帰り道の兄妹
友達以上
恋人以上
配点(兄妹)
side沢木
浦玉は数えるまでもなく赤組の圧勝だった。
俺の作戦勝ちだな。
帰った俺達は先輩達の歓迎を受けた。
「よくやった!」
「次は俺達に任せろよ!」
反対に帰った白組1年は先輩から殴られていた。
「歯ぁ食いしばれ!」
「押忍ッ!」
今、何時代だっけ?
昭和に逆戻りした印象だ。
それから2年生が綱取り、3年生が棒倒しだった。
2年は白組が、3年は赤組の勝ちだった。
棒倒しは圧巻だった。
あれはもうただの喧嘩だ。
第一陣でラグビー部員が低めに突っ込んで防御側に楔を打ち込む。
そこにモールを作るように他の奴らが足場を作り、軽量級がその上を走り渡る。
何故か卓球部部長が見事な飛び蹴を披露して大将をたたき落とし、棒を倒した。
棒の下に人が挟まって病院送りになった。
みんな盛り上がってるけどいいのか?
いいんだろうな。
というわけで最終種目。
騎馬戦だ。
「戦術は今言った通りだ」
「「「「「押忍ッ!」」」」」
赤組総大将、応援団長が作戦を伝える。
「1年が特攻しろ!できる限り3年道連れにして死ね!3年さえ潰せば余裕だ!」
「「「「「押忍ッ!」」」」」
「ビビるんじゃねえぞ!ちょっとでも遅れたら後ろから撃つぞコラ!」
「「「「「押忍ッ!」」」」」
「沢木!」
「押忍!」
「お前が突っ込んで全滅させてこい!」
「フッ、別に、倒してしまっても構わんのだろう?」
「死亡フラグ立てるんじゃねえよ。いいから返事!」
「押忍!」
「よっしゃ行ってこい!」
「「「「「押忍ッ!」」」」」
ここで騎馬戦のルール説明をしよう。
騎馬は攻撃、守備、近衛の3種類。
攻撃は自陣に入ることができず、相手陣地で暴れることしかできない。
反対に守備は自陣しか動くことができない。
近衛はさらに狭い範囲しか動けない。
そこに大将もいるわけだ。
勝利条件は大将を倒すこと。
大将さえ倒せばどれほど犠牲が出ていようとも勝ちだ。
騎馬が崩れたかどうかは、騎手が地面に落ちたかどうかで判断される。
鉢巻きとかそんな生温いものじゃない。
本当に崩さなければいけないのだ。
例によって反則はない。
俺は攻撃騎馬の特攻隊長を任されていた。
基本1年は突っ込んで2、3年できるだけ道連れにして崩れてあとは上級生の勝負になる。
だが、俺は大将の首を取りにいくつもりだった。
「行くぞ!野郎共!」
「「「「「ウオオオオオオォ!」」」」」
「赤組なんて潰せ!」
「「「「「おおおおおおおお!」」」」」
血気盛んな叫び声を上げてその時を待つ。
「では……始め!」
実行委員のその言葉はすぐに男共の咆哮に掻き消された。
side喜美
雄叫びを上げながら突っ込み男を見て思う。
男って馬鹿ねぇ。
嫌いじゃないわ。
見ているぶんには楽しいもの。
でも一緒に歩くのは遠慮したいわね。
結論、友達のままでいましょう?ってことね。
憐れ男子校。
赤組から飛び出した騎馬が一騎。
誰かなんて、見るまでもない。
「赤組一年大将、沢木壮……!」
名乗りをあげて突っ込んでいく。
防御騎馬は最前線に1年生を固めている。
「行くぜ植松」
「任せてくださいよ先輩!」
もはや兄さんが相手するまでもない。
下の騎馬が突進して崩した。
まず第一ラインを突破する。
それに続いて赤組攻撃騎馬がなだれ込む。
「雑魚に構うな!大将を崩せ!」
井上先輩の号令で赤組が固まる。
そして一塊となって大将のほうに突進していった。
しかし大将の周りには3年生と近衛がいる。
「スマン先輩!」
兄さんは手を伸ばしてきた相手の3年に蹴りを放つ。
