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最終局面の抵抗者

それは意地か

プライドか

それとも

配点(諦めないよ)

Side知美


負けていない。


まだ負けていない。


残り時間を見ろ。


まだ2分もあるではないか。


11点差、10秒で決めて20秒でスティールを決める。


30秒で3点ずつ、2分で12点。ほら、大逆転だ。


ファールゲームでもいい。


勝つ方法なんて幾らでもある。


負けるわけにはいかない。


私のためじゃない。みんなのために。





Side喜美


いいわね、この子。目が死んでいない。


向こうのディフェンス、4人が片方に寄って左サイドでエース対決となっている。


この状況、西条は3p以外はできない。


私の体は3pシュートだけを警戒する。


と、相手の体が横にスライドする。


・・・・・・は?


横っ飛びからの3pシュート。


それは見事に決まった。


体がついていかなかった。


やるわね。この子。


よく頑張ったわ、本当に。





Side健二


俺は試合終了のホイッスルを吹く。


終わった。


最後に執念の3pプレイを決めて、西条はすべての力を出し尽くした。


最後は沢木の妹と銀髪の子に蹂躙された。


蓮里32-18西条


「ありがとうございました!」


挨拶をしてみんなが帰ってくる。


あらゆる奇策を尽くして、あらゆる弱点を突いて戦った。


そしてその上を行かれた。


「負けたのは、俺の責任だ」


俺はそう言った。チームが負けるのはコーチの責任だ。


「次は勝とう、みんな」


「「「「「はい!」」」」」




Side沢木


「よくやった、お前ら」


俺は帰ってきた5人を見て言う。


「もっとうまくやれたところがあったかもしれない。まだ不完全なところがあるかもしれない。でも、よく勝った」

「フフフ、当たり前でしょう兄さん。私がいるのだから」

「お前なぁ・・・・・・」


せっかく俺がシリアスに決めたのにこの野郎!


じゃあもういいよ畜生!


「イーリヤ!頑張ったなぁ!えらいぞえらいぞ!撫で撫でしちゃうぞ!」


欲望に身を任せた。


「私だけじゃないよお兄ちゃん」

「おう、そうだな!織火!あの時よく頭に血が上らなかったな!俺なら無理矢理突っ込んで飛び蹴りしてたね!」

「ダメでしょ」


ダメなことをしないのもすごいことなんだぜ。


「沙耶、後半にあんだけ得点されても余裕があったのはお前のおかげだ。よく体張ったな!」

「いや、それくらいしかできないし」

「はっはっは、謙遜するなよ」

「それに相手ぶちのめすの大好きだし」

「はっはっは、少しは優しくなれよお前」


だが沙耶の闘争心は特筆すべきものだ。


「咲!」

「なに?」

「・・・・・よくやった!俺のあのヒントだけでよくダブルチームを選択できたなぁ!えらいぞ!流石我が弟子!」

「・・・・・・サンキュー」


咲とハイタッチ。


「兄さん、私は?」


喜美が俺と咲の間に割って入る。


「お?ほかの女の子と一緒にイチャイチャしてて嫉妬心でも抱いたか?うん?残念!俺の嫁はイリヤだけだ!」

「フンッ!」


喜美の必殺コカンパンチャーが炸裂する。俺は笑顔のまま気絶した。




Side健二


今しかない。このチャンスを見逃すわけにはいかない。


なんと言ってもあの沢木壮が目の前にいるのだ。妹に股間を打撃され気絶している沢木壮がいるのだ。


俺は股間を押さえながら思う。戦いたい、と。


高校のバスケに復活すれば超えなければならない壁となる。


この男を倒さなければ全国などほど遠い。


「沢木、勝負をしてくれないか?」

「うん?ああ、いいよいいよ、オッケー」


この男はやはりすごい。


あれだけの打撃を股間に受けてもう復活するとは。


沢木がボールをパスしてくる。


「お前が先オフェンス。俺ディフェンス。5回勝負ね」

「ああ」


勝算はない。


中学のときあれほど研究して弱点を1つも見つけられなかった。


「ふっふっふ、イリヤ!見てて惚れるなよ!」

「うんわかった。惚れない」

「ゴメン惚れてください!結婚してください!」


何を訳のわからないことを言っているのだこの男。


まさか……この男……!


「お前、ロリコンなのか?」


俺は恐る恐る聞いてみる。


「はぁ?何を言っているんだお前?」


よかった、冗談なのか。憧れの全国王者がロリコンだなんて


「イリヤが大好きに決まっているだろう!イリコンだイリコン!」

「死ねええええええぇ!!」


相手が格上とか、胸を借りるとか、そんなことは吹っ飛んで、ただ目の前の相手に襲い掛かった。




「クソッ!」

「はっはっは!さっきの威勢はどこにいった!?」

「ぐ……」


こいつ猿か!?相変わらず野生児みたいな動きをする奴だ!


