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政界の鬼畜者

養い

育て

慈しむ者

配点(親子)

sideイリヤ


「あれ?」


食事を終えて、部屋に戻って気づく。


「咲は?」

「そういえば、いないわね」


さっきまで一緒にいたはずの咲がいなくなっていた。


「コーチもいないわ」

「お兄さんはフラフラ出かけそうだから納得ですけど、咲はどうしたんでしょう?」


お兄ちゃんもいないが、織火の言う通りどこかに出掛けていそうだ。


「フフフ、2人でどこか行っているんじゃない?」


喜美の言葉に身を固くする。


「そ、そんなわけないじゃん。お兄ちゃんが私に黙って他の女と出かけるなんて」

「あら?どうしてかしら?今日の咲は気合い入っていたじゃない。あんな可愛い格好で誘われて、応じない男はいないわよ?」


喜美の言葉になるほど、と思うところもあった。


悪いが、咲が理由もなしにお洒落するとは思えない。


まさか……お兄ちゃんを誘うため?


ハハハ……まさかね。


私と婚約しているということも知っているのだし、まさか他人の男に手を出すとは思えない。


略奪とか、そんな言葉は考えないでいい。


「まぁぶっちゃけ咲のことだから、コンビニに何か買いに行ってマンガ立ち読みしているとかでしょう」


喜美も笑ってさっきの自説を打ち消した。


「そ、そうだよね。咲、夢中になると時間が経つのを忘れちゃうから……」

「じゃあ9時ぐらいになったら迎えに行きますか」


織火の言葉にみんな賛同して、その場は収まった。




……まさかね。





side沢木


「……ワンモアプリーズ」

「付き合って、壮」

「……もう少し詳しく頼む」


俺は途方に暮れていた。


まさかの衝撃告白、どうしろと言うのだ。


「せっかくこんな格好してきたのに……」


咲が俯いて呟く。


「喜美が『フフフ、アンタみたいな無表情キャラが可愛い格好して頼むと大抵の男は堕ちるわね』って言ってたのに」

「あのやろう……」


いてもいなくても騒ぎを起こす奴だ。


「で、俺にどうしてほしいんだ?」

「私が今から行く場所に一緒に来て」


なんだ、そんなことか。


清水寺の夜の様子を見たいとか、そこらへんだろう。


そんなことに俺を1日自由にする権利を使うとか、咲も可愛い奴だ。


「オッケーオッケー。いいぜ、保護者としてついて行ってやる」


俺は背丈のおかげで大人にしか思われない。


俺と咲なら、親子のように思われるだろう。


「ありがとう」


咲が微笑んでくれる。






「こっち」

「こっち?こっちに寺あったっけ?」


しかし咲に誘われた場所は住宅街のほうであった。


お寺があまりないと思うのだが……


「到着」

「おう、到着……ってどこだよ!」


咲が止まったのは、ある豪邸の前だった。


この京都において、これだけの敷地を有する家は珍しい。


デカイ屋敷だということが門の前からでもわかる。


まさか咲、ここを見たかったのか?


……咲ならありえる。


「ここか?」

「ここ」


念のために確認するが、ここで合っているらしい。


そして止める暇もなく、インターホンを押した。


ピーンポーン


「ちょっと咲ううぅ!?何やってるのお前!?」


微笑んで親指を上げる咲。


いやいや、可愛いけどちょっと待てよお前!


「はい、どちら様でしょう?」


インターホンからナイスミドルの声が聞こえてきた。


「こっちの台詞だ!」

「は?」


しまった!


つい勢いで応答してしまった。


どうしようかとテンパっていたら、咲が俺の前に割り込んでインターホンの前に出る。


「じいや、私」


いつも通りの口調でそう言った。


「……お嬢様?」

「イエス」

「……な、何故こちらに!?」

「とりあえず入れて」

「はっ!申し訳ございません」


インターホンが切れた。


「……咲?」

「まだ質問しないで」

「あぁ」


咲の言葉に従うしかない。


しかし俺は表札を見た時点でだいたい察した。




「お嬢様!」

「ただいま、じいや。久しぶり」

「えぇ、お久しぶりでございます。以前より麗しくなられて……」

「じいや、とりあえず入れて?」


じいやの話が長くなりそうだったので咲が遮った。


「これは失礼を」


じいやは門を開けて俺達を入れてくれる。


「こちらの方は?」

「私の友達」

「畏まりました。それで、お嬢様……」

「アイツはいる?」

「ええ……お嬢様。どうして帰って来たのですか……?」

「いろいろあるんだよ、じいや。壮、入ろ?」

「へいへい」


俺は咲に手を引かれて屋敷へと入っていく……





「「「「「お帰りなさいませ、お嬢様」」」」」


玄関というか、なんかだだっ広い空間で靴を脱いで上がると和服の女の子たちの歓迎を受けた。


すげぇ。


今時こんな挨拶ってあるんだ。


「ただいま、みんな。久しぶり」


それにまったく動じずに答える咲。


喜美とは違う意味での唯我独尊のおかげだろうか?


