開戦の号砲撃ち
男たちは
その僻みを
力とする
配点(男子校)
本日、我が運命の日。
いや、俺達のと言ったほうがいいか。
決戦日だった。
俺は何もイリヤと遊ぶことに放課後の時間全てを使っているわけではない。
高校の練習だってやっているし、今日はその大会の日だ。
俺と先輩達は市大会では全相手を瞬殺して優勝した。
県大会の予選も瞬殺。
俺の一人舞台であった。
で、今日が決勝リーグ。
初戦が早速この県のバスケを牛耳っている稲賀の奴らだ。
ありがたい。ぬっ殺したくてウズウズしていたんだ。
「あーあー、面倒くせぇな!どうせ勝ち負け決まってんだから県大会なんていらねぇだろ!」
とか言っている稲賀の奴ら。
「初戦の相手どこだっけ?」
「浦話?聞いたことねぇって。やべぇマジウケル」
俺としては君達の言葉のほうがマジウケル。
マジウケルなんて絶滅したと思っていた。
俺達はそれを睨みつける。
凝視するのは生意気な発言をした馬鹿野郎ではない。
その後ろでマネージャーとイチャイチャしていやがる稲賀のキャプテンだった。
「先輩、潰しましょう」
「沢木、殺そう」
「叩き潰せ」
「女子とイチャイチャとか死罪だろ」
「断罪しろ。モゲロ」
俺達のテンション最高潮。
男子校のテンションがこれである。
女子とイチャイチャとか許さない。
俺だってなぁ!俺達だってなぁ!
青春したかったんだよ畜生!
なんで男子校なんかに入学しちゃったんだよ!
畜生!
偏差値に惑わされた!
クラスに入っても男ばかり!
汗くさいわ弁当の匂いが漂うわシューズ臭いわ!
海パンで授業受けてる奴はいるし!
それ以前に教師も男ばっかだし!
下ネタ連発だし!
ああ楽しいよ畜生!
部活も先輩達と馬鹿やってすげぇ楽しいよ!
お前らみたいなヘラヘラしたところに負けたくねぇよ!
「絶対勝ちましょう!浦高ファイト!」
俺は会場全体に響き渡るように叫んだ。
試合開始。
上がったボールを先輩が弾く。
「よし」
それをガードの同級生の植松が取って俺に回す。
今のメンバーはセンターとパワーフォワードに3年2人。
シューティングガードに2年1人。
ポイントカードが同級生で、俺がポイントフォワードだ。
浦話のレブロンと呼んでくれたまえ。
早速1on1。
俺はみんなにアイコンタクトを飛ばす。
セットプレー要求。
俺は同級生の植松にボールを渡す。
同時に全員が動き出す。
植松がダブルスクリーンを使ってフリーに。俺はその脚力でマッチアップ相手を一気に引き離してリングに向かう。
植松がフワリとボールを浮かせる。
俺はそれを空中で掴んでゴールに叩き込んだ。
アリウープ。開戦の号砲としては十分だろ?
これで稲賀のキャプテンが「同じ2点だピョン」とか言いながら冷静にレイアップ決めてくれるノリのいい人だったらなぁ。
ああ、あっさり止めましたよ。
実際こいつらチームプレー何それおいしいの?状態だった。
俺の地獄特訓高校生バージョンをくぐり抜けている浦話にそんなヘナチョコオフェンスは効かない。
1qは全て俺が得点した。ダブルチームでも突破した。
さすがにディフェンスはこの短期間でそこまで改善できるわけもない。
だけど成功率ほぼ100パーセントのこちらのオフェンス(イージーバスケットだけ)と相手の43パーセントくらいのオフェンス(タフショット多)では当然差が出る。
32ー22。
「行ける!行けますよ先輩!」
「ああ、行けるぜ全然!」
「前半は俺を中心にしてください!まだ行けますよ!」
「ああ、思い切りやれ沢木!」
「うっす!」
2q、まだ俺達の勢いは止まらない。
気合いが違う。迫力が違う。
俺は浦高でもとにかく声を出すように徹底していた。
それは先輩も、ベンチも例外ではない。
「よっしゃ!ナイス!沢木!」
「いいぞぶっつぶせ!」
「オーフェンス!オーフェンス!」
対して相手。
今日はアップくらいのつもりで来ているから体がまだ温まっていない。
いきなり全力をぶつけたこちらとの差は明白だった。その得点差が焦りを産む。
「何をやってるんだ馬鹿野郎!」
ヘッドコーチも焦る。
