二人舞台の演技者
今日は何しよう
明日は何しよう
一緒に何しよう
配点(親友)
side沢木
喜美が出て、織火が付いていく。
喜美が先に踊るように跳ねて前に出て、後ろを振り返り笑みを向ける。
喜美の笑みに誘われるように織火が行く。
仕方ないですね、という困った表情だ。
もうそれだけで、初めて2人を見る保護者にも2人の関係がわかる。
前に出た少女はいつだって道を切り開き、知らない場所へ飛び込んでいく。
他のみんなを振り切り、そして飛び切りの笑顔で誘うのだ。
こっちにおいで、と。
対する後ろの少女はいつだって損な役回りだ。
前を切り開く少女が壊して行く道のりを直しながら追い掛ける。
ちょっと待ってよ、と。
その声に前の少女は笑みを得て立ち止まり振り向き、後ろの少女は止まったことに安堵を得る。
そして手を取って駆け出す。
しかしその走りは回る大縄に止められる。
前を行く少女は一瞬逡巡し、しかし躊躇わず飛び込んだ。
手を振り切られた後ろの少女は呆然とする。
そして前を行く少女に何かを言おうとする。
危ないよ、か
置いてかないで、か。
でも言おうとしたその言葉は前の少女の笑みで断ち切られる。
ねぇ、こっちにおいで
そう誘うように後ろの少女に手を差し延べる。
でも後ろの少女は勇気がでない。
前の少女は焦らない。
2本の大縄の中を跳ね回る。
ここがどれだけ楽しくて、面白い場所かを示すように。
跳ねて、回って。
そして再び後ろの少女に手を差し延べる。
ねぇ、おいでよ。
面白いわよ?
後ろの少女はそちらに行こうとする。
でも、2本の大縄が邪魔をする。
どうすればいいの?
と途方に暮れる。
仕方ないわねと後ろの少女が苦笑する。
そして後ろの少女の手を掴み、大縄の中に引っ張り込む。
突然のことに慌てる後ろの少女。
どうしよう。
どうすればいいの?
前の少女の見よう見真似で何とか縄を跳ぶ。
それは危なっかしくて、今にも引っ掛かりそうで。
でも数をこなすうちに、確実に上手くなる。
もう前の少女の助けはいらないとばかりに手を振りほどく。
そして縄の中で遊びはじめる。
空中で前転、逆立ちからの連続跳び。
対する前の少女も楽しむ。
片方で逆立ちし、しかし停滞することなく体を回しつづける。
縄の端から端まで跳んで、跳んで。
前の少女は思う存分自らを誇示する。
後ろの少女はしかし、だんだんと端のほうによっていく。
幾度か縄に足をとられそうになる。
そこで自分が深みに入りすぎたことに気づく。
慌てて戻ろうとするけれど上手くいかない。
足に今にも縄が引っかかりそうだ。
助けて、助けてよ!
少女は焦って周りを見回す。
後ろの少女は反対側の端にいた。
慌てて跳んで駆けつけて、少女を救い出す。
もう、危ないわね。
そんな苦笑とともに軽く頭を撫でる。
そして今度は手を取って跳ぶ。
一緒に跳んで、一緒に回って。
そして前の少女が唐突に縄から出た。
飽きた、というように。
面白いものを見つけた、というように。
ねぇ、あっちに面白いものがあるわ。
行きましょうよ。
え?もうですか?
あっちのほうが楽しいに決まっているわ!
さぁ行きましょうすぐ行きましょう!
ちょっと待ってくださいよー!
後ろの少女も慌てて縄から出て前の少女に追いつく。
前の少女はクルリと回って後ろの少女を待ち、手をつなぐ。
そして一緒に退場して行った。
縄を回していた少年2人も退場していった。
観客席から拍手が漏れる。
「演劇だな、もはや」
「台詞なしの演劇」
咲も俺に同調してくれる。
点数?
50点に決まっているだろう。
次の競技は50メートル球入れ狙撃だ。
球射れ狙撃とプログラムには書いてあるが。
喜美と咲が出場する。
これは2人1組で行う競技らしく、そのため優勝が期待されていた。
ルールは簡単。
球射れのかごを置く。
そこから50メートル離れたところに半径1メートルの円を描く。
そのなかに大量の球をおく。
そして競技者には球を撃ち出す銃のようなものが与えられる。
2分間でどれだけ入れられるかという競技だ。
「これ面白そうだからやってみたかったんですけどね」
隣で織火が本当にやりたそうな顔で言う。
「でも真剣に優勝を狙うならやっぱり喜美と咲だよね」
沙耶の言葉に皆が頷く。
本職スナイパーの喜美と、ピュアシューター咲。
考えうる限り最強のコンビだ。
競技が始まると同時に球が放たれる。
他のクラスはしっかり狙いをつけて狙撃をするか、数撃ちゃ当たる戦法を取っている。
確かにその2つくらいしかないだろう。
咲は狙撃戦法を取っている。
弾道計算は慣れたもので、次々と決めていく。
しかし圧巻は喜美である。
ろくすっぽ狙いを定めていない。
コッキングして、球を込めて、まったく照準器を使うことなく片手うちで放つ。
片手で撃つため、片方の手を装弾に回せる。
かなり速いペースで撃ちまくれる。
そのくせほとんど外していないのだ。
……我が妹ながらキチガイじみているな。
俺でも無理だよあんなもん。
結果、やはりというかなんと言うか、6年1組の優勝であった。
続いて、人生の障害物リレーである。
なぜ人生の障害物なのか、どうしてリレーにする必要があったのか。
謎が謎を呼ぶ競技だが、面白そうではある。
人生の障害物リレーは喜美、織火、咲、あと1人女子が出るという。
さて、いったいどのような障害が出てくるのか。
「位置について、よーいドン!」
その女子が第一走者で走り出す。
さて、第一障害は……?
