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蓮里小学校女子バスケットボール部  作者: ジェイソン
インターハイ本戦編
48/251

晴れ舞台の長

今までやってきたこと

無駄ではなかった

配点(確認)

side健二




練習を終えて帰ってきた。


ここ最近は蓮里の子達と練習できるので、みんなの刺激になってありがたい。


そして今日は、


「健二くん、ビデオ届いてるわよ?」


母さんからそれを受け取る。


そう、昨日が壮のインターハイ2回戦だったのだ。


「お兄さんのこと見るの久々ですね、コレ」

「ホントだよね。なんか沢木兄妹がいないと静かで怖いんだけど」

「いないと寂しい」

「ふっふーん!イリヤ、お兄ちゃんと電話で話したもんねー!いいでしょ!?」


そのことを蓮里のみんなに言ったら来たいということなのでOKした。


そして雪達も、それなら私らもということでウチに来ることになった。


「壮兄ちゃんの試合楽しみ」

「フフッ、ゆーり!イリヤとOHANASHIしようか?」

「イリヤ、目が怖い……」

「大丈夫、痛いのは一瞬だよ……!」

「あぁ!イリヤが暴走を!ちょっと沙耶!笑ってないで手伝ってください!」


賑やかなメンバーだった。


リビングに入り切るかと不安になるほどの数だったが、なんとか入りきった。


「お兄ちゃんのおホモ達さん!早く見ようよ!」

「……あぁ」


たぶんこの子、おホモ達の意味わかってない……。


そんなことを思いながら再生する。


「あ、また試合直前からですね。喜美って結構無駄なものは省く主義なんですかね?」


知美が疑問する。


喜美なら試合開始1時間前くらいから自分の実況付きで撮っていそうなものだが。


「喜美は気分屋ですからね」


織火のどんよりした表情を見て、苦労のほどを察した。


「始まるよ!」


雪の言葉で全員が画面を見る。


試合が開始された。





ボールは愛和が取った。


やはり野崎はでかかった。


野崎からポイントカードへ。


そして野崎が中へ入ってくる。


それについたのは、壮ではなく井上と部長であった。


「な!?壮じゃない?」


野崎も少し困惑した様子だ。


ポイントカードも少し迷ったが、野崎にパスを出した。


野崎がパワードリブルで2人を押していく。


2人も必死に止めようするが、そこは全国1のセンター。


あっさり侵入され、そのまま得点された。


蓮里はすぐに部長が植松にボールをスローインし、植松が縦パス1本で壮に繋いだ。


「っし!」


壮はそれを決めて見せる。


愛和も2人が戻っていたが、一瞬で抜かれた。


「お兄さんも殴り合い大好きですね」


織火がため息をつきながら言う。


「だがどうして野崎につかないんだ?」


俺にはそれがわからない。


壮が野崎につけばある程度は抑えられるだろう。


しかし沙耶は俺のそんな言葉に失笑した。


「あのね、コーチのチームメイトが普通なわけないでしょ?」


俺はその言葉にハッと気づかされ、画面を見る。





side沢木


おし!


とりあえず1本返した!


相手のオフェンス。


ポイントカードには植松がずっとプレッシャーをかけている。


俺達の仕事は、野崎にパスを繋げないこと。


あるいは、ギリギリまで時間を使わせることだった。


「当たれ!」


厳しくディフェンスにつく。


井上先輩は野崎につきっぱなしで、部長もかなり野崎に寄っている。


俺の相手にボールが渡った。


「ラッ!」

「……ッ!」


ボールを出させない。


ショットクロックは残り10秒。


相手が後ろに寄ってきたポイントカードにボールを戻すそぶりを見せた。


ボールが手を離れた瞬間俺は飛び出す。


手を限界まで伸ばし、弾いた。


「速攻ッ!」


零れたボールを植松が取り、一気に駆け上がる。


しかしすでに2人が戻っている。


「沢木!」

「はいよ!」


植松が俺に。そして、


「島田先輩!」


俺は右に展開していた島田先輩にパスアウトする。


愛和はつく暇がない。


島田先輩はゆっくりと構えを取ってから、シュートを放った。


綺麗に3pが決まる。


これはでかいぞ!


1Qこの時点でシュートタッチが完璧だ!


「島田先輩ナイス!」

「今日は調子がいい!もっと回せ!」

「うっす!!」


相手のオフェンス。


今度はポイントカードから野崎にボールが渡る。


「クソッ!邪魔だ!」


瞬間、井上先輩と部長がつく。


鬼の形相で進路を阻む。


「おらぁ!!」


しかし野崎もさるもの。


パワードリブルから右に行く、そう見せかけて井上先輩を釣り、左から行って部長の上から決めた。


「おらどうした!そんなもんか!」


野崎が叫ぶ。


「なわけあるかぁ!!」

「次は止めんぞ!」


2人に任せる。


2人なら絶対にやってくれる。


だから俺は、俺の仕事を。


「植松!回せ!」


植松から俺へ。


野崎がつくが、井上先輩がスクリーンをかけた。


一瞬で置き去りにしてやる。


スピードが明らかにミスマッチだ。


そのまま飛び上がり強引に決めることもできたが、俺は左に展開する島田先輩にパスする。


「やらせねぇ!!」


相手も飛ぶが、今日の島田先輩は調子がいい。


島田先輩は飛び掛かって来る相手を見ながら、しかししっかりと3pを決めた。


「島田先輩、最高っす!」


植松が叫ぶ。


相手のオフェンス。


野崎が1人で押し込む。


ダブルチームをものともせず押し退けるその姿は圧巻だ。


「わりぃ、壮!」

「大丈夫です!諦めないで、しつこくやってください!」

「ああ、ぎりぎりまで食らいついてやる!」

「井上、次止めるぞ!!」


先輩を信じている。


こんな素晴らしい先輩なら、絶対に止められる。


だから先輩たちの負担を減らすために、俺達で点を取りつづけてやる!




