禁忌の恋人
シスコン
ブラコン
ヨスガ
配点(禁断の関係)
side沢木
「いやぁ、まいったなぁ。私の負けか」
「ハッハッハ、ナメんなよ、琴美」
「ナメてへん……とは言えへんかなぁ。悪いな、甘く見とったわ」
試合が終わって、それぞれ相手の監督のところへアドバイスをもらいに行っていた。
「そうだなぁ……」
「「「「「……」」」」」
真面目にこちらを見てくれる桐生院の子供たち。
下からこう上目遣いで見上げてくるのがこう……なんとも言えないね!?
「壮さん?」
「おぅっと……えーっとな、お前らの敗因は咲を止められなかったことだ」
全員が頷く。
そらわかっているか。
「中に中にって、そういうように見えた。途中要所要所で沙耶が決めたのはわかるけど、あそこまで3pを許すのはダメだ。はっきり言うと、ありえない」
俺の厳しい言葉に全員が肩を震わす。
しかし、顔を下ろすことはなかった。
しっかり俺の顔を見る。
「だが、そのぶん途中までは喜美、沙耶に仕事をさせていないのはよかった。攻撃も全員で回すからこちらとしては止めづらかった。そこは評価できる」
「「「「「はいっ!」」」」」
「だけどお前らもう少しロングを使え。途中からああもうインサイドだなって思って守りやすかった。あと、4Qから一気に失速したな。お前ら崩れるのも早いよ。琴美、喜美に抜かれてかなり調子落としただろ」
「そやな……なかなか吹っ切れへんわ」
「ま、今の時点で完璧なメンタルは求められない。だが、できるだけ前を見ろ、声を出せ、みんな」
「「「「「はいっ!」」」」」
「じゃあ俺からはそんなところかな」
「「「「「ありがとうございました!!」」」」」
礼をして帰っていくみんな。
と、蓮里が帰ってくる。
「よくやった。4Qはよかったぞ」
「フフフ、そうでしょ?」
「だが喜美、お前それまで抑えられたよな?」
「そうね。意思にかまわず反応してしまうわ。でも、さらに速く動けば問題ないわよ」
問題ありまくりだよ。
問題はそこじゃねえだろ。
と思ったが口にしない。
そこは喜美が自分で気づくべきところなのだ。
「咲、最高だった!」
「サンキュー」
「あれだけポンポン決めて、俺は気持ちよかったね!」
「壮のために打った」
「ああ、ありがとうな」
俺は咲の頭を軽く撫でて、沙耶を見る。
「沙耶。咲がこれだけ決められたのはお前のおかげだ。よくやった」
「当然でしょ。インサイドを制するのが私の仕事なんだから」
「それでも、だ。よくやった」
「ありがと」
沙耶もよく頑張ってくれた。
点数的にはあまり取っていないが、リバウンド数は相当なものだろう。
「織火、こんなになるまでよく頑張ったな」
「……ごめんなさい。お兄さん」
「なんで謝るんだ?よく頑張っただろう。織火。勝てたのはお前のおかげだよ、織火」
「……でも、悔しいんです」
「そうだな。悔しいな。帰ったら、特訓だ」
「はい。よろしくお願いします」
息も絶え絶えという様子の織火が力を振り絞ってそれだけのことを言ってくれた。
「イリヤ」
「……」
そして最後に嫁のほうを振り返る。
イリヤはしょんぼりした様子だった。
「どうしてそんなに落ち込んでいるんだ、イリヤ?」
「私、ぜんぜんダメだった。途中からぜんぜん得点できなくなった……」
「そうだな」
俺の同意にイリヤは肩を震わせる。
「でも、イリヤが相手をひきつけたお陰で、他の奴らが得点できたんだ。イリヤのおかげでみんなが得点できたんだよ」
「……うん」
「大丈夫。イリヤもよくやったよ。ちゃんと貢献している」
「うん!」
「甘いわよ、兄さん」
そこに喜美の声が割り込んだ。
「ふざけないでよ。強い相手がマッチアップしていたから取れませんでした?言い訳になると思ってんの?」
「そ、それは……」
「兄さん甘やかすから私が言うけどね、蓮里は私とアンタで取るのよわかってんの?」
「……」
「わかってんのって聞いているのよ!」
「うん。わかってるよ」
「咲が絶好調じゃなかったら、私たち負けていたのよ?わかってんの?」
「そんなのわからないじゃん」
