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蓮里小学校女子バスケットボール部  作者: ジェイソン
小学生全国大会編本戦
185/251

ゴール下の技巧者

力で潰し

技術で決めろ

配点(強化)

sideイリヤ


ディフェンスはキッチリ。


上手く守ればそれが攻撃に繋がる。


オフェンスはディフェンスから、だ。


超攻撃的チームである蓮里でもそれは例外ではない。


相手はここでエースに任せる。


スモールフォワードにボールを投げ入れたのだ。


しかしその相手をするのは、


「いいわよ。来るといいわ」


ピッタリとくっついている喜美だ。


それを確認して私は飛び出す準備をする。


喜美がピッタリとくっついているために相手はシュートを打つことはできない。


ドライブで抜きに行くしかない。


あれだけ近ければ抜くのは容易に思える。


だが、


「邪魔……!」


今の喜美はそう簡単に抜けない。


右、左と連続してスティールを狙って相手に考える暇を与えない。


「ほら、貰いよッ!」


そしてあっという間にボールを弾いて見せた。


浮いたボールを喜美が素早くつかみ取る。


そしてコートを見回し、手を上げてボールを呼ぶ私を見つける。


チェストパス1本で通った。


かなりのロングパスだったが手首の返しだけで通した喜美は流石だ。


ボールが飛んできて、それを片手でキャッチしてやる。


すぐにリングを見る。


壮からは私が積極的に行くように指示を受けている。


イリヤだけで全ての得点を決めてみせろ、と言われた。


だからパスなど考えずにまず自分で決めに行くことを考えた。


前には私の相手が立っており、沙耶がローポストに入ったためにもう1人が戻っている。


壁は2人。


アルなら一息で切り裂く人数だ。


アルにやれて、私にやれないわけがない。


年末の特訓で1対多数の勝負なら何度もやっている。


慣れた。


一息吸って相手の目を見る。


私はさっきドライブでこの子を抜いた。


警戒しているのは間違いない。


だったら急ストップからのジャンプシュートを狙うか?


