天才達の頭脳戦
人の理性は
獣の本能を超えるか
配点(IQ)
side喜美
タイムアウト終了し、コートに出る。
あと3分以内に、この流れを変えろと要求された。
要求されたら、応えなくちゃね?
「全力よ……!」
織火からボールを受け取り、イリヤに飛ばす。
流れを変えるなら3pかアリウープ。
アリウープに決まっている。
イリヤが3pラインで止まり、ドリブルをしながらタイミングを伺う。
そこにサインを出してやる。
ダブルスクリーンからのアリウープ。
織火と沙耶が素早くスクリーンに入る。
さぁ、ついて来られるかしら?
「スクリーン!?」
「スイッチよ!」
アルの驚きの声と、リールの指示を出す声。
そのどちらも置いていくように走る。
「やらせませんわよ!」
スイッチでメリルがマッチアップ。
イリヤがアリウープパスを放つ。
フワッとした、緩い球だ。
「アリウープですのね?」
メリルもそれがわかっている。
かなり無理めのアリウープ。
だから流れ変えられるんでしょうがッ!!
ステップを踏み切り、思い切り飛ぶ。
同時にメリルも飛んでいる。
私にはアルみたいな空中機動はないけれど。
「マジですの!?」
フィジカルとバランス感覚なら、誰にも負けない自信があるのよ。
空中でメリルを押しのけて、ボールをつかみ取る。
メリルが私の体に抱き着くようにして止めに来る。
構うものか。
叩き込めばいい。
このボールをリングに叩き込めば2点だ。
なんて簡単なのかしら!!
「らあああああぁぁッ!!」
メリルを吹っ飛ばしながらアリウープを決めた。
「メリル!大丈夫ですか!?」
「全然大丈夫ですわ!むしろ幸せですわッ!」
「それよりキッチリ返すわよ!」
ファールをもらい、フリースローも決める。
「さぁ、守るわよ!」
side織火
リールがボールを運んで来る。
メリルから少し離れて、3pライン内の真ん中に立つ。
素早くコートを見回す。
桜が右に展開、千里がゴール下に出たり入ったり。
ボールを持つアルとリールがリングを真正面に見据える位置で言葉を交わしている。
メリルは左に展開していた。
春沼は全員が3pを持っている。
アルとリールの話が終わり、リールが中のほうに入って来る。
それと同時、桜が左から右に、一気にベースライン沿いに走ってきた。
ゴール下には千里のスクリーン!
「イリヤ!桜来ます!」
「オッケー!」
千里にぶつかった咲の代わりに、イリヤが桜を追い掛ける。
アルは桜にボールを入れようとして、イリヤに気づいて止めた。
アルが右の45°に動いてドライブの準備をする。
その時、違和感を感じた。
なんか、真正面ポッカリと空いてますね……
まるで誰かが来るのを待っているかのように空いている空間。
「……」
千里ですねッ!
スクリーンをかけた後、咲の後ろに下がって、気配を殺して上がって来ていたのだ。
アルはここまで見越して桜を動かしたのだ。
イリヤが桜につくことくらい、お見通しだったのだ。
でも残念ですね。
頭脳だけには自信があるんですよ!
上がってフリーになった千里。
アルがそこにパスを入れようとする。
それをカットしようと飛び込んだ。
「ッ!!」
アルは驚いて動きを止め……ないですね!?
「メリル!」
アルは一瞬でコート反対側にいるメリルを見つけた。
そのまま少しスナップを効かせただけで、ロングパスを飛ばして見せる。
まったく……あのコースを見つけますか……
「はぁ……予想通りですけどね」
どうして私がわざわざ大声でイリヤに指示したと思いますか?
どうしてわざわざ大きな身振りで千里のパスカットに入ったと思いますか?
ハンドサインを出して指示した、咲の動きを隠すためですよ。
「取り!」
「「「「ナイス咲ッ!!」」」」
あのー、私を褒めてもいいんじゃないですか……?
なんて言わない。
勝てればいいんです。
チームとして勝って、チームが賞賛を浴びればそれでいいんです。
身体能力もセンスも胸もない2人が、世界レベルの5人を倒した。
その事実で、私は十分です。
だから後は、
「勝ちに行きますよ……!!」
「織火、行くわよ!」
咲からボールを受け取る。
ナメないで下さいよ。
蓮里の正ポイントガードは私です。
イリヤじゃないですよ。
春沼の5人が戻るよりも早く敵陣に切り込む。
「させませんわ……!」
メリルがすぐに追いついて来るが、
「遅かったですね」
メリルに回り込まれるより早く、ボールを持つ。
まったく、何年一緒にいると思っているんですか。
お互いの位置なんて、目をつぶっていてもわかりますって。
ボールを下から上に放るようにしてパスを出す。
少し無理めのアリウープパス。
でも、喜美ならこんなものでも決めちゃうんですよね。
「っしゃああああああああッッ!!」
喜美による、流れを変える強烈な一撃。
「ああああああぁ!!」
「「「「喜美ナイス!!」」」」
うん……いいんです。
私も頑張ったよね?とか言わないです。
全員頑張ってますからね。
さて、ラストオフェンス止めないと話にならないですね。
3Qはあと15秒で終わる。
15秒間を守りきれば勝ちだ。
「リール、私に」
春沼は再びアルにボールを託す。
アルによる1対1で決めに来た。
ハンドサインを出して、ディフェンスの指示を飛ばす。
イリヤが了解、と目で答える。
さぁて、いい加減止めましょうかね?