side部長


小学生の頃からバスケは好きだった。


シュートが決まるあの瞬間が、相手のオフェンスを食い止めた時のあの瞬間が、速攻を決めた時のあの瞬間が大好きだ。


それは中学に進んでも変わらなかった。


中学に入って身長が大きくなったので俺はセンターになった。


フォワードだったときのように決めまくるということはできなくなったけど、縁の下の力持ちという実感はあった。


リバウンドを制して、味方にセカンドチャンスを与え、敵に反撃の糸口を掴ませない。


必死で部活に打ち込んだ。


中1からの塾通いのおかげか、成績はよかった。


なので高校は県内1、日本トップクラスの公立に行くことにした。


浦話高校のバスケ部は強くなかった。


俺が1番だったくらいだ。


だが、みんなバスケが大好きだった。


練習時間は限られていたけれど、密度の濃い練習をしてきたと胸を張って言える。


でも、上手い奴らを集めた高校には勝てなかった。


悔しかった。


相手がどれだけ強くても、負けたら悔しかった。


井上と俺で必死で引っ張って、でも限界はあった。


それでも諦められなかった。


インターハイに行きたい。


全国優勝をしたい。


誰もがそんな気持ちだった。


そして、俺達は3年になり、ついに切り札を手に入れた。

沢木壮。


全中MVPの同世代最強プレイヤー。


そして植松。


高い運動能力を持つポイントガード。


優秀なポイントガードとポイントゲッターがいなかった浦話が、ついに最後のピースを手に入れた。


スターティングメンバーには沢木と植松が入り、3年でベンチに入れない奴もいた。


「畜生……頑張れよ!」


その言葉は忘れない。


誰もがチームとして勝つことを目指した。


だから誰も文句を言わず、しかし悔しがった。


そしてその悔しさを思い切り練習にぶつけてきた。


沢木の指導も入り、俺達はさらに密度の濃い練習を送ることになった。


「取って先輩!それ取れなきゃ話にならない!」

「あぁ、ちっくしょう!次は取る!絶対だ!」

「もう1回行きますよ!」

「植松!お前も足が動いてないぞ!」

「すんません!」


頑張って、頑張って頑張って頑張って。


そして今、この舞台に立っている。


「いい加減ウゼェ……!!」

「ハッ、ハッ……抜いてみろよ」

「来いや!!」


高校生最強のセンター、野崎。


今、俺はソイツと戦っている。


「らぁっ!」

「そら!」


ボールを持った!


「囲めッ!」

「おう!」


井上とはわずかな言葉で意志疎通できる。


2年も一緒にプレイしてきたのだから。


「畜生……!!」


野崎は強引に逃げようとして、体を振る。


その肘が俺の顎に直撃する。


「チャージング!!」


井上が叫び、オフェンスファールが取られる。


「「「おっしゃあああああ!!部長流石!」」」


後輩達の雄叫びが聞こえる。


「大丈夫か!?」


井上が助け起こしてくれる。


「おい、お前……」


井上の声が止む。


俺は泣いていた。


痛いからでは、ない。


「バスケやってきてよかった……!!」


そう思えたから。


思わず泣いてしまうほど強く、そう思えたから。


「いいぞおおおお!!」

「流石だぜ部長!」

「よくやった!!」

「行けるぞ!突き放せ!!」


ベンチからの声援が、観客席からの応援が聞こえる。


「オフェンス1本!ここ決めよう!」

「「「「おぅ!」」」」


壮が切り込んでいく。


しかし野崎に阻まれて止まってしまう。


しかし壮はボールを持った手で、俺にサインを出した。


裏に来てください。


俺はそのメッセージを受信して一気に駆け出す。


マッチアップマンは急激なスタートについてこれなかった。


俺は野崎にプレッシャーをかけられて何もできていない壮の後ろのほうに駆け込む。


壮は野崎をにらみつけたまま、こちらにボールを差し出した。


俺はそれを半ばもぎ取るように行く。


野崎が寸前でこちらに気づいて進路を阻みに来た。


レンガの壁が目の前に迫ってくるような圧倒的な存在感。


しかし俺は臆することは無かった。


「っらあああああああぁあぁ!!」


そのまま飛び上がって押し込みに行く。


野崎の体にぶつかる。


俺は思い切り吹っ飛ばされた。


体が床に叩きつけられて、肺から息が抜ける。


「ガハッ!」

「ディフェンスファール!」


壮が叫び、笛が鳴る。


「あぁ!?今のチャージングだろ!?」


野崎が抗議するがひっくり返らない。


野崎もあまりきつくは言わなかった。


きっと自分でも遅かったと思ったのだろう。


壮の目に止められたのが原因だった。


「大丈夫っすか先輩!」

「ああ、大丈夫だ」


俺は沢木に引き起こされて答える。


「先輩、ナイスです!1Qで野崎に2ファールです!いい流れですよ!」

「さすがだぜ部長!」


全員が喜びの声を上げる。


俺はフリースローをするまでの間、目を閉じて皆への感謝の念を思った。


お前たちとプレーできてホントによかった。


浦高に入ってきて、ホントによかった。


このチームでバスケができて、本当によかった……!!

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