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戦場の咆哮者

声で殺せ

気合で殺せ

配点(咆哮)

side知美


あそこからダブルクラッチ。


さっき楓ちゃんも似たような技を使ったけれど。


さっきの試合で横飛びのシュートは1本使った。


使用できるのはあと2回です。


どうする?


どうやって喜美を抑えよう?

どうやって喜美を抜こう?


おかしいな。

絶望を感じてもいい状況。


それなのに、心は澄んでいる。


気合いが漲っている。


思うことは1つ。


上等ッ!




side喜美


知美がさっきから嬉しそうに笑ってるんだけど。

何かしら?


叩きのめされ過ぎて頭おかしくなったのかしら?


何が楽しいのかしらね。






side沢木


いやぁ、あの状況であんだけ凄みのある笑顔ができるか。

なんかあっちの凶暴な顔のほうが似合っている気がする。

あっちが本性なのだろう。


健二、お互い嫁に苦労しそうだな・・・・・・





side健二


知美が笑っている。


いつものはにかんだような笑顔ではない。

口角を上げた、獲物を狙うような笑顔だ。


あんな表情、初めて見たかもしれない。

いい表情だ。


あれが、知美の本気だ。


「回してッ!」


知美が叫ぶ。

いつもの遠慮は消えている。


コートの上で知美は豹変した。


「邪魔ッ!」


喜美に思い切りぶつかる。

が、ぎりぎりファールではない。


「む・・・・・・」


喜美が驚いた顔をして、すぐに表情が引き締まる。


そして知美の体を胸で押す。


圧倒的ッ・・・・・・!


そんな言葉が漏れるような立派なディフェンスです。


知美が右から抜こうとする。


クロスオーバーで左へ。


更にもう一度バックビハインドで右に抜きに行く。


「甘い」


それでも喜美はその全てに反応して、それでも止めた。


しかし知美はもう1度バックビハインド。


そこからパスを飛ばした。


さっきのイリヤと同じ戦法。

突っ込んできたのはやはり美奈だった。


「させないっての!」


沙耶がディフェンスにつく。

どうする!?


「こっち!」


雪が叫びパスが通る。


そして覚えたてのドライブで抜きに行く。


相手はイリヤ。少し厳しいか。


「ラッ!」


大胆な動きで抜こうとしたがやはりイリヤが強い。


「由梨!」

「こっち!」


雪から由梨へ!


ボールが回りつづける。

息もつかせぬ攻防。


知美と喜美などボールがなくても凄まじい争いを繰り広げている。


「っと?」

「来い」


由梨の前に相手のシューティングガードがつく。

目立った動きはしないけれどきっちり仕事をする。


「いかない」


由梨は答えてレッグスルーで後ろにパスを出す。


「ナイスパス!」


奈那子がシュートフォームへ。

シュートクロックは残り5秒。


「打てッ!」


雪の声におされ、奈那子が飛び上がる。


織火も飛び掛かるが、それを見ながら奈那子はきっちり決めて見せた。


「よしっ!」


知美が吠える。


「よかった!」

「今のひょっとしてすごかった!?」

「いいよみんな!」

「知美、ナイス!」


すごい攻防だった。


1人1人が最高のレベルの攻撃を見せてくれた。


得に知美は最後まで喜美を抑えつづけた。

ボールを貰おうと常に動きつづけ、喜美を押しのけようとした。


結局喜美のディフェンスの前にボールはもらえなかったが、喜美が他のみんなに指示を出すことをさせなかった、


「取るわよ」


喜美が落ち着かせる。


「織火、任せるわ」

「はいはい。わかってますよ」


喜美が織火にボールを渡す。


織火がゆっくり上がってきて、3pラインリング正面で止まる。


右に喜美と咲、左にイリヤと沙耶が動く。


奈那子は警戒して喜美のほうに寄りつつ下がる。


織火に遠目はない。


「甘いですよ!」


その織火が3pからシュートを放つ。


それは綺麗とは言い難いフォームだった。


しかし、入ると思った。


ボールはリングで少し跳ねて、しかし決まる。


織火に遠目はない。

それさえもなくなったか。


隙が無くなってきている。




side織火


決まった!


