試合前夜の会議者
行き
進み
喰らう支えは
他人か自分か
配点(馬鹿)
次の日、1日休息だった。
自由行動ということだったが、誰も海には行かなかった。
というか先輩方は10時くらいまで爆睡していたらしい。
そして俺と喜美は女子のほうの試合を見に行った。
「あ、壮君」
「よう知佳。そろそ試合か?」
「いやいや、まだだよ」
知佳の応援だった。
「フフフ、ホームコートだから気合い入ってるでしょう?」
「そうだね。応援はすごいから」
沖縄だから当たり前か。
「あれ?ねぇ知佳、その子彼氏?」
「えっ?あ、いや、先輩、これはですね」
「いや、俺は知佳の友達だ。よろしく」
「なんだ……ってアンタ沢木!?」
女子にも名前が売れていた俺だった。
「じゃあまた後でね」
「おう、頑張って」
「見てるから、知佳姉さん」
そして知佳と別れた。
座席に座って、試合を見てみる。
「それにしても……」
「ああ。なんか喜美が飛び込んでもできそうだな」
「自惚れてるわけじゃないけど、できるでしょうね」
「というかお前らの代がおかしいんだ。近くにいるだけでも蓮里と知美と楓と美奈だからな」
なんでこいつらの代そんなに強いんだろ。
「あ、始まるみたいね」
そんなこんな話していたら、知佳の試合が始まった。
「まぁあれね。改めて見ると知佳姉さん化け物ね」
「小学生の時はこの俺と一緒に練習していたからな」
「1人だけ明らかに動きが違ったわ。さすがね」
知佳の学校はあっさり2回戦を突破していた。
そして民宿に帰ると皆が起きて待っていた。
切り替えはしっかりできている。
「よし、それじゃあ愛和学院対策ミーティングを始めます」
「「「「「押忍」」」」」
「愛和学院はこのセンターを中心としたゲームメイクをしてきます。あとの4人はシューターですね」
「野崎、コイツか」
「はい。身長2メートル9センチ。日本人の体格とは思えませんけど・・・・・・」
「横にもでかいな」
こんなシャックみたいな奴が日本人でいるとは思わなかった。
「このセンターをどう止めるかにかかってるわけですけど、井上先輩と部長にお願いします」
「沢木じゃないのか?」
「俺はすぐに攻撃に移るために高めにいるので」
このセンターにやられてもすぐに反撃ができるように、だ。
正直このセンター以外は怖くない。
それに、もう1つ理由がある。
相手の思惑通りに乗るのは絶対にいやだったのだ。
相手は俺が野崎にマッチアップすると思っているだろう。
そしてそれを前提にしてゲームメイクをしてくるのだろう。
たぶん、ウチとしても、俺が野崎に付くのが最善の策なのだ。
しかしそれでは相手の掌の上。
大切なのは最善な行動をとることではない。
試合に勝つことだ。
だから俺は野崎とマッチアップしない。
まぁそれに、先輩たちを信頼しているということもある。
絶対に最後の最後まで粘ってくれるはずだ。
「勝てるかどうかは先輩に懸かってます。お願いします!」
「任しとけ。絶対止めてやるよ。コイツ止めれば、俺が日本1のセンターだろ?」
「まぁそうっすね」
たぶん野崎が日本1のセンターということになっている。
そして俺は植松のほうに向き直って言う。
「1回戦で俺が39点、植松、お前が29点だ。俺達はかなりマークされると思え」
「まぁ、ターンオーバーはしねぇよ。正直愛和のポイントカードそこまででもなさそうだ」
ひいき目に見てもそうなので反論しない。
「俺達で強引に決めまくってもいいんだけど、島田先輩の外を使いたいです」
「俺か?別にいいが」
「愛和学院のディフェンスを外側に膨らませたいんです。ぶっちゃけ外に持ってけば脅威でもなんでもないんで」
だって野崎、動きはすごく遅いんだもん。
ゴール下では俺でも厳しいだろうが、外なら島田先輩でもらくらく決められる。
野崎が誰につくのかはわからないが、ちょっとでも外に膨らめば俺か植松がダンクを決めてやれる。
野崎は外に引っ張れば攻略できる。
「野崎が俺にくっついてきたら、井上先輩と部長のスクリーンで落としてください」
「オッケー。できる限りやってみる」
よしっ。野崎が俺についてくればスクリーンで落として、俺以外につけば俺か島田先輩のミドルで決めていけばいい。
オフェンスの作戦も固まった。
「植松、切り込んだらパスアウト。外にいる俺か島田先輩に出せ」
「おし。わかった」
「愛和は野崎だけです。他の4人が3p連発しても焦らないでください。絶対に落ちます」
「「「「「押忍ッ!」」」」」
side愛和学院
「いいか、浦話で注意するのはこの2人だ」
愛和の監督が2人の写真を示す。
「沢木と植松。この1年生ペアが主砲だ」
「「「「「うっす」」」」」
