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挨拶中の相対者

俺の娘に

手を出すな

配点 (パパ)

side沢木


おはようございます。


現在9月30日の日曜日。


朝の4時でございます。


もう既に起きて朝飯食べて、シャワー浴びて、着替えて、トイレ行って、歯を磨いて、またシャワーを浴びて、部屋に待機中でございます。


「……」


俺は落ち着かなく部屋を歩き回る。


約束の時刻まで後5時間。


俺の緊張は最高潮に達していた。


横浜羽沢戦の直前並の緊張だ。


「……」


とりあえず精神を落ち着けるために隣の喜美の部屋に行くことにする。


「はぁい!では行ってみましょう!気になるあの人の寝顔は!?レッツゴー!」


テレビ風に喋って扉を開けたら顔面に枕をぶち込まれた。


相変わらずなんて妹だ。


「兄さん、うるさいわよ!朝っぱらから何叫んでいるの!?」

「喜美の寝顔が見たかった」

「他の物で落ち着きなさい。まったく、私までソワソワしてくるじゃない……」


あれ、よく見たら喜美も着替えが完了している。


いつもの着物ではなく、家宝の白色黄金の着物を着ている。


しかもいつものように崩して着るのではなく、完璧に着ている。


喜美でもすごい時間がかかるんじゃないのか?


「……囲碁でもやろうか、喜美」

「そうね。お互い早く起きすぎたわね。精神を落ち着けましょう」


お互い緊張しているとわかって苦笑。


精神を落ち着けるためには囲碁がいい。


時間潰しにもなるし。





「……投了ね。これは勝てないわ」

「ハッハッハ、まだ兄には勝てないな!」

「そうね。囲碁では兄さんに勝てるとは思えないわ」


3時間の激闘の末、俺が勝利した。


「……テレビでも見ましょうか。あと1時間くらいで出発だし」

「そうだな」


俺達はテレビでアニメを見ることに。


朝のアニメは健全である。


「あら、最初の3分で主人公が違う人を犯人として逮捕して、残りの22分で証拠をいかに捏造するかを延々と語り合う『オーサカチーケン』じゃない。このシリーズ好きなのよね」

「この前の記憶消去には度胆抜かれたな。黒い服の人が逮捕した人の周辺人物の記憶をお金で消していくやつ」


健全なアニメである。


オーサカチーケンを30分見ると、あと30分で出発ということになる。


あとはお互い無言で30分を過ごす。


俺は頭の中でリハーサル。


喜美が何をしているのかは不明。


そして30分。


8時に俺達はイリヤの家に出発した。





「ここか」


ついに到着した。


イリヤの家だ。


別に何もおかしいところがない普通の家である。


「兄さん、準備いいわね?」

「もちろんだ」


準備万端。


イリヤのお父さんと一戦交える準備は完璧だ。


タコ殴りにしてやんぜ……!


喜美がインターホンを鳴らし、応答する。


しばらくするとイリヤが玄関を開けて出てきた。


「お兄ちゃん!」

「イリヤ!」


朝からさっそく抱き合う。


「あらあらまぁまぁ」

「お義母様、おはよう」

「おはよう、喜美ちゃん。壮君も」

「おはようございます。お義母様」


よし。最初のお義母様への挨拶はキチンとした。


全裸で土下座はしなかった。


したかったけど、喜美に禁止されていた。




「いい?兄さん。全裸は正装じゃないわ」

「馬鹿な!?あ、そうか」

「兄さん、全裸にネクタイも正装じゃないわ。いいから私の選んだ服を着なさいッ!」




喜美には頭が上がらない。


「さ、入って、どうぞ」


お義母様に言われて俺達は中に入る。


そのまま和室の中に案内された。


襖を開けると、奥にお義父様が正座していた。


「君が壮か」

「俺が壮です」


言いながら頭を下げて正座する。


隣で喜美が見事な所作で座る。


俺と喜美が並び、お義父様に相対する形。


イリヤとお義母様は俺達とお義父様の間に座る。


「……」

「……」

「……」

「……」

「……」


沈黙。


もはや鳥の鳴き声すら聞こえない。





side喜美


この沈黙、破るのは誰だ。


下手に動けば自滅する恐れがある。


しかし、兄さんがそんなことで怖じけづくわけがない。


動いたのはやはり兄さんだった。


「娘さんを僕に下さいッ!」

「娘は嫁にはやらんッ!」


キター!


伝説的名言!


娘さんを僕に下さい!


が炸裂したあああぁ!


しかも


娘は嫁にやらん!


のコンボまで炸裂したあああぁ!


流石ッ!


しかし兄さん、ここからどうするというの?


お義父様が許す様子はない。




「そこをどうかお願いします!」




兄さんはDOGEZAを放った。


正座状態から手を畳に付け、静かに頭を下げる。


きぬ擦れの音すらしない。


完璧だ……!


