異都の再会者
騒がせようとせずに
騒がしくなるのは
何故だろう
配点(個性)
sideイリヤ
様々な部活が強い栄光の中でも、バスケ部は別格らしい。
私たちは球技大会の最後に皆が見ている中でやるらしい。
私たち好みの舞台だね。
というわけで初日はやることがない。
走ったり、ストレッチしたり、パスの練習をしたり。
そんなことしかできなかった。
体育館で練習しようにも、初日は予定が詰まっているのだ。
「ドッジボール部なんてあるのね」
喜美が体育館を覗き込んで言う。
「栄光には基本的にあらゆる部活がありますからね」
案内に来ていたのは美紗だった。
楓は付き合い切れないというように帰ってしまった。
「けまり部、インディアカ部、カバディー部、ペタンク部……」
「栄光もウチと同レベルにカオスな気がしてきました」
織火がげんなりした様子で言う。
体育館を覗き込めば確かに
「カバディ!カバディ!」
とか言いながらボールを蹴ったり手を繋いだり元気に戦っているカバディー部がいた。
ルールがさっぱりわからない。
「蓮里の皆さんは、合宿所のほうで休んでもらって構いませんよ?」
「私は見て回るわ。他の部活がやっているところなんて、滅多に見れないしね?」
「私は喜美が暴走しないように見張っています」
「じゃあ私休ませてもらうわ」
「私も」
沙耶と咲はもう休むようだ。
「イリヤさんはどうしますか?」
美紗に問われて考え込む。
今日は壮も来ていないから一緒に回ることはできない。
でもこのまま帰るのも芸がない。
かと言って喜美や織火と一緒に回れば精神的な被害者になる恐れがある。
折衷案として勝手に回ることにした。
「私は適当にブラブラ回っているよ」
「そうですか。それでは一緒に回りますか?」
と、驚いたことに美紗に誘われた。
楓と共に栄光の強さを支えるポイントガード。
全国的にもかなり有名な選手らしい。
そんな美紗と回れるなら、断るのは勿体ない。
「じゃあそうさせてもらおうかな?」
「はい」
「あらあら、それじゃあ私たちもブラブラ回りましょう。ええ、ブラブラね?ブラブラ!ブラ!ブラ!あぁ、悪かったわ織火。貴女にブラはなかったわね」
「やかましい!」
この2人と回らないで本当によかった。
side喜美
「ふぅ」
「やっと気が抜けましたか?」
「な、何のことかしら?」
「お兄さんがいないで、ずっと気張っていたでしょう?」
さすがに親友の目はごまかせない、ということかしらね。
「私が崩れるわけにはいかないもの」
「そういうところ、お兄さんにそっくりですね、喜美は」
貴女に兄さんの何がわかるのよ、と思ったが口にはしない。
「お兄さんにメールでもしたらどうですか?」
「兄さんは練習中よ。帰ってくるわけないでしょう?」
「だからメールじゃないですか。送っておけば気が楽になりますよ」
「そういうものかしら?」
織火に言われるまま、軽い挨拶程度の文を送っておいた。
そして栄光の中を見て回る。
「ああ、サッカーやっているわね」
「私はすぐにボールを掴もうとするからサッカーできないんですよね」
他愛もない話をしていたらメールが返ってきた。
急いで見てみる。
『喜美、大丈夫か?いつも俺が隣にいるからな!愛しているぞ』
私はさらに驚愕する。
「どうして知佳姉さんが横浜羽沢に!?」
その文体は兄さんではなく、知佳姉さんのものであった。
side沢木
肩で押し、服を引っ張って妨害する。
そして注意が逸れた隙をついてリング下に飛び出す。
植松がフワリと浮かせたパスをそのままリングに叩き込んだ。
「オッケー!ナイス植松!」
「お前もな!」
「相変わらず飛ばせたら止められないな……」
空中戦なら負ける気がしない。
しかし、
「インサイドががら空きだよなっと!」
宮澤がインサイド、力付くでセンターを吹っ飛ばして決めた。
「チッ……やっぱ部長と井上先輩がいないとインサイドが厳しいな……」
ほぼがら空きも同然だ。
「インサイド強化か、或いは小さいの集めて速くするか……」
呟いて前を見る。
「来いよ」
小野寺を見据える。
今朝からずっと勝負し続けている相手。
いい加減クセも見抜かれているし、見抜いている。
その上で抜きつづけなければいけないのだ。
「……前田先輩!」
俺は抜くフリから長めのバウンドパスを選択した。
新しくフォワードになった前田先輩にボールが繋がり、そのまま押し込もうとするが相手のセンターにブロックされた。
