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終盤の覚醒者

王とは

民を導く者

配点(主将)

side喜美


3Qも残り30秒。


私が決めて終わりでしょうね。


イリヤからボールを受け取る。


調子はだいぶ上がってきた。


桐生院戦に匹敵するか、それ以上だ。


感覚もだいぶ慣れてきた。


相手のオフェンスはほとんど反応できる。


ドリブルしながら思う。


目線を上げると楓がいた。


さっきからずっと全力なので息も上がり、肩が上下している。


しかし歯を食いしばって目をキッと上げて、こちらを睨んでいる。


いいわね。


そしたらそれ相応の技で応えてあげる。


私は回復しつつある織火にサインを出す。




本気ですか?


私はいつだって本気よ?




織火はどうしようもないという風に首を振る。


そしてボールを要求した。


織火にボールを戻して私は動き出す。


同時に沙耶も動き出す。


織火が私とイリヤのダブルスクリーンで相手を落とす。


だが相手も気づいている。


それがアリウープの準備であることは。


だから沙耶に目が向いた。


沙耶はアリウープに行こうと駆け込むが梨華のディフェンスに遭って入りきれない。


「止めたッ!」

「フフフ、どこ見て言ってるのアンタ?」


織火のパスは沙耶が駆け込むのとは反対側に放たれる。


フワリと浮かんだボール目掛けて走り込む。


そして飛び上がる。


私のジャンプ力を以ってすれば余裕だ。


空中でボールを掴み、そのまま後ろのリングに見ずにボールを叩き込んだ。


「なっ……!?」

「嘘でしょ……」

「フフフ、残念だけどマジよ」


嗚呼!


相手の呆然とした顔を見るって最高ッ!


この感覚が堪らない。


相手の予想を超えたプレイをした瞬間。


相手の顔に絶望が過ぎるその表情が堪らない。


栄光はそこから切り替えられず、ラストオフェンスは決まらなかった。




蓮里76ー74栄光


sideイリヤ


2点リードで3Qを終えた。


悪くない。


相手はほとんどカードを切った。


3Q最初の栄光の猛攻も凌ぎきった。


もう体力もあまり残されていないはずだ。


それに対してこちらは、エースが調子を上げている。


4Qはほとんど喜美が決めることになるだろう。


私たちはほとんど話さずにベンチに座る。


少しでも体力を回復するべきだった。


それに考える能力もあまり残されていない。


試合の興奮のせいでい思考が上手く働かないのだ。


コーチがいないと、こういう時に大変なんだ。


そして壮は、こういう状況で考えることができるんだ。


試合では1番から5番までこなし、コーチまでこなすという。


それがどれほどのことか、ようやく気づいた。


「美紗は……もう止められるわ」


喜美が呟く。


「私も楓を止められるよ。動きにキレがなくなってきた」


それを皮切りに会話が開始される。


「私はどうするの?ディフェンス?」

「沙耶はとにかくリバウンドね。アンタがディフェンスリバウンド全部取ってるから相手に攻撃のチャンスを与えないし、オフェンスリバウンド取ってくれるから思い切り撃てるし」


「点取りたいんだけど?」

「アリウープだけね」


すごい会話だなぁ。


「私はとりあえずポイントカードに復帰しますね」

「あ、回復した?」

「えぇ。考えも纏まりましたよ。4Qは喜美中心で行きましょう」

「フフフ、当然ね?」

「相手を止めればその分取れます。私たちはディフェンスに集中しましょう」

「「「了解」」」


織火はすごいな。


頭と体が切り離されているのではないだろうか?


