祭り場の芸人
振られて
喋って
笑わして
配点(芸人)
side沢木
さぁ、やって来ました9月29日。
俺達浦話はすでに横浜羽沢に出発していた。
2日間の合同練習なのだ。
「壮、どうしてこの時期に合同練習なんだ?」
植松に尋ねられる。
俺は植松のほうを見ず、外を見ながら答えてやる。
「まぁお前には言ってもいいか」
「おう」
「この合同練習、負けるために組んだ」
「……はぁ?」
植松が素っ頓狂な声を出す。
まぁそりゃそうだろうな。
よりによってこの俺から、そんな言葉が出るとは思えなかったのだろう。
「どういうことだよ壮」
「インハイで優勝して、俺達だけになって、練習再開してどうだ?」
「どうだって……よくやってるんじゃねえの?かなり集中もしているし」
植松が戸惑うように答える。
そう手を抜いていたわけではない。
みんな頑張ってやっていた。
先輩方がいた頃より更に頑張っているかもしれない。
「実力はどうだ?」
「実力……さぁな。そりゃ戦力ダウンはしてるだろうさ。でもこれから」
「植松。そんな甘くねぇんだよ」
「……」
「今のままだと、絶対に勝てない。いいか、よく聞け」
俺はそこで目の前に立つ植松を見る。
「前回と同じで、勝てると思うな。部長と、井上先輩。この2人がいた頃より俺達は強くならなきゃいけないんだ」
「……そうだな」
「確かにみんな頑張っているさ。でも、足りない。全然足りないんだよ」
「それで、現実見せるために横浜羽沢か」
「今の俺達ならボコボコにやられるだろうさ。向こうは小野寺も神代も残っているからな」
あの2人はウィンターカップまで残るらしい。
受験勉強もせず、いい御身分である。
そして俺達はそれを超えなければいけないのだ。
「当然、勝ちに行く。俺も勝ちたいさ」
「そうだろうな」
「だが、負けて得られるものがある。そういうことだ」
「なるほどな、よくわかった」
植松が納得して吊り革にぶら下がる。
俺達は身長が高すぎるので、吊り革というより鉄の棒を掴む形になるのだが。
「さて、向こうは上手くやってるかね?」
side沙耶
私たちも29日に既に電車に乗っていた。
栄光の球技大会というのは全国的に有名らしく、わざわざ開会式に出席しなければいけないのだ。
面倒ね……
テレビも来ているというのだから驚きだ。
2日間で行われる球技大会だが、バスケは最後の最後に回されていた。
様々な部活が強い栄光の中でもバスケは別格だ。
全国常連で、常に上位に食い込み優勝だって容易に狙える。
春秋が小学生の頃は3連覇とかしていたようだ。
ま、今年は我等蓮里が奪うけどね。
電車の中でグッタリしている4人を見回して思う。
コーチがいないせいで全て自分達でやることになった。
電車の時間とか、切符とか。
慣れた喜美がいなければ本当に危ないところだった。
その喜美も疲れたのか電車の中で寝ている。
織火も日頃の疲れか、爆睡していた。
イリヤも最近コーチに扱かれていたのでウトウトしている。
結果、私と咲で起きているしかなかった。
「オセロでもやる?」
「いいね」
ということでオセロをした。
完敗した。
「ええい!トラップカード発動!左手に剣を!右手に盾を!この効果で黒と白を入れ替える!」
「神の宣告」
「かみせんキター!?」
神の宣告は強すぎると思うの。
「よくもまぁ見事に黒一色ね」
「いぇい」
私と咲というのは性格は真逆なのだが、どうしてか馬が合う。
喜美と織火もそんな感じだ。
「咲は寝なくて大丈夫なの?私起きているから平気よ」
「大丈夫。それに私が寝たら沙耶が寂しい」
「優しいわね、咲は」
咲の頭を撫でてやる。
「それじゃあ何する?」
「絶一門で麻雀」
「アンタも飽きないわね……」
駅に降りるとそこは別の場所のようであった。
おかしい。
降りる駅を間違えた?