「あぁーっと!ここで第一障害!お父さんがリストラに遭って、両親が離婚したああああぁ!」
「「「「「重えええええぇぇ!?」」」」」
衝撃的な障害だった。
後ろから
「待ってくれー!パパと一緒に行こう!な!?な!?」
と追いかけてくるパパ役の先生たち。
演技が真に迫っているのがなんともいえない。
「「「「「ぎゃあああああぁぁ!?」」」」」
第一走者は走る走る。
むしろ普通より速いんじゃねえかという速さだった。
そんなにママがいいんですか。
俺とイリヤの間に娘ができて、
「パパ嫌いー、ママのほうが好き!」
とか言われたら俺泣いちゃうよ?
「キモイ!ついてこないで!」
「グハッ!?」
そして喜美達のクラスの子が叫ぶと、教員はその場で膝をついた。
そういう設定なのか、マジでショックなのかは判別しないほうがいい。
しかしこれで後ろから追いかけられるというプレッシャーから解放されたその子は、見事1位で織火に回した。
「あぁ!なんかすごい障害引き当てそうですね私!不幸が自慢の私ですからね!」
とか叫びながら走っていると、目の前に障害が来た。
「あぁっとー!!ここでまさかの大学に落ちたあああああぁぁ!」
「いやああああぁぁ!!」
リアルで人生の障害だった。
というか高校生いるのにそれは止めてもらえませんかねえ!?
「競技者には浪人生の地獄を味わってもらいまーす!ハーイ、算数ドリル全部解いてくださいねー」
「嫌です!これが浪人なんですか!?私絶対しませんからね!」
泣きながらドリルをとき始める織火。
しかし織火、勉強に関してはテストで100点以外を取ったことが無い(喜美談)、学期末にやらされる総合演習は常にクラスで1番(イリヤ談)、実はコーチより頭良いんじゃないの?(沙耶談)
ということなので、かなりのハイペースでといて見せた。
「どうですか見ましたか!私絶対に浪人しないで、現役でお兄さんと同じ大学に行きますからねヒャッホウ!」
と叫びながら咲にバトンタッチした。
なんか今、気分がハイになったせいでおかしな発言が聞こえた気がするんだけど。
というか織火が大学に入るのは……7年後か?
俺の7年後は……大学院生か?
それなら一緒にいられるかもしれないなぁ。
でも俺、イリヤを養わないといけないからな。
院には行かないかもなー
とか鬼が聞いていたら爆笑しそうなことを思っていたら咲が障害に遭っていた。
「あぁっと!結婚で失敗したああ!早三十路!もう相手にしてくれる人はいない!」
「「「「「だから何でそう嫌なところ突いて来るかな!?」」」」」
ドッジボールコートの中を逃げ回る教員を捕まえれば良いらしい。
「咲!誰でもいい!いいから捕まえろ!」
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!マジで結婚のアドバイスになってるよ!?」
「織火!もうこの際誰でもいいわ!早く捕まえて!」
沙耶がかなりマジでそう叫んでいるのは何か思うところがあるのだろうか?
確かに沙耶は性格がキツイから、結婚できなさそうだなぁ。
身長も高いし。
「何か失礼なことを考えていたでしょう!」
「フッ、よくわかったな」
「そんなじろじろ見てたら誰でもわかるわッ!」
「痛ぇ!だから結婚できねぇんだよ!」
「まだわからないでしょうが!というかアンタだって……婚約してんじゃん!」
「フハハハハ!勝ち組をあがめろ!」
「畜生……何?この敗北感」
「いいから咲の応援をして!」
イリヤの言葉に目を戻す。
咲はどうしようかと周りを見回す。
口に手を当てて考え込む。
「えーっと、咲ちゃん。先生とかどうかなー?ほらー」
むしろ先生のほうから近づいてきた。
さすが咲!
捕まえちまえ!
「嫌」
「グハッ」
あぁ!先生に大ダメージ!
「今のやばくない?」
「直撃だったよね……」
「至近距離からあの威力……先生生きてるかな?」
回りからそんな言葉が漏れ出すほどの拒絶であった。
「壮がいい」
また騒ぎになるようなことをコイツは平然と……!




