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蓮里小学校女子バスケットボール部  作者: ジェイソン
ウィンターカップ編
168/251

平行線の相対者

どれだけの決着を望むのか

その答えを与えよう

配点(決勝)

side浦話


「……時間だ」


「押忍」


「行くわよ、みんな」


「「「「「押忍」」」」」


「浦高ッ!」


「「「「「ファイッ!」」」」」


「浦高ッ!」


「「「「「ファイッ!」」」」」


「浦高ッ!」


「「「「「ファイットオオオオオ!!」」」」」






side横浜羽沢


「よし、時間だ」


「これで最後、全部置いて来るぞ」


「「「「「うっす」」」」」


「行こうか」


「羽沢!羽沢!羽沢ファイッ!」


「「「「「オウ!!」」」」」







side壮


「よろしくな」


「こっちこそ」


コートに出て、小野寺と手を合わせる。


「この日をどれだけ待ち望んだが」


「俺もだ」


「勝つぜ、ウチが」


「試合終わってから言ってみろ」


言葉で言ってもしょうがない。


結果で示すしかないんだ、コイツには。


「勝負だ」






sideリール


主審の手からボールが上がる。


前田と相手センターが同時に飛んだ。


「一本守るぞ!」


「この一本、落ち着いて決めるぞ」


ボールは小野寺の手に渡る。


痛いほどに張り詰めた空気。


観客席からは熱狂的な応援の声が聞こえる。


しかしこのコート上は、緊張感に包まれていた。


静かだ。


誰もが極限まで集中している。


「……」


威嚇に声を出す必要はない。


その程度が通じる相手ではないし、威嚇しなくても強いことは全員わかっている。


ただ己に与えられた仕事を果たすこと。


それが今、10人が行っていることだった。


そして小野寺の仕事は点を取ることで、壮の仕事は小野寺を止めることだ。


小野寺がドリブルをしながら壮に近づく。


離れすぎればミドルが打たれる。


近づけばドライブで抜かれる。


そのギリギリの境界線に立たなければいけないのだ。


小野寺が近づくのに合わせて壮がジリジリと後ろに下がる。


と、小野寺が唐突にパスを出した。


スピンをかけたバウンドパスはバウンドと同時に進行方向を一気に変えて、植松のパスカットをかわす。


そしてバウンドして飛んだ先には宮澤が走り込んでいた。


ペイントエリアに侵入された。


「対応ッ!」


だから私は叫ぶ。


それが私に与えられた仕事。


外から状況を俯瞰し、的確な指示を飛ばしていく。


「ズレろ!」


前田が宮澤の前に出る。


「壁にもならんぜ……!」


しかし宮澤はそれでも飛ぶ。


「ほらよ」


宮澤がリングにボールを置いて来るフリをして、そこから一気にボールを下に下げる。


「決まりッ!」


「対応ッ!」


「嘘ォ!?」


しかし私はそれを見て指示を飛ばし、川口が手を出す。


「なんてな!」


しかし宮澤はそこからパスを出した。


あれでアドリブなら、やはり超高校級と呼ばれるだけはある。


対応は……無理ね。


「ッシ!」


ダンクで叩き込まれる。


「構うな、こっちも決めれば何の問題もない」


しかし島田が全員にそう言った。


まったく、最後の最後でキャプテンらしいわね。


植松にボールが渡る。


植松につくのは小野寺だ。


「堅ぇ……!」


小野寺のディフェンスには植松も攻めあぐむ。


早々と壮にパスを出した。


壮につくのは宮澤だ。


「ふぅ……」


一息ついて、壮は宮澤を見据える。


