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逆襲場への再帰者達

人はどこまでを

過去の己の峰とする

配点 (リベンジ)

side織火


私たちが部屋に帰ると皆が待っていた。


イリヤがゲッソリしているのはなぜだろう?


お兄さん成分が足りないのだろうか?


「集まったね。それじゃあ明日の作戦会議と行くよ」


イリヤが号令をかける。


大きな和室のど真ん中にポツンと置かれたちゃぶ台に集まる。


円卓の真ん中にはイリヤの携帯が置かれていた。


「こちら沢木。聞こえているか?」

「バッチリだよ壮。それじゃあ壮も交えての作戦会議、行こうか。織火、お願い」

「はいはいわかってますよー、と」


私は栄光の面々を思い出しながら言う。


「栄光は絶対的エースの楓を中心としたチームです。得点のほとんどは楓が取りますね」


スタッツを見ても、毎回30点とか40点を記録している。


「ファストブレイクの速い展開で引きずり込むというよりも、ハーフコートオフェンスで楓の1対1を選択することが多いですね」

「でも前回私たちとやった時はそうでもなかったわよね?」


喜美の問いに頷く。


「前回は喜美が想定以上に強かったので驚いて、他に回したんだと思います」


だから今回はどう来るかわからない。


楓で来るのか、全員で来るのか。


「要注意人物はやはり楓ですね」

「得点に関する勘みたいなのは凄まじいよな」

「特に振り向き様のフェイダウェイシュートが強力です。45°、リングに対して斜めの位置で撃たれたらほぼ確実に決められると思ってください」


ビデオで研究していても、そこからの決定率は異常だった。


「でも近づきすぎると楓は抜いて来るぜ」


お兄さんの言葉に頷く。


「これに関しては仕方ありません。マッチアップにつく人の実力ですね」


「あとは美紗かしら?」


「そうですね。ポイントカードの美紗も要注意人物です。何せこの私より強いのですから」


「強気だね」


「当然ですとも。お兄さんに教わっているのですから」


「はいはーい!知佳でーす!」


「やっぱり知佳姉さんいたのね……」


「知佳お姉さん。どうしたの?」


「栄光対策なら任せてよ。決勝でぶっ潰したし」


「じゃあ知佳姉さんの対策を聞かせて頂戴」


「楓ちゃんに関してはダブルチームでいいんじゃないかな?誰か1人が固定で、あと1人は楓ちゃんにボールが渡

った瞬間に寄るって感じで」


「ダブルチーム……そうですね。やったことがありませんからいい機会かもしれません」


「マッチアップはどうするの?」


「イリヤ、お前が楓につけ」


お兄さんの強めの言葉が携帯から流れ出た。


イリヤの肩がビクッと震える。


「イリヤ。言っておくが今の俺はバスケモードだ。意味わかるよな?」

「はい」

「そうだ。イリヤはここまで地道にディフェンスの練習をしてきた。成果を試すにはもってこいの相手だ」

「はい」

「思い切りやれ、イリヤ」

「はい!」


イリヤが元気よく返事をする。


コーチに期待された、とわかっているのだろう。


「織火。お前に作戦はあるか?」

「ありますよ。ディフェンスに関してはお姉さんの案を採用します」

「どーも」

「いえいえ。そしてオフェンスはインサイドを中心に攻めることにします。喜美が楓のマッチアップから外れたので余裕ができると思います。沙耶と喜美。2人に得点を取ってもらいます」


インサイド勝負、というのは思えば男子戦以降やっていなかった。


基本的に蓮里の戦い方は喜美かイリヤがガンガン決めて、たまに私たちが決めるというもの。


沙耶には基本的にリバウンドやディフェンス、ブロックを重視してもらっていた。


しかし沙耶の身長というのは武器になる。


特に、突出して高身長のいない栄光に対しては。


「沙耶、行けるな」


お兄さんの言葉は疑問ではなく断定だった。


「当然でしょ」


沙耶も断定で返す。


「私はポイントカードの仕事に専念します。縮まってきたら咲が外から打つという感じで。イリヤにはたまに出すくらいのつもりでいてください」


「わかったよ。私は楓にずっとくっついているよ」


イリヤは完全に楓潰しになってもらう。


とにかく楓を潰してもらう。


「この試合、全員が自分の仕事を完遂しないと勝てません。絶対に自分の仕事をしてください」

「「「「押忍」」」」


さて、こちらの栄光対策は整った。


栄光のほうも、今頃作戦会議ですかね?





