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激戦地の舞踏者

意地がある

どこにある

配点(最前線)

蓮里32ー27栄光


2Q


side織火


2Qが開始される。


栄光ボールでのスタートだ。


美紗を見る。


ゾクリと背が震える。


人ってこんな目ができるんですか……!


視線で殺すというのは本当かもしれない。


美紗の視線は間違いなく私を殺そうとしている。


「楓!」

「円香!」


そこからパス2本が一瞬で繋がり、円香のミドルが決まった。


速い。


1人がボールを持っている時間を短くしてきましたね。


私はイリヤからボールを受け取って前を見る。


美紗がいた。


「オールコート!?」

「……ッ!」


凄まじい勢いで襲い掛かって来る。


ヤバい……技術の差はハッキリしている。


このままだと奪われる!


「織火!」


イリヤが私によってボールを受け取る。


イリヤもすぐに円香のプレッシャーを受けた。


しかし巧みなドリブルで運んでいく。


しかし円香のディフェンスも厳しい。


一気に厳しくなりましたね……!


どうする。


「喜美!」

「任せなさい。この私に」


イリヤから喜美へのパスが通る。


楓が素早くつく。


喜美が動き出す。


小細工も何も無しに思いっきり突っ込む。


楓がそれに必死でついていく。


しかし喜美がそこから更に加速した。


コースに体を入れる前に喜美にぶつかった楓はぶっ飛ばされる。


ディフェンスファールだ。


さらに喜美はそこから当然のように決めて見せた。


カウントワンスローだ。





side楓


「はぁ……はぁ……」


絶望とは何だ。


目の前に立ち塞がる女を見て思う。


マジのディフェンスだった。


後先考えない本気のディフェンスだった。


それでもコイツは、その上を行く。


才能の塊だ。


才能が服来てバスケしてるのと等しい。


絶望とは何だ。


この女と戦っている私は絶望か。


違う。


違うぜ。


今感じているこの感情。


これはな、歓喜って言うんだ。


「ハハッ……いいぜ……最高だ」


あぁ、クソッ。


バスケがこんなに楽しいなんて。


何でこんな単純なことを忘れていたんだ私は。


こんな楽しかったのかよ。


畜生、今まで何回分の試合をドブに捨ててきたのだろう。


だから、この試合は全力で楽しむ。


そして、


「アンタに勝つんだ。喜美」





side喜美


「フフフ、いいわ、アンタ」


これほどまでに諦めの悪い女は久しぶりね。


昔から私に敵はいなかった。


兄さんに勧められてカルタをやったことがある。


3日で敵がいなくなり、1週間後には1人でやっているような気分になった。


テニスもやったことがある。


3時間で敵がいなくなった。


ほとんどサーブ練習だった。


何をしても敵がいなくなり、結局私と兄さんだけでやっている。


最初こそ元気よく突っ掛かって来るが、3分後には私との才能の差を感じて絶望する。


でも、この相手は違う。


やっと出会った。


やっと出会えた。


私が本気を出してもいなくならない敵が。


諦めない敵がやっと出来た。


いいわ……本気よ。


私も本気を出してあげる。





side美紗


喜美のフリースローは綺麗に決まった。


すぐにオフェンスに移る。


一気にスピードを上げて。


パスを出す。


リングの近く。


弾丸のように飛んだパスはしかし千晴が飛び出してキャッチした。


いつもなら絶対に取れないようなパス。


でも今なら取れる。


確信して投げた。


千晴はすぐにゴール下でシュートを放つ。


沙耶が飛び、ブロックしようとするが決まった。


私は戻らない。


オールコートでディフェンスするためだ。


織火にボールが渡る。


すぐに襲い掛かる。


がむしゃらにボールを奪おうとする。


昔はこうでした。


小賢しいディフェンスの方法なんて知らなかった。


金魚のフンみたいにボール追っ掛けてた。


あの楽しさを思い出して。


でもあの頃より強くなって。


そしてがむしゃらにボールを追うのだ。


「……咲!」


織火がボールをパスしようとする。


動きは確かに咲へのパス。


だけど咲と言う前にチラッと見た方向。


こっちですよね!


「ッ!?」


沙耶に向けたパスをスティールした。


すぐに前を見ると楓が突っ走っている。


「楓ッ!」


ボールを思い切り野球ボールのようにぶん投げる。


楓はそれをキャッチして、そのままリングに流し込んだ。


ゾクリと背筋が震える。


やれるじゃないですか、私。


「ナイス!ナイス美紗!」

「楓もありがとう!」

「いいよいいよ!」

「せんぱーい!最高です!」

「行け!栄光!」

「追いつける!追いつけるよ!」


会場を揺るがすが如き大声援。


ああ、なんて幸せなんだろう。


人生で1番幸せかもしれない。


勝ったわけじゃない。


何かを成し遂げたわけでもない。


何かを成しているこの今が、最高に幸せだ。


零れそうになる涙を振り切って織火のデフェンスにつく。


バスケをやってきてよかった……!


