表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/251

蓮里の恋愛師匠

振り返りとは

どうしてこんなにも

辛いものか

配点(黒歴史)

sideイリヤ


「そういえばね、桐生院と試合したんだよ」


美紗とラグビーを見ていてヒマになったのでそんなことを言った。


「桐生院ですか?琴美さんのところですね」


やはり琴美は全国的にも有名らしい。


「やっぱり有名?」

「琴美さんですか?そうですね。神童と呼ばれていますから」


神童って……そんなレベルだったんだ


「私たちの世代は天才や神童が多過ぎですね」

「フフッ、そうだね。普通の人は大変だよ」


楓、喜美とお互いに天才を持っている。


そのチームの2番手を務める苦労というのが、美紗にもあるのだろう。


「私たちが1番強いですけどね」

「それは明日の試合で決着しようかな?私たちだってあれから練習を積んできたんだから」

「壮さん抜きでどこまでやれるか、楽しみにしています」


美紗が笑ってくれる。


「そういえばイリヤ。その後、壮さんとは?」


突然に美紗が切り出して来る。


目が爛々と輝いている。


「私、女子校ですからこういうことに疎くてですね。自分で体験できないから他人の報告を聞くしか楽しみがないんですよ。さぁ吐いてください。さぁさぁ」


美紗が見たこともないような勢いで食いついて来る。


「えーっと……正式に挨拶も済ませて、かなり婚約には近づいたかな?」

「おぉ!」

「手も繋いだし」

「ああ!甘い!甘いですねいいですよ!」

「キスもしたし」

「ひゃあああああ!?キスですか。キスまで行きましたか?ならばその先も当然ッ!」

「行ってないよやってないよ」

「何でですか!何でそこまできてやっていないんですかガッデム!」


美紗が壊れた。


こういう話題になると豹変する性質らしい。


「いやぁ、現実的な話すると不可能だよね」


喜美と織火に教育されたので、その先というのが何かは知っている。


「どうしてそこで行かないんですかそこで!ダメダメダメ!躊躇っちゃダメ!」

「フツー躊躇うから」


事故が起きれば子供を孕んでしまうわけだし、そうなったら当然産まなければいけない。


産むということは育てるということであり、学校は止めなければいけない。


まさかそんなことをするわけにもいかない。


というわけで壮とはそのことに関してはキッチリ話をして、私が大学生になるまでは絶対にどんな形でもやらないことを約束した。


壮は血涙を流して悲嘆に暮れていたがこれは譲れなかったし、壮も納得してくれた。


そしてそれ以前に、現在の私では入るかどうか謎だ。


「そこでズバッと行かないとイリヤ!既製事実ですよ既製事実!」


しかし美紗のテンションが収まらない。


私は携帯を取り出した。


「あ、もしもーし。楓?うん、いきなり美紗が……あぁ、わかる?いつものこと?そうなんだ……あ、引き取ってくれる?オッケー。今部活棟の水道のところにいるから。うん。はいはーい」


