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蓮里小学校女子バスケットボール部  作者: ジェイソン
インターハイ本戦編
46/251

遠方の幼馴染

いつだって

どこだって

気になって

配点(幼馴染)

side沢木


今日の試合を終えて、民宿に帰る。


疲れた。


あんなに凄い気合いで突っ掛かってくるのは初めてだった。


相手にラストオフェンスが行った時はさすがにビビった。


相手もかなり神様の加護を持っていたということだろう。


試合が終わった後、先輩方は喜ぶというよりぐったりして帰ってきた。


今はもう午後4時頃である。


明後日に試合だ。


少しでも休んでおかなければいけない。


「フフフ、兄さん、お疲れ」


珍しく喜美に労われた。


「ホントに疲れた。オパーイ揉ませて」

「握り潰すわよ?」


大部屋にいた浦高の男達が股間を抑えてうずくまる。


「お、お前!自分にないからって平気で恐ろしいことを!」

「あら?じゃあ問題を共有する?兄さんソレ2分割にして1個私にちょうだい。捨てるけど」


全員が股間を抑えて悶絶した。


「おっ!おまっ!今股間がヒューヒューしたからな!?覚えてろよ畜生!」


喜美、恐ろしい子……!!




出された夕飯を食べてみんなすぐに大部屋に帰って眠ってしまった。


「兄さんは寝ないの?」

「お前も寝ないのか?」

「私は応援だけだったし」

「へぇ」


俺達だけが起きていた。


「寝ないならちょっと付き合いなさい、兄さん」

「どっか行くのか?」


今は夜の8時。


あまり遠くには行きたくない。


「すぐそこの海に行くだけよ?」

「やだよ。お前1人で行けよ」

「か弱い乙女に1人で行けと?」

「おかしいな。ここには屈強な男しかいないはずだが」


本気の後ろ回し蹴を喰らった。


「イリヤからのメール読んであげないわよ?」

「行きます行きます!」


俺はイリヤのメールに釣られて海に行くことになった。





で、海に来たわけだが。


「おい喜美。さっさとメールを読んでくれ。イリヤ成分が足りなくて禁断症状を起こしそうだ」

「我慢ができない男は嫌われるわよ?」

「ついて来てやっただけでもありがたいと思え」

「しょうがないわね」


と、喜美が懐から携帯を取り出す。


ちなみに今の喜美は和服だ。


「えっと……『お兄ちゃん、分かるからね?』だそうよ」

「怖ぇよ!その短い文が逆に怖ぇよ!」


とりあえず喜美以外の女の子と一緒にいたらダメだな、うん。


「さて、そんな兄さんに問題です」

「なんだ?」

「あそこで男に絡まれている女の子がいます。兄さんはどうすればいいでしょうか?」

「……」


喜美の指差した方向を見ると確かにそんな状況になっていた。


「喜美、GO!」

「さすが兄さん!保身に走るわね!」

「違ぇよ!?不良が怖いわけじゃねえよ!?イリヤが怖いだけだからな!」

「同じことよ。まぁいいわ。貸し1つってことで」


喜美が10メートルほど離れたその3人のほうに走っていく。


一瞬で間合いが詰まった。


不良の股間を背後から直蹴。


そして蹴った足を砂浜にたたき付けて、体を安定させてもう1人の不良の股間を握り潰した。


「ッ!?」

「……」


不良は声も出さずに白目を剥いて倒れた。


えげつない……我が妹ながらえげつない……


「っと、こんなところかしらね。大丈夫?」


喜美が着崩れした和服を直してガタガタ震えている女の子に問う。


「は……はい……」


見れば、高校生くらいか?


