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蓮里小学校女子バスケットボール部  作者: ジェイソン
小学生全国大会編本戦
195/251

呟き場の挑発者

吼えたことはあったが

吼えさせることはあるか

配点(挑発)

sideリール


いよいよ今日の私たちの試合だ。


試合前に入念にアップをしたため、ユニフォーム姿になってもあまり寒くはない。


むしろ体が熱いくらいだ。


試合前の練習も終わり、今にも試合が始まろうとしていた。


相手を見据える。


情報は頭に入っている。


マッチアップ相手はもちろん、他の全ての選手の情報もだ。


ゲームプランは出来ているし、大祐からの指示もある。


たとえ予想外の手を打ってきたところで柔軟に変化させることもできる。


「では、行きましょうか」


アルの言葉で全員の意識が試合に向いた。


相手の膝が震えている。


緊張か、武者震いか。


それはすぐにわかることだ。


ボールが上がる。


春沼の2回戦が始まった。







sideメリル


初撃は決まりですわ!


千里が取って、リールに渡してリールからゴール下にパスを出してもらう。


それを駆け込んだ私が決める。


定石だ。


だからこそ防ぎようがない。


「メリル見て!」


やはり研究されていますわね。


でも、


「どっちにしろ追い付けませんわよッ!」


千里が弾いたボール。


リールが拾い上げて、そのままの動きで投げた。


いつもの軌道とは違う。


相手の位置を確認してパスコースを変えましたわね?


少し離れたところに出される。


「流石、ですわッ!」


ギリギリで取った。


本気を出さなければ触れることも出来ないようなギリギリのパスだった。


ドイツでも出されたことないようなパスですわよ。


指の先に引っ掛けて取ったボールを手で包む。


すぐに振り向いてリングを見る。


相手は寄っていない。


そういう所にリールがパスをしたからだ。


フリーでの中距離ショット。


「よし!」


「いいですよ、メリル」


ガッツポーズをして戻るとアルに撫でられた。


「さぁディフェンス!」


リールが声を出して意識をディフェンスに向けさせる。


「来るといいよ、エースさん」


相手がボールを托すのはシューティングガード。


相手チームのエースだ。


それに対するのはウチのシューティングガードである桜。


マッチアップはずらしていない。


そのままで平気だと桜がいい、大祐も賛成したからだ。


本当に、桜は大祐に信頼されていますわね。


「ハン、言ってろ」


「言うよ。僕の武器だからね」


ビデオを見た限りでは相手のエースのほうが実力は上ですわね。


いったい桜はどうする気なのだろうか?


「よっ」


と、そんなことを思っていたら相手エースがシュートを打った。


早いですわ!


リリースまでのスピードが早く、打点も高い。


イリヤタイプのシュートですわね!


桜は気づいてすぐに飛ぶが手が届かない。


シュートはしっかりと決まった。


「ミスマッチ、突かせてもらうよ」


「さぁてね、今のうちだよ」


チラッと審判を見る。


表情を見ているのだ。


桜はそういうところがとても上手い。


表情を見て心理を読み取り、どこまでが限界かを探っている。


私の見立てだともっと攻めて平気ですわね。


「リール、こっちだ」


桜がリールの隣を走りながら囁く。


リールが頷いてサイン。


千里がスクリーンに。


アルが動き、相手を千里にぶつける。


フリーになったアルにボールが渡る。


「アルッ!」


相手のエースがそちらに動く。


「じゃあそっちで」


アルはあっさりボールを離す。


飛んだボールは桜の手元へ。


エースが動いた分だけフリーになっていた。


エースが勝手に動いたようで、ヘルプが間に合っていない。


桜が飛ぶ。


これで入れば楽ですわ……!


「どこ見てるんだい?僕はここだよ?」


平気な顔で3pを入れて見せた。


相手エースを挑発する余裕もある。


「さぁ、言い訳は考えたかい?」


「いらないよ……勝つのは私だ!」


私たち、ではないんですのね。


「メリル、注意」


「わかりましたわ」


リールから指示される。


何故私を?という疑問はあるが打ち消す。


リールには見えているものがあるのだ。


腰を低くして相手を見る。


パワーフォワード。


ビデオで見る限りはそこまでではありませんでしたけど。


「……細田!」


と、エースからそのパワーフォワードにボールが飛んだ。


パワーフォワードがボールを掴み、前を見る。


いいですわよ。


ちょっと退屈だったんですの。


初撃決めてから活躍していないですし。


だから、


「貰いですわ」


なるほど、注意しろというのはこういうことですのね?