前来たときは人っ子一人いなかった駅。
そこが人でごった返していたのだ。
私じゃなくても驚く。
「全国的に有名っていうのは間違いなさそうね?」
喜美が苦笑しながら言う。
「またすごいですね……臨時バス出てますよね」
織火はバスの心配をしながら歩いていく。
それにしても周りがうるさい。
ギャーギャー喚きおってからに。
線路にたたき落とすわよガキンチョ。
「沙耶、抑えて抑えて」
イリヤに押さえ付けられて私は事件を起こさずに済んだ。
「……」
「沙耶、睨むの止めようよ。怖がって誰も近づいて来ないんだけど……」
「そのおかげで私たちのところだけスペースたっぷりじゃない。快適ね」
「フフフ、織火の謎ヘアースタイルにビビっているんでしょう?」
「ハハッ、何言っているんですか喜美。咲のゴスロリ衣装にビビっているだけですよ」
「イリヤの銀髪紅眼にビビっているんでしょ?」
「やだなぁ。そんなわけないじゃん。沙耶の身長と睨みにビビっているんでしょ?」
「何言ってんのイリヤ。そこの和服女がクネクネしているからでしょ?」
責任のなすりつけ合い、大好きです。
バスの乗客がさらに1歩退いた。
たぶん全員が原因だと思うの。
栄光に着くと何と驚いたことに楓が待っていた。
「喜美!喜美!私、幻覚見てますね?そうですよね!あぁ、これが兄さんがいない影響ですか!?」
「フフフ、織火。私も幻覚見てるわ。ホラ、そこにいないはずの楓が……キャアアアアアア!」
「気まぐれで来てみたらこれだよ!」
楓がぶちギレるのも納得の外道っぷりだ。
「全く。蓮里は礼儀を知らないの?」
「誰か知ってる人ー」
「私知ってるわ!礼儀って煮ると美味しいアレでしょ?」
「これだから喜美は……礼儀は生でワサビ醤油ですよ?」
「味噌汁の具にすると美味しいってお母様が言ってたよ」
「……ポン酢一択」
コイツラは……!
どうして蓮里の誇る問題児である私が一番まともなのか?
「馬鹿ね。礼儀本来を味わうために塩胡椒に決まっているでしょう?」
「「「「おぉ!」」」」
「もうやだ……コイツラ……」
side楓
目の前の狂人を見て思う。
狂ってやがる……!
前回に蓮里とやったおかげで、私はプレイヤーとして一段レベルを上げた。
その恩義もあるし、まぁたまには行ってやるかと思い出迎えたらこれだ。
前回より酷い。
どうしてかと思えば、アイツがいないことに気づいた。
まさかあの猿がストッパーの役割を果たしていたとは……!
驚愕の事実だ!
ストッパーを失った蓮里は水を得た魚というか、居酒屋のオッサンのような、悪いことをしている生徒を見つけたような春秋先生のような状態であった。
白目を向けていると、喜美が静かにしろ、というように合図を出す。
「はーい!今から織火が面白いことをするわよー!」
「はぁ!?急に何を言い出すんですか喜美!?頭大丈夫ですか!?」
織火、鏡見たことある?
しかし喜美の声に惹かれて、そこらへんでたむろっていた他校の生徒や、刺激に飢えている栄光の生徒が一杯集まってきた。
「え!?ちょっ!何ですかこの注目度!?」
「あ、テレビさーん!こっちこっち!」
見れば沙耶がカメラを呼んで来ていた。
身内にホント容赦ないな……!
「織火、Go!」
「そ、そんな無責任な!」
しかし集まったみんなが盛り上がって、とても退ける状況ではない。
「えー、それでは、物まねを一つ」
やるんか!?
このムチャ振りからやれるんか!?
