費用は全て俺が持ってやる」

「……言ったわね?」

「しまった!喜美相手に金額フリーを宣言しちまった!?」


兄さんが騒ぐ。


しかし、


私のこと、考えてくれていたのね……


「いいわ、兄さん。デートに行きましょう」


だから私はそう言う。


たまには思いっ切り甘えるのもいい。


そして兄さんの耳元に口を近づけて囁く。


「もちろん、イリヤには内緒でね?」

「そうだな……」


兄さんはガクガクと震え出す。


そんなに怖いならデートしなければいいのに。


でも、それでも私とデートしてくれるってことよね?


「いいさ!俺も男だ!男に二言はない!」


兄さんが高らかに宣言する。


というか兄さん、私の必殺落としテクに何の反応も示さないのね……






というわけで来たる日曜日。


私の姿は駅前にあった。


同じ家に住んでいるのだから、一緒に駅まで歩くこともできたのだけれど。


いいのよ!


雰囲気よ雰囲気!


ちなみに、当然のように私が先に到着している。


テンプレートである。


私の最初の発言は間違いなく


「ううん、今来たとこ」


になるだろう。


腕時計を確認すると、現在9時50分。


私は4人のことを思い出す。


今日の練習を休みにしたい、と言うのはかなり勇気が必要だった。


前回の栄光戦であれだけの僅差だったのだ。


県予選ではどう転ぶかわからない。


今こそ必死で練習に打ち込むべきだろう。


しかしキャプテンの私が練習を休みにしたいと申し出ると、意外にも全員が賛同してくれた。


「ちょうどよかったです。文化祭前ですからね」

「みんなでいつ集まろうかって思ってたの」

「休みも必要よね」

「喜美を泣かせムグッ!?」


最後に咲が織火に口を塞がれたのは何故だろう?


しかし幸運なことに変わりない。


私は無事、ノンビリと兄さんとのデートを楽しめることになったのだ。


「悪い喜美!待ったか?」


ほら、来た。


私は兄さんのほうを振り返りながら笑顔で用意した台詞を言う。


「ううん、今来たデートにスケボーで来る馬鹿がいるかぁ!」


流石兄さん。


私の予想を軽々と超えてくれる。


兄さんは手すりをスケボーで滑るというコナン君も真っ青な技を披露しながらやって来た。


「じゃあ行こうか!喜美!」

「コイツにラブラブ展開を望んだ私が馬鹿だったわ……」


いつものような珍道中になりそうな気がしてならない。


しかし、と私は思う。


男に任せるのも悪い。


デートというのは2人で作り上げるものだ。


男がリードすべきという考えはもう古いのだ。


今は女が引っ張るデートなのだ。


だから私はコホンと咳ばらいして声を作る。


「壮君!ねぇ、行こう?」


女の必殺奥義、ねぇ?と言いながら男の袖を持つ。


3秒で男はオチる。


「人違いか?……お前、本当に喜美か?」

「……」


もう流石すぎて何も言えないわ、兄さん。





side壮


ビックリした。


喜美に壮と言われるのはいつぶりだろうか?


喜美が知佳のマネをした時以来だろう。


思わずドキッとして、変なことを口走った。


いかんいかん。


今日は知佳に、喜美を大切にするように言われているのだ。


知佳から貰ったデートマップや計画など準備も万全だ。


今日は喜美をお姫様のように……すると嫌がられるから、まぁお嬢様っぽく持ち上げてやらなければいけない。


喜美と電車に乗る。


知佳曰く、女の子の荷物を持ってやるとポイントアップだそうだが、それじゃあ筋トレにならないだろう。


「壮、私の今日の服、どう?」

「うん?ああ、珍しいな」


喜美は珍しく和服を来ていなかった。


白いフリルのスカートに、上はシャツを来てその上にカーディガン。


女の子っぽさ全開で、喜美には珍しいファッションだ。


「壮のために可愛いの選んできたのよ?」


そういえば昨日の夜、ずったんばったん喜美の部屋から大騒ぎしている音が聞こえたのはそのせいか。


「そっか、可愛いなぁ」

「もう!壮ったら!」


バチコーンとどつかれる。


痛ぇよ。


割と素で痛かったよ。


「ちょっと柔らかい素材の服を選んだの……触ってみる?」

「うん?ああ……」


チョッと触ってみる。


確かに女性モノ特有の柔らかさだ。


周りの乗客の目が厳しい。


爆発しろって言ってるよな……


「というか喜美、その壮って呼び方何?」

「フフフ、こっちのほうがカップルみたいじゃない?兄さん!だといつもみたいで嫌だわ」


そういうものか?


その発言で俺が喜美の兄だということがわかったようで、厳しい目線が和らいだ。


……一部がもっと厳しい目線を送っているのは何故だ?





side喜美


流石ね兄さん。


私の落としテクを尽く無効化しているわ……!


並の男ならここに至るまでで10回は惚れているだろう。


やるわね兄さん……!