side美紗


明日試合に出るメンバーは全員会議室に集まっていた。


作戦の最終確認だ。


「あの敗戦から3ヶ月くらい。私はあの瞬間を忘れたことがない」


楓が皆を見回して言う。


「負けた瞬間の悔しさを、私は忘れたことがない」


皆が頷く。


当然だった。


県では負けなしの栄光が、たかだが創設3ヶ月程度の新チームに負けたのだ。


王者のプライドはずたボロになった。


寝ても覚めてもあの敗北の瞬間が思い出される。


喜美の薄く微笑んだ表情が目に焼き付いている。


二度と負けない。


どこにだって負けない。


あの得意げな笑いを叩き潰す。


「勝つのはウチだ」

「「「「「ッサァ!」」」」」


楓の断固とした発言に全員が雄叫びを上げる。


たぶん、楓が1番悔しがっているんだよね。


栄光という強豪のキャプテンの重圧がどれほどのものか、想像することさえできない。


負けた時の言われようは酷いものだった。


栄光の先輩方から酷い言われようだった。


貴女がキャプテンをやっているから。


貴女がそんなに弱いから。


貴女がいなければ。


毎晩、楓は泣いていたそうだ。


自分の責任だと思っていたから。


悔しくて、悔しくて。


それでも必死で耐えて、練習して。


楓はずっと泣いていたけれど、キャプテンを辞めるとは絶対に口にしなかった。


先生も楓をキャプテンから外さなかった。


私たち初等部の人は、全員が楓をキャプテンとして認めていた。


誰が何と言おうと、先輩達のキャプテンがどれだけすごかったかなんて知らないけど、私たちには楓がキャプテンだ。


楓以外に有り得ない。


誰もがそう思った。


朝、誰よりも早く体育館に来て、1人でモップをかけて、ボールを出して、ゴールを出して。


2番目の私が到着する頃にはすでに自主練を始めている。


誰よりも遅くまで練習して、最後に体育館を片付けて帰る。


そんな姿をずっと見てきた私たちにとって、楓以外のキャプテンは有り得ない。


体育館の鍵は職員室ではなくて楓が持っている。


その鍵が、楓こそキャプテンという証だった。


鬱屈の日々は過ぎた。


夏休みはひたすら練習した。


吐いた。


何度も吐いた。


泣いた。


何度も泣いた。


でもその度に、周りのみんなが声を出す。


頑張れ、と。


あともう少しだ、と。


楓が声を出しつづけ、周りを引っ張った。


あのキツイ練習を全員が、3年生の入ったばかりの子達も含めて全員が達成した。


栄光に笑顔と自信が戻った。


鬱屈の日々は過ぎた。


球技大会でリベンジをすると先生に告げられた時、全員の目つきが変わった。


勝ちたい、と誰かが言った。


勝つぞ、と誰かが言った。


勝つ、と楓が言った。


明日だ。


明日の試合で以って私たちは忌まわしい過去と決別する。


過去を振り返るのは明日で終わりだ。


敗北に縛られるのは明日で終わりだ。


敗戦は今日までだ。


明日から、私たちは前を向く。


勝って、私たちは前を向く。




「たぶん喜美は私につかない」


と楓が言った。


「どうして?普通は喜美じゃないの?」

「普通はね。でも壮はそんな運用のしかたはしない」


楓が断言する。


「壮?沢木さん?」

「ああ。アイツは一見愚行とも思える作戦を立てる。たとえば今年のインハイ、愛和と当たった時だ。セオリーならアイツは相手センターを止めるべきだった。それなのにアイツはそれをフォワードとセンターに任せた」


スラスラと楓が言う。


「壮さんの試合まで見たの!?」

「勝つためだ」


楓が当然のように言う。


「それが最善ではなくても、相手の予想を超えるほうを選ぶ。それが沢木壮の戦略だ」

「喜美じゃないとしたら誰が?」

「イリヤだ。他の3人だと役者不足。イリヤしかいない」

「ダブルチームの可能性は?」

「あるな。絶対に私を止めようとするはずだ」


だったら、


「当然、私も抜いていく。でも、あんたらに任せることも多くなる」


頷く。


「私たちで勝ってみせるよ」


私が皆を代表して言う。


「明日だ。全てをぶつけるぞ!」

「「「「「ッサァ!」」」」




side喜美


今日は他の部活を見るようなことはしない。


アップを続ける。


午後の2時から試合は行われる。


全ての競技が終わり、全員が見に来る。


いいじゃない。


そちらのほうが私はやる気が出る。




1時から体育館でのアップを開始した。


兄さんがいないのはやはりやりづらい。


しかしやることは変わらない。


ストレッチはしっかりと。


兄さんによく言われていることだ。


兄さん、私は大丈夫かしら?


兄さんがいなくても平気かしら?


