頂上の展望者
身軽になったと
そう思って
私たちはまた
抱えに行く
配点(終わりと始まり)
side沢木
相手のシュートをブロックしようと飛ぶ。
そこに相手が体をぶつけ、さらにシュートを決めた。
4点プレーを与えてしまう。
いいねぇ!
こうでなくては!
ラストダンスだ。
最後まで楽しみたい。
俺は先輩からボールをもらい、上がる。
そしてサインを出す。
そして部長にパスを出す。
部長はボールを弾くようにしてこちらに戻す。
俺は植松に戻して、井上先輩をスクリーンに使ってフリーに。
植松からのパスが繋がる。
相手が必死で止めようと突っ込んで来る。
速いな。
だから俺は片足でジャンプシュートを放った。
両足で飛ぶよりもワンテンポ速いソレは、相手のブロックをかわした。
ジャンプシュートが綺麗に沈む。
side喜美
そして、歓喜の瞬間が訪れる。
残り30秒で10点差。
相手も諦めず戦っているが、もう勝敗は動かない。
観客が全員席から立ち上がる。
相手がシュートを放ち、外れた。
もうファールゲームをしても勝てない。
それでも相手は、せめて最後は決めさせまいとディフェンスを続ける。
いいわね、諦めない男は好きよ。
そして兄さんが、逃げるわけがない。
ラストオフェンスを決めようとする。
全員が展開する。
残り7秒で動く。
兄さんがドライブで切り込む。
右腕で相手を押し退けて、体を当てながら切り込む。
そして飛ぶ、が、相手も飛んだ。
ダブルクラッチでかわすのかしら?
いいえ、外にパスアウト。
それを部長が取った。
そして中に走り込んだ井上に高めのパスを放つ。
残り1秒。
井上がそれを飛びながらキャッチし、そのままゴールに押し込んだ。
手からボールが離れた瞬間、ブザーが鳴った。
「「「「「っしゃああああああ!!」」」」」
決まった。
勝った!
兄さんたちが勝った!!
side沢木
ラストオフェンスが最高の形で決まり、試合が終了した。
口から咆哮がほとばしる。
「ああああああぁぁ!!」
「壮ッ!勝ったぞ!俺達の優勝だ!」
「最高っす!!」
「ええ、勝った……俺達が勝った……」
俺は観客席をグルリと見回す。
喜美がこちらに拳を突き出してニヤリと笑っている。
俺はそれに手を上げて応えた。
「お兄ちゃん最高ーッ!!」
イリヤの叫びが聞こえて、俺はようやく優勝したことを実感した。
「勝った……勝ったぞおおおおお!!!」
相手との挨拶を済ませると、4人が飛びついてきた。
全員で抱き合った。
ベンチからみんなが飛び出してきて、観客席からみんなが飛び降りてきて、全員で抱き合った。
「勝った!俺たちが勝ったぞ!」
「俺達が日本一だ!」
「っしゃあああやったぜええええ!」
「よくやった!みんなよくやった!」
「お前ら!」
と、そんな大騒ぎの中でも部長が声を通す。
「整列!」
「「「「「押忍ッ!」」」」」
一瞬で横1列に並んだ。
「気をつけッ!礼!」
「「「「「応援、ありがとうございました!!」」」」」
全員が部長の意図を酌んで、声を出した。
「姐さんに!」
という言葉で全員が喜美に向き直る。
「え?私?」
「気をつけ!礼!」
「「「「「お願いします!」」」」」
まさかのスピーチを求めた。
しかも全員声が揃っていた。
「フフフ、よくやったわ、貴方達」
それにアドリブで答える喜美は流石だ。
「アンタ達の努力の結果よ」
しかもそれっぽいこと言ってるし。
「姐さん……」
植松泣いてるし。
「井上、部長。アンタ達、よくやったわ。それに、他の3年もね?このインターハイの間、アンタ達の頑張りは見ていたわ」
「「「「「押忍ッ!」」」」」
「ベンチの人は常に試合に出れるように準備していた。観客席の人は必死で応援していた。私は見ていたわ」
