優勝後の祝福
頂点に立った時
人はどこを見る
配点(その次)
side喜美
「あああああああぁぁ!」
知らず、咆哮がほとばしる。
気づいたら観客席に向けて叫びを放っていた。
「っしゃああああああ!!」
「喜美!喜美ッ!!」
すぐに織火が飛びついて来る。
そしてそれに続くように一気に3人分の重みが加わってきた。
「勝った!勝ったあああぁぁ!!!」
「勝ったよ喜美ッ!アルに!春沼に勝ったッ!!」
「日本一だ!私達がッ!!」
髪を引っ張られたり、ユニフォーム引っ張られたり。
揉みくちゃにされながらベンチに戻る。
ベンチのほうからも兄さんが飛び出して来た。
「お前らッ!よくやったッ!最高だあああぁぁ!」
兄さんが私達5人まとめて抱き抱えるようにする。
「喜美ちゃん!流石だよ私の幼なじみッ!」
「イリヤー!最高ッ!」
「フン、まぁ、よくやったよ」
「織火!織火ッ!」
すごい……すごいすごいすごい!!
こんな……こんな世界があるなんて!
この世界の全てが私を祝福している!
「勝った……勝ったわよッ!!」
side大祐
試合が終わった瞬間、まず桜とリールがその場で崩れ落ちた。
「嘘だ……」
桜が呆然と呟く。
メリルも信じられない、という表情になり、すぐに目から涙が溢れ出していた。
「そんな……負けたんですの……!?」
千里は最後にいた所から1歩も動かず、狂喜する蓮里5人を睨みつける。
そして、
「……」
アルが顔を伏せたまま、俺の隣に腰を下ろす。
下を向いたまま、震えている。
「アル……」
呼び掛けてもアルは首を振るばかり。
「……!」
そして、俺の腰に抱き着いて顔を埋める。
誰にも顔を見せまいと、必死で隠していた。
そして俺にだけ聞こえるように、そっと呟く。
「この私が……!」
「ああ」
「この私が……負けるなんて……!」
「ああ」
「ありえない……ありえない……!」
「アル、負けたんだ。負けたんだよ、俺達は」
「あぁ……」
アルが俺の腰にグリグリと頭を押し付ける。
嗚咽を漏らす。
「ああああああああぁぁ!!」
あのアルが吠えた。
喉の奥から絞り出すような咆哮。
その絶叫が俺に、春沼が負けたということを強く実感させた。
蓮里114ー112春沼
side壮
「優勝おめでとうございます!いかがですか!?」
「妹の喜美さんのプレイ、兄から見てどうでしたか!?」
「春沼のアルさんについて一言!」
「え、えぇっと……」
「部活の設立から10ヶ月ほどでの優勝ということですが!その秘訣はずばり!?」
「えっとですね」
「春沼のビッグスリーについてお願いします!」
インハイ優勝直後も、こんなに囲まれたことはなかった。
表彰式の準備に少し時間がかかるらしいので、一旦上に上がって待機してくれと言われた。
というわけで、いつまでもコート上でじゃれあっている5人を抱えて上に持っていく。
で、その途中で記者の人達にインタビューされているというわけだ。
5人のほう、特に喜美とイリヤも楽しそうに答えている。
喜美なんかこういうのには慣れているし、俺だって初めてじゃない。
「やはり決勝ということで、非常に苦しい戦いを強いられましたね。春沼は本当に強敵でした」
「勝因は何でしたか?」
「アルのレイアップ、ダンクを前半の間封じ続けたこと。メリルの速攻を使わせなかったこと、が大きかったと思います」
というかディフェンス、それしか考えていなかったからな。
「兄妹での全国制覇ですね?」
「まぁ、そうですね。でも喜美はまだまだですよ。もっと強くなれますよ、アイツは」
「春沼のビッグスリーはやはり強かったですね!」
もはや疑問形ですらないぞ。
「そうですね。特に4Qのアルは流石でした」
「ありがとうございました!優勝、おめでとうございます!」
「はい!ありがとうございます!」
そして記者達は俺から離れ、咲のほうを囲みに行った。
春沼のほうには大祐にだけ記者が質問していた。
春沼の5人は、強いな。
最後の挨拶の時も全員がしっかりと礼をしていた。
あれが強いってことだ。
でも俺らのほうが強いけどな!
イイイイイイイイヤッフウウウウウ!!
side喜美
「1位、蓮里小学校。おめでとう!」
シンプルに言われて、トロフィーを手渡される。
隣のイリヤが賞状を笑顔で貰う。
一礼し、振り返って軽くトロフィーを振ると歓声が沸き上がる。
勝つことでしか得られない経験がそこにはあった。
これが優勝するってことなのね。
「2位、春沼小学校。よく頑張った」
アルは涙は流さずに、淡々と賞状を受け取っていた。
続く菫も少し苦笑して受け取り、琴美は満面の笑顔で賞状を受け取った。
「それでは、MVPの発表です。今回のMVPは満場一致で決まりました。……沢木喜美!おめでとう!」
まぁ、そうでしょうね。
思いながら前に出て、先ほどと同じ手順で盾をもらう。
列に戻り、
「ちょっと沙耶。重いからトロフィーか盾どっちかもって頂戴」
「じゃあトロフィー持つわよ」
そんなやり取りをして、再び前を見る。
「それでは皆さん、蓮里に今一度の祝福を!」
司会の言葉と共に、観客席から再び拍手の嵐。
それを聞きながら、ふとこんなことを思っていた。
終わったわね、と。
それからのことはよく覚えていない。
歓喜してホテルに戻ってバイキングで祝賀会をして、そのまま荷物を纏めて帰ることになった。
その間、ずっと虚脱感みたいなものがあった。
終わったのね。
本当に。
4月に初めて、ここまで全力で打ち込んできたもの。
それが最高の形で終わった。
終わって、しまった。
勝った。
そう、過去形だ。
もう過去の出来事になった。
インハイが終わったあとの兄さんも、こんな気持ちだったのかしら。
「喜美、どうした?」
みんながホテルを出て行き、最後に私と兄さんが出た。
自動扉が開くが、私は外に踏み出さなかった。
1歩先に踏み出していた兄さんが振り返って問いかける。
「いえ……終わったな、と」
「そうだな。終わっちまったな」
兄さんは何を諭すでもなく、そんなことを呟いた。
「……どうだ?喜美?」
「ええ、大丈夫よ。兄さん」
少し時間を空け、兄さんが尋ねたとき、そう答えられた。
1歩、外に踏み出す。
2歩、3歩。
そしてホテルのほうに振り返り、一礼する。
「もう、大丈夫よ。私は次を見たわ」
「そうか」
「ええ、来年も日本一を取りに行くわよ」
そして私はホテルに背中を向け、私と兄さんが来るのを待っているみんなのほうに1歩を踏み出した。
次回からは平穏な生活……にやっぱり戻れない沢木家のドタバタです。
正月の誕生会でちょびっとだけ名前の出てきたあの人たちが出るよ!




