修羅場の屈折娘
折れて曲がって
屈して零して
それでも何処へと
我は行く
配点(戦場)
side沢木
おはようございます。沢木です。
皆さんご機嫌はいかがでしょうか?
俺は朝起きたら沙耶に股間踏まれて気分最悪だよ畜生ッ!
沙耶曰く、昨日のガールズトークの流れでということらしい。
意味がわからない。昨日何を喋ってた?
朝飯対決では沙耶への復讐を成功させた。
お陰で沙耶にキレられた。
蓮里の中でもっともキレやすいのは沙耶だ。
ちょっとしたことですぐ怒り、暴力を振るう。
いつものことなので誰も気にしない。
ちなみに喜美は怒るということがない。
人を怒らせることに心血注いでいるような奴だからな。
俺が被害者だけどね!
織火はとても忍耐強い。
学校では喜美の保護者役をしているというのだから相当なものだろう。
しかし以前
「でも織火って胸は薄いよな」
と何気なく言ったら怒られた。
胸のことはきにしていたらしい。
「わ、私だっていつかそのうちもしかしたら万が一の確率で!」
「お前ほとんど諦めてね?」
殴られた。
女の子にカラダネタはいけない。
咲は喜美とは違うベクトルでゴーイングマイウェイな奴だ。
ボーッとしているし、ストレスなんて感じてなさそうだ。
怒ったところを見たことが無く、みんなも咲をからかうことはあまりないのでストレスが溜まらないのだろう。
イリヤは普段は温厚だ。
とても心優しい。
しかし俺のことになると性格が豹変する。
イリヤの
「ねぇ、お兄ちゃん?」
は母さんの
「ちょっと話あるんだけど」
並みの恐怖だ。
俺が他の女の子とイチャイチャすると嫉妬してくれるみたい。
でもイリヤは俺が好きだと明言していないからややこしいことになる。
新しいツンヤンを切り開いた偉大な少女だ。
「べ、別にお兄ちゃんのためにこの女を刺したわけじゃないんだからね!」
とかそのうち言われそうで怖い。
とまぁ、なんでそんなこと考えているのかというと、イリヤに説教を受けているせいだ。
「いい?お兄ちゃん。お兄ちゃんがイチャイチャしていいのは喜美か私だけ!」
「えぇ!?やっぱ私たちも標的に入ってたんですか!?」
「というか何で私OKなの?」
喜美が疑問する。
「だって喜美は妹だし。喜美とお兄ちゃんなら一線は越えないでしょ?」
「死んでも超えねぇな」
「誰がこんな腐れ兄貴と一線越えるのよ」
「ならお兄ちゃんはイリヤのものでしょ?」
「うん?その論理はおかしいような……」
俺が答えようとしたらイリヤにニッコリ微笑まれたので何も言わない。
「よしよし。いい?お兄ちゃんはこれから他の女の子に言い寄られても付いて行っちゃダメだよ?」
「いやぁ。場合によるかな、それは」
「なんで?お兄ちゃん、イリヤのこと好きなんでしょ?だったら他の女なんていらないじゃん!}
イリヤが微笑みながら言う。
いかん。
昨日のガールズトークからみんなおかしいぞ?
ホントに何話してたんだこいつら。
唯一理性を残していそうな織火に目を向けると仕方ないというように肩をすくめている。
「時間が経てば元に戻ると思いますよ。イリヤ、昨日のガールズトークの空気にあてられただけですから」
織火の言葉は力強く、信頼できる。
「でも今日試合だぜ?こんなメンタルで大丈夫なのか?」
「フフフ、舐めないでちょうだい。試合の時はきっちり気持ちを切り替えるわよ」
ねぇ?と喜美がイリヤに問いかけるとイリヤも頷く。
なんだか昨日のガールズトークがイリヤをおかしくさせたみたいだけど大丈夫みたいだ。
俺たちは練習の準備を整えて体育館に向かう。
西条の奴らはまだご飯を食べていた。
ホントにのんびりしているなぁ。
side健二
昨日知美たちが何を話していたのかすごい気になる。
みんな顔が赤く、話そうとしないのだ。
いや、無理やり聞き出そうとも思わないが。
でもやっぱり女の子がどんな話をするのかは一般男子として興味があった。
「健二さん!練習行きましょう!」
と、知美が顔を赤くしながら言う。
そして俺の腕に抱きついてクンクンと匂いを嗅いでいる。
「何をやっているの?知美?」
「えっと……健二さんとてもいい匂いでしたので……」
と知美がやはり赤くなりながら言う。
こっちにきてからまともにお風呂に入れていないのだが。
「昨日のあれのおかげで積極的になったわね」
「喜美ちゃんが言っていたのなんだっけ?匂い……フェチとか何とか?」
「よくわかんないけどいい匂いってことでしょ?」
「喜美のおかげで知美が大胆に……というか変態に……」
後ろで奈那子たちが何か言っているがよく聞こえなかった。
side沢木
「おはようございます。先生」
「おはようございます。アップはどうしますか?」
「朝早いですからたっぷり取りましょう。1時間後にどうですか?」
「私としてはいつでもかまいません。貴方たちが帰る時間が変わるだけです」
本日で合同練習は終わりだ。
よってこういうことにも気を配りながら戦うことになる。
小学生ばかりなので夜の9時とかに帰ると遅すぎる。
6時には家に着かせてあげたい。
「楽しみにしています」
「はい。よろしくお願いします!」
やべぇ!できる女性に期待されるって快感!
「というわけで栄光のAとの試合だ。わかってるな?」
「私がまた好きにしていいんですよね?」
織火の言葉に俺は頷く。
「でしたら、前半は私、沙耶、咲を中心に組み立てます」
織火は敢えて最初に自分たちを持ってきた。
栄光という強豪に喜美とイリヤの助けなしにどこまでできるのか確かめたいのだろう。
「いいですか?お兄さん」
「ああ、練習試合だからな。やりたいことはやればいい」
練習試合の意義とは、勝つことではない。
様々な戦法を試すことだ。
練習中にやっていることが試合で本当に使えるのかを試すものだ。
それを織火はよく理解していた。
「それじゃあ私がドライブで切り込みますから、咲はサイドに展開していてください。空いていたらそちらにパスを出します。沙耶は常に咲と反対のサイドに。私がサインだしたらきてください。パスをします」
織火がおおまかな作戦を決めていく。
その姿はとても頼もしいものだった。
確かに得点能力では他の奴らに劣るが、それを補って余りあるというか、喜美でも補いきれないような重要な役割を果たしてくれた。
「喜美とイリヤは動き回って体力を削ってください。たまにパスも出しますから」
「フフフ、やばかったら任せなさい」
「イリヤたちが控えてるからね!」
相手のほうも野火止先生がボードを持って書きながら説明をしている。
本気で来てくれる。
「よし、お前ら。楽しめ」
「ま、捻り倒すわ」
「押忍ッ!」
「行きます」
「楽しんでくる」
「行ってくるね、お兄ちゃん」
「あ、イリヤ」
「なぁに?お兄ちゃん」
「この試合が終わったら、結婚しよう。それで田舎に戻って一緒に暮らすんだ」
「試合前に死亡フラグとかバカじゃないの兄さん?」
「ダメだよ、お兄ちゃん。まだ、ダメ」
「ですよねー。よっしゃ行って来い!」
「よろしくね」
「よろしく」
キャプテン同士が挨拶をする。
身長差があるな。
みんなが配置につく。
そしてこの合同練習最後の試合が幕を開けた。




