砂漠夜の騒ぎ人
こどもの
つくりかた
配点 (コウノトリ)
sideイリヤ
「ほぅ、そんなことがなぁ」
お義父様が感想を漏らす。
自分の息子と娘が、誰かを救ったというのは、親からすれば自慢になるのだろうか?
それとも、当然とするのだろうか?
「沢木の人間なら当然だな」
だが、
「よくやったな。さすが俺の娘と息子だ」
お義父様は、2人のことが大好きなのだろう。
この人にならば、言ってもいいかもしれない。
何せ夫の親であり、そして大人である。
お兄ちゃんはもちろん、喜美に言うのもためらっていた。
子供だけで解決できることではないだろうと。
でも、お義父様なら大丈夫かもしれない。
「えっと、それでですね。お義父様」
「うん?」
どうしよう、と言葉を選ぶ。
どうにかして婉曲的に言わなければ。
「私、ひょっとしたら女としての幸せを得たというか……」
「う、うん?恋ができたってことか?ハハハ、小学6年生でそれだけの恋ができたのはよかったかもしれないなぁ、うん」
「え、えっと、それもなんですけど」
何と言えばいいのだろうか。
「も、もっと即物的にと言いますか」
「うん?」
「こ、こう……肉体的な幸せというか……」
「お、おう……」
「生命の神秘というか……」
「……」
「新しい命を授かったというか……」
「ほぉ……あの野郎……」
「子供が、できたかもしれません」
「喜美ッ!隣にいる性犯罪者を射殺しろッ!」
『了解!』
『え?ちょっと喜美何!?どうした!?』
『あの世に行け!性犯罪者!』
『言い掛かりだあああ!!』
私はお義父様の持つトランシーバーから漏れ出た声にショックを受けた。
「そ……そんな……お兄ちゃん、知らんぷりするの……?」
『何が!?そんな射殺されるようなことしたっけ俺!?』「ひどい!お、お兄ちゃんはイリヤが子供を孕んだら見捨てる気なんだ!」
『父さん!状況をプリーズ!』
「死ね、性犯罪者」
『あっれ!?会話のドッジボールになってね?キャッチボールしようぜ父さん!』
『そのまま的になってなさい、兄さん』
状況が酷いことになっていく。
だけど私はそれ以上のショックを受けていた。
お兄ちゃん……私が身篭ったら、見捨てるつもりだったんだ……!
イリヤを捨てて、別の女と一緒になるつもりなんだ……!
「お兄ちゃんの馬鹿!」
『えぇ!?ちょっと待て状況を整理しよう!俺はイリヤにナニしてないよ!?誓うって!』
「ひ……ひどい!イリヤ、あれが初めてだったのに!」
『兄さん……本格的に殺すわ。覚悟しなさい』
『ちょ!喜美!シャレになってねぇ!待て!狙うな!狙撃するなあああ!!』
向こうは喜美がだいぶ暴れているようだ。
side喜美
思うことは1つ。
殺すッ!
確実に!絶対に!
女を泣かせる男は殺すッ!
この近距離、スコープを覗く必要すらない。
銃口をターゲットに向けて引き金を引くだけだ。
しかし……
「危ねぇ!マジで撃つなマジで!」
「痴漢は死刑!おいたは消滅刑だあああ!!」
「喜美!いつもの余裕はどこに行った!?」
やかましい。
もう私の兄さんはいない。
いるのは性犯罪者だけだ。
トランシーバーから聞こえた声。
イリヤは、泣いていた!
「よくも私の親友を……!子持ちにしてくれたわね!」
「誤解だ喜美!俺はそんなムフフなことはしていない!」
「じゃっかあしい!責任逃れか最低な男ね!」
吠えて、狙う。
クソッ!
