火事場の馬鹿
走って
飛んで
争って
配点(体育祭)
side沢木
体育祭
皆さんはどのような印象を抱くであろうか。
仲良くかけっこ?
真剣にリレー?
クラスをあげてのお祭り?
どれもそうだろう。
普通はそうなのであろう。
しかし、今年体育祭を経験した俺の印象は違う。
あんなもの、ただの喧嘩である。
もはや殺し合いと言って過言ではないかもしれない。
「というわけで、体育祭なんだがー」
体育祭2週間前。
我がクラスでは体育祭対策会議が開かれていた。
やらなければいけないことは3つ。
まず、誰がどの競技に出るか。
パフォーマンスはどうするか。
それぞれの競技でどのような作戦を立てるか。
以上3つだ。
誰がどの競技に出るか、ということだが、これがもっとも重要だったりする。
全ての人間が、もっともその能力を発揮できるものに参加しなければいけない。
どれかを捨てて優勝など不可能である。
「とりあえず沢木、お前全部ね」
「嘘だろッ!?」
全部ということはまさか……!
「鉄人レースもお前に出てもらうから」
「Noooooooooo!!」
鉄人レース。
早い話がトライアスロン。
プールで200メートルを泳ぎ、自転車で3000メートル、ランで1500メートル。
この競技考えた奴、アホじゃねえの?
「あと100メートルも沢木で、忍者リレー沢木で、400メートル沢木で、スウェーデンリレーの400メートル沢木で、2人3脚沢木で、ピラミッド沢木ね」
「会長ッ!俺を殺す気かッ!」
それフル出場じゃねぇか!
しかも走る系のものは予選と本戦がある。
2回やらなければいけないのだ。
「それでも沢木なら……沢木ならなんとかしてくれるッ」
「バスケ部員が誰でもその言葉で動くと思ったら間違いだよ!?」
言われたいけどさ!
「沢木!頼む!」
「頼むぜ沢木!」
「いやぁ、そう言われても……疲れるじゃん」
「優勝するためにはお前しかいないんだ!」
「史上初の1年生優勝を狙いたいだろ?」
「お前しかいないんだ!」
「そうか。俺しかいないか。だったらしょうがないなぁ」
「さすが沢木!俺達の生贄になってくれたか!」
「生贄って言った!?生贄って言ったよね!?」
「ああ、植松も同じね。鉄人に出ないってだけで」
「これ死ぬんじゃね?」
植松も被害者になった。
それからしばらく話し合い、それぞれの競技の出場者が決定した。
割といい感じに纏められた。
会長の手腕だろう。
「じゃあパフォーマンスだけど……」
と、パフォーマンスの話に移る。
パフォーマンスというのは各クラスが2分でやるものだ。
踊るのが普通だが、最近は寸劇をやったりミュージカルをやったりパレードしたりとバリエーション豊かだ。
ウチのクラスはソーラン節をすることになっていた。
パフォーマンスも採点の対象になるのだが、採点をするのは教師ということで色物は好まれない。
過去に水着だけで「やらないか」を踊ったクラスがあるそうだが、見事に最下位だったそうだ。
当たり前だ。
多く得点を取るためには
1、色物でない
2、統一感がある
3、オリジナリティーがある
以上3つである。
重要視されるのは上2つで、3つめはできれば、くらいの目標だ。
だから俺達は3つめを捨てて、とにかく動きを揃える方針で行くことにした。
「ハイ!ワンツーワンツー!」
なんで俺がやっているんだろう。
俺、鉄人レースに出場するからパフォーマンスやらないのに。
「だからこそだろ?お前以外踊るんだから、お前が見てろよ」
というクラスメイトの声で俺は監督することになった。
「はいワンツーワンそこッ!吉田!遅ぇよ!」
「お、おう」
「お前ら、俺にコーチを任せたのが運の尽きだ!部活の時と同じくらい激しく行くぜ!」
「「「「「押忍!」」」」」
そんなわけで夜9時まで踊りの練習をしていた。
体育祭は本気でやりたい。
そう思って俺は喜美にお願いした。
「この通りだ!喜美!」
「兄さん。マッスルポーズは謝罪のポーズではないわ。キモいからやめなさい」
喜美に事情を話す。
「そう……私のことなんて、遊びだったのね」
「違う!違うんだ!」
「何が違うって言うの!?そうやって貴方はいつだって他のところに行ってしまうのよ!」
「嗚呼……なんてことだ!僕はきみをこんなにも愛してるのに!」
「貴方はすぐにそうやって愛を囁いてごまかすのよ!」
「何キモい演劇やってるんだい兄妹で」
2人で熱演していたら通り掛かった母さんにジト目で見られた。
蓮里4人からも了承をもらい、俺は2週間ほどコーチの業務から解放された。
そんなわけで朝の7時に登校。
朝練をして、放課後はみんなの部活が終わる8時くらいに集合。
1時間ほど練習して帰宅。
こんな生活を送るようになっていた。
その甲斐もあってか、かなりのレベルではないかと自負している。
しかし練習中に3年生を見かけなかったのがすごい気になる。
俺達は外で練習していた。
後で先輩に聞いたところによると、3年生は本番まで何をやるか、どれくらいのレベルになっているかを秘匿するために教室でやるらしい。
なので3年生のレベルを見ることはできなかった。
