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運動会のロマンティック大統領

響け我が言葉

届けこの気持ち

これこそがプロポーズ

配点(ロマンティック改)

side沢木


本日、蓮里小学校の運動会である。


日曜日のことであった。


高校の部活のほうは土曜日に


『11時間耐久ツアー!目指せシュート2万本!』


という練習をやって全員を瀕死に追い込んで今日は無しにした。


俺のほうも半死体なのをリビングデッドの如く引きずってここまでやってきたのだ。


どうして俺が小学校の運動会なんぞに来ているのか。


理由はいくつかある。


まず喜美に誘われたこと。


「私が兄さんの体育祭に行ったんだから、兄さんも私の運動会に来るのが筋ってもんでしょ?」


意味がわからんが筋は通さなければいけないので行くことに。


さらにはイリヤの体育着姿を見たかったというのも理由だ。


あの、ちょっと食い込んだ、こう、なんと言いますか。


ちょっとジャンプした時に軽く見えるおヘソのその……ムラッと来るよね!?


それが理由2つめ。


他の3人にも来て下さいと言われたのも理由だ。


しかし最後の理由として、教員側からの要請があったことも上げられる。


『毎度暴走する喜美さんだが、6年生となった今、何をするか検討もつかなくなっている。壮君。力を貸してくれ」


というわけだった。


「ではこれより、蓮里小学校運動会を始めます!」

「「「「「わー!」」」」」


あぁ、なんて純心な歓声なのだろう。


これから始まるイベントに楽しさしか見出だしていないような歓声だ。


浦話の場合は殺意とか殺る気とかが漲っているからなぁ。


心洗われるよ。


「えー、それでは校長先生のお話です。どうぞ」

「皆さん、こんにちは!」

「「「「「こーんにーちはー!」」」」」

「今日は絶好の運動会日和です!ですから私が言うことは1つだけ!」

「「「「「おぉ!?」」」」」

「校長先生絶こ」


ドゴォ!


「ありがとうございました。校長先生のありがたいお話でした」


校長が一発お寒いギャグを飛ばそうとしたのを悟るや否や、教頭が朝礼台の上の校長の足を引っつかんでジャイアントスローでぶん投げた。


そして何事もなかったかのように続ける。


「母さん。あれでいいのか?」

「壮、ダメな上司を支えるのが部下ってもんだよ」


俺と母さんは保護者席で小声で囁き合う。


ちなみに父さんは場所取り合戦でエキサイトしすぎて、現在お巡りさんに説教喰らっている。


日本防衛の要の憐れな姿であった。


「えー、続きましてー、ロマンティック大統領のご挨拶です。ロマンティック大統領お願いします」

「ブーッ!?」


思わず吹き出した。


「え?ロマンティック来てるのか?」

「大統領来てんの!?」

「お兄ちゃんが来てくれたんですか?」

「大統領のお兄ちゃんが?」

「ロマンティックが来たぞ!みんな!」

「ロマンティック!」

「ロマンティック!」

「ロマンティック!」


あぁ、逃げられない流れになってきた……


いいだろういいだろう!


俺はロマンティック大統領沢木壮。


行かせてもらうぜ!