上のバランスが崩れてステップを乱した下の騎馬を井上先輩がローキックしまくって崩した。
敵の防衛ラインに穴が空く。
「突撃ー!我に続けえええぇ!」
「「「「「ウオオオオオオォ!」」」」」
楽しそうに殴り合う男達。
あ、歯が吹っ飛んだ。
鼻血ボタボタ流しながら救急車のほうに走っていく人もいる。
面白そうだからそっちのほうに行ってみた。
「あぁん!?鼻の骨折れた?知るか!気合いで直せ気合いで!」
救急隊員に無茶言われていた。
それも仕方ない。
救急車の中には男共が大量に放り込まれていた。
「出発しないの?」
私は不思議に思って聞く。
「いや、絶対怪我人増えるしな。経験だよ経ハイ骨折1名入りましたー!」
そんなことを言っているうちにもう1人運び込まれてきた。
増援の救急車もわらわらとやって来る。
一体何事かと住民が見に来るが、体育祭だということに気づくと納得したように帰った。
本気でいつもこんな感じなのね……
自分の学校の運動会が情けなくなる。
もうちょっと盛り上げてやろうかしら?
っと、それより兄さんが気になる。
これだけ怪我人を量産しているのは兄さんで間違いない。
どれだけ働いているのか妹として是非見ておきたいところだ。
私は応援席に戻る。
もう殆どの騎馬は崩されて場外で応援しているか、救急車に放り込まれたかであった。
守備騎馬は両軍共に全滅しており、攻撃騎馬も数えるほどであった。
「うらああああ!トンファー頭突き!」
ドゴォ!
「トンファー関係ねぇ!」
兄さんが更に近衛を崩す。
獅子奮迅という言葉がピッタリであろうか。
だが流石の兄さんとて傷だらけだ。
下の井上や植松なんかはもっとひどい。
近衛とはまさしく選抜された男の中の男である。
荒くれ共と激突しまくって、傷を負わないわけがないのだ。
兄さんがチラリと自陣の方を見る。
もう余り持ちそうではない。
相手も攻撃騎馬に1騎、最強の騎馬を投入していたのだ。
「ぶち抜け青春……!」
部長だった。
騎馬の先頭として殴ったり蹴ったりと大活躍だ。
リング下は格闘技とも言われるバスケのセンターだ。
こんな状況には慣れている。
その圧倒的フィジカルで打ち倒し、俊敏に動き回り囲ませない。
赤組の大将にも手が届こうかという状況になっている。
「兄さん行って!」
だから私は声を通す。
ルール違反ではないはずだ。
「了解だ喜美!」
「「「姐さん!見ててくださいよ!」」」
私の声に背中を押されて兄さん達が特攻をかける。
「勝負……!」
端から見ても絶望的な戦力差。
近衛は4騎ほど生き残っており、対するは兄さんのみ。
しかし、それで止まる人がいようか?
目の前に絶望的な相手がいて、立ちすくむ人がいようか?
人間というのは複雑なものである。
こういう状況でほど、底力を発揮するのだから。
兄さんと近衛の1騎が激突。
すぐに囲まれそうになる兄さん達。
そこで兄さんはある決断をした。
「飛ばせええええぇ!」
兄さんの号令と共に、下の騎馬が兄さんを放り投げた。
それはもう、普通に放り投げた。
「「「「「は?」」」」」
私の呟きは白組の皆と同じだった。
空を舞う兄さん。
もはや芸術的でさえあった。
そのまま近衛の上を飛び越え、守られていた大将騎馬へと落ちていく。
騎馬は、騎手が地面に落ちない限り崩れたかと見なされない。
つまり兄さんは地面に落ちる前に大将騎馬を倒すことができれば勝ちだ。
「喰らえ……トンファーキック!」
ドゴォ!
完璧なトンファーキックが決まった瞬間であった。
結局騎馬戦は赤組の勝利で終わった。
白組大将は号泣していた。
まぁ、トンファーキックで倒されたら、ねぇ?
