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蓮里小学校女子バスケットボール部  作者: ジェイソン
小学生全国大会編本戦
188/251

食事場の散らかし人

やればよかった

やらなきゃよかった

足し引きできればいいのにね

配点(後悔)

sideイリヤ


私達も一旦ホテルに戻っていた。


着替えて行こうということになったのだ。


というわけで白いコートを着て再び会場に向かう。


「でも壮、どの試合を見るの?次に戦う沖縄の試合はもう終わったんでしょう?」


確か私達と同時に試合をしていたはずだ。


「ああ。だから特にこれを見ようってのもないんだけどな。楓とか美紗がいるはずだから、一緒に見ようかなぁと」


他の女の名前が出て来ても壮の首を絞めないくらいの余裕は持てるようになった。


「もう!私と2人きりじゃ嫌?」


「よし!2人で見ようかイリヤ!」


こんな風にからかう余裕も出て来た。


「冗談冗談。楓達のところに行こ?」






「おう、イリヤ。2回戦進出おめでとう」


「いいゲームメイクでしたよ」


「美紗にそう言ってもらえると自信がつくよ」


最前列の席でカメラ回しながら試合を見ていた楓、美紗、知美を見つけてハイタッチする。


「ま、当然ね」


知美は澄ました顔でそう言う。


「私達に勝ったんだから、決勝戦まで進んでもらわないと」


「はいはい。わかってるよ」


楓の右に座って、私の右に壮を座らせる。


「尻に敷かれてんなぁ……」


「イリヤの尻だったら本望さ」


「変態ですね」


「いい!いいですね!やっぱリアルは違いますね!」


相変わらずうるさい3人だった。





「楓、どこか注目するべき相手はいる?」


1日中カメラを回して試合を観戦していた楓に尋ねる。


「そうだな。横浜、桐生院、北海道、東福岡の4強はまだ出て来てないから何とも言えないんだがな。やっぱ目立ってたのはお前らと春沼だな」


「春沼はわかるけど私達も目立ってた?」


「お前が、だ。イリヤ。いいか?この大会、1番注目されてるのは春沼だ。なんせあの3人を揃えてきたんだからな」


「うん」


「強豪は全員春沼を研究している。だが、春沼の試合数はとても少ない。まともな勝負になったのは2試合だけだ。栄光戦と、蓮里。お前らだ。他の強豪は目が腐るほど県大会決勝の蓮里対春沼を見ているはずだ」


「だろうね」


「あの決勝戦を見れば喜美がどんだけの化け物かわかる。喜美がエースだと思う。だが、今の試合で1番得点を上げたのはイリヤだ。エースが2人いる。この事実はかなりの衝撃だぜ」


