初撃の猛者

sideメリル

初撃は確定かと思ったらそんなことありませんでしたわ！

まさか千里がジャンプボールで負けるとは。

「落ち着いて！まず１本しっかり守るわよ！」

リールが手を叩きながら叫ぶ。

蓮里はボールをキャッチしたイリヤが、ノールックで後ろにボールを放り投げる。

それを織火がジャンプしながらキャッチ。

着地と同時に、

「じゃあ行きましょうか！」

すぐにボールを運んで来る。

「頼みます」

「はいはい」

高めに上がったイリヤにボールが渡される。

流れた織火について行きながらイリヤを見る。

最初はイリヤで来ますわね。

リールとのマッチアップ。

「ふぅ」

「……」

イリヤはリールに背中を見せながらドリブルを続ける。

「ッ！」

少し強めに押す。

リールが僅かに押されて後ろに下がる。

その隙で十分だった。

「よしッ！」

振り向き様でのショット。

２ｐだが確かに決まる。

「っしゃあ！みんな守るよ！」

「「「「押忍ッ！」」」」

「では、こちらも１本返しましょうか」

「ええ、そうね」

アルがリールにボールを投げ入れる。

試しに走ってみるが、織火がピッタリついて来る。

リールはイリヤのディフェンスを避けながらボールを運ぶ。

「こっち！」

中に入った千里。

手を上げてボールを呼ぶ。

そこにボールが入る。

千里と沙耶の１対１。

「ぬおおぉ……やっぱ馬鹿力……！」

「馬鹿言うな！」

千里のパワードリブルでもびくともしない。

「千里！１度返してッ！」

「甘いわねッ！」

千里が桜に飛ばしたボール。

狙っていた喜美さんが飛びついた。

「ッ！？悪ぃ！」

「守ればチャラだよ！」

「リール！イリヤ見てくださいッ！」

「あ！？」

ターンオーバーから、イリヤにボールが渡される。

速いタイプのプレイヤー。

「メリル！当たれッ！」

大祐の指示が飛び、急いで走って戻る。

私が戻った時には３ｐラインを割られていた。

「決まりッ！」

「チッ……！」

イリヤがステップを踏んだ瞬間に無理だと悟る。

やらせるしかありませんわ。

イリヤが２歩目を踏み切って飛ぶ。

思い切り振り上げた右腕。

打点高めのワンハンドダンク。

「ッシ！！」

ボールが振り下ろされ、リングに叩き込まれる。

「っしゃあああ！よくやったわイリヤ！」

「このままペース握るよ！」

「相手に１本も決めさせるな！ディフェンス固くッ！」

「流れを作るよ！」

イリヤが戻りながらハイタッチ。

マズイですわね。

立て続けに２本、いいように決められていますわ。

「焦ることはありません。４点など、一瞬でひっくり返せます」

「その通りよ」

しかし、アルとリールは動じない。

「落ち着くわよ。焦って外すのが１番ダメ。じっくり行きましょう」

その言葉通り、リールはかなりの時間を使ってボールを運んできた。

……私が。

私のミスマッチ、使うべきですわね。

「ヘイ！」

織火を振り切ってボールを呼ぶ。

すぐにリールからボールが入る。

そしてキャッチと同時に、こちらの後を追った織火の横を抜き去る。

「速い！」

「ヘルプ！」

イリヤがコースに体を捩込んで来る。

どうする？

私が行きますの？

いえ、序盤は……パスですわ！

「馬鹿違うッ！」

「え？」

「拾いッ！」

再び喜美が飛び出してパスカット。

「走りなさいッ！」

「じゃあ行きましょうかね！」

喜美さんが片手で長めのロングパス。

突然のターンオーバーに春沼は誰も反応できない。

走った織火の手にボールが収まり、独走。

「はいっと」

確実にレイアップを流し込まれた。

６点のラン。

「メリル。落ち着くわよ。桜、千里、メリル。あまりパスはしないで。自分のシュートタッチ確かめて」

「「「OK」」」

アルがボールを投げ入れ、リールがボールを持つ。

イリヤのディフェンスに遭い、私にボールを飛ばす。