ホントによかった……!





side楓


吠えろ


感情の赴くままに


叫べ


思うままに


蓮里は織火ではなくイリヤに回す


イリヤがガードになるということか


関係ない


私の相手はこの女


頭のオカシイ天才だ


踏み越えろ


この女を


「邪魔よ……!」

「邪魔になるようにやってんだ!」


体をぶつける


ユニフォームを引っ張る


腕を絡める


あらゆる方法でもってこの女に立ち向かう


喜美は唐突な切り返しや、フェイントで振り切ろうとする。


そのたびに必死で追い縋る


私は全力を出せる


喜美は出せない


控えがいるか、いないかの差だ


狡いとは思わない


控えが厚いのが栄光の強さだ


と、喜美が一気にスピードを上げた。


私が追いつこうと足を出した瞬間、喜美はターンを決めて私の裏に入った。


イリヤの狙い澄ましたパスが通り、喜美があっさり決める。


いかん。


早くも足が崩れている。


私は先生に交代を要求した。


「はぁ……すいません先生」

「仕方ありません。あれは喜美が上手かったです」


普段はほとんど人を褒めない先生が手放しで褒める。


それだけ強いってことだ。


「頼むぜ美紀」

「任せといて」


私は仲間に託する。


コイツらも4年間頑張って来てんだ。


自信を持って託せるさ。





side織火


「踏ん張ってくださいよみんな……!」

「こんなプレイ、いつまでも続くわけがないよ!今は踏ん張って、後半で逆転を狙う!」


私の声にイリヤが反応する。


怒涛の攻撃を、私たちはギリギリで捌いていた。


何とか楓をベンチに下げることができた。


でもまだこの人がいるんですよね……


「ラアッ!」


美紗が裂帛の気合いと共に踏み込んで来る。


ただでさえ実力は段違いなのに、その上全力だ。


抜かれる。


が、楓がいなくなったぶんイリヤが動けた。


「行かせないって……!」


進路を塞ぐように飛び出す。


これでも突っ込んで来ればチャージングだ。


「頼みます!」


美紗はパスを選択した。


新しく入ってきた美紀へのパスだ。


私がイリヤの代わりにディフェンスにつく。


「頼むよ千晴ッ!」


千晴へのパスが飛び、咲とのミスマッチができた。


だがこちらも何度も抜かれるわけにはいかない。


我等は蓮里。


運動神経の良さなら全国トップレベルと胸張って言おう。


胸ないですけどねッ!


いいんです!


胸を張れッ!


ないからこそッ!


要するに、試合中に自分達で修正ができるんですよ。


自分で考えてアジャストできるんですよね!


「さぁどうするよ!?」


咲を抜いた千晴は目の前に壁を見た。


巨体のクセに俊敏というその怪物に。


「ぐっ……」


千晴は一瞬戸惑い、しかし、


「嘘でしょ!?」


突っ込みに行った。


沙耶を前にした時のプレッシャーと言ったら相当なものだ。


沙耶にぶつかるのはほとんどレンガの壁にぶつかるのと等しい。


「しまった……!」


沙耶もまさか本気で来るとは思っていなかった。


甘めに入っていたのだ。


そこでぶつかってファールを取られた。


蓮里初のファールだ。


「オッケー!ナイス千晴!」

「よく行ったぜ!」

「当たり前!」


その勇敢なプレイに会場から万雷の拍手。


「沙耶、相手は来ますよ」


フリースローの間に沙耶に伝える。


「みたいだね。ゴメン。油断してた」

「仕方ないですって。次からは止めましょう」

「織火。速攻行くわよ」


喜美の耳打ちに頷く。


フリースローが1本落ちた。


そこを沙耶とイリヤが取りに行く。


沙耶が悠々とリバウンドを奪う。


そこからボールをかかげて、そのまま走る喜美にパスを出す。


「構いませんッ!止めて美紀ッ!」


春秋先生の絶叫が飛ぶ。


喜美の奇襲にギリギリで反応した美紀が喜美の腕に思い切り腕を絡めて無理矢理止めた。


当然ファールだ。


しかし、


「流れが……」


今の速攻が決まればこちらも余裕が出来た。


いい調子に乗れた。


そこを止められた。


しかも、


「よくやった美紀。円香。アンタ交代だ」


楓が復活する時間を与えてしまった。


「さぁ、ウチの全力に付き合ってもらうぜ蓮里」





side楓


蓮里のスローインで試合が再開する。


「止めるぜこのディフェンス……!」


自分に宣言して目の前の女をマークする。


「……いいわね」


喜美がニヤリと笑う。


嘲笑ではない。


いつもの小馬鹿にした笑いではない。


薄い微笑ではない。


獲物を見つけた、対等の相手を見つけた、戦うべき相手を見つけた狩人の笑いだ。


いいぜ、喜美。


アンタは最高だ。


踊ろうぜ、この最高の舞台で!

美紗の精神状態が横浜羽沢戦の井上先輩レベルになっています


小学生にしてこの境地……

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