勝利の憂鬱
勝てばいい
そんな甘い
ものじゃない
配点(反省)
4Q
蓮里73ー72桐生院
side沢木
4Q開始時には1点差に詰め寄られている。
体力的にもいっぱいいっぱいだ。
「はぁ……はぁ……喜美!」
織火がかなり疲労している。
ガードとして1番よく動いていたから。
もう限界かもしれない。
俺は織火にサインを出す。
ガード交代、喜美に任せろ。
「はぁ……はぁ……」
いかん。
見えていない。
「イリヤ!」
俺はイリヤのほうに伝える。
イリヤは頷いて喜美に合図を出す。
喜美は頷いてドライブ。
低く這うようなドライブで突っ込む。
琴美を沙耶にぶつけて落とし、しかしセンターに進路を阻まれる。
喜美はそれでも無理矢理決めに行く。
飛び上がりボールを置いてこようとする。
いつもより遅いスピードで。
相手センターはその速度の落差に惑わされ、つい喜美の腕を叩いてしまう。
ファールだ。
4Qなのでもう2スローが貰える。
喜美が時間一杯でフリースロー2本を打っている間に、イリヤは織火の肩に手を置いて耳に何事か囁く。
織火ははっとした顔になり、何度か頷く。
そして1本目を決めた喜美に小声で伝え、沙耶と咲にはサインで伝える。
沙耶と咲は了解し、イリヤはこちらにOKサインを出す。
織火はこれで攻撃には参加しなくなる。
それで空いたぶんの穴は、喜美とイリヤで埋める。
2人ならしっかりガードをやってくれる。
桐生院の攻撃。
琴美はまだ元気だ。
なんだあの元気娘。
スタミナおかしいだろ。
「そか……頼むで恵梨!」
パスされたボールをガードに戻す。
目の前にはフラフラの織火。
恵梨は容赦なく抜きに行く。
当然読んでいたイリヤはヘルプに入り、ガードはイリヤのマッチアップマンにパスを出す。
ドリブルもせずにペイントエリアに侵入され、決められた。
喜美がサインを出す。
俺はサインをだされる前に、すでにタイムアウトを要求していた。
「すいません……私が……」
「ガードやっていたんだからしょうがない。ディフェンスに専念しよう」
「織火、攻撃は私が組み立てるわ。織火は高めにいてちょうだい」
「はい……」
「咲、まだ行ける?」
「相手が振り切れない。ボール貰えれば決めてみせるけど」
「チャンスがあったら咲に出すわ。沙耶、ここはアンタに任せるわ。強引に、力ずくで決めなさい」
「オッケー。任しといて」
「私はポイントガードに専念するわ。行けたら行くけど、琴美相手ではそれも厳しい。頼んだわよ」
「「「押忍!」」」
side琴美
なんや、強いやん、蓮里。
正直相手にならへんと思っとったけど、案外張り合うなぁ。
「面白いやん」
「フフフ、絶望に突き落としてあげるから。覚悟しなさい」
この相手も面白い。
喜美か、ええ選手や。
私と似ていて、私よりさらに天才や。
私もバスケ始めた頃から神童神童呼ばれてしんどうてな。
あ、今の笑うとこやで?
その私を上回るんやから大したもんや。
強者は強者を知るゆうてな。
やっぱわかるんや。
自分と同類の匂いってやつをな。
でも、喜美はまだ経験が足りないわ。
どう見ても、才能に振り回されとる。
才能がありすぎて、才能のほうが主導権を握る形になっとるわ。
喜美を見たのはコレが始めてだから具体的な対策までは練れないけど、時間さえくれれば攻略できそうやなぁ。
もう少し時間があれば、喜美を絶望に突き落とすこともできたんやけどな。
「沙耶!」
ポイントガードが交代したな。
喜美がポイントガードも兼任するようになって、元の奴は下がったんか。
ここがチャンスやな。
数的には5対4や。
ここで突き放したいわ。
沙耶がパワードリブル。
うぅん……佐藤も強いんやけど、正直あのセンターは規格外やな。
小学生どころか、中学生でも普通に通じるんやないの?