服を触らせると男は興奮するものだが、兄さんにはそれもない。


それもそうか。


私のブラジャーで遊ぶ人だし。


電車が駅に到着する。


ここらへんでは1番大きな駅だ。


男を引っ掛ける時にもよく使う。


「壮……手を繋いでいい?」

「うん?別にいいぜ」


ハッハッハと笑って私の手を取ってくれる。


ん……ちょっと強引。


でもそこがいい。


「どうする喜美?服でも見るか?」

「そうね。見て回りましょう?」


兄さんに手を引かれて私は駅を出る。





side壮


俺は知佳マップを思い出していた。


あいつは何故かここの地理に異様に詳しかった。


えーっと……とりあえずここかなぁ?


ファッションはよく知らない。


ずっと練習ばかりなので私服を着ることはほとんどないからだ。


今日は珍しく着ているが。


喜美はまったくもって無反応だが、ダメだったらダメと言うヤツなのでオッケーだろう。


「あら、いい所知っているのね」

「ハッハッハ!」


知佳すげぇよお前!


喜美を褒めさせたぞお前!


「まぁ私もここにしようと思っていたけれど」


と、ずんずん入っていく。


今にもスキップしようかという上機嫌さだ。


嗚呼……コイツ、絶対に服を買うつもりだ。


俺に高い金を払わせて苦しむ俺を見て快感に浸るつもりだ……


side喜美


私が行きたいと思っていた所に兄さんが連れていってくれた。


正直、予想外だった。


いつも練習着か全裸で過ごす男にファッションを求めるのは酷だろう。


しかし、こんな女の子しか知らないような店に連れていってくれた。


私のために、けっこう調べてくれたのね……!


女性経験が少ないくせに、こういう所で外さない人だ。


少しイリヤに嫉妬もしてしまう。





sideイリヤ


「ハックション!」

「大丈夫ですかイリヤ?」

「うん。大丈夫。たぶん誰かが私の噂をしたんでしょ?」


日本の言い伝えだ。


面白いと思う。


「じゃあ会議進めますよー」

「喜美を泣かせるって言ってもねぇ?」

「あの完璧超人を泣かせるのは……」


出てくるアイデアは否定的。


しかし皆も見てみたいとは思っているのだ。


喜美が泣く姿を。


「大丈夫です!お兄さんと喜美のお母さんも泣いたんです!あの鬼のような人が!」


壮の家のほうから包丁が飛んできて織火の隣に突き刺さった。


「素晴らしいお母様も泣いたのです!」


今度は壮の家からタルトが4つ飛んできた。


空いた窓から部屋に飛び込んで来る。


それをモグモグ食べながら会議を続行する。


「文化祭で何としてでも泣かせるのです!」

「でも文化祭って、私たちもうバンドの予定入ってるじゃん。そっちでも忙しいのに」

「そうなんですよね……うん?ちょっと待ってくださいよ?」


織火が何かブツブツと呟く。


そしてハッとして顔を上げる。


「バンドですよ、みんな。バンドで泣かせましょう」


織火のアイデアに全員が賛同した。


フフッ……これで義妹に一矢報いる時が来たよ。


それにしても喜美はどこでなにをしているのだろうか?





side喜美


「ハックション!」

「どうした喜美?寒いか?」

「平気よ壮。それにこうすれば暖かいわ」


と、兄さんの腕に抱き着く。


頬を擦り寄せる。


近頃はずっとできなかったことだ。


と、ようやく店に到着した。


最上階から降りながら見ていく方針だ。


「いらっしゃいませ」


店員に笑顔で返す。


店員も人間だ。


感じのいい人にサービスしようと思う。


だから店に入るときは笑顔で。


いつも心掛けていることだ。


店員さんも笑顔で返してくれる。


よし!いい人だ。


「押忍!失礼しやす!」


兄さんも元気よく挨拶して店に入っていく。


店に入るときはいつもこれなのだろうか?


「綺麗ですね。こちらの服なんて如何ですか?」

「いえ……こっちね。どう?壮」

「喜美は何を着ても似合うからなぁ。逆に似合わないファッションを見てみたい」

「もう!壮ったら!」


殴っておく。


割と本気で。


「じゃあこれ試着できるかしら?」

「はい!どうぞ!」


と、試着室に案内される。


中に入る。


兄さんと店員さんの二人きりだ。


二人きりはいけない。


店員のお姉さんが精神的ダメージを受けてしまう。


「綺麗な彼女さんですね」

「いえ、妹ですよ」

「妹みたいな方なんですか?でもあんなに綺麗な方、そういませんよ?」


店員さんマジの妹なのよ……!


そんなに似ていないだろうか?


みんなからはそっくりと言われるのだが。


「あんなのと付き合ったら大変だろ」

「そんなことないです。キチンと挨拶もしてくださる、礼儀正しい方じゃないですか」

「お前は見かけに騙されているんだ。アイツの正体はな、それはもう恐ろしい悪魔のような」


それ以上の発言が出る前に試着室のドアを開けた。


「どうかしら?」

「似合いすぎて反応に困るぜ」

「そう。ありがとう」


兄さん的にはダメだったようだ。


これで本当に気に入ったら鼻血を噴水のように出してぶっ倒れるに違いないのだ。


「どうされますか?」

「ごめんね?また違う店回って来るわ」

「はい。わかりました」


フォローもキチンと。


申し訳なさをアピールする。


「ほら壮、行くわよ?」


兄さんと腕を組んでサッサと歩き出す。





side壮


危なかった……!