私は本気で織火を尊敬した。
「蓮里小学校教頭の物まね
君たちねっ!そんなじゃねっ!これからやってけないよっ!うん。もっとさっ、ドヴァラっと行かないとねっ!ドヴァラっ!うん。いいねっ!ドヴァラ!うん」
「「「「「……ブフッ」」」」」
うめき声のような笑いが上がった。
「えぇ!えぇ!わかっていますよ滑りましたよ滑りました!鮮やかに滑りましたよ!悪かったですねぇ!」
「全国放送でこれは可哀相……」
「大丈夫?学校行ける?」
「大丈夫だよ。私は面白かったよ」
「私は貴女の味方だからね」
「やめてくださいその同情!惨めになるだけですから!」
しかし内輪ネタを持ってきた割には面白かった。
教頭がよくやる要素満載だった。
語尾が特徴的、意味不明な言葉を使い出す、しかも気に入る。
ウチの教頭もそうだわー。
ちなみに、それがテレビで放送されて織火がお笑い界に進出するのは別の話。
side織火
開会式で校長の話を聞き流しながら思う。
酷い目に遭いました……
喜美のせいですね。
いつものことだったが、今日のは少し違う感じがした。
目の前で校長の似顔絵を描いている喜美を見て思う。
今日の喜美、何だか不安定ですね。
それにわざとハイテンションになっているような。
お兄さんがいないということを忘れるためか、気にしていないフリをしようとしているのか。
無理矢理笑っているような感じです。
やはりお兄さんがいないのは大きいですね。
試合ではどうなるかわからないけれど、あらゆる可能性を考慮したほうがいいでしょう。
「はい織火。校長、イケメンバージョン」
と、前の喜美がノールックでこちらに紙をパスする。
受け取ってみると校長の顔が原形を止める範囲で美化されていた。
私の勘違いかもしれませんね……
side沢木
「横浜だああああ!」
「中華だああああ!」
「チャイナドレスだああああ!」
「うるせぇよお前らッ!」
部長の島田先輩が声を上げる。
「お前らな、もっと高校生としての節度を持ってだな……」
「島田先輩!写真撮ってくれるそうですよ!」
「イェーイ!」
男子校の面目躍如であった。
「はいはい!早く横浜羽沢行くぞ」
さすがに部長としての自覚はあるのか、まとまらない俺達を追い立てて行った。
「「「「「ちゅーっす!」」」」」
「「「「「チーッス!!」」」」」
挨拶勝負は引き分けに終わった。
体育館に行くと横浜羽沢は勢揃いしていた。
「新部長の島田だ」
「小野寺だ」
部長同士で握手を交わす。
「2日間、よろしく頼む」
「こちらこそ、頼むぞ」
小野寺は威厳がある。
落ち着きと貫禄を持った、まさしくキャプテンという人物だ。
部長の飄々とした性格も、あれはあれでトップに相応しい人格だったが。
「じゃあ早速始めようか」
「「「「「押忍!」」」」」
叫びを上げて、アップに入ろうとした瞬間、
「あ、壮君じゃん」
「知佳!?なんで!?」
知佳の声が聞こえてずっこけた。
練習は本気でやらなければいけない。
そのために知佳と話すのは練習後ということになった。
しっかしまぁ、
「改めてやってみるとキチガイじみた強さだな……!」
「お前も相当だ……!」
準決勝の時は無我夢中で、尚且つ気分がハイになっていたので気づかなかったが、小野寺無茶苦茶強い。
それこそ、あの植松がまったく相手にならないほどの強さなのだ。
ここぞという時に自分で点は取れるし、ゲームメイクに関しては日本最高峰と言われているし、ガタイもヤバいし、パスのセンスもずば抜けているし、そのクセ外からのシュートも持っている。
俺、こんなの倒していたんだ……
というか今互角に戦えていることが信じられない。
5対5でパスのみ。
俺がドライブで抜きに行く浦話としてはキツイ練習だ。
だからこそやっている。
「寄れ!寄れよもっと!」
他人を気遣う余裕などなく、怒鳴るように声を交わす。
この合同練習、まったくもって気が抜けない……!
織火がストッパーということになっていましたが、むしろスターターというかトリガーというか……
2つの合同練習を同時並行で書いていこうと思います。




