栄光の排球者
隣の芝生ではなく
自分の芝生の青さに
気づけるか
配点(求道)
side楓
栄光はスポーツに特化した全寮制の女学院だ。
小中高大学までエスカレーターという金のかかる名門私立だ。
そんな学校で6年間も過ごしていれば、センスとか関係なくかなりの運動神経を手に入れられる。
ほとんどの部活が全国まで駒を進めるのだ。
そんな奴らが体育の授業をすればどうなるか、なんて言うまでもない。
「バレーか。練習してんのは横目で見たことあるけどな」
「実際にやったことはないですね。あのワンタッチアリウープをバレーにカウントしていいなら別ですけど」
今日の授業はバレーだった。
体育着に着替えて体育館に行った時には全員が集合していた。
は?ブルマ?何言ってんだテメェ。
世の中そんなロマンに溢れてねぇんだよ。
「楓!是非ウチのチームへ!」
「美紗!こっち!こっち!」
なぜか知らんが、バスケ部はバレーが得意ということになっているらしい。
「だってさ、どうする?美紗」
「あのチーム、バレー部結構いますからね。私達が行くとパワーバランスが崩れますね」
「じゃあ向こうのラグビー部のほう行くか?」
「いや、あっちのカバディ部のチームに行きましょう」
「それもパワーバランス崩れるだろ。ウチのカバディ部メッチャ強ぇぞ?」
「そうですか……じゃああっちの東京フレ○ドパーク部に行きますか?」
「奴らも全国優勝チームだ」
「じゃああっちのソフト部と野球部の連合チームに合流しますか」
「ま、そうするか」
ということで笑顔のソフト野球連合軍に迎え入れられる。
それを見てカバディ部とラグビー部が同盟を結ぶ。
栄光では部活の仲間と過ごす時間が大半を占める。
寮生活も部活単位だ。
だからクラスでチームを作る時も部活単位で分かれることが多いのだ。
アップのジョグ、体操、柔軟が終わって、各自での練習となる。
栄光の6年はスポーツ科学の授業も受けるようになり、こういう時の練習の組み立て方も学んでいる。
「どうします?サーブ練は無視でいいですよね?」
「サーブ打って、レシーブして、トスして、スパイク。これで各1人ずつ。あとブロック2人でピッタリだろ」
「オッケー。じゃあそうしよう。1つのポジションで3回やったら次のポジションに交代。1周したら次の練習。OK?」
「「「「「OK」」」」」
すんなり決まって練習開始となる。
「じゃあ行くぜ」
私のサーブで練習スタート。
ボールをその場でドリブルして、空中に放る。
ダンクも出来る私の跳躍力をナメんなよ。
思い切り飛び上がり、手をボールに叩き付ける。
よし、かなりの球威のサーブだ。
「はいはいっと!」
ま、この程度は美紗なら簡単にレシーブするけどな。
勢いを殺して完璧なレシーブでネット前にフワリと送る。
「オラァ!!」
それを野球部キャプテン浅間がブッ叩いた。
飛んだソフト部2人の手を弾き飛ばして私の前に落下してくる。
「ま、こんなもんか」
ボールが床に着く前に蹴り上げた。
落下してきた所をキャッチ。
「おし。続けるぞ」
それから計画通りにメニューを消化し、次のサインプレーの確認と練習もこなした。
バックアタックの確認もした所で時間終了。
いよいよ試合となる。
くじ引きで当たった相手は
「バド部とテニス部連合か……」
「フィジカル的には勝ってますけど、コートゲームは向こうのほうが慣れてますね」
「気をつけろ。アウトは全部見られるぞ。入れてこう。体狙うぞ」
「「「「「了解」」」」」
相手を見てすぐに対策が立てられる。
本当にIQ高いヤツ多いな。
ちなみにポジションは、私がライト。
美紗がセンターでセッター。
浅間がもう1人のライトで野球部もう1人がライト。
ソフト部2人がレフトだ。
「まぁどっちにしろ打てるんだけどな、私達」
「はいはい。試合開始ですよ」
チームは6チームあり、4チームが試合で2チームが審判をやる。
審判アリだと下手なことできねぇな。
まず最初のサーブが私。
笛が鳴り、ドリブルをする。
そしてボールを上に放り、
「ラァ!」
思い切りジャンプしてサーブを打つ。
「はい!」
「やっちゃって新井!」
しかし相手もそれをいとも簡単にレシーブ。
ネット前に余裕を持って放り、それを綺麗にトス。
完璧な流れ。
「飛べ!」
「楓裏見てッ!」
「わかってるっつうの!!」
フェイントを警戒して、ブロックに飛ぶ裏のスペースに体を入れる。
「ッシャア!」
しかし新井は意外なほどに素直にスパイクを打った。
「「「アッ!?」」」
とんでもない威力で。
ボールはブロックの手に当たって吹っ飛ぶ。
向こうのコートまで行ったので取るに取れなかった。
「おい、新井ってあんな力強かったっけ?」
「楓。バドミントンはジャンプスマッシュを多用します。多分スパイクもジャンプスマッシュも似たようなものなんでしょう」
「慣れてるってことか」
「バレー部の次に慣れているでしょうね。気をつけて下さい」
「ああ。ってことはたぶんフェイントも……」
「クリアを打つ要領で打てばいいだけですからね。上手いと思いますよ」
「わかった。ならそれを計算に入れてやるだけだ」
それくらいの修正能力はあるつもりだ。
美紗や琴美は喜美のような化物ではないけれど、私だって栄光バスケ部のキャプテン。
運動神経には自信がある。
クラスの中でも群を抜いている自信がある。
相手サーブが自分の方に来たので、軽く蹴りで上げてやった。
それを野球部がトス。
「クイック!?」
「イエス!」
ボールが上がりきってから打つのではなく、上がっている最中に叩いてしまう技。
相手はかなりタイミングをズラされることになる。
「よーしオッケ!」
さっきの練習が生きているな。
そのまま試合はシーソーゲームで進んでいく。
どちらかが取れば、どちらかが取り返す。
そんなことを繰り返していると、私と美紗が前を張るローテーションになった。
「おぅ」
「なるほど。ま、バスケ部の底力見せますか」
「だな」
こっちのサーブで試合がスタート。
野球部が飛ばし、相手のテニス部がレシーブ。
そのままもう1人のテニス部がトス。
サーブのときにボールを上に上げるから慣れてんのか?