「野崎、お前には絶対に沢木がつくはずだ」
「うっす」
「吹き飛ばせ」
監督がニヤリと笑う。
「任せて下さい、監督」
「よし。後は警戒するほどの奴はいない」
「「「「「うっす」」」」」
「だが、油断するな。あいつらの1回戦を見たな?」
「見ました。パスが早かったです」
「沢木と植松のところが特に」
「そうだ。いいか、あいつらの攻撃はわかっていても止められない類のものだ。注意しろ」
「「「「「はいっ!」」」」」
side沢木
目を覚ます。
「……」
「……」
俺の体に喜美が抱き着いていた。
喜美は抱き癖がある。
そのもっぱらの被害者は俺だけど。
「……」
喜美は着物のまま寝ていた。
俺に抱きつくまでにかなり寝返りを打ったのか、着物がはだけている。
ふむ。
無造作に退ける。
そこにドキドキなどありはしない。
いたって冷静に退かした。
「むぅ……ちょっと兄さん」
と思ったら無造作過ぎて起きてしまった。
「寝起きいいなお前」
「誰のせいよ。もっと優しくなさい。妹よ?」
「寝言言ってないで起きろ喜美」
喜美はブツブツ言いながら起き上がる。
「ダメね。習慣ついて目覚まし無しでもこの時間に目が覚めるわ」
いびきの大合唱となっている大部屋から抜け出した。
そのまま外に出る。
この民宿は非常に立地がよく、玄関開けたらすぐそこに海がある。
早朝の海辺は澄んでいる。
波も穏やかだ。
「フフフ、落ち着いたのね?兄さん」
「まぁな。知佳には申し訳ないけれど。やっぱりイリヤが好きだしな」
喜美の突然の問いにも俺は静かに返すことができた。
「わからないわね。知佳姉さんの肩を持つわけじゃないけれど9年間よ?そんなに一緒にいて1度も好きにならなかったの?」
「喜美。お前にいいことを教えてやろう。幼稚園から一緒だとな、幼なじみなんて手のかかる妹にしか思えない」
俺は1度も知佳を恋愛対象として見たことがない。
あまりにも一緒にいすぎて、いることが当たり前になっていた。
「お前も知佳も似たようなものだよ。2人とも、手のかかる可愛い妹だ」
「はぁ。知佳姉さんも報われないわね」
喜美がやれやれと首を振る。
「お前、知佳には懐いていたからな」
「そうね。同性の友達なんて知佳姉さんくらいだったもの。いつも兄さんといたから女の子は逃げていくのよね……」
「悪かったな」
俺は砂浜に座る。
喜美も着物のくせに座った。
「兄さんは、イリヤのどこに惚れたの?」
「お?参考にするか?」
「兄さんは人類の平均から大きく外れているから参考にならないわ」
「綺麗な銀髪。赤い目、純粋無垢なところ」
「兄さん、本当の意味で浮気することはなさそうね。そんな子いないわ」
「俺とイリヤは運命で繋がっているからな」
かっこよく決めたら喜美が臭い臭いと手で扇ぐ。
「フフフ、ねぇ兄さん。私の恋愛論聞いてみる?」
「1日が終わるぜそれ」
「じゃあまた今度にしましょうか。今はとりあえず民宿の馬鹿共にお仕置きが必要ね」
「は?」
耳を澄ませたらみんなの声が聞こえる。
「おい!これ姐さんが寝てた布団だぞ!」
「あ!馬鹿テメェ独り占めしてるんじゃねえよ!」
「姐さんの枕どこだ?これか?」
「あ、それ俺が股間に挟んでおいた枕じゃん」
「死ねえええええぇ!!」
「姐さんの着替えはどこだ!?今のうちに匂い嗅いどけ!」
「これか!?」
「あ、それ俺の」
「「「「「なんでお前着物持って来てるんだよ!?」」」」」
何と言うか・・・・・・外から見ると見事な変態だな、ウチ。
喜美が跳ねるように駆けて行く。
そして雨樋を踏み場にして直接2階に飛び込んだ。
「乙女のいない間に花の匂いを嗅ごうとするのは誰?」
「「「「「俺達ですっ!」」」」」
やめてください先輩。
尊敬の念が薄れていきます。
「フフフ、この豚どもが!」
「「「「「ありがとうございます!」」」」」
喜美が1人1人頭を踏ん付けて回るのを見ることはできなかった。
そんなふざけた一幕もあったが、試合前には完全に気持ちが入れ替わっている。
俺達はロッカールームで腕を掲げて合わせていた。
「いいか、相手は強い」
「「「「「・・・・・・」」」」」
部長の言葉が流れる。
「だが、俺達はもっと強い。勝つぞ」
「「「「「押忍ッ!」」」」」
それに俺たちが答える。
「行くぞ!今までの練習の成果を吐き出せ!」
「「「「「押忍ッ!」」」」」
試合前の、いつもの儀式。
「浦高ッ!」
「「「「「ファイッ!」」」」」
より高く。
「浦高ッ!」
「「「「「ファイッ!」」」」」
より強く。
「浦高ッ!」
「「「「「ファイッットオオオオオオォ!!」」」」」
さぁ、行こうか。
俺たちはロッカールームから一直線に飛び出して行った。




