戦場の先導者
笑い
踊り
騙す先は
他人か自分か
配点(騙しあい)
ハーフタイム
side沢木
「フフフ!ついに私の時間ね!時間よね!?いいでしょ兄さん!?」
終わった途端喜美が懇願するように行ってくる。
そんなに我慢してたのかお前……
「織火!いいわよね!」
「え、えぇ……もういいですけど……」
織火もたじたじだった。
「えぇっと、後半は手加減無しで行きます。イリヤも喜美も、本気でいいです」
「いいの?4点なんて一瞬でひっくり返るよソレ。4Qまで待ってもいいんじゃないかな?」
イリヤが意見するが、
「相手は栄光です。こういう状況には慣れているでしょうし、あのポイントカードならゲームコントロールができるはずです」
「早い話が栄光ナメんなってこと?」
「まぁ、そうなりますね。それに」
「?」
織火はそこで言葉を切り、滅多に見せない凶暴な笑みを見せる。
「負けたくないじゃないですか。どんな試合でも、どんな相手でも」
「当たり前じゃない。それより、どうするの?試合中にサインで攻撃決めるの?それともあらかじめ決めとく?」
喜美がサラっと流して問う。
みんなも何を当たり前のことをという顔をしていた。
筋金入りの負けず嫌いだな、こいつら。
「相手がどうやって出てくるのかわかりません。試合中に柔軟に対応します」
「わかったわ」
「よし、それじゃあ潰して来い!圧勝して来い!」
「「「「「蓮里ファイッ!」」」」」
side京香
一応こちらがリードして前半を折り返した。
しかし喜美ちゃんが1得点もしていない。
「お姉ちゃん、相手エースが出てくるよ」
「はい、楓、行けますね?」
「当然です!止める!」
楓は気合い十分だ。
今までの楓には見られなかったことだ。
昨日の西条戦で反省して、ここで爆発したのだろう。
「美佐、ゲームメイクは任せます」
「わかりました」
「千晴、相手はどうですか?」
「……大丈夫です、次は止めます!」
「どうやってですか?」
「とにかくミドルだけに警戒します。抜かれたら……円香、ヘルプお願い」
「オッケー、任しといて」
「よろしい。逃げ切ろうなどと考えないで!圧勝しなさい!突き放しなさい!」
「「「「「はいっ!」」」」」
3Q
side喜美
試合が始まる。
早くボールが欲しいわ。
織火が相手ガードに当たる。
しかし相手ガードはうまく楓にパスを出した。
目の前、ボールを下に回して私を睨む楓がいた。
「ふんっ!何度やっても同じよ!いい加減諦めたら!?」
「フフフ、私が世界で2番目に嫌いな言葉ね、それは」
楓が突っ込んでくる。
右に来る!
しかし感覚は左を叫ぶ。
私は右に行くフリをして左に張る。
楓がビハインドバックを使って左に切り込んできて、そこには私がいた。
「嘘ッ!?」
「ホント」
楓の体が揺れる。
突然のことに反応できていないのね。
ボールに手を伸ばし、叩き落とした。
side知美
速いッ!