「「「「「……押忍ッ!」」」」」
「そんなアンタ達にこの言葉を送ってあげるわ……お疲れ様、よくやったわ」
「「「「「押忍ッ!」」」」」
全員が泣いた。
そうだ。喜美はずっと見ていたのだ。
俺だけではなく、みんなを。
喜美にしか言えない言葉だった。
「胸張りなさい!アンタ達は日本一なのよ!」
「「「「「押忍ッ!姐さん!ありがとうございました!」」」」」
全員が喜美に深々と頭を下げる。
俺も頭を下げた。
side健二
決勝はテレビ中継がされていたので、リアルタイムで見ることができた。
残り1分で勝敗が決した時の蓮里の喜びようは半端なものではなかった。
狂ったのかと思うほどの喜びだった。
「よっしゃどうですか見ましたか!?これが私たちのお兄さんですよひゃっほう!」
「さすがコーチ!やったわよ!」
「うん。さすが、強いね」
というか織火の狂いようが半端なものではなかった。
「さすがお兄さんですよええ!もうさすがとしか言いようがないですね!」
まぁそれももっともか。
俺たちだってすごい喜びようだった。
全員で大騒ぎして、近所からうるせぇ!といわれて、テレビを見せたら一緒に盛り上がった。
今テレビの中では授賞式が行われている。
優勝旗、トロフィーを部長と井上がもらう。
それを掲げると、浦話の皆、だけでなく体育館の皆が拍手を送り、喜びの声を上げた。
そしてMVPの受賞。
当然、あの男以外に受賞する奴はいない。
「高校生バスケット最強は……沢木壮!君だ!」
壮が踊りながら盾をもらっている。
そしてインタビューを受けていた。
「1年生にしてMVPという快挙を成し遂げました!どんな気分ですか!?」
「MVPをもらったことはすごく嬉しいんですけど、俺は先輩たちと勝ち取ったこっちのトロフィーのほうが何倍も価値がありますね!」
思ったより普通のことを言っている。
「なるほど。仲間たちで勝ち取った勝利のほうが価値は大きいと」
「当然です。それに、俺の得点もみんながいなければ取れなかった。優勝したのも、MVPを取ったのもみんなのおかげです!」
「すばらしいですね!それでは、優勝おめでとうございます!」
「ありがとうございます!イリヤ!帰ったらけっ」
そこでインタビューは切れた。
切れてよかったな、壮。
さすがに電波に乗ると逮捕されるだろ。
「勝っちゃいましたね、壮さん」
知美がポツリと言う。
「ああ、そうだな。でも、近くにいるのはありがたいことさ」
「そうですか?」
「そうだよ。だって、アイツを倒せば日本一なんだからさ」
倒すべき目標は、大きければ大きいほどいい。
「えー、それでは優勝した浦話のコーチ、沢木喜美さんにお話をお伺いします」
「フフフ、よろしく」
「「「「「なんでだよっ!」」」」」
喜美が当然のように画面に映った瞬間、全員で突っ込んだ。
side沢木
俺たちは民宿に帰り、最後のミーティングを開いた。
「「「「「……」」」」」
「おーい、悲しそうな顔をするなお前ら。優勝したんだぞ?」
そう。これで先輩たちは引退なのだ。
悲しいに決まっている。
3年の先輩たちが挨拶をしていく。
一緒にいたのは3ヶ月程度だ。
たったそれだけなのかと驚く。
もっと一緒にいたかった。
もっと一緒にバスケがしたかった。
「おう、顔上げろ、おまえら」
そして井上先輩の番になる。
「俺はな、この高校に入って、バスケ部入って、よかった」
そんな言葉から始まる。
「1年から俺は試合に出させてもらった。だが、勝てたことはあまりなかった」
それは俺が入る前の話。
3年生にだけわかる話だ。
「正直悔しかったし、苛立ちもあった。なんで勝てねぇんだって怒ったこともある」
人ならば当然だ。
