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蓮里小学校女子バスケットボール部  作者: ジェイソン
小学生全国大会編本戦
223/251

猛攻場の凌ぎ人

隙がなければ

どうするか

配点(防御)

side織火


喜美がイリヤにボールを投げる。


早めのテンポで決めろってことですね。


イリヤは役割通りすぐにボールを持って上がる。


「喜美!」


そこからバウンドパスで喜美に入れる。


ハイポストにいた喜美がそれを受け取り、アルに背中をぶつける。


「行くわよ」


「Comeon」


喜美がパワードリブルを開始。


重心を低くし、下から上に突き上げるような押し込み。


アルはそれを吸収するようにタイミングを合わせて力を抜く。


「……ッ!」


そこから喜美が一瞬でターンを決めた。


アルからボールを離すように左に持ち替え、右の肩でアルを押し出す。


「取りです」


「なッ!?」


それでもアルの手はボールを弾く。


完全に射程外の位置から、1歩の踏み込みと体の伸びだけで弾いたのだ。


「イリヤ戻って!」


「沙耶千里見て!走るよ!」


「メリルの速攻来るぞッ!」


メリルは既にスタートを切っていた。


ぬおおおおぉ!なんであんな速いんですか!


マジで陸上やってくださいよ!


「イリヤ!メリル頼みます!」


「押忍ッ!」


しかし蓮里にも短距離なら速いプレイヤーがいる。


「チッ……」


ロングパスを出そうとしたリールの動きが止まる。


「なら自分で行くだけよ」


「スイッチ!織火リールにッ!」


リールとマッチアップしていたイリヤが抜けた。


だから私が代わりにリールのディフェンスをする。


本来のpg対決。


「あら、このマッチアップね」


リールが呟いて、フロントチェンジ。


右でドリブルしていたボールを左に移すだけの技。


技術もへったくれもない技。


それだけで抜かれていた。


体が動きもしなかった。


リールのいくつものフェイクで足が床に縫い付けられた。


壁にもなれない……!


でも、


「よくやったわ織火!」


時間は稼いだ。


沙耶と咲が戻って来る時間は稼げた。


「フン、関係ないわよ」


しかしリールは沙耶のいるインサイドに迷わず突っ込む。


無謀です……ってことは……!


「咲ッ!」


「遅いわ」


内側に切り込み、ディフェンスを収縮させてからのキックアウト。


完璧な、お手本通りの展開。


出されたボールは見事に桜の手の中に収まる。


そこからは一瞬。


「ドーン、ってね」


放たれた3p。


打たれた瞬間に決まると思えた。


「よし!」


「Nice!」


「1点差ですわよ!」


8点あったリードがいつの間にか1点差に……!


「喜美!」


イリヤが焦ったように叫ぶ。


ありゃ、マズイですね。


「喜美。こっちです」


手を叩いてボールを呼ぶ。


喜美もイリヤが焦っているとわかったようで、こちらにボールを投げた。


「さて……」


どうする。


……インサイド使ってみますか。


「はい!」


叫んでハンドサイン。


沙耶、ローポスト飛び込んで。


「御了解ッ!」


「どんぴしゃ!」


沙耶が飛び出すのと同時にボールを投げる。


チェストパスで、かなり速いパス。


「決めるわ……!」


沙耶がキャッチと同時にパワードリブルを開始。


千里を背中で押し込み、振り返ってボールを放る。


ボールはリングの上に乗っかりグルグル回り……


「取りですわ!」


飛んだメリルがリバウンドを確保。


「マズ」


既にリールとアルが走り始めている。


まずパスが右のリールに通った。


そこから左のアルにバウンドパス。


アルがタイミングを合わせてステップを踏む。


2歩目で踏み切ってジャンプ。


そのままレイアップ……


「らっしゃああああ!」


「見えてます」


じゃない!?


後ろから飛んできた喜美を避けるように空中で体を捻る。


そんな無茶苦茶な機動をしても、目線はリングから外れない。


アルのリバースショットが決まる。


逆転された……!


「タイムアウト!」







side楓


なんちゅうレベルの勝負だ。


お互い、チャンスがあれば決める。


決めるべきショットを1本も外していない。


試合は蓮里のランで始まり、春沼が走って逆転。


「リール。慌てないですね」


美紗が呟く。


試合開始と同時に8点も連続で取られたら、焦る。


並のポイントガードならそこで崩れて終わる。


だがリールは焦るどころか、確実に自分達のペースに持ち込んでいく。


ターンオーバーからの速攻。


春沼の得意とする形を狙っていた。


これが戦い方、勝ち方を知ってるってヤツか。


さて、このタイムアウトで立て直せるか?