目は本気の色だ。


しかし、口元には笑みがある。


壮がもっとも調子がいい時の特徴だ。


「ラァッ!!」


壮はドライブを選択した。


「強引だなオイ……!」


宮澤がつこうとするが、壮が速い。


左腕で宮澤を弾きながら一気にリング近くまで持っていく。


「止めろ!」


「止めてみせろ」


その壮の動きが唐突に止まる。


その場でジャンプしたのだ。


右手に乗ったボールがフワリと浮く。


フローターだ。


ボールは枠を捉えて、そのままリングに入った。


「ここまでの熱気、努力、全部ここで神様に奉納してやる」


壮が来いよ、というように手招きする。


「神の加護を持つ俺に勝てるかな?」







side琴美


「なんや、えらい戦いになっとるなぁ」


兵庫まで来た甲斐があるってもんや。


「アンタの妹は何か気づいたみたいやで」


そんなら、兄さん、アンタはどうなんや?


「見せてやりぃな。兄の威厳ってヤツ」


腕を組み、見下ろす。


コート上では小野寺がボールを持っていた。


横浜羽沢はまず小野寺にボールを集めて、そこから全ての攻撃を開始するな。


この小野寺を倒せれば一番楽なんやけど、


「神代ッ!」


小野寺からトリックパスが出た。


左に投げかけてからの体ごと回してのパスだ。


「無茶苦茶やなぁ」


さすが日本最高峰ポイントガード。


美紗が霞んで見えるな。


「勝負……ッ!」


しかし神代の前には島田がいる。


ビッグ3対決やな。


神代がシュートフォームを取る。


私なら打ってまうなぁ。


フェイクが通じる相手やないし。


その通り、神代はジャンプシュートの態勢を取る。


「打たせるか!」


「打たないよ」


しかしそこからの神代の動きは私を裏切った。


完全にシュートを打ちにいく態勢から、パスに切り替えたのだ。


「ナイス先輩ッ!」


島田の横を通って宮澤の手に渡った。


「対応2回ッ!」


そこに指示が飛ぶ。


英語……?


ベンチを見ると、


「なんや、リールやん」


何でいるんやろ。


気にしたら負けな気もするけど。


でも対応2回、か?


1回やのうて?


宮澤が飛び上がり、植松を飛ばせてその下をパスで繋ぐ。


そや、これを止めるんや。


「見ててくださいよ姐さん!」


パスを受けとった相手センターに前田が襲い掛かる。


だがその相手センターは、もう1本パスを繋いだ。


「オッケ」


フォワードに繋がった。


フリーだった。


「ドアホオオ!!2回って言ったでしょうがッ!!」


リールが叫ぶがもう遅いなぁ。


フリーで打てばあの距離は決まる。


パサッといい音を立ててボールが沈んだ。


「2回……なるほど、コートの配置見てそこまで読んだんか」


やっぱリールは手強そうやなぁ。


「この馬鹿!ドジ!マヌケ!挽回しなさいッ!」


「押忍!すんませんした!」


なんや浦高の人、リールに気圧されてへんかなぁ……


「大丈夫。決められたら決めればいい」


植松が指を振って、サインを出す。


「1、2!」


その掛け声と共にパスが出る。


「ナイス」


そのパスは壮に繋がり、


「ほいっと」


そのままアッサリ横に投げられた。


「速ッ!?」


一瞬の停滞もなかった。


飛んだボールは島田の手に渡り、


「見ておけ」


島田が飛び上がり、手首を返す。


その返した延長線をボールがなぞる。


ガンッと音が鳴り、3pシュートが外れた。


「わぁ!あんなこと言って外すとかカッコ悪ッ!」


前田が叫びながらリバウンドを確保した。


インサイドが強いわね!


リバウンド特化型!?