「……ッ!」

「通らんよ」


ターン、ドライブ、フェイク、他あらゆる技術をもって向かっても全てとめられる。


この男、抜ける気がしない。無理やり打ったシュートは当然のように外れた。


「こっちの番だ」


沢木がボールを持つ。


「ほれほれ」


その場でドリブルしての挑発。当然乗らない。


「ッ!」


そして沢木がいっきに突っ込んでくる!


……なん……だと?


沢木は動いていなかった。


突っ込んできたように見えたのはフェイクだ。


一歩も動いていない。


その場でシュートを打っている。決まる。


嘘だろ!?


今絶対に突っ込んできただろ!


フェイクとかそんなレベルじゃないだろ!


まだディフェンスはとめられる。


どんなに動いても離れないし、フェイクを仕掛けても焦らない。


無理やり置きに行ってもその身長でとめられてしまう。


「クソ……」


やっぱり無理なのか。俺はこの男には勝てないのか。


「健二さん!がんばって!」


その時、知美の声が聞こえた。


「がんばれ!諦めんな!」

「健二さん!行けますよ!」

「ファイト、お兄ちゃん」

「あきらめたらそこで試合終了です!」


みんな……。そうだ。何を考えているんだ。俺は。


最後に美奈がボケをかましてきたとかそんなことは考えないでいい。


どうして諦める。みんなのさっきの試合を見ただろう!


お前は教え子に負ける気か!


「うおっしゃ!」


顔を叩いて目を覚ます。いける。


具体的な根拠なんて何もないけど、いける。


「いい面だ。じゃまぁ、行かせてもらうぜ」


沢木が動く。


今度はいきなりトップスピードで突っ込んできた。


小細工無しのドライブ。


速ッ!


視認がやっとの速度だ。


さっきまであそこにいたのにとか思ったらほとんど抜かれかかっている。


でも、諦めない。ここで喰らい着く!


「ハァハァ……」


再びゴールを背負う。


「ほぉ」


沢木の顔から笑顔が消える。


「どけ」


そのひと言と共に突っ込んでくる。


右だ。


そう、完全に右にいた。


俺は止めに入った。


やった、止めた!


そう思った次の瞬間に沢木は俺の左を抜き去った。


……スピンムーブ。


今のが、ただのスピンムーブだというのか。


右に来ると思ったら左に来たとかそんなレベルじゃない。


右にいたのに左にいた。

後ろで豪快なダンクを決められる。


しかもレッグスルーダンク。


「健二、俺に勝ちたいなら死ぬ気で練習してこい」


さきほどの美奈のネタを引きずって沢木が言った。




Side沢木


「ありがとうございましたー!」

「ありがとうね」


挨拶をして西条の体育館を出る。


結局あの後はみんなでゲーム形式の練習をずっとしていた。


知美の存在はみんなの刺激になったみたいだし、俺たちの存在も西条の子たちの刺激にもなったみたいだ。


「フフフ、よかったわ。今日の練習試合」


喜美が言う。


「私たちのやってきたことが間違いじゃないとわかるのは気持ちいいことね」


こんな喜美は珍しい。真面目な喜美なんてめったにお目にかかれない。


「でも、くやしいです」


織火が心底悔しそうに言う。まぁ今回一番コケにされた人だからな。


「織火、帰ったら練習だ。次はお前が最多得点を決めるぞ」

「はい!」

「イリヤ、帰ったら結婚式だ」


イリヤを抱き上げて言う。


「コーチ、犯罪臭いよ」


沙耶にジト目で見られても気にしない。


だってイリヤ、喜んでるし。


「うーん、お父さんに聞いてからだよ」

「……へ?」


何を言っても、ダメだよお兄ちゃん、が……ついに俺の深い愛情に心を開いたのか!?


「それで、誰の結婚式なの?お兄ちゃん。お兄ちゃんのお友達?あ!さっきのおホモ達?」


俺はゆっくりとイリヤを地面に降ろして、近くにあったベンチに体育座りする。


「あれれ?どうしたのお兄ちゃん?おなか痛いの?」


不思議そうにこちらを見るイリヤ。いや、わかっていたんだ。こんなオチだろうな、と。


でもさ、ちょっと希望を持ってしまったからさ……。


「ドンマイ」


隣で俺の肩を叩いて慰めてくれる咲だけが俺の味方だった。



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