俺は保護者席を抜け出して朝礼台のほうに走っていく。


保護者の皆さんは意味不明なロマンティックコールにざわめいている。


そして俺が朝礼台の上に立つとその声が一層大きくなる。


「ハイ諸君注目!」

「「「「「そうだ!」」」」」

「諸君……ロマンティック大統領である!」

「「「「「そうだ!」」」」」

「ロマンティックな大統領である!」

「「「「「そうだ!」」」」」

「そして今日は運動会である!」

「「「「「そうだ!」」」」」

「だから!今日は!飛び切りのロマンティックで行きたいと思う!」

「「「「「わあああぁ!ロマンティック!ロマンティック!」」」」」


俺は朝礼台の上からイリヤを見つける。


背が高くて銀髪という目立つ要素ばかりのイリヤを見つけるのは簡単だった。


「6年1組!イリヤ!」

「なぁに?壮!」

「イリヤ!ここからでもよく見える!イリヤは一際輝いている!」

「ありがとう、壮!」

「それでこそ我が妻に相応しい!」

「うん!」

「イリヤ!俺は君がどこにいようと絶対に見つける!君しか見えない!俺にとってイリヤが全てだ!」

「うん!」

「イリヤ、結婚しよう!俺はイリヤを幸せにしてみせる!そしたら俺も幸せだ!だから、ずっと一緒にいよう!イリヤ!」


皆がおぉ!とイリヤのほうを見る。


保護者の人達も唖然とした様子でそちらを見る。


一身に注目を浴びるイリヤは、しかし俺をしっかりと見て大きな声でハッキリと言った。


「イリヤも壮が好き!ずっと一緒にいよう!壮!」

「「「「うおおおおおおおぉ!」」」」」


周りが一気に盛り上がる。


「ロマンティック!」

「ロマンティック!」

「ロマンティック!」

「ロマンティック!」


ロマンティックコールに教師も参加しているのはいいものなのだろうか?


「えー、ありがとうございました。ロマンティック大統領の挨拶でした」


教頭の声に押されて俺は朝礼台を降りていくのであった。


そして運動会が始まる。


まず1年生のダンスなのだが、


「心洗われるなぁ」

「そうね。ついこのあいだ半裸の男が『やらなーいかやららららないーか』など叫んで踊ってるの見たのよね」

「一体お兄さんの体育祭では何が起きていたのですか……」


俺は喜美のクラスの席に座っていた。


父さんもエロ本6冊という多大な保釈金を支払って自由を得たらしい。


父さん……泣くなよ。


そして母さんの説教入ったので俺は喜美のほうに移動してきたというわけだ。


向こうの木立の中で


「さぁ。何回にしようかねぇ。3回の素振り直撃でいいかねぇ?」


「消えるわッ!」


などやっている。


いつまでも仲の良い夫婦なことだ。


「お兄ちゃーん?何鼻の下伸ばしているのかなぁ?」

「え?いや、癒されるなぁと。違う!違うぞイリヤ!俺の1番はイリヤだ!イリヤだけが俺の唯一だ!」

「フフッ、その言葉を聞ければいいよ」


最近イリヤは愛を囁くと許してくれるようになった。


喜美の説教が効いたのか何なのか。


寛容になってきてはいる。


1年生が踊っている、というか叫んで走り回っている間に俺はみんなの出場種目を確認する。


クラスでも会議が開かれていた。


「まず第2種目の50メートルタイヤ引きで沙耶ちゃんが1位になるのは確実だよね」

「このパン作り競争は佐藤が勝つよな」


この学校にはまともな競技はないのか!?


校長か!?


あの校長が悪いのか!?


「イリヤは何に出るんだ?」

「えーっとね、この大縄跳び1人版と、50メートルスキップ競争と、100メートル×4リレーと400メートル×4リレーだね。あとは組体操」


前半2つが気になるが、後半3つは普通だ。


イリヤは瞬発力だけなら喜美をも上回る。


しかも普通の男子よりも持久力がある。


リレー系なら負けなしだろう。


「咲は?」

「50メートル玉入れ狙撃と、人生の障害物リレーと、エキサイト借り物競争、5メートル競争、組体操」


咲の場合は全部意味不明だ。


5メートル競争って何だ?


「沙耶は?」

「私は50メートルタイヤ引きと、大玉蹴り飛ばしと、後はイリヤの後半と一緒ね」


リレー系ってことか。


大玉蹴り飛ばしが若干気になる。


「織火は?」

「私はパン作り競争と、人生障害物リレーと、大縄跳び2人版ですね。後はイリヤの後半部分と一緒です」


パン作り競争って……運動か?


「喜美は?」

「フフフ、私はまず50メートルタイヤ引きと、50メートル玉入れ狙撃と、人生の障害物リレーと、大縄跳び2人版と、大玉蹴り飛ばしと、エキサイト借り物競争とリレー系全部ね。あと組体操」


充実してるなぁおい!