「でも、腐ったことはない。1回もだ。これは自信を持っていえる。俺は1回も、バスケに対して腐ったことがない」
井上先輩は真剣に話す。
俺たちも顔を上げて、しっかりと先輩の顔を見る。
「勝てない時もある。仲間がミスする時もある。自分のせいで試合に負けることなんか何回もある」
それは、底辺を味わったからこそ言える言葉だ。
「だがな、バスケを好きでいろ。絶対に腐るな。努力を怠るな」
1つ1つの言葉に力が篭っている。
「バスケの神様はな、どうしてかよく見ている。必死で努力した奴に、褒美をくれる」
俺とおなじ思想だ。
「周りに天才がいて、萎えるかもしれない。でもな、教えてやるよ」
いいか、
「才能よりも、努力よりも、もっと大切なものがある」
それはな、
「いいからやれ、お前ら」
とりあえずやれ。
「無駄なものなんて何一つとしてない。お前ら、思ったことは全てやれ。いいな?」
「「「「「押忍ッ」」」」」
「よし……お前らみたいな後輩を持てて、俺は最高だ!」
「「「「「……押忍!」」」」」
全員泣きながらも、絶対に顔を下げなかった。
「よし。じゃあ俺は軽く行こうか」
と、部長がアッサリ切り出す。
「キャプテンとして、部長として、お前らを率いてきたわけだが。まぁキツイね。面倒なことばっかだった」
部長はとても面倒だからな。
「壮が来るまでは俺が練習考えていたからさ。その負担もあったし」
でもさ、
「練習はどうしてか好きだった。お前たちとやる練習は、すごい楽しかった」
入学してから、試合に出続けた部長は何を思っていたのか。
「これからも、浦話高校バスケ部はそういう場所であってほしい。みんなが練習を楽しみにできるような、そんな場所にしてほしい」
「「「「「押忍ッ!」」」」」
それは部長からの最後の命令だった。
だから俺たちは絶対にそれを遂行するのだ。
「これから日本一として、勝ち続けろなんて言わない。いやまぁ、負けてもいいとは思わないけど。つうか負けるなよ」
でも、
「とにかく楽しめ。バスケを楽しめ。そうしたら、最高のパフォーマンスができる。ラストオフェンス、決めなければ敗北という場面で、ラストディフェンス、決められたら敗北という場面で、笑えるようになれ」
「「「「「押忍ッ!」」」」」
「よし!と、まぁそんなところかな?」
部長が飄々と流す。
「お前らとバスケができて、幸せだった。3年!気をつけ!」
先輩たちがビシッと背筋を伸ばす。
「礼!」
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
「気をつけ!」
と、島田先輩が声を出した。
「礼!」
「「「「「お疲れ様でした!」」」」」
この瞬間、3年生が引退した。
side喜美
全ての日程が終わり、ついに沖縄を去るときが来た。
結局ほとんど泳いでいないわね。
浦話の皆や、イリヤとお義母様が空港に入っても、兄さんは玄関前で立ち尽くしていた。
「フフフ、兄さん。どうしたの?」
「いや……終わったな、と」
「兄さんらしくないわね」
「そうだな」
兄さんが頭を掻く。
「もう平気かしら?」
「ああ。もう大丈夫だ。次に目を向けたよ、俺は」
兄さんが沖縄に一礼をして、背を向ける。
「また日本一を取りに来るぜ」
「フフフ、それでこそ私の兄さんね」
後ろで自動扉が閉じて、私たちは沖縄の熱気と別れを告げたのだった。
ついにインターハイ完結!
沢木壮が名実ともにチャンピオンとなり健二に襲い掛かる!
そして次回から夏休み後半編スタート!
果たして蓮里メンバーは再び水着を着るのか!?
夏休みの宿題はどうなるのか?
さて、というわけで。
誰が1番楽しんでいたのか、ということで。