お兄さんに付き合ってもらったシュート練習。


咲と同じように稽古をつけてもらった。


「いいか、ショートは絶対ダメだ」

「ショートですか?」

「そ、リング手前に当たること。後ろに跳ね返るからまず決まらない。いいか、ショートはダメだ」

「ショートはダメ」

「よっしゃやってみろ!」


それからは「ショートはダメ!」と叫びながらシュートを繰り返し打ち続けた。


シュートが決まらなくてもお兄さんは怒らなかったが、ショートになると烈火の如く怒った。


「いいか!何が何でもこれだけは注意しろ!いいか、ショートはダメだ!」


耳にタコができるとはこのことだろう。


もうトラウマで髪をショートにできない。

でも、それだけ身についた。


だから今のシュート、リングに跳ねたことが嬉しかった。


これでいいですね!


私はお兄さんを見る。


お兄さんは笑顔でバナナを食っていた。


無視することにする。


お兄さんがコーチになってから私の忍耐力は天井知らずになっている。


「さぁ、止めましょう!」


私は叫び、場を盛り上げる。


私のシュートに動揺したのか西条のショットが落ちる。


「寄越せコラッ!」


沙耶が叫びながら奪い取る。


美奈、すっかり縮こまってますね。


私にボールが来る。


ポイントガードというのはいい。

いつだってボールが来る。


私がゲームを支配しているという実感がある。


ゲームの流れを読み、着地点を探る。


もう、エンディングは見えている。


「咲!」

「やっと?」


今相手が注意しているのは喜美。そしてさっき決めた私。次にイリヤ、沙耶。


わざとではないのだろうけど、咲に注意がない。


由梨をマッチアップにつかせていることがそのいい証拠だ。


さっき私が決めたことから気づけないのか。


成長しているのは私だけじゃない。


ウチには、1人だって甘く見ていい選手はいない!


咲のシュート。


さすが本職。


ピュアシューターの面目躍如。


お兄さんのマンツーマン指導をみっちり受けて、フォームは完璧だった。


そして今まで突かれていた弱点、フェイスディフェンスをされると打てないというのを、早く打つというので解決した。


前の試合が終わってから咲はシュートまでの時間を縮めることに専念し続けてきた。


1ヶ月もあればある程度の成果は出てくる。


由梨が寄る隙すら与えず咲のシュートが決まる。


立て続けの3p2本。得点は離れるばかり。


これが、私たちの1ヶ月です!




side健二


……いよいよ隙がない。


今のところ、全てのマッチアップで負けている。


どこからでも点を取られる状況になっている。

そして誰も点を取れない状況になっている。


こういう時はどうするか。


「知美、お願い」

「任せてっ!」


奈那子が知美にパスする。


西条女バス不動のエース。


ここはエースが決めるしかない。

それがエースというものだ。


しかし、相手にだって不動のエースはいる。


「さぁ、来なさい」


沢木喜美。

全国MVPを取った沢木壮の妹。


高い壁。

圧倒的な強さ。


しかし、挑戦するならそれくらいがちょうどいい。


さぁ、見せてやれ知美!


知美が右に切り込む。


速いッ!


しかし喜美は平然とその前に立ちはだかる。


「遅いわ」

「これは!?」


一気にスピンムーブ。

強引に抜きに行く。


「遅い」


それでも喜美は立ちはだかる。


あそこまで完璧に抑えられるものなのか?


「そこッ!」


知美がさらにパワードリブルを仕掛ける。


喜美はそれをらくらく受け止める。


だがそこで知美はステップバック。

喜美との間に空間を作る。


ついに生まれた僅かな隙間。


ここを見逃すわけには行かない。


知美はさらに後ろに飛び、上体を逸らす。


フェイダウェイショットを打つ気だ。


前回よりフェイクを多く入れて打つ。


喜美が驚いた表情をする。

さすがに予想外だったようだ。


俺もここまで諦めの悪い知美は初めて見た。


しかし、喜美は驚きながらもブロックにとんだ。


「チッ」


知美のショットが決まる。

ぎりぎりで喜美の手は届かなかった。


「よしッ!!」


知美が普段ではありえないほどの咆哮を上げる。


ついに喜美から点を奪ったのだ。


そろそろ1Qも終わる。


試合は中盤戦へと入っていく。

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