「もう1回!」


今度は壮に返された。


「見ておけ」


壮が飛び上がり、手首を返した。


返された延長線をボールがなぞる。


パサッと音を立てて決まった。


「……この野郎」


「仲間!部長!俺ら仲間ですから!」


醜い争いしとるなー


でも、横浜羽沢は強豪。


この決勝という舞台にも慣れている。


経験は当然横浜のほうにある。


だから浦話は簡単には試合を進めさせてもらえない。


小野寺、宮澤が中心になって得点を重ねまくる。


前半が終わってみると、16点差がついていた。


「でも、これで終わるようなチームやないよね?」







side小野寺


「……大人しいな」


「ああ」


ロッカールームに戻って作戦を立て直す。


「浦話は絶対に策を持っているはずだ。油断するな」


「で、対応はどうすんですか監督」


「マッチアップは変わらない。ディフェンスは壮にボールを持たせないことだ。オフェンスはスクリーンを多様して、小野寺で決めていく」


「「「「「うっす」」」」」


「あと24分、耐えようと思うな。走るぞ」


そして腰を上げる。


「勝つのはウチだ」







「……交代した、か?」


川口が下がり、前田がセンターに。


そして前田のポジションに……


「誰だ?」


初めて見る顔だ。


少なくとも、インハイで見たことはない。


だが、直感した。


これが沢木の用意した秘策だろう、と。






side壮


勘違いされがちなことだが、浦話はそんなに強くない。


自分達でさえ勘違いしていたのだから無理もないことかもしれないが。


俺達は別に強くない。


現に浦話と横浜羽沢のマッチアップを比べたら勝てるのは俺と宮澤のマッチアップだけだろう。


あとは完敗というレベルで負けている。


それでも俺達は横浜羽沢と戦えている。


それは、それぞれに仕事を明確に割り振ってそこだけをひたすら特化させたからだ。


島田先輩はとにかくシュートを特化させた。


前田先輩と川口はリバウンドで特化させた。


植松はイロイロできるが、得点能力とアップテンポに持ち込むこと、アシストに特化している。


そう、だったら、ディフェンス特化も当然いるわけだ。


というか作り出したわけだ。






「三木!お前守りたそうな顔してるな!?」


「そんな顔してないけど」


「そうだなぁ!守りたいよなぁ!?」


「いや……はい、守りたいです」


俺は三木の粘り強さを見抜いていた。


だからディフェンスのプロとして訓練を続けさせたのだ。


インハイには間に合わなかった。


だが、ウィンターカップには間に合ってくれた。






三木を小野寺に、俺が宮澤に、島田先輩と植松が神代に。


横浜羽沢ビッグ3を封じ込める態勢が整った。


そしてインサイドはディフェンスリバウンドのみ頑張るようにして前田先輩が死守する。


各個人の力はあまりない。


だから特化させて、それを上手く運用する。


それが浦話の戦い方だ。






sideリール


「オッケーナイス三木ッ!!」


三木が小野寺の猛攻を凌いだ。


この意味は大きいわ。


壮以外であの小野寺を止めたのだから。


そしてディフェンスでいい流れを作れば、オフェンスもいい流れを作ることができる。


「壮、決めとけ」


「おぅ」


壮がボールを受け取り、すぐにドライブを開始する。


小野寺にぶつかって押し込んで行く。


「こっちだ!」


島田が飛び出しボールを要求する。


壮はそちらを向いた。


小野寺の意識もそちらを向いた。


その瞬間を狙っていた。


壮が素早くターンして小野寺を抜く。


「ッ!?しまった!」


もう遅い。


壮はフローター気味のショットをしっかりと沈めていた。


浦話は一度流れを掴めば爆発できる。








side喜美


『ああっとおおお!ここで再び沢木がパスカット!横浜羽沢ターンオーバーそして決まったあああぁぁ!!』


私たち5人は織火の家にいた。


目はテレビに釘付けになっている。


「速い……お兄さん、いつもより全然速いです」


「尻上がりに調子を上げるからね。全国の決勝の後半。壮が一番強い時間帯だよ」


『さぁ、浦話が怒涛の勢いで詰め寄ります!横浜羽沢は逃げ切れるのか!?』