「えっと、50メートルタイヤ引きは間違いなく1位が2個取れるし、佐々木も1だろう。まずここで30ポイント稼いで……」

「大玉蹴り飛ばしは沙耶と喜美に任せれば勝てる。これで50ポイントだ!」

「5メートル競争は咲しか勝てないだろうね。10ポイント?」

「前半での予想値は?」

「前半で210は取れそうです」

「他クラスでメンバー変更は?」

「ありません」

「なら前半は問題なし!ウチが勝つ流れね!」


どんだけ真剣なんだ。


普通ポイント予想の計算なんかしねぇぞ?


「フフフ!下回った時は覚悟しなさい!貢がせるわよ!」


「「「「「はい!」」」」」


さすが喜美。


リーダーシップや、人を動かす方法を熟知している。


「私の期待値超えたら織火の下着姿の写真をプレゼントよ!」

「あ!ちょっと喜美!?いつのまに撮ったんですか!?」


「お前ら!絶対に喜美の期待値超えるぞ!」

「「「「「オオオオオオ押忍!」」」」」


元気そうでいいことだ。


「もう……お嫁に行けません……お兄さん。こんな私でも貰ってくれますか?」

「いやぁ、俺にはイリヤという嫁がいるしな」

「うぅ……一生独身ですか……」

「フフフ。安心しなさい、織火。私はポイント予想値を超えれば、ではなくて、私の期待値超えればと言ったのよ?」


「あ、そういえば。流石喜美!」

「要するに私の判断次第ってことね!アンタの貞操は私の手の内よ!」

「あぁ!最悪な人に握られましたよ!?」

「織火……悪いわね」

「ちょっと!同情の目で肩叩くのやめましょうよ!」


通常運航だな、こいつらは。


「おい、そろそろ始まるぞ」




50メートルタイヤ引き


ルールは簡単というか単純。


腰にロープ結んで端をタイヤにつける。


50メートルダッシュ!


以上だ。


沙耶と喜美が出場する。


勝利確定だろコレ。


天国と地獄が流れはじめる。


他クラスにとっては処刑BGMも同然だろう。


小学校は学年で力の差が激しいので学年ごとの対決になる。


この種目に出場できるのは1クラス2人。


1組的には早々勝負を仕掛けてきた。


「この種目、初戦ということでクラスの士気に関わるんですよ」


織火の解説によるとそういうことらしい。


「だから普通はこの種目にエース級を持ってくるんですけど、2組と5組は外してきましたね」


だから何でそんなに真剣なんだお前ら。


「位置について」


第1レースの沙耶が構える。


「ドン!」


よーい無し!?


沙耶が一気に体を飛ばした。


「らあああああぁ!!」


ぐいぐい加速して、加速し続けたままゴールした。


圧勝!


圧倒的勝利!


なんて強さだ!


我ながら化け物作ったな!


「はーい、10点加点でーす!」


織火の言葉で1組の戦術ボードに10が書き込まれる。


次の佐々木も危なげなく勝利。


最後は喜美だった。


「ドン!」


もはや位置につかせない!?


唐突に始まったスタート。


皆が出遅れる。


……皆が?


「喜美が出遅れた!?」


イリヤの叫びが事実を教える。


喜美が明らかに出遅れた。


まさか!ありえない。


喜美が出遅れるなどありえないのだ。


喜美は容赦ができない。


加減ができない。


だから無意識にでもスタートを切ってしまうのだが……。


「フフフ、もっと走りなさいな」


喜美は他人のタイヤの上に乗っていた。


そのバランス感覚で以って平然と揺れ、跳ねるタイヤの上に乗る。


引いている奴がその重さに耐え切れなくなりスピードが落ちると、喜美は1つ前のタイヤに飛び乗る。


飛び移り、飛び移り。


そして最後の最後で1位の奴を飛び越えてゴールした。


「喜美ー!流石ー!」

「外道ー!最悪ー!」


皆の歓声に手を振り答える喜美。


とりあえず、30ポイント。

病院食。


最初食べたときはおいしいと思ったんだ。


今は匂いを嗅いだだけで吐きそうなんだ……

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