関係ねぇか?
そのボールをバドミントン部がスパイクで打つが、ウチのほうもそろそろ目が慣れてきている。
もともと野球とソフト。
速いボールを見極めるのは得意なのだ。
手を咄嗟に出して跳ね上げ、美紗がそちらへ走る。
「要するに、ワンタッチアリウープパスを出せばいいだけですよね?」
そしてボールを弾くように空中にパス。
ま、そういうことだ。
「だったらスパイクはワンハンドダンクってことだよな……!」
だったら私、何度もやってんだよ。
空中でボールを一瞬掴み取り、
「ウラアアアアァァ!」
相手のブロックの手を丸ごとふっ飛ばすような勢いでスパイクを打った。
スパイクはものすごい勢いで床にバウンドした。
「ま、こんなところか」
「バスケ部としての体裁は保てましたかね、今のプレーで」
美紗と拳をぶつけ合った。
それにしても、やっぱ才能ってのはあると思う。
私はバレー初めてだったし、美紗も始めてだったらしい。
美紗はこういう時に嘘をつく人間ではないから、本当なんだろう。
それでこの動きは反則だと思う。
「っと」
美紗がこちらにトスを上げるフリをして、逆側、ぽっかり空いていた空間にそのまま流し込んだ。
相手のバレー部が慌てて飛び込むが間に合わない。
そりゃそうだ。
間に合わないように打ったんだろうからな。
「こんなものですか」
こんなものですか、じゃねぇよ!
どんなものだよ!
バレー部見ろよ可哀想だろ!
アイツらが3年かけて必死で積み上げたものを、僅か30分くらいで超えていく美紗。
視野が異常に広いんだよな。
ホント、背中に目がついているんじゃねぇかって、レベル。
バスケの時も、誰かが一瞬でもフリーになればパスが飛ばされる。
見えているのだ。コートの全てが。
特別身体能力が高いわけじゃない。
身体能力だけなら勝っている自信はある。
でも、美紗には頭脳がある。
一瞬で最適解を見つける頭のキレが美紗にはある。
IQの高さ。
それが美紗の才能だ。
ポイントガードとしては申し分ない女だ。
分けてくれ、その才能。
と美紗に言うと、
「だったら楓も下さいよ」
と苦笑いして言う。
私は、自慢じゃねぇけど才能なんてない。
カケラもない。
あんのは努力の果てに磨きぬいた技ばっかだ。
琴美のように、本能的にプレーしてあそこまで勝つことが私には出来ない。
勝負への嗅覚みたいなのが、他の連中と比べて弱いのだ。
それを補うためには努力しかない。
考えるしかない。
これは自慢だが、才能なんてなくても、才能のあるヤツに勝つことはできた。
1対1なら美紗には勝ち越しているし、琴美や喜美にもいい勝負が出来ると思っている。
でも、まだだ。
私が勝ててもチームが勝ててない。
もっと、もっと武器が欲しい。
喜美やアルに1歩も退かないような、むしろ1歩退かせるような、そんな武器。
そんなことをウダウダ考えていたら、試合が終了していた。
全ては美紗のゲームメイク通りに進み、現役バレー部2人を擁するチームを撃破していた。
体育が終わり、教室に帰るまでの間もずっと考えていた。
私の武器。
何だ。
何かヒントが欲しい。
何を目指せばいいのか、その指針だけでも欲しい。
何か、何か……
「……ぇで。楓」
「おぅ、何だ美……先生ッ!?」
気づいたら教室にいて、私の後ろに春秋先生が立っていた。
教室の温度が一気に10℃くらい下がった。
「な、なんでしょうか、春秋先生」
「楓。これをさっき受け取って歩いていたら、偶然貴女を見つけたので」
「は、はぁ……」
何かプリントのようなものを手渡される。
「これ、何ですか先生?」
「自分で見なさい」
また教室の温度が5℃くらい下がった。
チョービビリながら折りたたまれたプリントを開く。
するとそこには、
「全国強化合宿の招待……?」
「はい。楓、美紗。2人に招待が来ています」
「……ククッ」
「どうしましたか?楓」
「いえ、すいません。ちょっとタイミング良過ぎて。笑いが出ました」
ヒントが欲しいと思った瞬間にコレだ。
しゃあねぇな。
学校は再び休まなければいけないみたいだ。
次回は春沼メンバーの登場です。