キャッチと同時に前を見る。

さて。

今回は、ボールを離しませんわよ。

「ほら！来てくださいよッ！」

腰を落とし、手を叩いて挑発する織火を睨む。

素直な１対１。

負ける道理はありませんわ。

その場でドリブル。

ドリブルのペースを変えていき、少し体を揺らす。

「……ッ！」

へぇ、揺れないんですのね。

織火の体幹は揺れない。

胸も揺れない。

でも、それで動けるんですの！？

「ラァッ！！」

「来ますか！」

裂帛の気合いと共に１歩を踏み込む。

「行きませんわ！」

その１歩を強く床に叩き付ける。

前に飛び出しかけた体が止まった。

前につんのめるが、そんなことは構わない。

両足で踏ん張ってジャンプ。

２ｐのジャンパーを狙う。

「チッ、外しですわ」

打った瞬間に手元が狂い、ボールが横に流れる。

「「「「「リバンッ！」」」」」

セカンドチャンスが取れるかどうかの攻防。

こちらからは千里、アル。

蓮里は沙耶、喜美さん、イリヤが飛んだ。

「ここは私の領域……！」

沙耶が千里を空中で押しのけてボールをつかみ取る。

やっぱデカイですわね……

「いいわよメリル！それでいいわ！」

リールが手を叩きながら戻る。

「イリヤ。頼むわ」

沙耶はイリヤにボールを託す。

蓮里のダブルガード、ですのね？

県大会の決勝では見なかった戦法だ。

リールが戻っていたためにイリヤは軽く３ｐラインまでボールを運んできた。

「……」

そしてそこでリールと向かい合う。

「桜！咲よく見ておけ！」

「わかってるよ！」

大祐の指示が飛ぶ。

確かに、ここで咲の３ｐが決まるとマズイですわ。

「よそ見しないでよ」

イリヤが一瞬姿を消す。

次の瞬間に、リールの後ろにいた。

「「「「「速ッ！！」」」」」

県大会の時も速かったが、そんなレベルではない。

キレが格段に増している。

ほとんど瞬間移動だ。

「ヘルプ！」

「僕が！」

桜が急いでその前に立ち塞がろうとするが、

「っと」

「！？」

イリヤの姿が再び消える。

凄まじい速さのスピンムーブが炸裂した。

そのまま空中で流れながらフローター気味のショット。

「流石に無理ですか」

ブロックに飛んだアルの手すらすり抜けてショットが決まる。

やられましたわ……！

その神業に会場が盛り上がる。

「「「「「うおおおおおぉぉ！？」」」」」

それに、今の……

「見覚えがあるわ」

リールが舌打ちをしてベンチのほうに戻る。

大祐がタイムアウトを取っていた。

「ええ、見覚えがありますわ」

今の１歩目の速さと。

そして何よりあのスピンムーブ。

沢木壮の動きにそっくりですわ……！

side織火

「っしゃあああ！ナイスイリヤッ！」

「いいわよいいわよ！このまま行くわよ！」

「甘くないよ！春沼の反撃注意するよ！」

開始いきなりの８ー０のラン。

当然盛り上がる。

でも、みんなが盛り上がっている時こそ私が冷静でなければ。

「たぶん向こうもプラン変えて来るはずだ。この状況ならアルにボールを持たせようとする。喜美、沙耶。いいか？アルのドライブ、ダンクだけは絶対に止めろ」

「「押忍！」」

「遠めなら多少フリーにしても構わない。とにかくドライブとダンクだ。これだけは絶対させねぇぞ！」

「「押忍！」」

「よし。咲、お前は今のままでいい。いいディフェンスだった」

「押忍。ありがとう」

「イリヤ。オッケーだ。リールにはとにかくプレッシャーをかけろ。考える時間を与えるな」

「押忍」

「で、織火……」

お兄さんがこちらに向き直る。

さぁ、私にはどんなアドバイスが！？

「織火はゲームメイクとディフェンスに集中。メリルは乗せると手がつけられなくなる。ヤバそうだったらファールしてでも止めろ」

「押忍！」

「いいか、無理でも飛べ。まったく脅威になれなくても、ブロックに飛べ」

「押忍！」

