幕袖の語り部達
隣にいても
違和感のない相手を
なんと呼ぶ
配点(友人)
sideアル
「アル見て!」
おお、大人気ですね私。
私がボールを持っただけで一斉にこちらを見てくる。
注目されるのは嬉しいのですが、今日は休みですからね。
「パスで」
メリルにパスを出す。
メリルが受け取り、すぐに攻撃する。
ドライブからの千里へのパス。
千里がゴール下で打つ。
相手のファールも誘ってフリースローを貰う。
相手のsgは爆発寸前だ。
フラストレーションが溜まりに溜まっている。
あれで桜がとどめを刺せばこの試合は勝ちですね。
「早く寄越せッ!取るぞ!」
sgが怒鳴ってボールを要求。
桜がその前に出る。
と、桜がこちらにサインを出してきた。
交代?
私があのsgのディフェンスにつけと要求された。
まぁいいでしょう。
桜にも桜なりの考えがあるのです。
相手がスクリーンをかけてきたのを利用してスイッチで交代する。
私が相手sgのディフェンスに入った。
「ようやく来たか、アル……!」
「はい、来ましたよ」
腰を落とす。
sgが素早く股下でボールを通す。
近づいて来る。
クロスオーバーですか。
割と難易度の高い技術だが、まぁやってのけるでしょう。
流石に全国ですしね。
さて、止めますか。
「アル、抜かせてやって」
と、その時後ろから桜の声が聞こえた。
露骨な指示だが、英語だからsgにはわかっていないだろう。
抜かせてやれとはまた面妖な。
いったいどうするつもりなのでしょうか?
……ああ、だいたいわかりました。
桜は本当にいい性格をしていますね。
sgが素早い切り返しでクロスオーバーを成功させた。
手を伸ばせば追いつきそうだったが、
「……ッ!?」
わざと手を出さなかった。
しかし露骨に抜かれると怪しまれるので、少しは足を動かした。
そして抜かれる時に舌打ちをして悔しそうな顔をする。
流石は私。
ビックリするほどの演技力ですね。
将来はハリウッドにでもなりましょうかね。
銀幕デビューですね。
そしてフロリダのどこかに豪邸でも建てましょうかね。
当然プール付きだ。
しかも屋外と地下室に2つだ。
豪華過ぎる。
そして休日にはマイアミヒートの試合でも見に行くんです。
そして大祐との間に子供が……そうですね、3人くらい欲しいですね。
女の子2人で男の子1人がいいです。
そして仕事から帰ってくると大祐が……
鋭く笛が鳴った。
思わず飛び上がってしまった。
慌てて振り返ると桜がぶっ飛ばされている。
どうやら私と大祐がラブラブになっている時に桜がオフェンスファールを貰ったらしい。
ナイスプレーですが素直に喜べませんね。
いやいや、今は試合中なのだから集中しなければ。
料理は大祐に頼みましょう。
あ、フロリダじゃなくてテキサスに家を建てるというのも……
side大祐
桜が上手く相手を嵌めた。
スイッチでアルをsgのディフェンスにつかせる。
sgとしては世界最強が目の前に出て来たのだから興奮する。
そして思いっきり全力でアルを抜きに行った。
アルが止めようとするが、それを桜が止めた。
アルは途中で手を引っ込める。
相手からはアルを抜いたように映っただろう。
世界最強を抜いたのだから、興奮するなというほうが難しい。
そこまで読んでsgのコースを塞いだ桜が素晴らしかっただけだ。
「前見なよ」
桜がニヤニヤしながら言う。
「卑怯者……!」
「卑怯者?違うね。君が馬鹿だっただけさ」
チラッと審判を見る。
笛は吹かれないがギリギリだ。
一応桜に警告のサインを出した。
同時にリールに次のプレーの指示を出す。
ここまで来たら桜にトドメを刺させる。
オフェンスファールで攻守交代となり、こちらの攻撃となる。
リールが簡単に持って上がる。
アルが動いてセットプレーがスタートする。
リールから桜へ。
桜がアルをスクリーンにフリーになる。
相手sgがスイッチで桜についた。
桜は少しボールを取るのに手間取るがシュートフォームに入る。
右手が上がり、手首が返される。
相手sgの反応は素晴らしかった。
完璧なタイミングで飛び、シュートコースを塞いでいた。
間違いなくブロック出来ていただろう。
桜がボールを放っていれば、だが。
桜の右手にボールは載っていない。
ボールは左手で掴まれ、下がったままだ。
右手だけを上げたのだ。
そしてこの極限状態では、動いたモノに咄嗟に反応してしまうものだ。
桜はそれを狙ってこんなフェイクを使ったのだ。
飛んだsgに体を軽くぶつけるように飛び、今度こそ桜はシュートを打つ。
笛が吹かれる。
シュートは惜しくも外れた。
しかしそれも俺の要求通りだった。
フリースロー3本。