画面の中、小野寺がボールを持つ。


その小野寺の前に三木が立っていた。


『三木のディフェンスが堅いですね。浦話は彼のおかげで持ち直した形です』


解説が言うとおり、三木が出てきてから一気に流れが変わった。


まず小野寺がほとんど得点を取ることができなくなった。


徹底的なマークと、かなりのフィジカルコンタクトのせいだ。


『小野寺外に回す!これは厳しいですね!中に切り込むことができていません!』


実況の言うとおりだ。


横浜羽沢はほとんど外で回すしかできなくなっている。


宮澤は突っ込もうにも兄さんが相手だし、外の神代で決めようとしても島田と植松が見張っている。


「強いですね……」


織火の言葉が全てだ。


浦話は確実に横浜羽沢を追い詰めていた。


焦りなく、疑いなく。


着実に点を重ね続ける。


その中心にいるのが、


『ここで再び沢木の3pプレイ!なんと言う強さッ!プレッシャーなどお構いなしッ!大胆不敵なルーキーが場を制圧していますッ!!』


『あの長身からのシュートを止めるのは難しいですね。しかもあの身長でシュートタッチが非常にいい。止めにくいタイプですね』


『浦話、これでついに1点差まで詰め寄りましたッ!』


そして次の相手オフェンス、小野寺からセンターに直接パスが飛び、ダンクで叩き込まれる。


しかし、


『浦話、キャプテンに託す!そして……決まったあああぁぁ!!浦話、同点まで追いつきましたッ!!』


島田と兄さんが軽くハイタッチする。


強いってのは、こういうことだ。


兄さんはそう私に語りかけているようだった。






side壮


「最後の12分だ。勝っても負けても、これが最後の12分だ」


「「「「「押忍」」」」」


「ここまでの全部、奉納するぞ。神は俺らの味方だ」


「「「「「押忍ッ!ウチには姐さんという女神がいますッ!」」」」」


「行くぞッ!」


「「「「「押忍ッ!」」」」」


「誰か私の女神発言にツッコミなさいよッ!」






横浜羽沢は、強かった。


決勝、しかも4Qの俺を止めるほどの強さだった。


こっちが島田先輩で決めれば向こうは神代が3pのお返しを決める。


植松が速攻で1人で決めれば、小野寺が個人技で決めてくる。


俺がアリウープを叩き込めば、宮澤が派手なダンクを返してくる。


4Qはお互いにビッグ3だけが得点を重ねていく。


互角だった。


完全に互角だった。


そのまま時間は過ぎていき、ついに残り時間が1分を切る。






「……ふぅ」


ボールを持つのは、俺だ。


もはやガードも俺がやるようになっていた。


こっちが24秒目一杯使って決めて、相手も24秒使ってもこちらはもう1回攻撃できる。


まったく、運がいい。


俺はボールを突きながら3pラインに近づいてく。


目の前に立つ小野寺を観察しながら思う。


たぶん前田先輩にパスして決めさせることもできるんだよな。


そっちのほうが確実かもしれない。


だが、それじゃあ神様に申し訳ないからな。


ここまでの舞台を用意してもらったのだ。


99-99


残り45秒。


この状況、神様が俺と小野寺の直接対決をお望みなのだろう。


神様の加護を得る人間としては、従わざるをえない。


いいだろう、やってやろう。


俺と小野寺の直接対決だ。


「……」

「……」


ボールを突く。


足の間をくぐらせる。


僅かにテンポをずらしていく。


小野寺の呼吸が、一瞬浅くなるのを感じた。


見逃さない。


俺はステップフェイクを入れてドライブに飛び出すフリをしてから、真上に飛んだ。


歯を食いしばり、シュートを放つ。


3pのシュートだ。


放ち、その軌跡を見る。


入ったか……?


「ッショウ!!」


島田先輩の声で入ったことがわかった。


ボールは確かにリングを射抜いた。


浦話102-99横浜羽沢


残り時間、38秒。

チクショオオオオ!


昨日えらそうに言っておきながら書ききれなかったあああぁぁ!!


畜生!こうなったら明日は2プレイだけを延々と魂削って書いてやる!


明日で終わるはずです。

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