至近距離でブラックキングは最悪だ。
超長距離狙撃用にカスタムされたブラックキングではリロードが遅すぎる。
ならば、
「首を掻き切って……いえ、アソコを切り落とすわ!」
「やめろおおお!!」
sideイリヤ
「うっ……うぅ……」
「あー、その、なんだ。すぐに生首来るから安心しろ」
「ひどい……裏切られました……あんなに恥ずかしかったのに……」
私は打ちのめされていた。
嗚呼、私はこの子を1人で育てなければいけないのだ。
実家に帰って、皆に後ろ指指されて生きていかねばならないのだ。
「ゴメンね……パパ、いなくなっちゃったね?」
お腹の中にいるかもしれない子供に言う。
こんな過酷な運命を押し付けて……嗚呼。
「でも壮がなぁ。男としての本能は抑え切れなかったか。まぁその程度の奴はうちにはいらない」
お義父様も頷いている。
さっきからトランシーバーの向こうで喜美がエキサイティングしている。
『引っこ抜くわ!ええ!どれくらい痛いのかしらね?』
『想像できねぇよ!』
『握り潰して、いえ。2つあるのだから……』
『おい!会話のバッティング練習になってるぞ!』
私はお腹をさすりながら思う。
「みんなの前だったのに……覚えてないのかな」
「え?」
眼前、お義父様が動きを止めた。
「な、なんて?」
「は、恥ずかしかったのに……みんなの前だったから!」
「……いつ?」
「夏祭りの時に」
お義父様が信じられないという表情をする。
「なぁ。イリヤ。何をしたんだ?」
私はその言葉に息が止まりそうになる。
そして、
「キャー!セクハラー!火事よー!」
悲鳴を上げた。
「おぉい!沢木大将!女の子にセクハラとか責任問題ですよ!俺と変わりましょう!」
「えぇい邪魔だ冬樹!ここは俺が!」
「イリヤ様が泣いているぞ!写真撮れ写真!」
この国の防衛は大丈夫だろうか?
「畜生!さすがは我等が大将だ!幼女に羞恥プレイとは!」
「奥様への報告は自分がやっておきます!大将は名誉の殉職を遂げてください!さぁ、続きを!」
お義父様が背中に背負っていたアサルトライフルを撃ちまくって黙らせた。
そして一息つくと、私を見る。
「イリヤ。言ってくれ、何をした?」
side喜美
えぇい!
ウチの男にはロクなのがいないわね!
父さんも後で狙撃しないと!
とりあえず目の前の男を切る。
腰に下げたナイフを投擲。
手首のスナップで加速させる。
「っと!?」
だが相手は兄さん。
わずかな体の捻りだけでよけられる。
でも、
「足は止めたッ!」
一気に踏み込む。
額と額がぶつかるのではという超接近戦。
お互いに間合いが近いので、タメをつくっての大技はできない。
肘や拳を使った瞬発的な攻撃。
蹴り蹴り蹴り突き蹴り殴り頭突き蹴り
間髪入れずの連打の応酬。
と、兄さんが避け切れず私の手首を掴んだ。
取った!
私はそこを基点にして相手のバランスを崩す。
思い切りぶん投げた。
兄さんが飛んでいる間にナイフを抜く。
そして落ちて来る兄さんに向かって駆け出す。
人は空を飛べない。
いくら兄さんでも空中で攻撃を避けることはできない。
チェックメイト!
sideイリヤ
は、恥ずかしい……!!
まさか息子の嫁に羞恥プレイ要求ですか!
「え、えぇっと……」
「「「「うんうん!」」」」
周りから突然出現したこの自衛隊員はどうすればいいのでしょうか。
「その、ですね……夏祭りの時に、みんなが横を向いている隙に……」
「「「「……うん?」」」」
「ま、またアグレッシブだな……」
「そ、その……チョンって!」
「「「「「チョン……?」」」」」
「お、お兄ちゃんと唇を合わせたんです!」
お義父様が信じられないという顔で見る。
そうですよね!信じられないですよね!
だってキスだよキス!?
キスしたら子供できるってお父様に習ったもん!
そしたらお兄ちゃんにキスされちゃって……
子供が出来た!って思ったのに……嬉しかったのに……
「喜美!中止!殺すの中止!ストーーーーップ!!」
side喜美
ナイフは兄さんの首を掠るのみだった。
「畜生!マジで殺しに来やがった!」
兄さんが地面にたたき付けられて叫ぶ。
「ちょっと父さん、どういうこと?」
『えっとな、喜美……キスだ』
「は?」
『だから、キスだった。口づけ』
「……え?セクロースじゃなくて?」
『どうやら、キスで子供を孕むと勘違いしていたらしい』
「……父さん。この振り上げた腕は、どこに下ろせばいいのかしら?」
『そこのキス男にしたらどうだ?』
「そうね」
「え?おい、ちょ!喜美、待とう。ステイステイ。俺は兄だ。きみの兄貴だ。つまり年功的に考えて俺はお前より偉いOK?OKOK。そうだそれでいい。腕を下ろして足を上げるなああああああああ!!」
合宿初日。
私と織火でイリヤに性教育をするという衝撃的な幕切れとなるのだった。
書いていてもっとも面白い話になりました。
自分、中一まで本気でキスで子供できると信じていました。
それが今じゃコレですよハッハッハ。。
ドラマとか見て俳優さん女優さんスゲェって思ってましたから。
合宿編もそろそろ終わりですね。
その次は修学旅行編となります。
バスケをしていないって?
フフフ、それはどうかな?