しかし兄さんのクラスは勝つことができず、上位は3年生に独占されたのであった。
「それにしてもどうしたんだ?喜美」
「何のことかしら?」
帰り道。
兄さんが問い掛けて来る。
「どうしてみんなを呼ばなかったんだ?」
やはり気づいていたのね。
というか気づかないほうがおかしいわね。
「どうしてだと思う?」
簡単に答えてやるわけにはいかないわ。
男には頑張ってもらわないとね。
「うーん……何か悪戯か?」
「フフフ、違うわよ。それも少しあるけど」
帰ったらイリヤはどんな顔で出迎えるのだろうか。
少し楽しみだったりする。
「えー、じゃあなんだろうな……」
本気で考えはじめる兄さん。
変なところで生真面目だから困るわね。
「フフフ、教えてあげる」
「おう」
「寂しかったのよ」
「……うん?」
兄さんが怪訝な顔をする。
私の口から寂しいという言葉が出るのがそれほどに予想外だったのかしら?
「なんで寂しいんだ?最近はいつも一緒じゃねえか。むしろ前までより仲良いだろ?」
「そうねぇ。1年前とかはここまで一緒じゃなかったわね」
思い返せばよくあれだけ離れていたものだ。
兄さんも部活で忙しかった。
バスケには感謝しないといけないわね。
私と兄さんを再び繋いでくれたのだから。
「私はね、兄さんを取られることが寂しいのよ」
「俺を取られる?イリヤに?」
「イリヤだけじゃないわ。みんなに、よ。今までは兄さんは私だけのものだった。今では咲の、織火の、沙耶の、そしてイリヤの兄さんだわ」
取られたくなかった。
私のものにしたかった。
「兄さん、女って怖いのよ?」
「よく知ってるよ」
「気に入ったものはね、全部自分のモノにしないと気が済まないのよ。人だったら、心まで全部ね?私のこと以外、考えられないようにしたいわ」
「喜美のことだけ考えるとか、気が狂うな」
そう。
「だから、私は我慢しているの。兄さんを取られても怒らないの。友達に兄さん取られても怒らないの。でもね、今日だけは特別」
「今日はお前だけの兄さんだったってか?」
「そうよ。今日は前までの私たちだったわ。私と、兄さんだけ」
「楽しかったか?」
兄さんは何もかもわかっているような問い掛けをすることがあるから嫌だ。
「楽しかったわよ。久しぶりに甘えてみるのもいいものね」
「お前なぁ、そういうのは照れて言わないものじゃないのか?」
「フフフ、本心隠すことだけが恋愛の秘訣じゃないのよ?」
兄さんの軽口に返してやる。
いい機会だ。
思っていたことを伝えておいたほうがいいわね。
「私、沢木に生まれてよかったわ」
「知ってるよ」
「兄さんが兄さんでよかったわ」
「……」
「私みたいな才能溢れる素晴らしい人間が育ったのは兄さんのおかげよ。
私にとって兄さんは、絶対に超えられない壁なんだから。
私より上の人間がいるって知ってるから、傲慢にはならなかったのよ」
「どうしたんだ喜美?死亡フラグ立てはじめて」
死亡フラグ。
そうかもしれないわね。
だってイリヤとの試練で、私は死ぬかもしれないのだから。
「ありがとう、兄さん」
「どういたしまして、だ。喜美」
私たちは仲良く家に帰った。
さて、イリヤはどんな顔をして迎えるのかしら?
憤怒?悲嘆?嫉妬?
どれかしら?
私的には「こ、この泥棒猫!」を生で見れたら嬉しい。
「帰ったわよー!」
「あ、お帰り、喜美!」
玄関を開けると偶然通りかかったイリヤに返事を返される。
満面の笑顔だ。
あれ?
なんか予想外。
というか嫌な予感が……
体育祭編終了ッ!
ちなみに優勝したのは井上先輩のクラスです。
次回は蓮里運動会編ですかねー




