蓮里の策略者
見つめる先は
誰よりも未来を
配点(先憂後楽)
side沢木
さて、1Qは相手リードで終えた。
そういえば負けているっていうのは初めてだな。
いつも圧倒的な点差をつけているから、この状況で平常心を保てるか?
「ねぇ、織火。そろそろ私の出番じゃない?」
「いえ。まだ私たちだけでまわします」
「えー、そろそろ読まれちゃうよ?っていうか読まれてるよ?」
「それでも、やります」
「だってこういうときにイリヤがどうやって決めるかとか、試しておいたほうが」
「それはそれ、これはこれ」
「「「「「親父かッ!」」」」」
しかし織火のやりたいことはわかる。
織火は前半を負けて終わる気だ。
できれば負けたくない、とは思っているだろうが、負けるだろうとも予想している。
それが織火の狙い。
勝ったままでしか後半を戦ったことが無い蓮里。
蓮里の弱点は経験不足。
少しでもこの練習試合で経験をつもうということか。
どうやって逆転しようか、ということを。
そしてそのイメージはできているはずだ。
「いいんじゃねえか、それで」
「いいですか?」
「そうだな、付け加えるとすれば……イリヤ、たまにミドル打っていいよ」
「やったー!」
「私は?」
「喜美は走り回ってろ」
「ホントに何もさせないわね……」
喜美は肩を落とす。
いつも相手を叩きのめすことに生きがいを見出している喜美だ。
殴っちゃいけないというのは辛いだろ。
「咲、お前は打ってけ。外れようが何だろうが打ち続けろ。それがシューターだ」
打つことをやめたシューターはシューターではない。
「オッケ」
「よし、それじゃあ行くぞ、俺たちは強い!」
「「「「「俺たちは強い!」」」」」
side京香
蓮里に勝っている。
でも、喜美ちゃんが大人しすぎる。
そして、楓が疲れすぎている。
「楓、休みなさい」
「ッ!?まだ行けます!先生!」
「そんな状態で何を言っているのですか。今はせっかくリードをしているのです。ここで休んで、もっと大切な勝負所で全力を発揮してもらいます」
「……わかりました」
「円香はあのシューターから引き離されないように」
「はい、できるだけやってみせます」
「美佐、相手ガードはそこまでではありません。もっとプレッシャーをかけなさい」
「はい!」
「いいですか、もっと厳しく!強く行きなさい!気持ちで負けたら話になりません!声を出しましょう!もっとハードにプレイしましょう!リバウンドは絶対に獲りなさいいいですね!」
「「「「「はい!」」」」」
2Q
side知美
そして2Qが始まる。
栄光の攻撃、栄光のポイントガードの美佐さんはとても上手い。
あの厳しいディフェンスをものともしない。
「こうして見るとやっぱり上手いわね……」
「奈那子も美佐さん相手に頑張ったよ」
「でも、やっぱりね……織火にも負けたし。もっと頑張らないとね!」
「そうそう!その意気」
よかった、奈那子は前を向いている。
楓は休憩している。
喜美を相手にすると本当に削られる。
体力というよりも精神力が。
なんかすごい威圧で、人間を相手にしている気分じゃない。
「でも蓮里は徹底的に喜美とイリヤに出さないわね。何でかしら?」
「仲間割れ……するような人たちじゃない……と思うよ?」
「最後疑問系なの同意だけどやっぱり不思議ね」
「たぶん、喜美、イリヤなしでどこまでいけるか試しているんだよ」
「あ、健二さん」
健二さんが隣に来てくれる。
あ、いい匂い。
「相手がリードしている状況で逆転ができるのかどうか。それを確かめているんだろうね」
「そこまで考えているの?」
「壮は考えているだろうし、織火もきっと考えている」
「それが、ポイントガード……」
「そう、試合の着地点を見つける大切な役割だ」
試合を見る。
織火がボールを持っている。
喜美が相手を引き離してボールを呼ぶが出さない。
喜美もわかっているようで、さっさと動く。
織火が僅かにサインを出した。
動いた喜美が、止まる。
その隣を咲が走り抜ける。