俺と同い年のような気がする。


「ハッハッハ、さすが喜美!カッコイイなぁおい!さあ帰ろうさっさと帰ろう!今すぐ帰るぞ喜美!」


イリヤからの警告が頭に鳴り響いている。


さっさと逃げ出したい。


しかし、神様は今日勝たせてくれた代わりにこんな難題を押し付けてきた。


「喜美……?沢木、喜美?」

「え?私のこと知ってる……ってアンタ!?」

「じゃあ、あなたは……壮君?」

「「……知佳!?」」


沖縄の海で不良に襲われていたのは、あろうことか俺の幼なじみだった。




「久しぶりだねー、壮君!喜美ちゃんも!」

「え、えぇ。久しぶりね……」

「ヒサシブリデスネ、チカサン」

「どうしたの壮君?片言だけど」

「ナンデモアリマセンヨ」


嘘である。


さっきイリヤからメールが来た。


怖くて読んでいない。


知佳を助けた喜美、そして俺は知佳の家に呼ばれていた。


「いやぁ、小学校以来だね、壮君!」

「最初見たとき誰かと思ったよ」

「え?あはは!そんなに変わったかな?」

「ああ、男から女に変わったな」


知佳が笑顔で張り手を喰らわせた。


「すんません……」

「まったく。相変わらず壮君は失礼だね」

「そういえば知佳姉さんは沖縄に引っ越すって言ってたわね」


俺と知佳は幼稚園からの知り合いである。


ちなみに小3まで本気で男だと思っていた。


小学校卒業と同時に親の都合で沖縄に引っ越したのだ。


「喜美ちゃんも可愛くなったね」

「私はいつだって可愛いわよ?」

「相変わらずだね、沢木兄妹は」


知佳がため息をつく。


確かに知佳にはよく迷惑をかけた。


「1回兄さんが全裸登校した時に問答無用でキックして川に叩き込んだわよね」


ああ、そんなこともあったな。


「いやぁ、あの時はビビったよ?壮君浮かんで来ないからヤバいと思って救助要請したり」

「あの後謝るの大変だったんだからな……!!」


みんな笑って許してくれたけど。


「兄さんがボーリングで隣のレーンにぶん投げてストライク取った時も、キックで兄さん吹っ飛ばして自分のレーンのピン倒したわよね?」

「いやぁ、壮君が機械に飲み込まれていきそうでビビったよ」

「後で俺が謝り倒したけどな!」


あれ、なんか俺のほうが被害受けてね?


「まったく。壮君には私がついてなきゃダメだなぁ!」


知佳、その結論はおかしいと思うんだ。


「小学校のとき壮君と話せた女子も私だけだったしね」

「そりゃ全裸登校する男子と話したい小学生なんて普通いないわよ」

「ホントだよねー。どーせ彼女もできてないんでしょ?」

「残念だったな!嫁ができたんだよコレが!」


俺は嬉々として答える。


「はぁ!?嫁!?壮君に?嘘でしょ!?」

「嘘じゃないぜ!」

「ど、どんな子なの!?」

「えっとな……」


俺はイリヤの容姿を思い浮かべる。


「銀髪で、目が赤くて、背が高くて、オパーイがでかくて、素直で純粋で、でもちょっと嫉妬深くて、俺のことを兄ちゃんって呼んでくれる小学6年生の子」

「あぁ、はいはい。そっち?」


知佳が得心したというように頷く。


「おお、わかってくれたか!」

「大丈夫。幼なじみは完璧に理解したよ!」


グッと親指を立てる知佳。


さすが我が幼なじみ!


以心伝心とはこのことだな!