いや、私を研究しているならその技は知っているだろう。


対応できるように練習しているはずだ。


ドライブで抜くか、それをフェイントにジャンプシュートを打つか。


それとも、どちらもフェイントにしてしまうか。


身を低くして一気に飛び出す。


相手が釣られる。


そこで急ストップをかける。


やはり相手はすぐに反応した。


素早く止まってジャンプシュートを警戒して手を上げて飛ぼうとした。


「さいなら!」


そしてその時には私はその子の横を抜いていた。


前後の体重移動によるステップフェイク。


急加速、急停止、さらにそこからの急加速を仕掛けるという単純な技だ。


だが、私のスピードと勢いでやればそれは止められない。


まず1人。


さらに目の前、沙耶のディフェンスに着いていた1人が咄嗟にこちらを振り向いた。


沙耶がボールを呼ぶ。


ここでパスしてしまうのも手だ。


沙耶なら間違いなく決められる。


だが、ここは私の印象を強く持たせるべきだ。


ダブルチームじゃないと止められないと思わせるくらいに圧倒的なことを見せなければいけない。


だから沙耶に目で合図をする。


沙耶は小さく頷いて私が外した時用のフォローの位置につく。


それを確認するより早く私はステップを踏み切っていた。


流石にアルみたいな空中機動は出来ないが、ぶつかりながら決めるくらいはできる。


左手で飛んだセンターの腕を払いのけながらリングをチラリと垣間見た。


そこか。


右の手に乗ったボールを載せに行く。


その途中で手を叩かれそうになるが、


「邪魔だっ!」


それすら払いのけて叩き込んでやった。


ボールがリングの上に乗り、私は床に落ちてゴロゴロと転がる。


素早く起き上がって見てみればボールはちゃんとネットを揺らしていた。


さらに笛も吹かれている。


ワンスローだ。


ファールの分のフリースローも決めて3pプレイにしてやった。


最初に抜いた相手が悔しそうな顔をして私を見る。


軽く舌を出してやった。


あ、なんかちょっと快感。


「ナイス!イリヤ!」


喜美が肩を叩いて戻る。


喜美にも褒められたし、気分がいい。


このままガンガン行こうかな。







side壮


フムフム。


イリヤの調子はいいし、ちゃんとポイントガードもできている。


スラッシャータイプとして。


今までイリヤをフォワードにしていたのは間違いではと思うほどの素晴らしさだ。


ボールを持ち、飛び出す時にフワリと舞い上がる銀髪が何とも言えない。


もっと見ていたいのは山々だが、俺はイリヤにサインを出す。


『沙耶を使え』


『了解』


僅かな指の動きで俺とイリヤの意志疎通は達成される。


相手のオフェンスを喜美が叩き潰して再びこちらのオフェンス。


イリヤは今までのようにガツガツ行かずに一旦3pで止まって落ち着かせる。


相手センターとポジション争いしている沙耶が素早くターンを決めて体を切った。


ちょうどそこに素早いパスが入る。


沙耶が飛べば敵はいない。


そのまま打つというか置くだけで決めてしまった。


「ナイス沙耶!!」


「いいよ!今の上手かった!」


「ありがと、ガンガンこっちに回して。ミスマッチだから」


挑発も忘れないその姿勢は素晴らしい。


しかし沙耶が成長したというのは本当のようだ。





ウィンターカップが終わったあとに真っ白に燃え尽きたような声の部長から電話がかかってきた。


『壮……』


「先輩、どうしたんっすか。そんな5発くらい出した後みたいな声で」


『俺はやってやったぜ……』


「5回ですか」


『ちげぇよ……』


ツッコミにもイマイチ迫力がない。


どうやら本気で疲れているようだ。


「どうしたんっすか」


『お前んところの沙耶ちゃんが殴り込んで来てな。俺にセンターとしての技術を教えて欲しいと』


「アイツ……すいません部長。アイツ、受験という言葉を知らないんで」


『まぁ俺も気分転換になったからいいけどよぉ……』


いや、どう聞いても気分転換程度の疲れ方じゃないっすよ。


現役の練習の時でもこんな疲れた声は聞いたことがない。


『俺はやってやったぜ……沙耶を日本一のセンターにしてやったぜ……』


「マジっすか」


沙耶の才能は俺も認めるところだが、技術がまだ未熟だ。


いくらセンターが体格でゴリゴリ行くポジションだからと言って、あんな未熟な技術では横浜の菫などには勝てないだろう。


それを部長が自信満々に日本一と言ったのだ。


『俺のセンター演習の時間を注ぎ込んでセンター特訓してやったんだ』


「先輩、ボケにキレがないっすよ」


『ああ、今解きながら電話してるからな』


「すんません。ウチの沙耶が……」


まぁ説教はしない。


自分で考えてやったことだし、部長も納得して受け入れたみたいだからな。


よし、これで部長が落ちた時の言い訳は万全だ。


『とりあえず俺の持ってる技術で使える奴はあらかた教えたから。沙耶ちゃん、あんま小賢しいプレイは似合わないと思うけど覚えておいて損はないだろ?』


「アイツがそんな小難しいプレイを覚えたんですか?」


『自分から教えてくれってな。不完全だけど合わせのプレイも練習した』


信じられない。


手っ取り早い方法を好む沙耶がそんなことを言い出すなんて。


よほど春沼に負けたのが悔しかったのか。


『だから壮、沙耶ちゃんを日本一にするんだぞ』


「うっす。任せてください、先輩も頑張ってください」


『ああ。とりあえずセンター9割取らないと話にならんからな。じゃあ切るぞ』


「うっす。ありがとうございましたッ!」






本当にこういう技術を覚えて来るとは。


単純な相手の外し方なのだが、その分相手もそれを読んで対策を立てることができる。


そこから始まる駆け引きが沙耶は嫌いだったのだが……


相手のオフェンス、シューターが遠目からの3pを決めた。


特に気にする必要はない。


今度はイリヤが早めに織火にボールを渡した。


織火が3pラインまで軽く持っていく。


そして高めのパスを出した。


それを取れるのは沙耶しかいない。


片手を思い切り上げてローポストで取った。


パワードリブルで一気に押し込もうとする。


と、いきなり素早く右のターンを決めた。


しかしボールは左に放たれていた。


ノールックのフェイントからのパス。


技ありのパスは喜美が駆け込んで受けとった。


そのまま喜美がレイアップで決めてしまう。


「ナイスアシスト!」


「喜美も、取ってくれてありがと」


ゴツンと拳をぶつけ合う2人。


まもなく1Qが終わろうとしていた。







side喜美


2Qは兄さんの指示もあって、沙耶を中心にプレイを組み立てることになった。


「喜美!」


沙耶がローポストに侵入して手を上げる。


織火からボールを受け取っていた私はそこにパスを通してやる。


同時に切り込んで、1Q終わりと同じようにパスをもらえる位置に走る。


相手も当然それは警戒している。


沙耶が再びバウンドパスで私に通そうとする。


沙耶の腕の動きに相手センターは釣られる。


沙耶は片手でボールを掴み、投げ出さずに素早く戻した。


「なッ!?」


相手がそれに気づくがもう遅い。


沙耶が振り返り様のショットを沈めた。


「ナイス」


「喜美がいいところにいてくれたわ」


拳をぶつける。


それにしても、本当にプレイの幅が広がったわね。


前までは1対1による強引な点取りしかできなかったのに、今ではこうやって2人で、あるいはチーム全体で点を取ることができる。


今の私たちで1ヶ月前の私たちと勝負したら圧勝でしょうね。


本当の意味でのチームプレイというものができるようになったのだから。




その後も沙耶による連続攻撃。


そのフィジカルの強さと身体能力、そして新たに手に入れた技術によって2Qだけで20超えの得点を叩き出し、相手センターを退場させるという快挙を成し遂げた。


2Q最後のシュートはイリヤが遠目の3pを沈めて終わった。


これで前半は終わり。


次の3Q。


ウチのシューターの出番だ。

沙耶もパワーアップして帰ってきました。


次話は咲と喜美の出番ですかね。

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