わずか一瞬の交錯。
喜美にはそれで十分だった。
ボールは喜美の手に渡っている。
「ほらっ!決めなさい!」
「任しといてよ!」
そこからロングパスを1本。
走っていたイリヤがそれを受け取り、ドリブルもせずにそのまま飛び上がって決めた。
「よしっ!」
イリヤが吼える。
蓮里が一気に戦術を変えてきた。
ハーフコートでじっくり3人で決めるのから、速攻で一気に2人だけで決める。
「……上等ッ!」
楓ちゃんはそれを見て、しかしそう言い放つ。
楓ちゃんも私と同じだ。
負けてなお、前を見ることができる。
再び栄光のオフェンス。
美佐から円香へ。
バウンドパスでセンターに繋がり、楓にパスが出て、再び美佐。
ボールが動き続け、そのまま美佐が切り込んで決めた。
ずっと出ているのに、まだあれだけの動きができるなんて。
「フフフ!さぁ回しなさい!私が決めてあげるわ!」
喜美が叫ぶ。
そんなにつらかったんですか、さっきまで。
しかし織火はそこでイリヤにパスを出す。
蓮里はほんとうに容赦ない。
ダメと言ったらダメ。
イリヤがゆっくりとドリブルをしながら3pラインに近づいていく。
相手はかなり近づいて厳しいディフェンスをする。
でも、そんなに近すぎると……
イリヤがスピンムーブから一気に置き去りにした。
「円香!」
「はいよ!」
そこにヘルプに来る円香。
イリヤはそれでも無理やり飛び上がる。
「ほらっ!」
イリヤはそのまま決めて見せた。
蓮里のエース2人は、強引にでも決めることができる。
それを証明した。
side健二
そのまま試合は一進一退の攻防が続く。
蓮里は元気が有り余っている喜美とイリヤを中心に得点を重ねていくが、栄光もポイントガードの美佐、フォワードの楓を中心に得点を量産する。
しかし喜美の攻守に渡る活躍のお陰で点差が縮まっていき、ついに4Q残り3分で同点まで追いついた。
栄光のオフェンスを、中にいれずに外から打たせてリバウンドを獲る。
蓮里の攻撃。
逆転のチャンス。
ボールは最初から喜美に託された。
喜美がハーフラインを超えて、さらに進攻する。
楓ちゃんはその段階からずっとくっついてプレッシャーをかけ続ける。
喜美が僅かにサインを出す。
蓮里のほかの4人が一斉にサイドに散った。
マッチアップマンがそれに引き寄せられるように外に膨らむ。
中にスペースができた。
喜美はその瞬間を見逃さずに突っ込む。
とうぜん楓ちゃんも反応する。
ペイント内まで進入し、しかし楓ちゃんはぎりぎり止めようとする。
喜美はそれに気づいてバックパスを選択した。
右腕を背中に回し、左でマッチアップマンを振り切った咲にボールを出そうとする。
それに気づいた楓がパスカットに入る。
しかし喜美のそれはフェイク。
腕を戻して1歩目を踏む。
楓ちゃんはそれに寸前で気づいて体を引き戻した。
あそこから引き戻したのか!?
なんて子だ!
小学生離れとかそういうレベルじゃない。
明らかに日本人の動きではなかった。
「コレが実力!」
完全に止めに入る動きだった。
喜美は仕方なくその1歩目で踏み切り飛ぶ。
とうぜんリングまでは距離がある。
とても届く距離ではない。
しかし、喜美の顔がニタリと笑う。
「残念ね、コレが才能よ!」
喜美は思い切りの跳躍から、右手1本で掲げたボールをフワリと放り投げる。
高い山なりの軌道で茶色い球体がリングまで浮遊していく。
ボールは見事にリングを射抜いて見せた。
フローター
主にポイントガードが相手のブロックをかわすために使う技。
それをこの少女は、実戦で、ここぞという場面で抜いて見せた。
そして決めて見せた。
……嘘だ。
ありえない。
フローターなんて、小学生ができるものじゃ……
俺はそこまで思い、気づく。
俺は何を考えているんだ!
小学生だから、なんて色眼鏡が意味を成さないことは知美と戦ってよくわかっているはずだ!
そしてあの少女は壮を兄に持つのだ。
できたとしても、不思議ではない。
だが、でも、いや……
「健二さん?」
と、知美が心配したのか俺の手を握ってくれた。
「あ、ああ。ごめん、知美」
「健二さん!誰がなんと言おうと、私には健二さんが1番だから!」
いつも控えめな知美がそこまで言ってくれる。
そう、俺にはみんながいる。
俺を信じてついてきてくれるみんながいる。
他の女の子が修行中のシュートを決めてしまったことくらいで折れるほど俺のプライドはやわか?