咲のマッチアップをしていた円香さんが喜美のスクリーンに阻まれる。
喜美のマッチアップ相手がスイッチで咲に付こうとするがもう遅い。
織火のパスからのロングレンジ。
リングに跳ねて落ちるが、それを沙耶が獲る。
そして後ろにパス。それを織火が受け取り、今度はそのまま織火が突っ込んだ。
美佐さんがそれについていく。
織火は同時に併走を始めたイリヤにバックパスを飛ばそうとする。
それに気づいた美佐さんがパスコースに割り込む。
しかし織火のそれはフェイク。
再びボールを前に持ってきて、そのまま飛ぶ。
レイアップが綺麗に決まった。
「よしっ!どうですか!」
「おっしゃああああ、いいわいいわ!」
「よく決めたわ織火!」
「いいフェイントだったよ!」
「次は私が決めるから」
蓮里が歓声を上げる。
これも結構キツイ。
メンタルにかなりのダメージを与えてくる。
さっきから咲のロングは落ちているが、それでも打ち続けるのはすごい。
そしてオフェンスリバウンドを確保した沙耶も、切り替えてすぐに自分で突っ込んだ織火もすごい。
織火の合図に合わせて的確にスクリーンを成功させた喜美も、すぐに反応して織火と併走したイリヤもすごい。
しかしそれでも栄光がリードを握っている。
やはり美佐さんが織火以上に上手いのと、全員で1本を決めるチームプレイだ。
楓ちゃんがいるときはエースに任せるけれど、いなくなったら全員で。
その落差も効いているのだろう。
楓ちゃんはまだ休んでいる。
そのまま決めて決められ、で試合は続いていく。
そして2Q残り2分で壮さんが動いた。
右手を上げて……右足を上げて……それを右手で掴んでその場でターン。
……喜美はそれを見て笑顔で親指下に向けているけれどいいんでしょうか?
というか何の合図なのでしょうか?
織火がわかったというように頷いて、スローインされたボールをもらう。
そして一気に3pラインまで来て、そのまま切り込んだ。
美佐さんが当然のように反応して、円香さんと栄光のセンターの子はすばやく咲と沙耶にくっつく。
もういい加減わかっているし、止めなければと思っているのだろう。
さっきからわかっていても止められていないのだから。
織火がジャンプする。
美佐さんも同時にジャンプする。
織火はそこで真後ろにノールックでパスを送る。
そこにはイリヤがいた。
栄光全員の反応が遅れる。
その僅かな時間でイリヤはミドルからのシュートを放ち、決めた。
イリヤも使ってくるようになった……!
さっきの合図はこれだったのか!
壮さんを見るとさっきの体勢のまま真剣な表情で試合を見ている。
すごいけど馬鹿じゃないですか……!?
そしてディフェンスでもイリヤがすばやくスティールする。
そして織火にパス。
織火が再び切り込み、さっきと同じような手順でイリヤにパスを出す。
今度は栄光も反応できた。
反応して、ディフェンスに付いた。
それでもイリヤはシュートモーションに入る。
1回フェイクを入れると栄光の相手は飛んでしまった。
イリヤは彼女が落ちてくるのを待って、飛んでぶつかりながらシュートを放つ。
シュートのほうは外れたが、フリースローはきっちり決めた。
喜美の影に隠れて目立たないけれど、イリヤもホントに強い!
あれだけマークされていても平然と上からシュートを打ててしまえる。
トップスピードに乗るのも早く、ストップも早い。
そしてミドル、ロングのシュートも得意にしている。
それも高身長からの左利きシュート。
さらに独特の間合いと来ている。
止めるのが至難のプレイヤーだ。
一緒にいるのが喜美じゃなかったら、間違いなくエースになっている人物だ。
イリヤが解放されたことで蓮里が得点をとり始める。
対する栄光は体力が切れてきたようだった。
オフェンスにキレがなくなり、蓮里にイージーバスケットを打たせている。
だけど結局楓が戻ることは無かった。
最後のオフェンスをイリヤのミドルで終えて、前半が終了した。
蓮里47-50栄光