「オッケー!ナイス沙耶!」
「任しといて、私のところで決めてやるから!」
あ、佐藤がカチンと来たな。
佐藤がカモンカモンと手を振る。
しゃあないなぁ。
私はパスを選択する。
佐藤は受け取り、沙耶を押そうとする。
まったく動じない。
ゴメン無理。
そんな笑顔とともにボールが返って来た。
ダメならアッサリあきらめるなぁ、相変わらず。
ま、私が決めるからええねんけどな。
「……」
もはや最初の余裕は感じられない。
私のオフェンス、あんまし止められてないからなぁ。
かなりフラストレーションたまっとるんやろ。
私はまずその場でフェイクを入れる。
ほんの僅か、もはや意味が無いほどの一瞬のフェイク。
喜美はそれに反応してしまう。
その瞬間を狙い、私は走る。
動いている最中に再び僅かなステップフェイク。
またしても喜美は反応してしまう。
大きく体がぐらついて倒れそうになっている。
ま、こんなもんやな。
あとはあっさり……
あれ、ボールが手に戻ってこないなぁ。
その時、私はボールを取られていたことに気づいた。
直感で後ろを振り向く。
そこにはすでにハーフラインを超えて独走している喜美の姿があった。
あれ……何!?
side沢木
沢木は尻上がりに調子を上げていく。
沢木家全員に当てはまる法則だ。
当然、喜美にも適用される。
最初こそ琴美のオフェンスを止めることができなかったが、今は止められた。
喜美の調子が上がってきている。
今まで俺が見たことも無いような領域に到達していた。
琴美の巧みなフェイクで体幹を揺らされた喜美は、しかしそこから一瞬で復帰した。
琴美が逃げていく方向に1歩で到達し、低く這うように、もはや飛ぶように1歩を行き、ボールを奪う。
あとは誰にも邪魔されずに一直線だ。
ここに来て、ようやく喜美が琴美を超えた。
この時間でこの状況。
あまり油断はできないが、まぁ。
「勝ったな」
side喜美
今、私は本気を出しているわ。
そう思えた。
今までやってきた中でもっともよいプレーだった。
4Qはほとんど私が決めた。
兄さんとやっているときでもこれほどではない。
これが、私の本気なのからしらね……
最初琴美を止められなかったときは結構ショックだった。
というか今でもショックだ。
この私があんな真正面からやりあって、負け続けるなんて……
最後に私が上回ったとはいえ、ショックだった。
帰ったらもっと特訓ね。
兄さんの激しい攻めにも耐えられるようにしないと……!!
フフフ!エロいわ!
sideイリヤ
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
試合が終わり、私たちは礼をする。
蓮里104-100桐生院
勝利することはできた。
しかし、不安の残る試合だ。
この試合、咲が絶好調だった。
結局咲は3pだけで12本、普通のシュートもあわせれば15本を決めている。
さらに喜美が今までに無いほどの絶好調で4Qは驚異的なオフェンス力を見せ付けた。
それなのに、この点差だ。
沙耶は頑張っていた。
要所要所でインサイドで攻めて、桐生院のディフェンスを狭めた。
だからこそ咲があれだけ打つことができたのだ。
これほどまでに追われたのは、私と織火のせいだった。
織火は単純にスタミナ切れ。
私は実力で敗北した。
このチームの得点源は喜美と私だ。
2人で3分の2くらいは決めるのが普通だ。
それなのに、私はほとんど決めることができなかった。
純粋に実力で負けた……
一点特化をしていない私は、こういう普通に強い相手には弱いのだ。
もらっても、タイトなディフェンスに遭ってすぐに手放してしまう。
積極性がない。
他の誰かが決めてくれると思ってしまっている。
私は自分でそう評した。
しっかりしろイリヤッ!
お前が決めないでどうするんだ!
自分をそう鼓舞するが、肝心のところでは全て喜美にパスだ。
自分で自分がいやになる。
なんでだろう。
なんでこんなに私は情けないんだろう。
きっと心のどこかで思っているのだ。
自分が打って外したらどうなるんだろう。
お兄ちゃんになんて思われるんだろう。
嫌われたくないな。
みんなに怒られたくないな。
そんなことばかり頭をめぐる。
あぁ、もう最悪。
こんな私……嫌われちゃう。
そんなのいやだ。
嫌われたくない……
お兄ちゃんに稽古をつけてもらおうそうだそれがいい!
朝早くお兄ちゃんの家に行って、一緒に練習をしよう。
そしてそのままお兄ちゃんの家で一緒に朝ごはんを食べよう。
そして洗い物の時にお義母様とお喋りしよう!
こんなこと考えているからダメなんだろうな……
明日で修学旅行編終了させますよ
できればね、できれば!
さて、この後いよいよネタがない期間に突入していくわけですよ。
何か読みたい話、エピソード、ネタがあったら感想で教えてください。
お願いします。(トリプルアクセル土下座)