3年間離れていても繋がっているものなんだな。


ちょっと感動した。


「エロゲの話でしょ?」

「返せ!俺の感動を返せ!!」

「いや、フツーそう思うわよ、兄さん」


俺と喜美の反応に知佳は目を見開いた。


「え……ホントの話?」

「ホントなんだよなぁこれが!」

「ええ。信じられないかもしれないけど、マジよ」


喜美が携帯を取り出してイリヤの写真を見せる。


「嘘……壮君に……彼女なんて……」

「そんなに彼女できなさそうですかねぇ俺!?」


思わず叫んでしまう。


「……なんで?なんで壮君なんかを……」

「もう反論する気も失せた」

「というか兄さん、知佳姉さんヤバいわよ?」


喜美に言われて知佳の顔をよく見ると目が血走っている。

そして何事か呟き続けている。


「なんで壮君なんか?こんなまるでダメな男を好きになるとかありえないって。あ、そっか。小学生だからよくわかってないのか。あはは、私が教えてあげなきゃね……!!」

「おい喜美、これどうしよう?」

「こういう場合謝ったら逆効果っていうのは教えてあげる」


謝っちゃダメか。


そしたら相手の論を認めることになっちゃうからな。


「ねぇ、壮君」

「うん?」

「ちょっとそのイリヤちゃんって子と話させてくれないかな?」

「おいおいそんなのダメ……じゃないです。はい」


知佳の鬼気迫る表情に屈した。


「兄さん、ホント知佳姉さんには弱いのね」

「3年間のブランクがあるから余計にな」


とりあえずイリヤに電話をかけてみる。


9時半か。


たぶんまだ起きているだろう。


「あ、お兄ちゃん。どうしたの?イリヤの声が聞きたくなったの?」

「その通りだイリヤ!もうイリヤがいないから禁断症状発症しそうだよ!」

「フフッ、子供みたいだね、お兄ちゃん。帰ってきたらいい子いい子してあげるね!」

「ああ、トロフィー持って帰るから待ってろよ!」

「うん。あ、あとお兄ちゃん」

「うん?どうした?」

「そこに、喜美以外の女がいないかな?」

「……」

「こんな時間に。明後日試合があって休まなきゃいけないこの時間に?まさかねぇ?」

「……えっとですね、イリヤさん」

「まさか、その女の家にいるなんてわけないよねぇ?」


怖ぇ!?


ヤンデレ入ったイリヤはエスパーか何か!?


「もう兄さんの表情見るだけでだいたい話がわかるわ」


喜美が隣で苦笑しながら言う。


助けてくれよ!と目で合図するがそっぽ向かれる。


ちくしょう妹なんてこんなものか……!