「くっ……!?」


お義父様もうろたえている。


DOGEZAは万国に通じる日本が産んだ最強の交渉術だ。


放たれたら最後、相手の言い分を認めるしかない。


世界各国様々な政治家が、日本のDOGEZAの前に敗北した。


徳川家があれだけの期間鎖国を続けられたのも、日本が各国の植民地に成り下がらなかったのも、陸奥や小村寿太郎が不平等条約を改正できたのも、全てDOGEZAによるものだといわれている。


今では政治家、商人を志すならDOGEZAは必修となっている。


そこまで重要な技なのだ。


DOGEZAを回避するためには、相手より先にDOGEZAを叩き込むしかない。


しかしお義父様は兄さんの見事過ぎるDOGEZAの前に動くことさえできなかった。


「……顔を上げてくれ、壮君」


お義父様が苦しそうに言うが兄さんは容赦しない。


「……」


微動だにしない。


兄さんはDOGEZAを続行する。


最後の最後までこれで粘る気ね!


さすが兄さん!


日頃からDOGEZAしているだけはあるわ!


この日のために毎日300本3セットを続けてきた甲斐があったというものだ。


「……わかった。話をしよう。壮君」


そしてついにお義父様から譲歩を引き出した。


これでもDOGEZAを続行するか?


「ありがとうございます」


兄さんは欲張ろうとはせず、手堅く行った。


とにかく話に持ち込めば兄さんの話術で引き込める筈。


「イリヤさんとは、4月に出会い、6月に告白を受けてもらってから3ヶ月付き合わせてもらっています」


よし。


さすが兄さん。


敬語がそれなりに形になっている。


「……たった3ヶ月か」


しかし、お義父様の反論も当然というもの。


というか私に娘がいたら絶対許可しないわね。


3ヶ月で婚約など急ぎすぎだ。


破局は目に見えている。


しかも兄さんは高校生、イリヤに至っては小学生だ。


まともな親なら絶対に許可しない。


というかこんな場を設けてもらったことがありがたい。


そこは母さんの根回しが効いたらしい。


母親同士のホットラインというのはかなり強力なようだ。


「3ヶ月。確かに世間一般では短いと思われるかもしれません」


兄さん、なんだか前口上みたいになってきたわよ。


テンション上がってヤバいことになりそうだったら私が修正しないとね。


今ここに私がいるのは沢木家の代表として、そして兄さんの抑え約である。


「しかし、私とイリヤさんの間ではこの3ヶ月で十分でございます。もはや運命と言っても過言ではなく」


本格的に兄さんのテンションが上がってきたわね。


「私とイリヤさんの愛の前には時間など不要でございます」

「……お互いをよくわかっていないのに、か?たった3ヶ月でイリヤの何がわかる」

「そもそも人を根本から理解しようなど不可能。お互いの全てを知るなど、土台無理な相談であります」

「ならば」

「しかし、愛することは可能であります。そして、知ろうと努力することもまた、可能であります」


兄さんにとっての敬語はこれなのかもしれない。


いいわ、放っておきましょう。


こういう場面ではこのほうが有利かもしれない。


相手を引き込むことができる。


「知ろうと努力するということは、愛するということ。ならば、私はイリヤさんを知っていくことができると確信できます」

「……」


お義父様が少し考え込む。


反論の構成中であろうか?


「お前に娘が守れるのか?」

「我が沢木家は軍人の一族。愛する人を守れずして国が守れましょうか。必ずや、イリヤさんは私が守り通しましょう」


沢木家にその質問は無謀だったわね、お義父様。


「だが、お前がイリヤを幸せにできるとは限らない。お前はイリヤを幸せにしてやれるのか?」

「必ずや。絶対に幸せにしてみましょう」

「仕事もないのにか?」

「私は沢木家の家長を継ぐもの。必ず仕事に就くことができますし、安定した生活を送ることも可能です」


それも沢木家にはしてはいけない質問だ。


とにかく、そういうフォローはばっちりなのだ。


兄さんを、世間知らずの子供とナメてはいけない。


沢木家は、子供であろうと大人扱いされる。


全ての行動に責任が伴う。


そんな人生を生きてきたのだ。


並の大人よりも、その行動には責任がある。


「そうか。しかし、認めるわけにはいかない」


しかしこれは理屈ではなく、感情だ。


今まで手塩にかけて育ててきた目に入れても痛くない可愛い娘。


他の男に取られるなど、到底許せるものではない。


こうなれば説得は難しいものとなる。


感情に対して説得をすることはできないからだ。


説得できないから、感情と言うのだし。


「お父様」


しかし、そこを説得できそうな人物が参戦した。


「イリヤからも、お願いします」


イリヤも頭を下げてお願いする。


この挨拶、まだまだ終わりそうに無い。

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