確かに私とメリルだと身長でもミスマッチができますからね。

「よし。行ってこい！」

「「「「「押忍ッ！！」」」」」

メリルがリールにボールを投げ入れる。

その時点からイリヤがプレッシャーをかけはじめる。

「アル！アル見て喜美！」

「わかってるわよ！」

「はぁ、照れますね」

アルは無表情で喜美を見返して、

「では」

「ッ！」

千里をスクリーンに高めの位置に上がる。

「喜美！遠めは無視ッ！」

「ッ！！」

それに追い縋ろうとした喜美が慌てて止まり、内側を固める。

「おっと」

ピックアンドロールで切り込もうとしたアルが止まる。

お兄さんの、そして私の予測通り……！

序盤のアルにロングレンジのショットはない。

絶対にドライブを仕掛けて来る筈です！

「……」

アルはボールを突きながら素早く目を動かす。

「そこ、ですね」

と、アルが左にノールックのパスを放つ。

キャッチしたのは、

「退くな沙耶ッ！」

「自分で決めろ千里ッ！」

少し高めの位置に上がった千里。

センター同士の１対１。

「……ッ！」

千里は素早くドリブルしながら押し込もうとする。

沙耶がそれに耐えようと足を踏ん張る。

その瞬間、千里がフッと力を抜く。

そのままクルッと半回転。

振り向き様のジャンパー。

「させないッ！」

沙耶はその場で飛ぶ。

リングへのコースを塞ぐように手を上げる。

千里はその横を抜くようにショットを放つ。

リングに直接入れるのではなく、その後ろのボードに当てて反射させて決めるショット。

バンクショットを決めてきた。

「OK！」

「Nice千里！よくやったわ！」

「ここから一気に返しますわよ！」

喜美が気にするなと手を振ってこちらにボールを投げる。

キャッチして前を見る。

「ッ！？」

「仕掛けますわよ」

すぐ目の前にメリルがいた。

「おうわ！？」

とりあえず背中にボール回して移し替える。

危なッ！危な！

今よく咄嗟に出来ましたね私！

自分で自分を褒めてやりたい気分ですよってまだついて来てるしッ！

足速い足速い意味わかんないですって！

なんで後ろ向きに走ってあんなに速いんですか陸上やればいいじゃないですか！

「イリヤ！寄ってください！」

「ヘイこっち！」

イリヤを呼ぶとすぐに来てくれる。

パスを出してメリルのプレッシャーから逃れる。

ふぅ、ダブルガードは本当にありがたいですね。

私１人でこの神速相手は厳しいですって。

まぁ、と心の中で呟きながら走る。

３ｐライン付近で一瞬止まってメリルの動きも止めて、一気に中に入る。

パスでなら誰にも負けるつもりありませんけどね！

「はいイリヤ！」

「決めちゃって！」

イリヤがワンハンドで鋭いパス。

「させませんわ」

やっぱ神速ですね。

３ｐラインにいたのに、一瞬で私とリングの間に立っている。

「パスですけどね！」

ジャンプしながらボールをキャッチ。

そのままノールックでキックアウト。

外に飛び出したボールを喜美が拾った。

「ほらッ！」

「む！」

喜美の気合いの入ったフェイクにアルが反応。

そのアルの脇を抜くように喜美がさらにパスを出す。

咲がそれを受け取り、振り向きながらのショット。

「させないって！」

横から飛んできた桜の指が僅かに掠った。

「「「「「リバンッ！」」」」」

アルが素早く切り替えてゴール下に入る。

喜美がそれを抑えるように背中をぶつけに行く。

リングに当たって弾かれるボール。

キャッチしたのはメリルだった。

「メリルッ！前ッ！」

「頼みますわよ！」

そこから長めの縦パス１本。

走っていたリールの手に収まる。

そのままゴール下までドリブルで持って行き、

「読めるわよ」

「チィッ！」

後ろから走ってきたイリヤをかわすためにシュートフェイク１本入れてからゴール下で打つ。

外すわけがなかった。

「ここから反撃と行くわよ」