あの服、実際喜美に似合っていてヤバかった。


思わず鼻血が出るレベルだった。


しかし値札がチラリと見えた瞬間血の気が引いた。


ゴメンな喜美。


お兄ちゃん、5万円の服は買ってやれないんだ……


ちょっと興味なさげにしたのが功を奏したようで、喜美もアッサリ手放した。


これ以上このビルにいたら何を買わされるかわかったものではない。


俺は急いで知佳マップを思い出す。


確か古着屋のことを言っていたはずだ……!


「喜美、ちょっと向こう行かないか?」

「え?えぇ、いいわよ」


喜美はちょっと戸惑ったようだがついて来てくれた。


すまない……楽しんでいるところ申し訳ないが、喜美に夢を見せるわけにはいかんのだ……!





side喜美


「喜美、ちょっと向こう行かないか?」


兄さんに言われて腕を掴まれる。


ん……強引よ兄さん。


何人もの男と付き合ってデートした。


しかしちょっと強めに腕を引っ張る人はなかなかいなかった。


私が姐御キャラで通しているのが問題なのだろうが。


兄さんに腕を掴まれた瞬間、ドキッとした。


今日の兄さんはすごいリードしてくれる。


いつもの兄さんとは思えない。


「え、ええ、いいわよ?」


少し声が上擦る。


「よっし!よし!ありがとう喜美!」


お礼を言うことも忘れない。


そんな兄さんにうれしい思いを抱くと同時、イリヤに対する強い嫉妬の感情が生まれた。


あの子はデートの度にこれを独占していたってわけね……!


「ここはどうだ?」

「古着屋?そういえば行ったことがないわね」


洋服なんて彼氏に全て買わせている。


彼氏のほうも見栄が手伝うのか、古着屋で買うことは滅多になかった。


まさかそこまで考えて連れて来てくれたのかしら?


「いや、俺もよくわからないんだけどさ。こういう所のほうが掘り出し物があるって知佳……ネットに乗っててさ、うん」


兄さんの解説でわかった。


「兄さん、そういうことは言わないものよ?」


軽くダメ出しするが、内心は嬉しかった。


やっぱり私のために調べてくれたのだ。


見れば兄さんの顔もイキイキとしている。


やっぱり男の人はこういうところのほうがいいのだろうか?


ちょっと反省、そして学んだ。


フフフ、兄さんのおかげね?





side壮


値札を見て歓喜する。


これなら買ってやれるぜひゃっほう!


さぁ喜美!何でも言ってくれたまえ!


「じゃあ兄さん、これなんてどうかしら?」


喜美がワンピースのようなものを引っ張り出す。


瞬間、値札を認識することも忘れない。


2300円


なんて良心的な値段なんだ!


古着屋最高!


最高だぜアンタ!


高校生の強い味方だ!


あまりの感動に鼻血が噴出した。





side喜美


「ブフゥッ!?」

「わ!?ちょっと兄さん……壮!大丈夫?」


兄さんが鼻血を噴き出して倒れた。


思わず兄さんと呼んでしまう。


「あ、ああ。悪い喜美。感動して思わず……」


兄さんが頭をかきながら立ち上がる。


まさかこのワンピースに?


試着した姿も見ていないのに?


妄想鼻血?


ということはこのワンピース、かなりいい?


そう思って見るとかなり良さそうだ。


試しに引っ張ったり細かく見てもほつれたところもなく、見たところほとんど新品も同然である。


使っていた人がよかったのか、汚れもまったくない。


むしろ着たのかどうか気になる。


最終試験として匂いも嗅いでみる。


そこは店でちゃんとしているのか、無臭というか店の匂いだった。


「これ買うわ」


口から勝手に言葉が零れ出た。


「おう!いいんじゃねえか?」


兄さんも笑顔でサムズアップ。


よし。


兄さんを連れてレジに行く。


「ありがとうございます!2300円になります」

「はぁい!」


兄さんが笑顔で返事して金を払う。


そんなに私がこのワンピースを買ったのが嬉しいのだろうか?


フフフ、もう秋しか着れないけれどめっちゃ着るわよ!


いや、大切な時に着るわよ!





side壮


俺は古着屋に感謝の踊りをしながら店を出た。


こんな安い買い物でいいのかと喜美を見れば上機嫌だ。


どうやら喜美は値段は気にしないタイプらしい。


いいものはいい、悪いものは悪い。


芸術審美眼を持っている喜美ならではだ。


と、腕時計を見ると昼ご飯時だった。


「喜美、ご飯行こうか?」

「そうね、壮に任せるわ」


喜美の許可を得て俺は知佳マップを思い出す。


確か知佳マップには……


『デパート最上階にあるラーメン屋!』


それはお前が行きたいだけだろうがッ!

イリヤとのデートを書くより先に喜美のデートを書くことになるとは……


ちなみに何回も断っている通り、兄妹にはそれ以上の感情はありません。


ええ、ヨスガりませんよ。絶対に

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