決着場の後悔者
意地の張り所を
間違えなければ
成果は出るのか
配点(次こそは)
side知美
はっきりと悟る。
ここがこの試合の分岐点だ。
今まで何回も喜美と1対1をしてきたけれど、この1対1は特別だ。
ここで抜けるかどうかがこの試合の行方を左右する。
理屈じゃない。直感だ。
それだけ勘が冴えている。
今、私のコンディションは最高だ。
絶好調。
そしてこの1回、スタミナを気にせずにディフェンスを仕掛ける。
そして喜美の背中に手をかけてやる!
side喜美
自分の口の端が上がるのを自覚する。
ええ、ようやくね……。
ようやくノッてきた。
まだ兄さんとやるときほどの実力は出せないけれど。
私はどうしてか相手の実力に合わせる傾向がある。
だから私が本気を出すためには相手がそれなりに強くなくてはいけない。
ギアの2段目。
その領域に知美がようやく突入した。
いいわね……!
好きな匂いを嗅いだときのような、お気に入りの店がある通りに出たときのような、朝起きたときに兄さんがそばにいるとわかったときのような。
そんな感情がおきる。
私の感覚が勝負所だと叫ぶ。
わかってるわよ、そんなこと。
安心なさいな。私は沢木喜美。
兄さんほどではないけれど、勝負強さには自信があるつもりだから。
side知美
さて、目の前に喜美がいる。
どうやって止めるのか。
恥ずかしい話だけど、本当に止め方がわからない。
技が豊富にあるのが原因だ。
一気に切り込んでくるかもしれないし、その場でシュートが来るかもしれない。
パワードリブルで押し込んでくるかもしれないし、1対1にこだわらずパスを選択するかもしれない。
セットプレイの可能性だってある。
どうやって止めるか。
そんなことはどうでもいい。
止めなければいけないのだ。
勝ちたい、勝ちたい。
湊知美は、沢木喜美に勝ちたい!
「いいわ」
喜美のその言葉が合図だった。
喜美が一気に切り込んでくる。
ドライブを選択してきた。
急激なスピード変化になんとかついていく。
「ほらほら!」
喜美がそこからスピンムーブ。
さっき私がやってみせたのと同じ技。
「くっ……!」
ぎりぎりで止める。
その間に喜美は一気に右サイドに移動する。
そして一気に方向転換。
リングに向かう。
ゴールまではまだ距離がある。
喜美はそこでとんだ。
「なっ!?」
私は思わず飛んでしまう。
そこに体が当たってまずファール。
そして喜美はそこから腕1本を上に上げて、そこからボールを手首のスナップで放つ。
そんな不安定な状態からしかし喜美は綺麗に決めて見せた。
やられた……っ!
この勝負所で3pプレイを許してしまった。
これはまずい……!
実際、まずかった。
そこから一気に流れを奪われた。
こちらのパスはことごとくカットされ、蓮里は速攻を中心にして得点を重ねていく。
容易にパスもできなくなり、喜美の厳しいディフェンスのせいで私までボールが回ってくることも難しいというふうになってしまった。
反対に喜美は私のディフェンスをことごとくかいくぐり得点を量産し続ける。
私が失速したせいで、それがみんなに伝染してしまう。
雪や奈那子もシュートが落ちて、美奈は沙耶に完全に押しのけられるようになってしまった。
由梨も完全にバテてしまっている。
ほとんど消耗戦に近い形で私たちはそれからの試合を戦うことになった。
side健二
1戦目だったら。
そう思わずにはいられない試合だった。
負けた原因は早い話がスタミナ切れだった。
先ほど栄光と激しい試合を繰り広げて、休憩を取ったとは言え体力は回復していない。
その状態でこの蓮里に当たってしまったのだ。
非常に速いテンポで試合を進める蓮里に引きずられる形となった。
知美もよく頑張ったのだが、スタミナが足りなかった。
最後のほうは喜美に追いつくことができていなかった。
蓮里はほとんどのシュートをフリーの状態で打っていた。
蓮里122ー67西条
これが試合結果だ。
どれだけ点数をとられたか良くわかるだろう。
「うぅっ……」
試合が終わり、知美は号泣していた。
「ごめん……ごめん……!」
知美がみんなに謝り続ける。
「私がっ!私っ……喜美とマッチアップができるって思ったら、すごく、舞い上がって……何も考えずにただ突っ込んで……止められて……」
「知美……」
慰めても仕方ない。
これは本人が立ち直るしかないのだ。
だから俺は知美を思い切り抱きしめてやるしかなかった。
「あ……あああああぁぁぁ!!」
知美が俺の腕の中で泣きじゃくる。
俺はそんな知美にひと言だけ言った。
「次は勝とう、知美」