「お久しぶりでございます。お嬢様」


和服軍団の筆頭格みたいな人が進み出る。


そして咲に顔を近づけると小声で囁く。


「お嬢様、今なら引き返せます。ご主人様に会うべきではありません」


切羽詰まった言い方だ。


「ごめん、もう来ちゃった」

「お嬢様……」

「切り札はあるから」


やめてくれないかな、そこで俺を見るのは!


もうわかった。


理解した。


表札見た時点でほとんど理解した。


瀧澤


そう書いてあった。


瀧澤咲、まさかあの瀧澤家のお嬢様とは思わなかった。




瀧澤家


政の雄である一族。


代々政治家を輩出している名門である。


総理大臣はさすがに輩出していないが、大臣クラスなら何人も輩出している。


日本において最も有名な政治家一族。


とにかく議席を確保するというスタイルを貫いており、ほとんど議席を落としたことはない。


しかしなりふりかまわず議席を狙いに行くため、国民に甘い政策を打ち出すことが多く、国が傾く原因を作っているのもこの一族だと言われている。


また、後ろ暗い噂も絶えない一族である。


武闘派である沢木家とは犬猿の仲と言ってもいいレベルで仲が悪い。


俺も父さんから注意するべき一族として言われていた。




咲に連れられて屋敷を進みながら、そこまでを思い出した。


しかし、犬猿の仲の相手である沢木家の長男を連れてきて何をするつもりだ?


咲はじいやの後についてズンズン屋敷を進んでいく。


その背中が、いつもではありえないくらいに強張っている。


「咲?」


振り向いた表情は、無表情を通り越して能面。


ついさっきまで微笑んでいた少女と同一人物とは思えない。


「……」


ぎゅっと手を握られる。


「ま、落ち着け。俺がいるんだからさ」

「うん。頼りにしてる」


咲はニコリともしなかったが、それだけは言ってくれた。


では、頼りにされたぶん頑張りましょうか。





「こちらでお待ちです」


じいやが案内してくれたのは、奥の奥にある部屋だった。


これで襖を開ければいるのだろう。


「ありがと、じいや」

「……お嬢様をお願いします」

「任せとけ」


じいやに頼まれて俺は襖を開け放つ。




開けた先に、いた。


思っていた通りの人物だ。


瀧澤家現当主。


瀧澤豪氏


非常に胸糞悪い相手である。


「あぁ?来たか」


瀧澤がまず咲を見る。


俺のほうには目も向けない。


「……来たよ、クソ親父」


咲が非常にストレートに罵倒した。


「ハン。瀧澤名乗らせているだけでもありがたいと思えよ」

「レイプ魔が何を言う」


瀧澤豪氏は、女癖の悪さで有名だ。


それも犯罪スレスレな方向で有名だ。


男なら一度は夢見るあんなことやこんなことを現実でやる男だ。


「お母様を無理やり孕ませて、そのまま捨てた男が親父なんて胸糞悪い」

「調子に乗るなよ。お前らの養育費を払っているのは俺だぜ?」

「あんな雀の涙で何をえらそうに」

「だが、ないと生きていけないよな?」


ほとんど俺を無視して繰り広げられる親子の会話。


正直、これが親子の会話とは思えない。


「で、何?」


咲がため息をついて用件を尋ねる。


なるほど、養育費を盾に、来るように言われたのか。


咲は優しい子だから、断れなかったに違いない。


「お前に縁談が来ている」

「断る」

「そんな権利はねぇよ。かなりいいところだ。お前にとっても悪い話じゃねえぜ?」

「断る」


コイツ、本当に咲の父親か?


何がどうなったらこんなことが言えるんだ?


実の娘にだぞ?


「断れば、養育費は払わない。裁判で俺に勝てるわけも無い。意味わかるな?」

「……」

「小学生に求婚とかとんだ変態だが、権力はある奴だ。つながりを持って損ではない。まったく、お前が生まれたときには何の役に立つのかと思ったがな。どんなものでも役立つらしい」

「地獄に落ちろ、クソ親父」

「で、どうするんだ?」


このままイエスと言わせるつもりなのだろう。


しかし、咲はそんな弱い子じゃない。


こうなったときのために、切り札を準備できる子だ。


「……壮」


咲が俺のほうを見上げる。


俺はため息をついて咲をかばうように前に出る。


「瀧澤」

「……沢木のクソ猿か」

「レイパーよりましな称号だ」


咲が俺のシャツを掴む。


その手に安心しろ、というように触れる。


手は震えていた。


「で?沢木家が何だ?ウチのことについて口出さないでもらおうか」

「残念だが、ウチの問題でもある」


頭の中で理論構築。


咲がギリギリまで教えてくれなかったせいで、まったく頭がついてきていない。


その場その場で、臨機応変に適当言うしかない。


「俺の女に手を出すなよ、レイパー」

「アァ!?どういうことだテメェ」


俺は頭の中でギリギリまで思考を行う。


「咲の保護者は母親だ。お前じゃない。結婚もしていないんだろう?」

「だが、養育費を払っているのは俺だ。俺が養っているんだぜ?」

「そんな汚い金はいらないよ。もう払わなくて結構だ」


結局、他人に頼ることにした。


父さん、母さん。


あと2人くらい養えるよね?