10分後、楓が来た。


「美紗も普通ならマトモな奴なんだよ……」

「うん。そうだと思うよ?」

「しゃあああ!そこでスバッと!いや、ドバっと!ドバっと!」

「……普通なら」

「コイツ、少女マンガとか読むとマジで手がつけられねぇんだ。だから処分して最近は落ち着いたと思ったら……」


だから他人の生話を聞いて発狂したということか。


「はぁ。なんで私がこんなまとめ役しないといけねぇんだ……私、傍若無人な我が儘女のはずだったのにな」

「お互い常識人は苦労するよね」


楓が信じられないという目で私を見る。


「えっと……私が常識人だろ?それで……えぇっと……誰?」

「やだなぁ。私に決まってるじゃん」

「アンタ鏡見たことある?」


いきなり何を言い出すのだろう。


「私だって今時の女の子なんだからお洒落のために毎朝20分は鏡の前で格闘してるよ?」

「鏡の中に狂人はいなかったかい?」

「えーっと……お父様がお母様に踏み付けられて悦んでいることはよく見るけど……」

「あぁ、周りが全員狂人だから自分は常識人だと思っているアレか」


なぜか楓はガックリと膝をついた。


「この球技大会、バスケ部で常識人なの私だけかもしれないな……」

「大丈夫だよ。私も頑張るから!」

「頑張るんじゃねえよ!」





side沢木


まさかホテルまで知佳と一緒だとは思わなかった。


「奇遇なこともあったもんだね」

「横浜羽沢の近くのホテルっつったらここしかないから当たり前なんだがな」


というわけでロビーでお話続行となった。


浦話のみんなが物陰に隠れてチラチラ覗くの止めてほしいんだが。


「もうね、最近は楽しくてしょうがないよ。部活して、恋をして、勉強……」

「知佳。それ以上言わなくていい」

「絶対値で撃沈したんだよね」

「中学レベル!」

「でも勉強なんてどうでもいいの。なんくるないさー」

「まぁ楽しいようで何よりです」


俺と沖縄で会ったことがコイツにそこまで影響したのだろうか。


「喜美ちゃんのおかげで人生の楽しさを知ったよ、私は」


「喜美?あいつがねぇ」

「私の恋愛師匠ですから。喜美ちゃんにはかなり相談にのってもらっているし」


小学生に恋愛相談する高校生って何だ。


「喜美ちゃんの豊富な経験とあの感性から繰り出されるアドバイスはもはや必殺だね」

「喜美ってそんなに経験豊富なのか?」

「兄なのに知らないの!?」

「妹の恋愛なんざ知るか」


あんな喜美だが、異様にモテる。


その内面をよく知るクラスメイトや蓮里の連中からはモテないどころか危険人物扱いだが、ぱっと見では小学生ですらない。


だからかなり年上の人と付き合うというか、遊ぶことも多いことは知っている。


以前なんかは、


「やったわ兄さん!1ヶ月で60人とデートしたわよ!」

「あっれぇ!?計算おかしくね!?」


など、ほとんど遊び感覚だ。


最近は収まってきたが、小学3年か4年のころが1番酷かった。


「喜美ちゃんもね、最初からあんな風ないい女だったわけじゃないんだよね。色々経験してさ、色々学んでああいうふうになったってだけで」


喜美が小学3年から5年のころは俺は部活が忙しくて、あまり喋っていなかったときのことだ。


知佳も沖縄に行ってしまい、兄も部活でほとんど家に帰らなくなった。


加えてウチは放任主義だった。


夜遊びする体制は万全だった。


喜美はその頃にはすでに高校1年の平均身長くらいはあったので、おかしいとも思われなかったらしい。


たぶんあの頃が沢木家は1番荒れていたな。


俺も中2病という完治不可能な病に罹り、病状は悪化していった。


サングラスかけてみたり、意味もなく誰にも繋がっていない電話をかけたり、暗号を作ってみたり……ぬおおおおおおおぉぉ!?


喜美のほうもほとんど家に帰らなくなり、どこで何をしているのかまったくわからなくなった。


父さんと母さんの仲もその頃悪かったようで、早い話が家庭崩壊一歩手前だった。


イリヤもその頃の喜美はあまり知らないらしく、織火は口をつぐんで絶対に話さない。


「喜美ちゃんも昔を思い出して馬鹿ねぇ、なんて言ってたけどね。でもその頃の経験が今の喜美ちゃんを形成しているんだと思うよ?」

「女同士、仲がよろしいことで」

「いやね、ホントに喜美ちゃんの失敗談はタメになるよ。喜美ちゃんが恋愛ハウツー本書いたらバカ売れだね」


何を書かせてもバカ売れだろうよ。


「壮君。喜美ちゃんを大事にしないとダメだよ?イリヤちゃんが大事なのもわかるけどさ」

「喜美は大事にされるの嫌いだろ?」

「甘やかされたり、飼われたりするのが嫌いなだけだよ。大事にされるのは嬉しいはずだよ?」


そうかねぇ。


そんなものかねぇ。


「私はダメだからさ、喜美ちゃんに愚痴りまくって甘えちゃうんだよね。だから壮君が喜美ちゃんの甘える対象にならないと」

「それってただのストレス発散のはけ口じゃね?」


しかし最近は喜美を大切にしていなかったのも事実だ。


イリヤに気を取られすぎたかな?


「わかったわかった。喜美も大切にするよ」

「よろしい」


知佳がニンマリと笑う。




side喜美


「あ、あの!喜美先輩!」

「あら?何かしら?」

「これ!先輩のために作りました!」

「あら。ありがとう。もらうわね」

「私、先輩のファンなんです!試合頑張ってください!」


私に小包を渡すとその少女は駆けて行ってしまった。


「敵を応援するんですか……というかそれ何?」


織火に言われて小包を開ける。


ハート型のクッキーだった。


「わぁ!百合ですね百合!リアルで見ちゃいましたよ百合!」

「フフフ、一緒に食べる?」

「じゃあ頂きましょうかね」


織火とクッキーを食べながらサッカーを見る。


「それにしてもどうして同性に恋をするんですかね」

「そうねぇ。栄光は女子校でしょ?それも初等部からだから、恋愛なんてしたことないわけ。恋愛初心者なのよ」

「フムフム」

「男の人に恋をしたい。でもそれは怖い。そんな時に、素敵な女性がいたらどうする?」

「わかったようなことを言いますね」

「わかっているわよ。私だって女の人に恋したことあるもの。3年生の時だったかしら?」

「そんなこともやっていたんですか……」

「あれは面白かったわ。なかなか素敵な経験になったわよ?振ったけどね!」

「絵が想像できませんねぇ。ホント、あの時は随分迷惑かけられましたよ」

「フフフ、悪かったと思っているわよ。ええ、ホントよ?」

「私も大変だったんですから……」

「悪かったわ。これからもよろしくね?」

「そういうときはもうやらないって言うんですよ!」


確かにあの時は織火に迷惑をかけたわね。


でも、素直にありがとうと言うのも恥ずかしい。


私と織火はそんな関係だ。


「帰りましょ、織火。明日の作戦も立てないといけないわ」

「そうですね。もう帰りましょうか」


織火は私にクッキーの包み紙を放る。


「喜美が貰ったんだから、喜美が捨てておいてくださいね」

「まったく、アンタは本当に私のことがよくわかっているわね……」


私は苦笑して、織火に差し出していた手を引っ込めた。

思い出したくも無い中2病の数々……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