「いえ。絶対に負けていたわ。そりゃ私だって人のこと言えないわ。途中まで琴美に抜かれまくっていたしね。でもね、絶対にオフェンスは外していないわよ、私」
「喜美」
それはすこし酷だろう。
喜美とイリヤでは違うのだ。
「喜美、お前とイリヤじゃ違うだろ。相性だってある」
「ほら、イリヤ。聞いた?アンタ、私と同格とみなされていないわよ?最初から私より弱いって兄さんに言われているのよ?わかる?」
「……」
「喜美」
「兄さんは黙っていなさい。イリヤ、なんでアンタ打ちに行かなかったの?」
「それは……」
「黙り?いいわ。私が答えてあげる。どうせ、私が打って失敗したら、私のせいで負けたことになる。とか、お兄ちゃんに失敗したところを見られたくない。とか、そんなことばかり考えていたのでしょう?」
「……」
「はぁ……ふざけるんじゃないわよイリヤ!」
向こうの桐生院がビクッと飛び上がるような一喝だった。
「アンタがそれでどうするのよ!私たちが得点源なのよ!?どうしてそのアンタが打たないのよ!何のためにアンタはいるのよ!」
「私は……怖かった。外すのが、怖かった」
イリヤがボソボソと小さい声で言う。
その姿はとても情けないものであった。
「はぁ……なんでそんなに自分に自信がないのよ、アンタは。外したっていいじゃない。自分のせいで負けたっていいじゃない。それは、自分がその試合を動かしたってことなんだから。今日のアンタは何!?なんでいたの!?何してたの!?」
「喜美には……喜美にはわからないよ!」
イリヤが泣き叫ぶ。
向こうの顧問が大丈夫かと目で問うて来る。
少し時間をくださいと目で言う。
オーケーの返事が返ってきたので続けさせることにした。
「可愛くて、綺麗で、何でもできる人気者の喜美にはわからないよ!自分が主役で当然だと思っている喜美にはわからないよ!私の気持ちなんて!」
「わかるわけないじゃない。私はアンタじゃないんだから。私はね、どうしてアンタが打たなかったのかを聞いているのよ」
「わかんないんだよ……喜美には、イリヤの気持ちなんて。日陰者として生きてきたイリヤの気持ちなんてわからないんだよ!少しでも失敗したら、それをネタに苛められる。そんな生活だった!喜美は経験したことないでしょ?こんな生活……」
「したことないわね」
喜美がアッサリという。
それがどうしたという声色だ。
「失敗したくないんだよ……失敗したらまた苛められる……またあんな辛い思いをしなきゃいけなくなる……もういやなんだよ、喜美」
「へぇ。それで?」
「それでって……」
「まぁ大変だったわねぇ。えらいわねぇ、よく頑張ってきたわねぇ。はい。それで?」
「……」
「昔のことなんて聞いてないわ。今を聞いているのよ、私は」
「喜美……酷い」
「酷い?何言ってるの。至極当然じゃない。そんな回想話はいらないわ。関係ないもの。いつまでズルズル過去を引きずっているの?アンタなんでそんなに自分を追い詰めるのよ」
喜美の声色に優しさが戻る。
「自分に自信持ちなさい。アンタはね、沢木壮を惚れさせた女よ?アンタがそんなじゃ、兄さんが泣くわ」
「お兄ちゃん……」
イリヤがこちらに目を向ける。
「イリヤ。人なんだから、失敗することなんてしょっちゅうだ。自分のせいで失敗することなんていつものことじゃないか」
「お兄ちゃん……」
「イリヤ、どれだけ失敗しても、俺はイリヤが好きだ。でも、すぐに諦めて泣いちゃうイリヤはちょっと嫌いだ」
「嫌い……お兄ちゃん、私のこと」
「好きだよ、イリヤ。愛している」
手を握り締めささやく。
「イリヤ。思いっきりやれ。手加減なんかしないで、その後のことなんて気にしないで目一杯だ。大丈夫。後のことは俺に任しとけ。絶対俺が守ってやるから」
「……ホント?」
「ああ。本当だ」
「絶対だよ」
「約束するよ」
指きりをして、契約する。
「ま、いいわ。でも、次も同じことしたらどうなるかわかっているわね?」
「もう躊躇わないよ。私が蓮里を勝たせるし、負けさせるから」
「フフフ、いいわね。そうでなくちゃ」
2人の言葉に、他の3人がほっとした顔つきになる。
「もぅ、本当に!」
織火は疲れた顔で起こるという絶技を披露した。