「沢木家が咲を養う。お前はいらないよ、レイパー」

「クソ猿が……!!」


よく考えればわかるが、こいつが盾にできるのは金だけだ。


実際、親権は持っていないのだろう。


コイツが真面目に結婚しているわけがない。


なら、その金をこっちが払えばいいだけだ。


あと2人分の養育費。


金持ちの部類に入る沢木家なら大丈夫。


父さん、母さん、喜美に相談せずにその場で決めたが、大丈夫だろう。


むしろこうしなかったら殺される。


「帰るぞ、咲。もうここには用はない。イカ臭くて困る」

「匂いだけで妊娠しそう」


俺は咲の手を取って瀧澤に背を向ける。


「クソ猿……沢木……覚えてろよ」

「見事な捨て台詞をありがとう」

「二度と顔をあわせないことを願ってる、クソ親父。さっさとあの世に行け」


咲が最後に見事な罵倒を放って、俺たちは瀧澤家から脱出した。





「ごめんなさい」

「まったく……お前なぁ……」


ホテル前まで来て説教タイム。


「色々言いたいことはあるけれど、とりあえず無事でよかった」

「うん」

「でもな、先に何か言えよ!アドリブでやらせるなよ!?」


今回は、相手の武器が金だけ、というのが勝因だった。


咲だけだから、金で潰せると思ったのだろう。


そこで俺というカードを切った咲は中々のものだが。


「俺を利用したな?咲ッ!」

「……ごめんなさい」


しょんぼりとうなだれる咲。


それから話し始めたことによると、こういうことらしかった。




夏休み中、電話があったそうだ。


父親からの電話で、会って話したいということだったそうだ。


当然向こうが来るわけも無く、咲が京都に行かなければいけなかった。


父親がどんな話をしたいのかはわからないが、自分にとって間違いなく不利な話である。


だから咲は考えた。


俺を連れて行こうと。


何らかの手段で以って、とりあえず俺を家まで連れて行く。


そして話し合いの席に同伴させる。


自分にとって不利な話であれば、俺が動かないわけがない。


しかもラッキーなことに俺は沢木の長男だ。


自分の父親とは犬猿の仲の相手の息子。


父親の弱点も知り尽くしているに違いない。


幼い思考でそこまで考え抜いた咲は、先生に頼み込んで俺を修学旅行につれてこさせた。


喜美の暴走を止めたい、という理由で。


そうして見事に成功した咲は、ビーチフラッグで得た権利を用いて俺を連れて行き、先のとおりになった。




「こんなに大事な話、先に相談してくれないとダメだろ?」

「……言いづらかった。私が、あんな男の娘なんて……」


その点は非常に共感できたので、俺はそれ以上追及することができなかった。


「でもなぁ、お前……」


愚痴の一つでも言いたくなる。


なんと言っても、家族を巻き込んでしまった。


安請け合いしたが、実際養うの俺じゃないし。


父さんと母さんに迷惑をかけてしまった。


もっとスマートにやれたかもしれないのに。


「……ごめんなさい」


咲は本当に申し訳なさそうに謝る。


……これ以上怒ってもしょうがない。


咲も考えてやったことなのだ。


「とにかく、無事でよかった。咲」

「うん」

「今日はもう寝よう。な?」

「うん」

「そうだ、コンビニで爽でも買うか?」

「うん。あ、壮」

「うん?」

「このこと、絶対に他の人に話さないで。喜美にも、絶対に」

「ああ、わかってるよ」

「……ホント?」

「本当だとも。約束するよ」

「……嘘ついたら責任とってね?」

「責任取るよ、大丈夫。大丈夫だよ、咲」


俺は咲の頭を撫でて落ち着かせる。


「えへへ……ありがとう、壮」


咲のはにかんだ笑顔を見れただけで、いいとしよう。




sideイリヤ


今、目の前にいるものが信じられなかった。


部屋で喜美が大暴れして、沙耶と殴りあいになったあたりで私はホテルの外に出てきた。


織火には悪いけど、風を浴びたかった。


しかしそこで、ありえないものを見た。


お兄ちゃんと咲が抱き合っている。


お兄ちゃんは咲の頭を撫でて、咲は普段なら絶対に見せないような甘えた表情をしている。


「えへへ……ありがとう、壮」


絶対に聞けないような声色だ。


咲がこんなに甘えきった声を出すのを、初めて聞いた。


こ……この……この泥棒猫!

咲のストーリーを作ろうとしたらこうなりました。


えぇい!花華を読んだのがいけないんだ!


男なら一度は夢見るあんなことやこんなこと。


皆さんはどんなことでしょうか?

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