しかし俺はそれを見越して飛んでいた。
弾かれたボールを空中でつかみ取り、そのままダンクを決めようとするが、それも神代に吹っ飛ばされた。
ファールでフリースローは貰ったが、欲を言えば前田先輩にそのまま決めて欲しかった。
「前田先輩、今のはかわせませんか?」
「どうすればよかった?」
「あそこで貰ったら周りは見ないでいいです。そのまますぐに押し込んでください。そうすれば決めることができたはずです」
「わかった。次もう1回頼む」
「押忍」
そんなこんなで、非常に充実した練習を送ることができた。
横浜羽沢の先生からアドバイスを貰って礼をする。
そして俺達は明日の練習に備えてすぐにホテルに帰った。
「えーっと、牛乳は……あれ?」
「やっほ、壮君」
ホテルの部屋に集まってミーティングで説教しまくり、俺も説教されまくって言い合いになり、殴り合いになり、枕投げ大会になった辺りで俺はホテルを抜け出してコンビニに来ていた。
疲れた体を癒す魔法の飲み物、牛乳を買い求めに来たのだ。
そしたら飲料水コーナーのところに見覚えのある後ろ姿がいた。
「壮君のことだから絶対牛乳買いに来ると思ったんだよ」
「そういうお前も買ってるのな」
変なところで似る幼なじみである。
「というか何で知佳が来てるの?」
「横浜羽沢の女子との合同練習だよ。同時にやってるみたいだね」
横浜羽沢は女子も強いらしい。
「というか知佳はどこまで勝ったの?」
「やだなぁ壮君。優勝に決まってるじゃん」
むせた。
「はぁ!?優勝!?インハイで?」
「そうだよ。壮君は自分のことでいっぱいいっぱいだったから気づかなかったかもしれないけど、優勝してるからね?」
たぶんMVPも知佳が取ったのだろう。
「決勝で横浜羽沢と?」
「決勝は栄光とだったね。まぁ横浜羽沢のほうが強かったけどさ」
俺達と似たような道のりを歩んだらしい。
「沖縄からこっち来るのは骨が折れるよホント」
「お疲れ様だな」
ということは、ここで俺と知佳が会ったのは偶然というよりも必然なのか。
「壮君、壮君。私ね、彼氏できたんだよ?」
「馬鹿な!?」
「えへへ、驚いてくれるんだ?」
「彼女じゃなくて彼氏だと!?」
割と本気の拳が来た。
「私は女だよ女!彼氏に決まっているでしょ?」
「まぁまぁ。そんなマジになるなよ」
牛乳を買って飲ませてやる。
カルシウムのおかげか知佳は落ち着いたようだった。
「しっかしえらいアッサリ付き合ったな」
「ちなみに今5人目」
「悪女!悪女がおる!」
インハイが終わったのが8月の中旬のことだ。
それから1ヶ月半で5人……!
だいたい1週間1人というところか。
男のほうがかわいそうだ。
「今の彼氏とも別れようかなぁと思ってるところ」
「嗚呼、知佳さんや。そんなにやさぐれないでおくれ」
俺がフッたせいでこうなったのだろうか?
だとしたら本気で申し訳ない。
「いやいや、今まで誰かさんに全ての時間をつぎ込んじゃったからね。今までこんだけ純愛貫いてきたんだから、もう遊んでもいいよねって」
しかし知佳は笑顔でそう言う。
「男に貢がせる術を身に着けたよ、私は」
「面白い。俺にやってみるか?」
「壮君には効かない気がするなぁ……まぁいいや。やってみるよ」
と、知佳が顔の前で手を合わせる。
「お願い」
「え?それが男に貢がせる術?」
「シンプルイズザベスト。真心は伝わるのです」
「金くれって言ってるだけじゃねえか」
「わかってないなぁ。この動作の可愛さを」
わからねぇよ。
手を合わせて金くれ言ってるだけじゃねえか。
イリヤがやっても別に……別に……
「いいなッ!」
「急にどうしたの!?」
イリヤが顔の前で手を合わせて
「お願い、お兄ちゃん!」
と言っている姿を妄想した。
すばらしい。
これだけでご飯3杯は逝ける。
「知佳!ありがとう!お前のおかげで俺は1つ男として強くなれたよ!」
「ああ!なんかヤバイこと教えてしまったかもしれない!ゴメン喜美!」
騒ぎながらホテルのほうに帰る。
いつ、どんなところで出会っても、変わらない奴。
幼馴染っていいなぁと思った瞬間であった。
ちなみに喜美のメールのシーンですが、
喜美がメールを送って、その時偶然壮の荷物を漁っていた休憩中の知佳によって受信される。
知佳がふざけて成りすましメールを送るが喜美は一目で看破。
そして知佳が横浜羽沢にいることに驚いた。
ということです。