そんなものかな。


やっぱりみんな春沼は警戒しているんだね。


「3回戦、面白くなりますよ。去年準優勝の第2シード北海道との対戦ですからね」


「今年は桐生院のほうが強いと思うけど」


「ええ、その後の5回戦、桐生院との勝負ですからね。桐生院の琴美と春沼のアル。日本最強と世界最強対決ですね」


それは楽しみだ。


私も生で見たいくらいに楽しみだ。


だが、


「そん時はお前ら横浜と対戦だろ?しかも3回戦は東福岡だから楽な試合にはならねぇだろ」


そう、私達も同じような展開を辿るのだ。


しかも5回戦で戦うの第1シードだし。


2回戦で沖縄、3回戦で第4シードの東福岡、4回戦でどっか、5回戦で第1シードの横浜。


そして6回戦が決勝戦となる。


勝ちをあと5回積み重ねなければいけないのだ。


勝負事をしている人なら、5回連続で勝つのがどれだけ難しいことかわかってくれるだろう。


それも全国という舞台で。


それをやるのが私達なのだけれど。


「ここで他の学校の話を聞いていましたが、かなり蓮里も警戒されています。東福岡も横浜も、蓮里を警戒していました」


「当然だね」


それでもなお勝つ。


それが強者の義務だ。


眼下、試合が終わっていた。


勝ったチームが喜び、負けたチームが泣いている。


勝つか負けるか。


勝負をすればその2つに分かれる。


例外はない。


私達が勝ち続けるなら、相手を悲しませ続けるということだ。


そこまで考えて頭を振った。


考えるべきじゃないね、そんなこと。


今はただ勝つことだけに集中するべきなのだ。


他のみんなを思うのは、優勝してからでも遅くない。







side壮


「ただいまーって喜美ッ!?喜美ッ!!喜美イイイイイィィ!?」


ホテルに帰ると俺とイリヤの部屋に喜美が顔から床に突っ込んで倒れていた。


「喜美ッ!喜美!?こ、これは……!」


イリヤがガクガクと喜美を揺さぶると喜美の下に血で書かれた文字が出て来た。


「わ!汚い!」


と、イリヤがサッとそれを拭き取ってしまった。


「まったく喜美。君らしくないね?ホテルの床を汚すなんて沢木家の女として自覚がないよまったく」


「……イリヤ。お前、喜美が命を懸けて伝えようとしたメッセージをこの世から消し去っているぞ」


まぁキッチンの惨状を見れば大体わかるのだが。


「イリヤ、エプロンある?ちょっと一緒に料理しようぜ」


「わぁ!新婚夫婦っぽいね!何作るの!?」


「うん?気付け薬」






「プハァ!ハァ……ハァ……生きてますか?私、生きてますか!?」


午後7時、織火蘇生。


イリヤがトイレに入っていた4人を引っ張ってきて気付け薬を口に流し込んでいる。


というか織火ママンを被害者にするんじゃねぇよ……


「助かった……てっきり地獄に堕ちたかと思いましたよ……」


「そんな味になったのか、マッスルドリンク」


キッチンに積み上げられた材料を見れば何を作ろうとしていたかはわかる。


さらに見慣れない材料があったので改良しようとしたこともわかる。


そしてマッスルドリンクを改良=ゲロジュースだ。


天国が見えるのではなく、地獄が見えるジュースだ。


だからマッスルドリンクの改良は達成されない。


母さんは実は現在のこの形態が完成形態なのではと思っているらしい。


「迂闊だったわ……匂いは良さそうだったから一気に飲んでしまったわ……」


喜美が起き上がって口を拭きながら言う。


「お前らなぁ、試合前日に何やってんだよ」


「でも兄さん、体調の方は完璧よ」


「え?あれ?ホントだ」


「わぁ!体が軽い!」


「そうかそうか。それはよかった。で、お前ら。ステーキは?作るって連絡来たから俺ら何も食べてないんだけど」


「えぇっとぉ……」


「ま・さ・か。作ってない、なんて言わないよねぇ?」


イリヤが笑顔で短刀を抜きながら言う。


「えっとですね、イリヤ。こう、私達は地獄をくぐり抜けて来たというか生命の危機を味わったと言うか」


「織火。あと1時間以内にご飯が私と壮と織火ママンの前にないと、生命の危機どころか生命亡くなるよ?」


「「「「急いで準備させて頂きますッ!!」」」」







side桜


「というわけでー!1回戦突破記念ということで乾杯!」


「「「「「乾杯!」」」」」


メリルの音頭に全員が乗ってグラスを打ち付け合う。


当然、麦茶だ。


「刺身ですわ!刺身!私これ大好きですの!」


「魚を生で食べる?馬鹿言ってるんじゃないわよ。正気?」