タイムアウトが終わり、試合が再開される。









「さて……」


織火がボールを持つ。


メリルのプレッシャーを受けて、イリヤに渡す。


イリヤがキャッチしてすぐに背中を向ける。


「喜美、こっち来て」


手招きで喜美を呼び寄せる。


ピックアンドロールからのドライブか。


イリヤが喜美にボールを差し出す。


喜美はそれを受け取る……フリをした。


「イリヤです!」


アルの声が響くのと、イリヤが動き出すのは同時だった。


喜美のほうに寄りかけたリール。


咲のスクリーンに引っ掛かったアル。


その間を抜いた。


インサイドにはあと千里ただ1人。


しかし千里は沙耶がしっかり抑えていた。


「ほら!」


簡単なレイアップ。


決めてリールに向けて舌を出す。


「フン、生意気な……」


タイムアウト直後、まずは蓮里が1本入れた。


その程度で春沼は焦らない。


アル、リール、メリルはこれ以上の舞台で戦ったこともあるのだ。


1点差なんて、あってないようなもの。


「リール。流れを作ります」


「OK。了解よ」


アルを倒さない限り、春沼は崩れない。


リールがボールを運び、3pラインリング真正面に位置する。


そこから手で指示を出す。


指を3本、2回上げ下げした。


まずメリルが動いた。


アルに激しくついている喜美の後ろに忍び寄り、立ち止まる。


「喜美スクリーンですッ!」


織火が気づいて叫ぶがもう遅い。


「それでは」


「しまった……ッ!」


アルには1歩の遅れさえ致命的だ。


喜美がスクリーンを避けた時には、アルはペイントエリアに侵入していた。


「させない!」


「止めますよ世界最強……!」


しかしインサイドには沙耶と織火が控えている。


アルはそれを見て頷き1つ。


「余裕ですね」


疾走の勢いのままに踏み切る。


「アリウープじゃない!?」


知美の叫び。


アルのジャンプは低かった。


高いジャンプではなく、低く、速いジャンプ。


リングの下をくぐり抜けるようなジャンプだ。


「派手に!」


「行きますよ」


アルがリングの真下に到達した瞬間に、リールからのパスが通った。


そこからの動きは会場の全員の予想を超えた。


アルはキャッチと同時に後ろにボールを放り投げた。


おい、まさか……!


「ま、余裕ですね」


あの速さで、リングも見ずにシュートを決めるのかよ……!?


「守りますよ」


それだけの大技を決めても、アルの表情には何の色もない。


すぐに自分のほうに戻っていく。


「あれを……決めますか……」


「……」


美紗は呆然と呟き、知美は口が開きっぱなしだ。


私も似たような表情だろう。


あれを決めるのかよ……!








side琴美


「ま、あれくらい決めるやろ」


あんなん、私でもやれるわ。


「だけど今のはデカイで。大技は流れを引き寄せる」


後ろのおっちゃんが腕組みしたまま呟く。


桐生院は全員が決勝を見ていた。


ま、みんな来年はやることになる舞台やしな。


私達を倒した春沼。


蓮里はそれにどう対抗するのか。


どちらともやったことがある私達としては……


「イリヤとリールのマッチアップ。蓮里が点を稼ぐとしたらここや」


私の言葉を証明するように織火がイリヤにボールを入れた。


「ッ!!」


「来なさいッ!!」


イリヤがキャッチと同時に背中でリールを押す。


そこからリールに向き直り、ドリブル。


「あの間が嫌なんや」


あーちゃんが呻く。


長身、左利き、クイックネス。


厄介な特徴ばかり持っているイリヤの、最大の武器。


その独特の間合い。


林檎ほど独特ではないが(というかあんな間合いのヤツが2人もいたら嫌や)、確実に一呼吸分はずらされる。


誰もが反応を遅らされるだろう。


ただ1人、リールを除いては。


「ラァッ!どうしたイリヤッ!」


イリヤの呼吸を完全に見切ってついていく。


蓮里の4人よりイリヤとの付き合いは長いのだ。


その絆が健在なのは、練習の時のアリウープで証明済みだ。


だがイリヤはその上を行く。


「ッ!!」


再びのスピンムーブ。


しかも、先ほどより更にキレが増している。


「どうだリールッ!!」


イリヤが咆哮を上げる。


全国大会決勝戦。


序盤は完全に互角やな。

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