修羅場の嫉妬娘
嫉妬
ヤンデレ
その違いは何か
配点(愛ゆえ)
side沢木
本日2日目の夜。
楓に遊びに来ないかと誘われたが、寒気がしたので断った。
「それ私の肉!」
「知るかキャベツでも食ってろ!」
沙耶が襲ってきたので変えで肉をキャベツに変えて食わせた。
箸によるバトルは、触れれば食べるというルールなのでフォークよりずっと難しい。
「フフフ、ゆっくり食べなさいな」
早業で全員から肉を奪い取り食い尽くした喜美は高見の見物だった。
俺に鍋奉行を押し付けてこの仕打ち、ひどくね?
「な、なあ、お前ら?」
「うん?」
声をかけられたので見ると健二だった。
その隙にイリヤに根こそぎ奪われた。
「ぎゃああああ!?健二!テメェよくも!」
「怒る相手間違ってないか?」
スープまで美味しく飲まれて、俺の敗北は決定的だった。
「火はどうやって着けたんだ?材料はあったし、炭もあったんだけど着火できなくないか?」
「あぁん!?気合いだよ気合い!」
俺は自棄になって叫ぶ。
明日は腹減り死亡確定だ。
「ほらよ」
と適当に石を2つ掴んで打ち合わせて火を点けた。
「わぁ!すげぇ!それ教えてよ!」
「カメハメ波を撃つ要領で点けろ」
「おぅ!って無理!」
火打ち石ってもう使えないもんなんだね。
仕方なく西条のみんなと一緒に座って教えることにした。
料理ができるのを待ちながら、火打ち石の使い方を教えながら、少しおしゃべりもすることにした。
「いつもあんなに厳しくやっているんですか?」
「厳しく?ああ、練習のことか。そうだな」
西条の6人がうなだれる。
「全国って、どんななの?」
と雪に問われる。
どんなって聞かれてもなぁ。
「1番面白い場所かな?」
「面白い?」
「そ、県とかだと見たことある奴ばっかだろ?でも全国行くと面白い奴いっぱいいるんだよな」
「へぇ!例えば例えば!?」
「そうだなぁ」
俺は親戚だけで固められて、やたらチームワークのいい奴らとか、ゴリラみたいなセンターがいるとことか、ストリートバスケみたいな派手な技を連発する奴らの話をする。
それにしても驚いた。
本当に目線は全国なんだな。
県から出場できるのは2校。
ウチか栄光と当たれば倒さなければいけない。
勝つ気、なんだなぁ。
「壮さん、蓮里の5人で1番好きなのは誰ですか?」
「イリヤだね!」
奈那子に言われて俺は笑顔で答える。
聞こえるように大声で。
「どんなところが好きなんですか?」
む、食いつくな。
「あの綺麗な髪だろ、透き通った瞳だろ、可愛らしい唇だろ、あの純粋な心だろ、あの話し方だろ、気が回るところだろ、あの嫉妬も可愛いよなぁ!あ!それに」
「もういいです」
奈那子に止められた。
「1晩は話せたのに」
「それも気持ち悪いですけど、こっちの2人がパンクします」
「うん?」
奈那子の指す先には頭を抱えてウンウン唸る知美と美奈がいた。
「えっと……髪はお手入れしているし、それに目……目!?眼鏡をかけたらダメってこと?……それに唇……も、手入れしてるから大丈夫……私、純粋?じゃないよね。?イリヤちゃんの話し方って……気は全然回らないし……それに、嫉妬って……そんなはしたない……でも健二さんのためなら……」
「男の人は髪とか目を見るんだ。じゃあもうちょっとお手入れするようにしようかな?この自信ない話し方も変えたいなぁ」
うわぁ。
「俺の意見であって、男代表したつもりはないんだけど」
「でも健二さんと同い年の男の人の好みは、2人にとってはすごく重要なんです」
「どうしよ?」
「でもあんまり的外れなことも言ってないから大丈夫じゃないですか?」
奈那子は出来る子だ。
「壮はイリヤ好きなの?」
「おう!大好きだぞ?」
「由梨も壮好きだよ。みんなと違ってすごく叱ってくれるし」
「お前……Mだったのか……」
「違うよ!」
「はっはっは、でもありがとな」
その時、隣で奈那子がひぃっ!と悲鳴を上げる。
「どうした……んですか?イリヤさん?」
「お兄ちゃん。ねぇ、お兄ちゃん?」
「は、はい……」
「イリヤね、今すごいガッカリしてるの。なんでかな?」
「な、なんででしょうね……」
「しらばっくれるんだ。お兄ちゃん。昨日あれだけ体に言って聞かせたのに。まだわからないんだ?」
「えぇっと昨日のことって……?」
「ふぅん。ならいいよ。お兄ちゃん、今西条の子とおしゃべりして楽しかった?」
「楽しかったです……」
嘘をついていはいけない。
俺の頭に喜美の珍しく本気の声が響く。
「へぇ。言い訳しないんだ。感心感心」
イリヤがプレッシャーを止めてくれる。
「嘘をつかなかったからいいよ、お兄ちゃん」
やっぱり嘘つかなくてよかった。
心の底からホッとする俺。
「じゃあ奈那子ちゃんと由梨。ちょっとこっち来ようか?」
「え!?いや、私は……いやあああああああ!?助けてええええ!」
「健二!?怖いー!」
イリヤは笑顔で二人の襟首を掴んで木立に消えた。
この間全員が手を握り締めて2人の無事を祈っていたのは言うまでもない。
しかし帰ってくると驚いたことに2人は嬉しそうだった。
「だ、大丈夫か!奈那子!?由梨!?」
駆け付けた健二にも笑顔で対応。
「一体何を話してたんだ?」
「あの西条のコーチの好みについて少し、ね。これであいつらの目はお兄ちゃんに向かないはずだよ」
俺はもうイリヤに逆らわないことを心に誓った。
side喜美
また修羅場になったのでさっさと逃げ出すことにした。
イリヤの暗黒面は非常に危険だ。
「それにしても、広いわね……」
走り思う。1周走って3キロはあるのではないだろうか。
明日から少しずつ実戦形式の練習が始まるはずだ。
あの美有という子、どうだろうか。
ま、いいわ。関係ないこと。
美有がどんなだろうと、勝てばいいのだから。
side沢木
いつものトレーニングをして、寝る前に考える。
楓は、喜美をどれだけ本気にさせてくれるだろうか?
喜美は今までの試合で本気を出したことがない。
わざとではないのだろう。
でも、明らかに俺とやっている時より弱い。
相手の実力が一定以上でなければ本気を出せないのだろう。
知美ではダメだった。
少しキレが見えたが、まだまだ。
本気になった喜美はあんなものではない。
俺が喜美に本気になってほしいのは、勝つためではない。
喜美のプレイ、どこか違和感があるのだ。
ほとんど完璧なのに、どこか嫌な感触がある。
目の前で相対してはわからない何かおかしな違和感。
外から冷静に見ればわかるかもしれない。
喜美の違和感の正体が。
俺は喜美のことをあまり知らない。
そりゃ他の奴らよりは知っている。
寝相が恐ろしく悪いとか、どこか俺に依存する所があるとか。
でも、本質的なことはわからない。
神に愛された、と言っても良いような人間。
沢木喜美。
俺は奉納によって神の加護を得るが、喜美はただ存在しているだけで神の加護を得ているような気がする。
才能の塊みたいな喜美。
一体何を考えているのだろうか?
喜美、お前は何なんだ?