「リール。その発言は日本人としては聞き捨てならないわね」


「大祐、そこのケチャップ取ってください」


「アル。刺身をケチャップで食べるような下手物食いは止めろ」


「じゃあ私がリールの分も食べますわよ?」


「あ!ずるい!それ私の!」


「いいからさっさと食べて頂戴。さて、私は肉じゃがのほうを……」


どうしてか食卓の上には和食ばかりが並んでいた。


海外の人間が多いこの春沼において、今時日本人でもなかなかお目にかかれないような和食のオンパレードだ。


しかしリールも刺身が嫌いなだけで他の和食は好きなようだし、意外と好評のようだ。


まぁ確かに、文化が違うと刺身なんて食えたもんじゃないよね。


私達だってイナゴ食えとか言われたら無理だしね。


「お前ら、ちゃんと明日の相手の分析は出来ているんだろうな?」


しかしいつまでも宴会気分でいるわけにはいかない。


大祐が聞くと皆が真剣な表情になった。


アルも真剣にカニの身を取り出そうとしながら耳だけ大祐に傾けている。


「明日の相手、岩手川口なんだけど。ま、ビデオは見ていると思うわ」


リールが肉じゃがの玉ねぎだけを取り除きながら言う。


玉ねぎが美味しいのに……


「シューティングガードにエースを据えているわ。桜、対策は出来ている?」


「余裕も余裕さ。あれは僕がもっとも得意とするタイプだね」


言う言葉に嘘はない。


本当に、こういうエースらしいエースを相手にするのは僕の得意分野だ。


傲慢でプライドのある利己的なプレイヤー。


僕のトラッシュトークにもっとも引っかかってくれるタイプだ。


こういうタイプは本当に怒るから、やってて面白いんだよね。


「しかし桜。この相手、実力はそこそこだと思うけど?」


千里が指摘するとおり、弱いわけではない。


「実力は向こうが上かもしれない。でも、それをひっくり返す方法なんて星の数ほどあるよ」


「その通りよ。ま、その口調だと桜は大丈夫そうね。アル、アンタがオフェンスの時にこのシューティングガードとマッチアップになると思うけど」


「リール。1対1で私に勝てる人間がいると思いますか?」


「そうね。少なくともコイツでは無理でしょうね。やれるのね?」


「いくらでも証明してあげましょう」


かっこよく言っているが、蕎麦をフォークで食べている時点で終わっていると思う。


確認も終わり、大祐も満足したようなので再び食事になる。


てんぷらをポン酢で頂いているときに僕の携帯が鳴った。


電話の相手をチラッと見て目を丸くする。


「ご、ごめんみんな!ちょっと」


「はいはーい」


千里に送り出されて僕は急いで廊下に出た。






「こんばんは、繁樹さん」


『こんばんは、桜さん。今大会中ですよね?すいません。こんな大切な時に』


「いや。僕が無理を言ったんだから。あの、それで」


『……すいません、桜さん。やはり応援に行くのは無理そうです』


「……」


覚悟はしていた。


応援に来てくれないかと言った時点で、無理だろうとは思っていた。


『やはり子供たちを置いていくわけにはいきません。ごめんなさい、桜さん』


本当に申し訳なさそうな声だ。


声だけで表情が手に取るようにわかった。


「大丈夫、繁樹さん。しょうがないよ。やっぱあのコ達を置いてくるわけにはいかないしね」


自分に納得させるように言う。


「ごめんね、繁樹さん。変なこと頼んで」


『変なことではありません。我が子の試合、見に行きたいのは当然です』


「ま、大丈夫だよ繁樹さん。春に優勝トロフィー持って帰るからさ」


『はい。楽しみにしています。テレビでもやるようですから、みんなでここから応援していますから』


「うん。ありがと、繁樹さん。それじゃあそろそろ戻らないと。じゃあね」


『はい。楽しんでください。桜さん』


その言葉を聞いて電話を切った。


途切れた携帯をジッと見つめる。


見つめたところで事実は変わらない。


繁樹さんは来れない。


ま、仕方ないことだね。


来てくれたらすごく嬉しかったのだけれど。


ま、こうなったらさっき言ったように優勝するしかないね。


とりあえず明日の試合で勝とう。


そう思い、僕はすき焼きの肉の取り合いをして殴り合っているみんなのもとへ帰った。

次回から2回戦開始です。


2回戦から4強が出てきます。


琴美、菫、松美に注目です。

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