なんせ負ければ歴史的敗北だ。
王者が負けるなどあってはならないのだ。
「あの男だ!あいつを止めるんだ!」
止まるかよ。
俺はダブルチームに付こうと上がってきた相手2人を、ハイポストで抜き去る。
リングまでは一直線。
一気に突っ込む。相手が来た?じゃあターンで。
一瞬で置き去りにしてリングに向かって飛ぶ。
相手センターが迎え撃つが、コースに入り切っていない。
遅れた相手を思い切り弾き飛ばしてダンクを決めてやる。
カウント1スロー。きっちり決める。
俺一人でひたすら得点を重ねる。
とうとう恥も外聞もなく王者は1人の男にトリプルチーム。
俺はそこでタイムアウトを取る。作戦変更だ。
「先輩、こっから第2段階に移します。できますよね?」
「ああ、完全にお前の予想通りだな」
「はい。点も十分取りました。植松、頼むぞ」
「ああ、任しとけ。井上先輩、頼みます」
「任せとけ」
「よし。それじゃあ行きましょう。浦高ファイ」
「「「「っとおおおおおお!!」」」」」
今までの形はいびつなものだった。
当たり前だ。
フリーの選手がいるのに俺はまったくパスを出さないのだから。
相手はこう思う。このチームは俺だけだと。
馬鹿言え。
それは俺が1番嫌いなスタイルだ。
全員で勝つ。
プレーした全員が、俺のおかげで勝ったのだと胸張って言えるような試合にする。
それが俺の目標だ。
「植松!」
俺は植松を呼ぶ。相手が3人来てくれた。
馬鹿め!フリーにしてはいけない人物をフリーにしたな!
植松は俺を見るフェイントを仕掛けて島田先輩にパスをする。
完全にフリー。
島田先輩の3pの成功率。フリーの状態で9割。
リングに当たらない。ボールがネットに絡み付くあの独特の音が響き、決まったことを教える。
「先輩ナイス!」
「まぁね」
飄々とする先輩。その顔に気負いは感じられない。
あくまで自然体。
流石です。島田先輩。
気づいたら会場の全員が俺達の試合に注目していた。
あの王者が圧倒的点差で負けている。
今までこの絶対王政のなかで燻っていた奴らだ。
「浦高ファイト!」
「潰せ!勝てるぞ!」
「勝てるぞ!勝てるぞ!浦高!」
「あんな奴らたたきのめせ!」
皆が俺達を応援してくれる。
俺達はその応援を背に受けて更に突き放しにかかる。
もう俺はボールを持たない。
植松は的確にフリーのプレイヤーにパスをする。
そして自分のマッチアップが甘いなら自分で切り込む。
浦高に植松がいてよかった。
ポイントガードに関しては2ヶ月で鍛えるとか無理ゲーだ。
割と強かった植松がウチに来てくれてよかった。
そのまま前半はこちらが突っ走る。
浦話62ー43
ハーフタイム
とにかく休憩する。そして作戦を変更する。
「もう1回俺に返してください。俺の危険性を相手に思い出させます。島田先輩は3pを打ち続けて下さい。マッチアップ相手が来ても無視して打っていいです。ミスっても部長か井上先輩がリバウンド取ってくれます」
「島田、思い切って打て」
「うっす」
「植松、後半はお前にプレッシャーがかかる。ターンオーバーしても気にするな。落ち着いて行こう。急がなくていい。きつかったら無理矢理でも俺にパスを出せ。絶対取ってやる」
「大丈夫だ。パスなんて出さねぇ」
「井上先輩は引き続きスクリーンよろしくお願いします」
「わかってる。汚れ仕事は任せろ」
「よし!行けます。勝ちます!」
「沢木、全国に行くぞ」
「全国だ」
「ああ、全国だ。俺達が!」
「油断するんじゃねえぞ!最後までケツの穴締めて戦え!行くぞ!浦高ファイ」
「っとおおおおおおおお!」
3q。相手の顔に覇気がない。
あれはよっぽど絞られたな。
絞られ過ぎて奮起する余裕もないみたいだ。
「先輩、こっち渡してください」
と、見ない顔がコートに立っている。
「戸田?戸田虎郎か」
植松が見てボソッと言う。
「1年でベンチ入りしてたのか。で、ここで大抜擢。実績出そうと奮起しているわけだな」
っさすがポイントガード!恐ろしいくらい冷静な判断!
それにしても戸田虎郎か。
去年と同じマッチアップになりそうだな、これは。