冷静だし、すぐに対応策を練れる。




以前に学校で調理実習をやったときのことだ。


喜美が調子に乗って「鉄人!料理の鉄人!」とかやっていたらマジで炎が上がった。


咄嗟に火災警報機を作動させて家庭科室を水浸しにした織火は天才だと思う。


しかも私たちの作った班の料理だけちゃっかり守っていて、私たちだけ評価5だった。


林間学校でゴキブリが出てきた時には迷わず火炎放射した。


織火が給食を配膳しているとき、最後の人がなくなりそうだったところを隣の机にあった先生のおわんから味噌汁奪って間に合わせた。


雑巾を持ってくるのを忘れたので、その場でナプキンを縫製して作った。


先生や喜美にムチャ振りされて「近所のクリーニング屋の入店音」という一発芸でかわしたなど、伝説は数多い。


「イリヤ。どうして私をそんな狂ったモノを見るような目で見るんですか!?」


「能力も使い方次第だよね……」


「何故!?この状況で何故!?」


「フフフ。というかアンタ、自分が狂っているって自覚ないの?」


「うわぁ!狂人に言われましたよ!?」


「喜美、狂ってる人は自覚しないよ」


「あ、そうだったわね。じゃあ狂ってるのね」


「私狂ってますよーぅ。自覚してますよーぅ」


「認めおった!認めおったわ!」


「織火……可哀相に……」


「あっれぇ!?どっちにしろ私狂ってることになりませんかそれ!?」


「自覚あるなしに関わらず狂ってる……織火、アンタは生まれながらの狂人ね」


「だああぁ!味方どこですか味方!」


「あ、休憩終わった」


「「「「「今試合中じゃん!」」」」」





side楓


先生が話すのを聞きながら横目で蓮里を見る。


織火が咲に襲い掛かっていた。


アイツ元気じゃん。


対して私のほうは疲れている。


さすがに前半で飛ばしすぎた。


オフェンスして、オールコートでディフェンスはちょっとキツイ。


「……」

「……」


加えて最後のプレイも効いた。


本当にあの女は……


自分でもやれるのかよ……


美紗もスタミナのほうはどうしようもない。


明らかに疲労の色が見える。


だから私は言う。


「さぁ、ここからだアンタら」


皆がこちらを見る。


これがキャプテンの役目だ。


声を出せ、誰よりも。


「ここで諦めたら、前と一緒だろ」


チームメイトをたきつけろ。


「2度と後悔しないって約束しただろ」


自分の仕事をするだけじゃない。


他のみんなを気遣うこと。


それがキャプテンだ。


冷静な部分は美紗や先生がやってくれる。


なら私は感情に訴えるのが仕事だ。


「あの悔しさを味わうために今日の試合を組んだのかッ!?違ぇだろ!」


皆の目に生気が戻りはじめる。


「目ぇ覚ませ!ここだよお前ら!ここで頑張らないでどうするんだ!」


おぅ、と誰かが返す。


「ここで全部ぶちまけるんだろ!?ここでやらないでそうするんだよッ!」


そうだ、と誰かが呟く。


「何のためにあの練習こなしてきたんだよ!?」


あぁ、と語る声が聞こえる。


「ここまで楽しくプレイできただろ!?」

「……ああ」

「あと1Qが何だ!?私たちのバスケへの情熱はアリウープ1本でへし折れるのか!?」

「違う」

「私たちは誰だ!?誰よりもバスケが好きな馬鹿ばっかじゃねえのか!?」

「そうだ」

「だったらやることはわかってるな!?勝つぞ!勝つのが1番楽しいんだ!」

「そうだ!」


周りの声に叫びが混じる。


「あと12分だ!たった12分だ!あとそれしかプレイできねぇ!それを頭に叩き込んでおけ!」


「「「「「おぅ!」」」」」


「どこよりも練習してきたのは誰だッ!?」


「「「「「栄光!」」」」」


「どこよりも汗流したのは誰だッ!?」


「「「「「栄光!」」」」


「だったら、勝つのは誰だッ!?」


「「「「「栄光!」」」」」


「わかったら目ぇ覚ませ!声上げろ!全員だ!3、4、年!アンタらもだ!全員の力が必要なんだ!わかってんだろ!?」


「「「「「そうだ!」」」」」


「だったら声出せ!今から12分間だ!喉枯れるまで声出せ!」


「「「「「そうだ!」」」」」


「勝つのは私たちだ!栄光だ!」


「「「「「そうだ!」」」」」




「「「「「栄光あれ!」」」」」

「「「「「栄えあれ!」」」」」

「「「「「光あれ!」」」」」



「「「「「勝利あれッ!!」」」」」





side春秋


体育館を揺るがすほどの大声援。


それを引き起こしたのは楓だ。


栄光のキャプテン。


あの子がキャプテンをやるとは夢にも思わなかった。


入部した時は、ほとんど周りと差がなかった。


キャプテンをやるのは間違いなく美紗だと思った。


だが練習中、やたら美紗に食い下がるのだ。


負けても負けても、腐らずに立ち上がる。


何度も負けに行く。


それを見て私は、この子が強くなると確信した。


才能という面では、全国の化け物に比べれば劣っている。


だが、楓はそんな相手とも互角に競れた。


負けん気の強さ。


前はそれが悪い方向に働いたが、西条との試合後からは正しい方向に進んだ。


そして今あそこに立っているのは、間違いなく栄光のキャプテンだ。


6年間監督してきた中で、間違いなく最高のキャプテンだ。


最強ではない。


だが、最高のキャプテンだ。


この声援が証明している。


「行きなさい……楓ッ!」





side喜美


4Q


体育館を崩すほどの声援。


比喩でも何でもなく、揺れている。


目の前に楓が立つ。


「最高よ、アンタ」

「そうかい」

「あのアリウープからよく持ち直したわ」

「ウチはそれくらいじゃ折れない」

「叩きのめしたいわ、アンタを」

「来いよ蓮里。こっちは全力だ」

「泣いても笑ってもこれが最後。お互い思い切りぶつかるわよ」

「上等だ」

「アンタとやれてよかったわ」

「私もだ」

「じゃあ、行くわよ」

「来な」

「「勝負ッ!」」


織火からのボールを受け取る。


4Q。


全て私が決めるつもりで行く。


耳を圧する栄光コールを振り払う。


調子は最高。


「行くわよ……!」


私は楓を倒したいのかしら?


これだけ強い、綺麗な花を見たことがない。


ずっと眺めていたいと思う。


でも、踏みにじりたいというどす黒い感情も沸き起こる。


美しいものを踏みにじるのは最高だ。


眺めているのと同じくらい最高だ。


どうしようかしら?


ああ、でもやっぱり


「ゴッ倒すわ。アンタ」

次回で栄光戦を終了できたらいいなぁなんて思ったりしないこともない(希望)


しかし喜美が完全に悪役だな……

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