残り5秒を切るまでアルは動かない。
そして5秒を切った瞬間に全てが動き出した。
桜がサイドを変更するために動き、千里がそれにスクリーンをかける。
メリルがリールをスクリーンにして中に入って来る。
インサイドに2人。
だぶついている。
ってことは、メリルがそのままサイド変更。
千里は上がってミドルレンジのポジションに入る。
そしてリールが45°。
どこからでも狙える位置ってわけですね!
「沙耶!咲!走り抜けて下さいッ!」
「「押忍!」」
メリルと桜に、2人をつける。
イリヤは先ほどのハンドサインで千里を封殺してもらっていた。
そして私がリールにピッタリとつく。
さぁ、邪魔者は排除しましたよ。
純粋な1対1、頼みますよ喜美!
「「やッ!!」
2人が同時に吠えて足を踏み込む。
アルはドライブを選択。
身を低くし、喜美の脇をかい潜るように進む。
「させない……!」
それを喜美は腰を落とし、アルと目線が合うくらい腰を落とし、守りきった。
「ならば」
アルの体がまったく減速せずにその場で一回転した。
ターンアラウンド!
「『感覚』頼りね!」
それにも反応して喜美は飛ぶ。
「そうでしょうか?」
しかしアルもそこから更にフェイダウェイ。
後ろに飛びながらのショット。
「そこまで読めるわッ!!」
しかし喜美も、そこまで読み切っていた。
もしアルが普通にショットを打っていたらファールになるような飛び方をしたのだ。
フェイダウェイだと、最初からわかっていたかのように。
「む……」
果たして喜美の手はボールを捉え、叩き飛ばした。
メリルとイリヤがボールに向かって走り出すが、2人がボールに手をつく前に3Q終了のブザーが鳴った。
sideアル
最後2つの攻防が、余計でしたね。
心でそう断じながらベンチに戻る。
喜美に……読まれましたね。
『感覚』は単純にドライブを選択していた。
だが、喜美ならそれは読めると思った。
恐らく私がターンアラウンドを使うと思うはずだ。
だからフェイダウェイショットで避けようとした。
まさかそこまで読み切られるとは思わなかった。
一瞬の駆け引き。
相手の動き、表情、心理までを考慮に入れての心理戦。
トップレベルのプレイヤー同士でのみ行えるギリギリの戦い。
そこで私が負けた。
アメリカでのファイナル以来、こういう戦いで負けたことは1度もなかったんですけどね。
「アル、最後のは気にするな。切り替えて、4Qを続けるぞ」
大祐に優しく言われて、すぐに後悔を切り捨てた。
「ええ、大丈夫です。もう切り替えました」
ベンチに座ってゼーゼー息を吐いているリールを見下ろす。
やはりイリヤの相手は大変なんですかね。
リールと桜はスイッチで交代することもできないから、余計に走り回らなければいけない。
「大祐。4Qは私がゲームメイクをしようと思います」
「ええ……私、ちょっと休むわ……」
控えのいない春沼は、死にそうなくらい疲れていても出つづけなければいけない。
1人でも抜ければチームは崩壊する。
体力を考慮にいれるのも大切だ。
特にこの時間になると。
この試合に限ってはそれはハンデではない。
蓮里も5人ですからね。
恐らく、蓮里も似たような境遇の筈だ。
あと12分。
このまま、なんて甘いことは言いません。
もっと差を広げてやりますよ。
side喜美
ゼーゼー息を吐いている織火を見下ろす。
流石にメリルとのマッチアップは疲れるんでしょうね。
神速で体力も無尽蔵の元気溌剌お嬢様についていくのは、それだけで大変だろう。
「兄さん。4Qは私とイリヤでゲームメイクしたほうがいいかしら?」
「そうだな……どうだ?織火」
「ええ……4分、休憩もらいます。ディフェンスのほうに専念するんで」
「咲も大丈夫?」
ベンチに座って俯いている咲にイリヤが声をかける。
「うん。平気。あと12分なら動ける」
咲は顔を上げると、キッパリと断言する。
「喜美、私には聞かないの?」
「アンタが体力切れなわけないでしょ。4Qは沙耶も使って攻めるわよ」
「押忍。任せておいて。仕事はするよ」
沙耶は全然平気そうだ。
イリヤもピンピン……とまでは言えないが、今にも死にそう、という風情ではない。
ということは大丈夫なのだろう。
「さぁみんな。これがラストよ。4Q。私達の最後のバスケ。楽しみましょう!」
「「「「「押忍ッ!」」」」」
「蓮里ッ!」
「「「「「ファイッ!!」」」」」
「蓮里ッ!」
「「「「「ファイッ!!」」」」」
「蓮里ッ!」
「「「「「ファイットオオオオオオオ!!」」」」」
3Qをちゃんと終わらせましたよ、ええ。
次回はいよいよ最終Qに突入します。