馬鹿言え。
雑草のように踏まれまくった俺だぞ?
逆に奮起さえ感じる。
よかったかもしれない。喜美がスクープを決めてくれて。
お陰で俺は、さらにやる気が出た。
「知美、帰ったら練習だ!」
「はい!健二さん!」
side沢木
そのまま突き放して5点差。
残り3分。
栄光のオフェンス。
ここまで緊迫した状況は初めてだ。
「勝つのはウチだ!」
楓がさらに爆発する。
ダブルクラッチ、フェイク、トリックパス。
あらゆる技術を用いて攻めてくる。
こちらは今度は沙耶を中心にして力ずくで押し込んで攻め立てた。
上手くいけば3pプレイももらえる。
織火がサインを出す。
その瞬間4人が一斉に動き出し、ダブルスクリーンを使ってフリーになった沙耶に高めのパスが放たれる。
ここに来て博打かよ、織火!
その姿勢、嫌いじゃないぜ!
沙耶が空中でボールを掴んでそのままダンク。
アリウープを成功させて、さらに突き放す。
残り1分、相手はファールゲームを仕掛けてきた。
イリヤにボールが渡ったところをファールで止める。
残り54秒で5点差。
よし、フリースローを決めればほとんど勝ちは決定する。
「あれ?」
「「「「「おぅ!?」」」」
そこで、イリヤが外した。
いやまぁ、人なんだから外すこともあるだろうけど。
でも今まで高い集中力で決めてきたフリースローが落ちてしまった。
それがイリヤに与えるダメージはでかい。
幸い先生がタイムアウトを取ってくれたので俺はイリヤを慰めることができた。
「大丈夫だ、イリヤ。いいか、イリヤは今失敗を奉納したんだ」
「失敗を奉納?」
喜美がやれやれと首を振るが気にしない。
「そうだ。失敗2つを奉納した。だから神様は成功1つをかなえてくれる」
「2つじゃないんだね」
「神様はそんなに優しくない。だが、イリヤには神様がついている。勝つのはイリヤだ」
「うん。わかったよ。ありがとう、お兄ちゃん」
イリヤも落ち着いて、クラッチタイムに入る。
栄光のオフェンス。
「……」
「……」
もはやエース2人はお互いに無言で対峙する。
「ッ!」
楓が切り込む。
もうパスはありえない。
ここまできたら決めるのはエースだろう。
急に止まって、そこからレッグスルー。
間合いを計って、右から左に一気に切り返すクロスオーバー。
その右から左への動きが目茶苦茶速く、遠かった。
一瞬の動きに反応してしまった喜美は一気に体幹を揺らされ、もたつく。
そのまま楓は一直線に決めた。
「~~~~~ッ!!」
もはや叫び声も獣の咆哮に近い。
喜美が無言でボールを呼ぶ。
織火はそこに渡す。
蓮里のラストオフェンスになる。
喜美が上がり、対峙する。
織火、イリヤは左に。
沙耶、咲は右に展開した。
そして中央に喜美と楓。
喜美が右に行く。
その迫力、殺意。間違いなく右だった。
しかしステップが違う。
俺はそれを見抜けたが、他の奴ら。それも試合中の奴らはどうだろうか。
「ダァッ!」
1人いた。楓。
こいつ、本当に強いなおい。
見抜いてついていく。
そして喜美はそれでも無理やり決めに行く。
喜美がジャンプする。
あわせて楓がジャンプする。
楓が空中戦にそなえて力を込める。
喜美が行く。
間違いなく、誰もがそう思った。
しかし喜美はなんともアッサリと、後ろによっていた咲にパスをだした。
「へ?」
もらった咲がきょとんとして、しかし体は正確にシュートを放つ。
それが見事にネットを揺らし、試合を決めるシュートとなった。
蓮里95-88栄光