おかげでリールを呼んで詳しい作戦を伝えられる。
side菫
「来たッスね、あのディフェンス」
「ああ。やっと生で見れたな」
松美の言葉に重々しく頷く。
「やっと生で見れたな……なんていい響きなのかしら……続刊の決め台詞はこれで決定ね」
「何の話だッ!?」
「大丈夫よ、松美。松美は男性化して描いているから。それに顔もだいぶ変えているから分かる人にしかわからないわ。モザイクも掛けているし」
「大丈夫な要素一つもないッ!」
騒がしいわね。
「あー、はいはい。わかったわかった。響との絡みで描いて欲しいのね?」
「菫は私をどういう目で見ているんだ?」
「男っぽい話し方のお姉様キャラは攻めよ」
松美がガックリと膝をつく。
「先輩、そんなことより春沼のディフェンス」
「もーちゃん!BLをそんなことと言ったわね!?」
「いいから見てくださいよ」
もーちゃんににべもなく言われて渋々見る。
もーちゃんは私のBL話をすぐに打ち切るクセがあっていけない。
この大会が終わったらもーちゃんを男性化して描いてやろう。
しかし今は試合だ。
春沼はディフェンスが一変していた。
今までディフェンスは割と甘めだったのだが一気に引き締めて来た。
というかフルコートでのディフェンスを行っていた。
全員がプレッシャーを掛けつづけている。
栄光戦で見せたディフェンスだ。
あのときは美紗がいたから何とかなった。
逆を言えば、美紗レベルのポイントガードがいなければどうしようもないディフェンスなのだ。
「あーあー、虐殺なんてもんじゃないッスね」
もーちゃんが呟くとおり、岩手川口は一気に崩壊した。
パスをつなげるのも難しくなり、コートの4分の1を進むのも難しくなる。
ボールは全て奪われて、全て決められるという状態になっていた。
岩手川口のsgも正常な判断力を失っている。
焦りと、桜によって溜められたフラストレーションによって暴走していた。
ファールアウトも時間の問題だろう。
終わったな。
そう思って席を立つのと、松美と響が席を立つのは同時だった。
「もーちゃんはまだ見るの?」
「はいッス。春沼の弱いところを見ておくッス」
というわけでもーちゃん以外の明日試合に出るメンバーはホテルに戻ることになった。
side壮
「よう、琴美。3回戦進出おめでと」
「久しぶりやな、壮」
「悪いな琴美。ウチの妹が世話になった」
「ええよ別に。おもろい相手になってくれそうやしな。全国では私を倒せるようなヤツがいてええわ」
「この北海道はどうだ?」
本会場からは離れた別館。
そこで北海道の試合は行われていた。
第2シードなのに、トーナメント表の右下にいるせいで別館での試合になっているのだ。
かわいそうに。
「そやな。個人として突出した選手はおらんな。せいぜいがあのフォワードくらいやろなぁ」
「アイツか。確か……」
「京野や京野。北海道のエースや。去年はスタメンやなかったけど、シックスマンとして活躍はしておったで」
やっぱ現役小学生の情報はありがたい。
詳しいところまでわかる。
「好きな食べ物は刺身やて。あ、マグロやのうてサーモンな?それで好きな番組はアナザース〇イらしいで。ほんで好きな教科は国語で、好きな人は……」
「詳しすぎだろッ!というか最後のは個人情報駄々漏れじゃねぇかッ!」
ハハハと笑っている琴美が恐ろしい。
ひょっとしたら俺の情報も調べられているのかもしれないのか……
しかし琴美とは久しぶりに会ったというのに、すぐに打ち解けられた。
やはりどこか馬が合うようだ。
「北海道は典型的な全員バスケットやな。桐生院は私みたいな絶対エースが点を取るんやけど、北海道は点数を取るのも平均的や。みんなで決めに来るし、みんなが決められる。止めづらいチームやで」
確かに点数はすごいことになっている。
ダブルスコアを余裕で突破してトリプルスコアに迫ろうかという勢いだ。
「琴美ならどうやって止める?」
「こういう相手は小細工なしで正面からぶつかるしかあらへんな。私にボール集めさせて、私が決めるわ」
ということはつまり、桐生院がなりふり構わず勝ちにいかなければ勝てないということだ。
見ている限りでもその実力がわかる。
ウチでもてこずる相手だ。
「春沼はどう対処すると思う?」
「そんなん考えるまでもあらへんわ。それに、明日やるんやろ?というか蓮里も明日は東福岡やろ?」
「ああ、そうだな」
「頑張ってな。そろそろキツイ相手になってきたやん」
「決勝で会おうぜ、琴美」
「本心じゃないくせに。でもええわ。決勝で会おうな、壮」
ギュッと握った琴美の手が意外に柔らかくて興奮したのは僕と君だけの秘密だぞ!