でもあれだけ練習したのだから勝てるだろう。
1位だって取れるかもしれない。
そんなこんなで練習を積み重ねて、俺たちは体育祭本番を迎えていた。
「これから、体育祭を開催しまーす!」
「「「「「おおおおおおおぉぉ!!」」」」」
開催の宣言に叫び声が上がる。
野太い声である。
恐ろしいまでに男ばっかである。
「お前らあああぁ!盛り上がっているかあああ!?」
「「「「「おおおおおおぉぉ!!」」」」」
「気合いは十分かあああああ!?」
「「「「「おおおおおおおぉぉ!!」」」」」
「殺る気は十分かあああああ!?」
「「「「「おおおおおおおぉ!!」」」」」
ハイテンションな男共。
リアルに怪我人が出そうだ。
というか、
「植松。どうして救急車が既に来ているんだ?」
「だってお前、どうせすぐに怪我人出るんだから」
校庭の隅に救急車が3台待機していた。
意味がわからねぇ。
「じゃあ体操しまーす!」
「「「「「はーい」」」」」
準備体操。
「じゃあウォーミングアップしまーす」
「「「「「はーい」」」」」
「腕立て50回」
「「「「「はいいいいぃ!?」」」」」
始まる前からわかる。
この体育祭、ヤバい。
浦高の体育祭第一種目。
鉄人レース。
各クラスでもっとも体力に自信のある者が出場する。
部長、井上先輩、島田先輩も出場していた。
「先輩、よろしくお願いします」
「沢木、ぶっ殺してやる」
「覚悟しろよ」
「……」
先輩たちの気合いがハンパない。
出場者はプールに来ていた。
当然水着だ。
浦高の水着だ。
つまり、ブーメランパンツだ。
毛がはみ出るギリギリ勝負水着である。
どこの毛とは言わない。
校庭のほうではパフォーマンスが行われている。
俺はそんなことを思いながらスタートの時を待つ。
他の奴らも小さくジャンプを繰り返したり、気合い入れに声を出したりしている。
井上先輩は屈伸や伸脚を繰り返し、部長はジッと待っている。
校庭から聞こえる歓声。
あいつらの番だろうか?
勝てているだろうか?
変なミスしていないだろうか?
そんなことを思いながらスタートを待つ。
そしてついに、その時が来た。
「では並んでください」
生徒の合図で俺達はプールの飛び込み台に上がる。
ゆっくり息を吸う。
「位置について」
半分ほど吐いて止める。
「よーい」
意識を全てつま先に集中させる。
笛の音が聞こえたと同時に、俺は誰よりも早くプールに飛び込んだ。
「というわけで優勝は!3ー7の古谷君です!おめでとう!」
「ありがとう!応援ありがとう!」
俺はグラウンドに倒れ込みながら優勝した古谷先輩のインタビューを聞いていた。
畜生……負けた……
違うんだ。
言い訳をさせてくれ。
スイムとバイクでは圧勝していたんだ。
古谷先輩とも一周差つけていたんだ。
そこからランだけで抜かされた。
400メートルのリードを詰められた。
「しょうがねぇよ、壮」
3位で入ってきた井上先輩に慰められる。
「古谷は陸上部で去年インターハイに出場しているからな。3000メートルで」
本職じゃねぇか!
なんでそんなバグキャラが参加してるんだよ!?
しかし2位でゴールしたのでポイントは稼ぐことができた。
「兄さん、惨敗だったわね」
「喜美か」
疲労困憊して自分の席に戻って座っていると喜美がやって来た。
いつものように和服を着ている。
「沢木!どこの方だテメェ!彼女とか言ったら承知しねぇぞ!」
「聞いてなかったのか?妹だ」
「お兄さん!妹さんを僕に下さい!」
「やるかバカ」
アホなことを言うクラスメイトを一蹴する。
「喜美、イリヤたちは?」
「フフフ、連れて来たら大騒ぎになるだろうから父さんと母さんのところに待機させているわ」
「助かるよ、喜美」
こういう時の喜美は本当に優秀で助かる。
父さんが近くにいるなら変な輩が声をかけることもないだろう。
「兄さん、次はどの競技に出るの?」
「えぇっと次はな……」
「沢木!早く集合しろ!忍者リレーの予選だ!」
「わかった!というわけだ、喜美」
「はいはい、いいから行ってきなさい」
俺は入場門のほうに駆けていく。
後ろでクラスメイトが喜美に何か言い寄り、言い返され、膝を屈しているのが見えた。
残念だったな。
ソイツは外見と中身が一致していないんだ。
第二競技、忍者リレー
忍者リレーという競技がある。
どんなリレーか。
有り体に言えば、何でもありのリレーである。
コースから外れなければ何をしてもいい。
殴ってよし、蹴ってよし、投げてよし。
よく知らんが、ルールブックにはダメとは書いてなかった。
よし、言い訳万全。
俺は第一走者に選ばれていた。
とにかく俺のフィジカルであらゆる妨害蹴散らして、トップで植松につないでそこで一気に差をつける。
そこまで差をつければ妨害されることもないだろうという戦法である。
我ながらいいアイデアだ。
この体育祭が、俺の想像の遥か上を行くものだと知るまでは。
ここから体育祭、文化祭編を一気にいきます。
にじファンが閉鎖されてしまい、真面目にロウきゅーぶが更新できなくなりました。
これからは蓮里小学校女子バスケットボール部をよろしくお願いします。