そしてついに試合が始まろうとする。


皆が集まって来る。


私が右腕を掲げると、そこに全員が腕を合わせる。


さぁ、試合モードよ。


心で告げて、口で告げる。


試合をする状態に持っていくための声出しだ。


大きく息を吸い、吐き出す。


「潰せ!」


「「「「押忍!」」」」


「叩き潰せ!」


「「「「押忍!」」」」


「勝利を掴め!」


「「「「押忍!」」」」


「我等こそ強者!」


「「「「押忍!」」」」


「勝つぞ!」


「「「「押忍!」」」」


「蓮里!」


「「「「ファイッ!」」」」


「蓮里!」


「「「「ファイッ!」」」」


「蓮里!」


「「「「ファイッとおおおおおお!!」」」」





side楓


蓮里の声が聞こえる。


相変わらず声出しは凄いな……


だけどウチだって負けはしない。


声出しだって負けはしない。


円陣を組む。


皆を睨みつけて叫べるだけの声を出す。


「栄光あれ!」

「「「「ッサァ!」」」」

「栄えあれ!」

「「「「ッサァ!」」」」

「光あれ!」

「「「「ッサァ!」」」」


「「栄光あれ!」」

「「「ッサァ!」」」

「「栄えあれ!」」

「「「ッサァ!」」」

「「光あれ!」」」

「「「ッサァ!」」」


「「「栄光あれ!」」」

「「ッサァ!」」

「「「栄えあれ!」」」

「「ッサァ!」」

「「「光あれ!」」」

「「ッサァ!」」


「「「「栄光あれ!」」」」

「ッサァ!」

「「「「栄えあれ!」」」」

「ッサァ!」

「「「「光あれ!」」」」

「ッサァ!」


「「「「「栄光あれ!」」」」」


「「「「「栄えあれ!」」」」」


「「「「「光あれ!」」」」」」




「「「「「勝利あれ!」」」」」




1Q


sideイリヤ


ついに試合がスタートする。


ジャンプボールはいつものように沙耶が確保してくれた。


織火にボールが渡り、織火が運んでいく。


美紗がそれにくっついてプレッシャーをかけたので、私がスクリーンをかけて落とした。


美紗の体が勢いよくぶつかってくる。


それに耐えて、私は前を見る。


喜美が織火に近づき、手渡しでボールを貰う。


同時に織火がスクリーンとなって楓をこそげ落とす。


栄光はすぐに喜美へつく。


しかし楓以外が喜美を止めるのは難しい。


あっという間に切り込んでステップを踏んでいた。


そのままジャンプしてボールをリングに置いて来る。


「オッケー!ナイス喜美!」

「いいよ!」

「ガンガン行くわよ!」

「さぁ、ディフェンス止めますよ!」


声を出す。


とにかく声を出す。


ここはアウェーだ。


「美紗、頂戴」

「はい」


すぐに楓でボールが渡る。


私はすぐに楓についた。


「予想通り……!」

「これもかな!?」


叫ぶと同時、咲が楓につく。


ダブルチームだった。


「当然ッ!」


楓はしかし、パスを出さなかった。


その場でボールをドリブルしてキープし続ける。


肩で押し、フェイントをかける。


ダブルチームを突破する気だ……!


ナメられたという感情が沸き起こる。


しかし当然という思いもする。


キャプテンならこうだ。


これがキャプテンだ。


「上等……!」


だから全力で迎え撃つ。


壮に教わったことを示す。


腰を落として、目を見て、体に惑わされないで。


予測して、動いて!


「ラッ!」


スティールを狙う。


しかし楓は体を後ろにして私の攻撃を退ける。


しかしそこには咲がいる。


楓はそこで一旦後退した。


センターラインギリギリに戻って体勢を立て直す。


そして2撃目が来た。


右に来た。


私はその進路を阻もうとする。


楓はそこから切り替えしで左に来た。


咲がそこに待ち構える。


私は楓の目の動きを見る。


やはり真ん中を見た。


私が右に、咲が左に動いたせいでポッカリ空いた空間。


おそらくターンでそこに体を捩込んでくるはずだ。


だから私は真ん中に寄る。


しかしその時、楓の体は私の左にあった。


「嘘ッ!?」

「ホント!」


そのまま楓は中に切り込んでレイアップで決めた。


「ナメんなよ蓮里!」

「ナメてないわよ!」


楓が決めて、歓声が沸き起こる。


しかしその歓声の中を突き抜けるように喜美の声が響いた。


すでにセンターラインを越えて敵陣に侵入していた。


「行きますよ!」


織火がパス1本でその喜美に通した。


しかし栄光はそれでも食らいついた。


喜美のオフェンスを阻止せんとフォワードが走り込む。


喜美がステップを踏む。


右か、左か。


栄光は右を選んだ。


右だった。


「正解、でも残念ね」


喜美は飛び上がり、しかしボールを真後ろに出した。


そこに控えていたのは沙耶。


ボールを受け取り飛び上がる。


これは止められない。


「っしゃあああああ!!」


咆哮が体育館に響き、強烈なスラムダンクが決まった。


おぉ!と会場が沸き立つ。


「ナイスアシスト喜美!」

「アンタも相当なもんよ、沙耶!」

「いいですよ2人とも!」

「ディフェンス止めるよ!」


次は止めてやる。


再びボールは楓の元へ。


「……ッ!」


ボールの音に惑わされるな。


ドリブルのスピード変化に惑わされるな。


目を見ろ!


「フフフ、援護よ」


と、頼もしい味方がダブルチームに来た。

アメリカが1Qだけで49点を取ってわかったんだ。


アメリカ優勝間違いないって。


さぁ、栄光戦開始です。


かなり時間を割くつもりです。



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