「えっとだな。イリヤ。これにはマリアナ海溝よりも深い訳があってだな?そう。なんというか、高度な政治的問題なんだよイリヤ君」

「お兄ちゃん」

「すんませんしたッ!」


土下座する。


とにかく土下座した。


「うっわ早いわね。今の最高記録じゃない?土下座するまでの動きが見えなかったわよ?」


喜美が関係ないからなのかいい加減なことを言う。


「あのねぇ。お兄ちゃん。いいかげんイリヤも怒っちゃうよ?そんな浮気ばっかりしていたら!」

「ごめんなさい。でもイリヤさん。言い訳聞いてください」

「しょうがないなぁ。なぁに?お兄ちゃん?」

「相手が幼馴染だったんです」

「……お兄ちゃん。その女、そこにいる?」

「はい」

「ちょっと代わってもらっていいかなぁ?」

「はい」


イリヤの声に押されて俺は携帯を知佳に差し出す。


「知佳さん。イリヤです……」

「へぇ。壮君をこんなふうに扱っているんだ。フン!それだけで底が知れるってものよ!さすがに小学生なだけはあるね!」


知佳はプンスカしながら俺の携帯を取る。


「もしもし、アンタ?イリヤっていうのは?」

『そうだよ。そういう貴女がお兄ちゃんの幼馴染?』


知佳はなぜかみんなに聞こえるようにした。


やめてくれ。


俺の胃がストレスでマッハだ。


「へぇ。アンタが壮君の嫁を自称してるわけね?」

『自称じゃないよ、お姉さん。お兄ちゃんが何度も告白してきて、私がOKだしたんだから!』

「アハハ、おかしいわね!そんな壮君の戯言を本気で信じてるんだ?」

『はぁ?何言ってるのお姉さん?お兄ちゃんが嘘つくなんて思ってるの?へぇ、お姉さんにとってはお兄ちゃんってそういう認識なんだぁ。フフッ、幼馴染が聞いて呆れる!』


喜美が俺のほうを向く。


「兄さん、大丈夫?なんか腹抱えてめっちゃ苦しそうなんだけど……」

「うん。ダメかも」


胃痛がヤバイ。


「な、なんですって!?たったの4ヶ月くらいしかいないアンタに何がわかるの!?こっちは9年も一緒にいたのよ!?」

『9年!9年も一緒にいて進展なし!ププッ!笑っちゃう!」』

「~~~ッ!!」


「イリヤ、調子いいわね」

「ホントだな」

「たぶんイリヤも兄さんと会ってないからいろいろ溜まってたのね」

「ここで吐き出されると困るんだが」


『だいたいお姉さん、お兄ちゃんから告白されたの?』

「そ、それは!?えぇっと……壮君は恥ずかしがりやだから……」

『言われてないんだ?可哀想。イリヤなんて毎日言ってもらえるのに。結婚しようって!』

「け、結婚!?」

『そうだよ。イリヤ、大人になったらお兄ちゃんのお嫁さんになるんだ!いいでしょ?』

「ふ、ふん!それこそ子供の戯言ね!どうせ親の許可ももらってないんでしょ?」

『うっ!?で、でも!夏休みのうちにお兄ちゃんのお義母様に挨拶に行くもん!』


「兄さん兄さん!なんかヤバイ話がすすんでるわよ!?どうすんの!?」

「う、ウチにってヤバくね!?」

「ヤバイわよ兄さん!母さんが知ったらどうなるか!」

「もう……胃に穴が……」


ウチの母さんに挨拶はヤバイ。


下手すれば命に危険が及ぶ。


小学生と婚約した俺の身に。


「なっ……ななぁつ!?」

『そういえばお姉さん沖縄に住んでるの?だったらもう会えないね。残念だなぁ。お姉さんと会いたかったんだけどなぁ。でもこれで、お兄ちゃんと一緒に邪魔されずに生活できるからいいかな?』

「わ、私だって……そっちに行くよ!」


「兄さん!兄さん!本格的にヤバイわよコレ!?現代に昼ドラが再現されるとか素敵ッ!」

「素敵じゃねえよ!?それさすがに俺の身が持たねぇよ!?」

「安心なさい兄さん!私が絵でばっちり記録に残してあげるから!刺されてる瞬間を!」

「ちょっと現実味を帯びてきたからやめてね!?」


『フフッ、どうせ無駄だとイリヤ思うけどね。お兄ちゃんはイリヤのこと大好きだもんね!』

「あ、アンタちょっと!」

『ちょっと喜美?』

「なにイリヤ?」

『このお姉さん、壮君に触れようとしたら斬ってね?』

「……善処するわ」

『フフッ、信じてるよ?』


喜美がガックリとうなだれる。


フハハ!これでお前も当事者だ!


『じゃあお兄ちゃん。おやすみなさい。大好きだよ?』

「俺も大好きだよイリヤ。おやすみなさい」


そして電話が切れた。


「……」

「……」

「……」


沈黙が部屋を支配する。


と、それをノックの音が破った。


「ちょっと知佳?入るわよ?」

「あ、ママ!うん、いいよ!」


ナイスタイミングでおば様が入ってくる。


「いやもう久しぶりね壮君。見違えるようになってまぁ!」

「ありがとうございます」

「男前になったじゃない!これで知佳を嫁にもらってくれたらうれしいんだけどね?」

「は、ハハ……」


またしても修羅場か。


神よ。


そんなに今日の勝利の対価は重いのか?