その後頼まれて桐生院の子達と色々やった。
普通の練習もしたし、俺とのマッチアップもした。
「ほうら、グライダーですよー」
「「「「「おぉー!!」」」」」
ダンクを決めるたびに歓声が上がり楽しかった。
そんなわけで、かえるともう6時であった。
危惧していた瀧澤の襲撃もなかったからよかった。
俺はほっとして部屋に戻った。
sideイリヤ
「イリヤ、大丈夫ですか?」
「うん。もう大丈夫だよ」
「喜美、イリヤにだけ厳しい」
「最近ほんとに厳しくなったわよね」
今は温泉。
ゆったりと湯船に使っていると、練習試合のことが思い出された。
でも、ネガティブになることなく前向きに考えることができた。
「喜美はおねえちゃんみたい。イリヤのこと叱ってくれるし」
「あんなお姉ちゃんいやですね。私的には……悪友ですかね?」
「私的には憧れの人」
「私も悪友って感じかな?」
みんな喜美に様々な感情を持っているみたいだ。
でも、私のそれは特別だろう。
私を地獄から救ってくれて、生き方を教えてくれて、愛も教えてくれた師匠。
本当に、お姉ちゃんという感じだ。
「あれ?喜美はどこに行ったの?」
咲の言葉に私は答えられない。
正直、どこを出歩いているのかわからない。
喜美は1人でさっさと風呂に入ると、そのままどこかへ行ってしまった。
喜美のことだから夜の繁華街を歩いても無事であるが、それでも気になる。
「あとでお兄さんに聞いてみましょうか」
織火の言葉でその場は解決ということになった。
部屋に帰る途中に先生たちの部屋によってお兄ちゃんがいるか聞いたが、先生方によるとおにいちゃんもふらふらとどこかへ出かけてしまったという。
兄妹で夜の京都を観光しているのだろうか。
あの2人は本当に仲良しだから。
電話で連絡してみようということになり、部屋にもどることにした。
ドアの前に立ったとき、異変に気づいた。
「何か中から物音が聞こえる……声も」
誰だろうか、喜美が独り言を喋っているのだろうか。
ありえそうで困る。
3人も不思議そうな顔をしてドアに耳を当てた。
「兄さん……ダメ……こんなの……アンッ」
「喜美はここが気持ち良いんだろう?」
「アッ!いやっ……ン……ッ!」
「いつもの強気はどうしたんだ?喜美」
「だってぇ……兄さんが気持ちよすぎるんだもん……ひゃうっ!」
「ヘヘへ、この割れ目のところとか、擦られると気持ちいいだろ?」
「ハァ……ハァ……もう、兄さん。みんなが帰ってきちゃうわ。そんなに激しくしないで……」
「足腰立たないくらい気持ちよくしてやるよ。喜美」
「あぁ……もうダメ……ッ!!」
右を見る。
織火がナイフを持って笑顔でサムズアップ。
左を見る。
咲がパールのようなものを装備してハンドサインを出す。
突撃、突撃!
後ろの沙耶がグローブをはめる。
私は懐から短刀2本を取り出し構える。
そしてサインを出す。
突撃ーッ!
「兄妹でそんなことしちゃだめー!!」
「お兄さん!というか喜美!見損ないました!2人ならそんなマンガみたいな兄妹関係にはならないって信じていたのに!」
「壮、ヨスガるのはダメ」
「コーチを天国に送れると聞いて飛んできたわ」
扉を蹴破り、中に突撃する。
畳の上で喜美がビックリしたようにこちらを見る。
そして喜美の足を揉んでいる兄さんがいた。
指と指の間の割れ目を擦っている。
「……」
「……」
「「「「……」」」」」
私たちは非常に気まずい沈黙をすることになった。
side喜美
ビックリしたわ。
いつものように兄さんにマッサージしてもらっていたら、突然4人が突撃しかけてきたのだから。
「な、何?」
流石に動揺せざるを得ない。
「喜美……お兄ちゃんと変なことしてない?」
「変なこと?マッサージしてもらっていただけよ?」
「ああ。そうだぞ、イリヤ。いつもやっていることだ。でも喜美が恥ずかしがってな。お前らには見られたくなかったんだと」
兄さんがぺらぺら喋ってしまった。
まぁいいけど。
「というかあんたたち、マッサージじゃなかったらなんだと思ったの?」
「「「「え?えぇっと……」」」」」
私はそれから3時間くらい4人をからかうのだった。