そういえばこのパワーフォワード、中継の役が多い。


だが実力は私のほうが圧倒的に上。


いくらでも隙は見つけられますわ。


こちらもミスマッチを突いていくということだろう。


ボールを弾いて奪い取る。


リールに渡す。


「アル見て!」


と、すぐに相手から声が上がる。


かなりアルを警戒していますわね。


それもそうか。


しかし、これでもヨーロッパ1の自負心がある私としては面白くない。


私も強いんですのよ。


そんな私の心を知ってか知らずか、リールが私にボールを戻す。


やれ、ということですのね?


作戦でも今日は私が活躍するはずなのだ。


今日のアルは省エネモードで行こうということになっているのだ。


明日の北海道、明々後日の桐生院とアルにはキツイ戦いが2つ待っている。


今日であまり疲れるわけにはいかないのだ。


だからアルの分を私が稼ぐ。


高めで貰って縦に突っ込めばなかなか止められるものではないはずだ。


相手が目の前に着く。


近くない。


というか随分と離れている。


私のクイックネスを警戒しているんですの?


だがこれでは離れすぎだ。


ナメているんですの?


「甘いですわよ」


その場でシュートフォームを作る。


相手が慌てて近寄る。


遅すぎですわ。


春沼の2連続3pが決まった。







side菫


「どう見る?春沼を」


松美に問われて考えを纏める。


「そうね……アルが動いていないから何とも言えないけれど」


と断りを入れてから、


「春沼はビッグ3ばかりが注目されているのだけれど、というか私もそうだったのだけれど、他の2人も注目するべきかもしれないわね」


「というと?」


「あのシューティングガード、桜と言ったかしら?彼女、3pも脅威だけれどディフェンスが上手いわね」


今まで見た春沼の試合を思い出し、分析にかける。


そうだ。


確かに桜は地味ながらも仕事をしていた。


要所で3pを沈めて、相手の3pを潰し、ディフェンスで相手を止めてトラッシュトークでイライラさせる。


地味だし、嫌われる仕事だがチームに1人は必要な存在だ。


ウチでは一條がその仕事をすることが多い。


「そしてあのセンター。体格もあるし身体能力もある。ゴール下を彼女が制圧しているお陰で春沼は有利な状況ね」


相手のセンターも上手いは上手いのだが、いかんせん体格が違う。


そこはどうしようもないのだが、身長の高さがモノを言うポジションなのだ。


「最初のほうに岩手川口はビッグ3のほうに意識を向けすぎた。だから桜に決められまくっている。だから今、桜と千里のほうに意識が向いている」


「最悪のパターンだな。ビッグ3が動きやすくなるぞ」


松美が口調とは裏腹に面白そうな目で試合を見る。


さて、世界最高クラスがどんなプレイをするのか、見物ね。






side織火


相手のオフェンスを千里が取った。


やはりあの身長であの機動力は異常ですね。


ボールがリールの元に飛ぶ。


リールがロングパスを飛ばした。


俊足で走りこんだメリルがボールをキャッチする。


そしてそのままリングのほう目掛けてボールをぶん投げる。


まったく、パワーフォワードなのにガード並のパスを出しますね……


「nice!」


そこにさらに走りこんできたアルが空中でキャッチしてそのまま叩き込む。


ディフェンスからの速攻が決まった。


「クソ……何やってんのよ!早く頂戴!」


相手のsgが怒鳴ってボールを要求する。


「甘いわね」


喜美がポツリとつぶやく。


喜美の言うとおり、sgは急いで前に行こうとしすぎていた。


ちゃんとボールをキャッチする前にボールから目を離したのだ。


「もらうよ」


それを狙っていた桜がボールを奪う。


そのまま桜が上がって1人で決めてしまった。


「やっぱりアルをつけるまでもなかったみたいだね」


「この……!」


「言い訳は思いついたかい?急がないと、言い訳できないくらいの点差になるよ」


「私は負けないっつうの……!」


「ダメだね。言い訳としては2流だよ」


桜、絶好調ですね。


ああいうタイプは桜がもっとも得意としているのだろう。


自尊心とプライドが強くて利己心の強い目立ちたがり屋のエースは反面、こういう精神攻撃に非常に弱い印象がある。


そういう奴らはさらに小心者でもありますからね。


相手の言う言葉を忘れられないのだ。


まったく、ああいう自尊心とプライドが強くて利己心の強い目立ちたがり屋のエースがいると大変ですね。


ええ、何かウチにも似たような、というかもっと酷い人間がいるような気がしなくもないですけれど。


あのsgとこの狂った女の違いは何なんでしょうねぇ。

春沼の試合がちょっと長引きましたね。


明日で春沼と北海道の試合のどちらも終わらせたいですね。



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