「喜美ちゃんも久しぶり。可愛くなったわね?」

「フフフ、磨きがかかったでしょ?」

「うんうん。さすが喜美ちゃんだよ。それじゃああんまり遅くならないようにするんだよ?心配するからね?」

「ああ、みんな寝てるんでそっちは大丈夫ですけど。まぁ10時過ぎには帰るようにします」

「うんうん。それじゃあゆっくりね」

「はい」


おば様が知佳の部屋から退出した。


「……壮君。ホントにイリヤと婚約したの?」

「口約束だけどな。婚約したよ。はっきりと。イリヤを将来、妻にするって」

「なるほど……壮君のことだから、ふざけてとか、強制されてとかじゃ、ないんだよね?」

「そこで疑問系になるのが悲しいわね……」


喜美がいい空気をぶち壊してくれる。


「本当だよ。本当にイリヤが好きだから」

「……なんで私じゃないの?」


ストレートに言う知佳。


知佳が俺のことを好き、というのは知っていた。


喜美だって知っていることだ。


だからこれだけはっきり言うのだろう。


「ねぇ。なんで私じゃないの!?9年間!9年間も一緒にいたんだよ!?ご飯だっていつも一緒に食べた!お風呂だって一緒に入った!寝るときもいつも一緒だったのに!」


引っ越す直前、知佳が俺に告白したのだ。


好きでした、と。


俺はそこで答えることができなかった。


知佳のことは好きだ。


でもそういう好き、じゃない。


愛しているわけじゃない。


だから俺は、答えられなかった。


あの時は喜美に思い切り頬を叩かれたものだ。


そして、あれから3年。


知佳は一途に俺のことを思っていたらしい。


まったく。大切な3年を無駄にして。


言い寄ってくる男もいっぱいいただろうに。


お前は可愛いからな。


とっかえひっかえくっついて、楽しく過ごせただろうに。


ゴメンな、俺のせいで。


「なんで!?どうして私じゃなくてイリヤなの!?私はこんなに壮君のこと、大好きなのに!」

「……知佳」


俺は知佳の声を止める。


「いいか、知佳。お前のことも俺は好きだ。でもな、イリヤのほうが好きだ。愛している。一生をともにしてもいい、そう思えるくらいに」

「……なんで私じゃないの?」

「そりゃな、お前」


俺は知佳と目線を合わせて真剣に答える。


「お前、銀髪じゃないからな」


本気の殴打が顔面に来た。




side喜美


いや兄さん。


成長したわね。兄さん。


自分が捨てられた理由がわからない女の子に、本当のことを言う。


なかなかできるものじゃないわよ。


でもね、兄さん。


やっぱ理由って大切だと思うのよね、私。


「知佳姉さん、そこらへんでやめなさい」


いい加減兄さんが死にそうだったので止めた。


「……相変わらず喜美は馬鹿力だね」

「女の子に言うことじゃないわね」


兄さんに馬乗りになっていた知佳姉さんを持ち上げて移動させた。


兄さんは気絶している。


「振られたわね、知佳姉さん?」

「……そうだね」

「気落ちすることはないわ。次の恋愛目指してゴーよ!」

「喜美は自由だね」

「フフフ、せっかくの女の子だもの。楽しみなさい?」

「喜美は楽しまないの?」

「私の基準は厳しいのよ。とりあえず兄さんは超えてくれないとね」

「喜美、一生独り身になっちゃうよ?」

「兄さんとイリヤの甘甘生活を横目で見ていればおなかいっぱいよ、私」

「……アハハ、さすが喜美だね」

「フフフ、感心なさい!」


知佳姉さんはショックは受けているようだったが、同時に前を向いていた。


「でも残念だったなー。初恋は実らないものなんだね?」

「よかったじゃない。こんなマダオに初恋できて。失敗してよかったって将来思うわよ?」

「……そうだね。こんなマダオ……気にすること無いよね?」

「そうそう。こんな兄さん。どうでもいいわ」

「そう……だよ……壮君なんて……」


言いながら知佳姉さんは私の体に抱きついてくる。


「うわああああぁぁあああぁ!!」


そして、号泣した。




「ゴメンね、喜美」

「いいわよ。機械みたいに感情を処理できる織火みたいなのが異常なのよ」

「織火?」

「私のチームメイト。知佳姉さん、私もバスケ始めたのよ?」

「そうなんだ!それじゃあ、私と勝負する?」

「いいわね。知佳姉さんの強さも見てみたいし……知佳姉さんインハイは?」

「うん?出てるよ?」

「知佳姉さん、何してるのよ貴女……」

「ゴメンゴメン。緊張ほぐそうと海に出たらあれだもん。壮君を見つけたらあとはここまで一直線」

「ま、頑張りなさい。知佳姉さん」

「うん。喜美もね」


そして私は兄さんを背負いなおす。


「妹に負ぶわれるとか屈辱ね、兄さん?」

「……」

「知佳姉さん。兄さんが死んでたら自首したほうがいいわよ。刑罰軽くなるみたいだから」

「死んでないよ!」

「フフフ、冗談よ。それじゃあね」


私は知佳姉さんに手を振って家を後にする。


現在10時。


まぁ大丈夫でしょう。


私は背中におぶった兄さんの重みを感じる。


「フフフ、兄さん。頑張ったわね?」

「……」


私は歩く。


「あら、綺麗な月ね。海に映えて綺麗だわ」


月が雲から出てきた。


「さ、帰りましょ、兄さん?」


私は兄さんを背負いなおして、帰途につくのであった。

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