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試合途中の敗北者

最後の力

意思の力

それさえも

奪われて

配点(圧倒)

ハーフタイム


side京香


あーあ、無理だ無理。


あんな相手勝てっこない。


絶対的な力を誇るエースの喜美ちゃん。


緩急のついたドライブと、それをフェイントに放つシュートが脅威のイリヤちゃん。


基本に忠実なパス、だけでなくトリッキーなパスもこなせる織火ちゃん。


その恵まれた体格でゴール下を制圧する沙耶ちゃん。


そしてまだその力を見せていないシューターの咲ちゃん。


この5人のうち、誰一人として止められない。


実力が違いすぎる。


そしてそれをコーチの手腕で埋めようにも、向こうのコーチは沢木壮。


中学時代に弱小校を全国1位にまで導いたエース。


1人でセンターからガードまでこなし、コーチの役割も担っていたという。


その経験から繰り出される作戦は見事としか言いようがなく、こちらの動きは全て読まれている。


こんなのでどうやって勝てというのだ。


無理だ。無理無理。


「諦めんなよ!!」


それでも私は叫ぶ。


ゴメン。心の中ではこんなこと考えちゃってごめん。

きっとみんなもわかってるんだ。


あー、勝てないなって。


でも、それでも諦めることは許されない。


それが王者栄光。


何があっても諦めることだけはしない。


最後の最後まで意地でも喰らい付く。


それが栄光。


「まだいける。まだ行けるよ!30点差がなんだ!追いつけるよ、絶対!」


作戦なんてもうない。


切れるカードは全て切ってしまった。


もう蓮里のオフェンスに対抗する手段はない。


あのディフェンスを崩す手立ても残されていない。


それでも諦めない。


精神論だと笑うか?


笑いたければ笑え。


私たちはそれでも勝つことを義務付けられている。


勝たなければいけないのだ。


「喜美、イリヤ!この2人は絶対に決めさせないよ!あとの3人は落としてくれかもしれない!」

「はい!」

「ここまできたらもう遠慮も何もいらない!下手に考えてもしょうがない!シンプルに行くよ!しっかりディフェンスを1対1で抑えて、隙があったら速攻、ダメならしっかりハーフコートオフェンスを展開していく!いいね!?」

「「「「「はいっ!」」」」」




side沢木


さて、ここから詰めに入るわけだが。


ここで詰めが甘いと喰われる恐れがある。


動物を相手にして、1番危険なのは瀕死状態だ。


何をしてくるかわからない。


逆に思い切りがよくなってとんでもないプレーを連発してくるかもしれない。


実際俺、中3の時にいっきに追いつかれたことがあったし。


最終的に神様に救ってもらったものの、あれはびびった。


「ディフェンスはしっかり。ディフェンスをきっちり守れば自然にオフェンスもいい流れで決まる」


ここまでくればもうあまり言ってやることもない。


もうこいつらだけで十分ゲームメイクができる。


織火にはつらい思いをさせた。


ゲームを作っていくために色々教えて、そのために点を獲る技術をあまり教えることができなかった。


やっぱ点を獲るのが1番楽しいからな。


でも織火のおかげでこちらは磐石の態勢に入っている。


誰もファールをしていない。


切り込んできたらある程度甘くディフェンスをしたのでとられていない。


そして相手はかなり取られている。


イリヤのドライブを止めるのはかなり厳しいみたいだ。


チャージングを奪おうにも、それより速く突っ込んでくるのだから。


そして喜美はファールで弾き飛ばしてもそこからシュートを決めてしまえるので、もう誰もファールでとめようとしない。


喜美のバランス感覚は天性のものだ。


小1くらいのときには鉄棒の上に飛び乗ることができた。


今現在。小6では鉄棒の上で逆立ちができる。


胡坐をかいて座ることができる。


鉄棒の上からバック宙を決めることができる等々。


俺には備わっていない驚異のバランス感覚だ。


よってどれだけ体を当てられて飛ばされても、その状態からしっかりシュートを決めることができる。


体幹が強いとかそういうレベルじゃない。


織火は自分でもいけるということを証明したので、さらにディフェンスが難しくなっている。


今の織火は外からのシュートも、フリーなら5割程度の確率で決めてくれる。


もう見過ごすことができない存在だ。


そしてまだ沙耶と咲というカードを切っていない。


咲はべったりくっつかれるとシュートが打てないという欠点はあるが、フリーになってしまえば3pシュートでもかなりの確率で決められる。


沙耶は流れを変えたいときに必須の人材。


豪快なプレーでチームを盛り上げる。


そしてリバウンドを奪って相手に攻撃のチャンスを与えず、味方にセカンドチャンスを与える。


縁の下の力持ちであり、もっとも派手なプレイをする人物でもある。


「どうするの兄さん?」

「織火に任せる。好きにしろ」

「え?本当に好きにしますよ?」


織火は真顔で冗談を言えるようになったんか。


織火の真面目な性格からしてあまりにぶっ飛んだプレイはしないと思うけど。


でも、ここまで喜美という爆弾女を抱えて指揮をしていたのだからストレスがたまっているのかもしれない。


「す、好きにしたらいいじゃない!」


不安だったので思わず女言葉になってしまった。


「じゃあ沙耶、初っ端アレで」

「ああ、アレ?いいの?成功するかわかんないけど」

「失敗しても脅威にはなるよ。やろう」

「織火に任せるからいいよ」

「アレをやるの?いやだ!織火大胆!」

「織火ちゃんすごーい。圧勝しているところでハーフタイム終わってさぁ行くぞってところにアレ叩きつけるとか悪女だねー」


イリヤ。悪女とか言わないで。


自分に向けて言って下さい!いや!可愛いんだけどね!?


「よし!じゃあアレでいくよ!」

「「「「押忍ッ!」」」」


結局アレ、という言葉だけだった。


何をやるかは大体想像がついているが。


それにしてもこの流れが変わるかもしれない3Q開始時点でそこまでの博打を打つんか。


ハッハッハ、織火はひょっとしたら俺似かもしれないな!



蓮里65-34栄光B





3Q


side喜美


向こうのオフェンスからのスタート。

決意新たに試合を展開する栄光。


オフェンスにも気合が入っている。


あら、これはひょっとして織火の作戦が効くのかしら?


この点差から再起したのは中々やるけれど、その分もう1回心を折られれば終わる。


織火がこの作戦を提唱したのはふざけていたからではなく、これを考慮していたから?


私にはできないわね。こんな発想。


私そんな悪女じゃないしね!


「織火、まわしなさい」


織火からボールをもらう。

すぐに付いた相手からボールを引き離し、全員が所定の場所に着いたのを確認して開始。


こちらに近づいてきた織火にボールを手渡しし、少し動いてスクリーンに入る。

イリヤも同様にスクリーン。


ダブルスクリーンを用いて織火がフリーのままペイントエリアに侵入する。


相手の顔が全員織火を見た。


織火は先ほど個人技でシュートを決めている。

その印象が強くて、全員織火に注意し、そちらを見てしまった。


エンドライン沿いを走る沙耶を見ていなかったのがミスだ。


織火のパスはシュートにしてはやけにゆるいものだった。


それは沙耶へのパス。飛び上がり、誰にも邪魔されること無く空中でボールを掴む沙耶。


運動神経のよさなら男子を差し置いて、蓮里で2位だろう。


その運動能力の高さゆえ、身に着けるのはそれほど難しいことではなかった。


相方とのコンビネーションも重視される技。


アリウープ。それが炸裂する。


「っしゃああああ!!」


これはただの一撃ではない。

流れを引き戻す一撃。


相手の顔に一瞬絶望が見える。


勝負あり、かしらね。


「まだまだ!」

「まだ行けるよ!」


そう口では言っているけれど、やはり心のほうはどうしようもない。


そこからはただの1度もヒヤリとさせられるシーンは無く、私たちの圧勝で試合は終了した。




side沢木


「ありがとうございました!」

「ありがとうざいました」


試合が終わり、挨拶を交わし、帰ってくる。


「ま、良い判断だった。織火」


「ありがとうございます!」


「ま、決まったからよかったけどな。外れていたら少しは追い詰められてかもしれない」


「それでも、あそこで決めに行くべきだと思いました」


「決めに行ってやる!と思えるうちはあれでいい。ガンガン攻めろ。勝ってるからってゲームコントロールに入るような甘いチームじゃねえってことを見せ付けろ」


「はい!」


「お前ら、よくやった。練習の成果もしっかりでているな。ディフェンスが前回より格段によくなっている」


「そりゃねぇ。あれだけ練習して何も効果なしだったら……クケケケケケケケ!」


「あぁ!沙耶が壊れた!」


みんなで必死で鎮める。


どうやらあの練習は本格的に沙耶のトラウマになったみたいだ。


「壮、そっちはどうだった?」


と健二が近づいてきた。


「137対46だ。まぁこんなもんか」

「こんなもんって……ああ、ウチは73-80で負けたよ」

「へぇ」


それは西条が強くなっているのか、栄光のAチームが弱いのか。


とにかく、次は西条との試合だ。

前回から1ヶ月。


どれほど強くなったのか。


そしてウチがどれほど成長したのか、試してみることにしよう。

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