山寺の修行者達
最強の王者の
最悪の敵
配点(貧乏)
sideリール
「むぐ……あら、朝ね」
目がぱっちりと開く。
見知らぬ天井だ。
周りを見る。
隣の知佳が裸で寝ていた。
自分の身を確認する。
着衣の乱れなし、OK。
「寒い……寒いよぉ……」
知佳がウンウン唸ってるがどうしたもんだろう。
そもそもこんな冬に裸で寝る人の神経がわからない。
「知佳、朝よ」
「もうちょい寝かせて……知佳姉さんは本州の寒さに参っているのです……」
「貴女今日は試合でしょう」
「そうでしたッ!」
一瞬で起き上がる。
「いやっほおおお!試合だぜ試合!昨日試合見てるだけ!どんだけフラストレーション溜まったかわかる!?リールちゃん!」
「晩飯をやけ食いしてたのは知っているわ」
「おぉう!昨日食ったぶんを消費せねば!今日はいつもより多く動くよ!」
と言いながら部屋を出ていく。
2人部屋に一緒に泊めてもらえるのはありがたいのだけれど、もう少し静かにならないのかしら?
……無理ね。
「っはようございます!先輩!」
「あー、知佳ちゃんおはよ」
「おはよう。今朝もテンション高いね。1日くらいテンション低い日作らない?」
「えー、今日テンション低い日ですよ?」
沖縄のみんなが、はぁ……と俯いた。
沖縄の皆さんはずっとこのハイテンションと付き合っているのか。
頭が下がるわ……
「さぁ、もりもり食べて、ぶちのめすぞー!」
知佳はバイキングで全種類を取ってきて食っていた。
あの体のどこに入るのだろうか?
「げぷ……リールちゃん。リールちゃん今日の予定は?」
「午前中に知佳の試合、午後に壮の試合を見るつもりだけど……」
「ふぅん。ま、楽しんで見るといいよ。他にもイロイロ面白い学校はいるからね」
「横浜羽沢なら昨日見たわ」
「アハハ、ヤツラも3年生ばっかだから死に物狂いだろうねぇ……私が勝つけど」
知佳の自信満々な言い方はまったく嫌みを感じさせない。
当然のことを言っているのだと、そういう印象を受ける。
そういえば、テンションは天と地の差だけどそういうところは知佳とアルは似ているわね。
「私は午前中は調整行っちゃうから壮君のところに行っとく?」
「そうね……そういえば壮はどこに泊まっているの?」
「アハハ、すごいところだよ。そりゃもう天下の浦話高校だからね」
side壮
「のぅ……邪魔だ馬鹿野郎!」
「うっぷ……馬鹿はテメェだ!筋肉押し付けてきやがって!自慢かこのやろう!」
「うお!コイツ筋肉にキスしやがった!」
「テメェが押し付けてきたんだろ!」
「ケツ向けるんじゃねぇよ!」
プッ
「「「「「ふざけんなよコラッ!」」」」」
浦話は阿鼻叫喚の地獄の中にいた。
浦話は金がない。
具体的に言うと、電気料金が今の状態から少しでも上がれば破産する程度に貧乏だ。
そんな貧乏高校が部活まで金を回すのは難しい。
ただでさえ全国級の部活がいくつもある。
バスケ部が全国に行きます、程度では当然雀の涙ほどの金しかもらえなかった。
というわけで現在俺が泊まっている場所は、
「おうっ!?仏様が冷たい目で見下ろしている!」
そう。
寺だ。
「お前ら!住職に迷惑かけるんじゃねえ!筋肉くらい我慢しろ!」
「島田先輩!さすがにオナラは耐えられません!」
「鼻で呼吸するんじゃねぇ!」
「先輩!口からオナラ入ってくること予想すると無理です!」
「大丈夫だ!俺のオナラだ!」
「「「「「犯人は部長かあああぁ!」」」」」
まぁ、金は安かった。
若干俺の権力が発動したというのもあるが、10万円で40人以上が泊まれるなら格安とかのレベルではない。
ただし、場所は狭かった。
1人1畳以下だろう。
さらにお手伝いもしなければいけない。
「すげぇ!全国の試合当日に寺の掃除してるのなんてウチくらいだぜ!」
「仏像磨きあげろッ!輝かせろ!」
「押忍ッ!雑巾部隊行きますッ!」
「まだ掃いてねぇよッ!」
「ヘイ!パス!」
「雑巾絞りは頼んだ!」
まぁ試合は午後からだから平気だろう。
それに寺ということもあって早朝に起こされたし。
「屋根も拭けッ!今日中に掃除できるところは全部掃除しちまうぞ!」
「「「「「押忍!」」」」」
「おい誰か!そとの階段掃除してこい!」
「うっす。俺行きます」
ということで俺が外で階段掃除することになった。
竹箒で塵や砂利などを掃き集める。
参拝に来た人もビックリだろう。
屈強な男達がウジャウジャといるのだから。
「あーっと……そういえば午前中に知佳が試合って言ってたなぁ」
インハイではまったく見ていないから見てやったほうがいいだろう。
今日の相手については散々研究し尽くしている。
今はただコンディションをベストにすることしかやることがない。
「壮君!」
そこに声が飛んで来る。
噂をすれば影、と言ったところか。
「私試合行っちゃうから」
と知佳がリールをこちらに押し出す。
「壮、おはよう」
「ああ、おはよう」
リールに挨拶されたので俺も返す。
「いやぁ、予想通り浦話はすごいねぇ……」
「同情、感謝します……」
くそぉ……金をくれ……貧乏校に金をくれ……
「じゃあね!知佳姉さんの絶技を見とくといいよ!」
と言って知佳は嵐のように去ってしまった。
「で、リール。知佳の試合を見に行くか?」
「ええ。見に行くつもりよ」
「じゃ、一緒に行くか」
「あ!リール姐さんじゃないっすか!お前ら!挨拶しろ!」
「「「「「姐さんチューッス!!」」」」」
「ちゅ、チューッス……」
「「「「「オドオド系萌ええええええぇぇ!!」」」」」
嫌だ。
他人のフリをしたい。
しかも島田先輩が1番声を出していたのが何とも言えないぜ……
「「「「「いただきまーす」」」」」
食事もお寺に用意してもらった。
これで1万円なんだから格安なんてレベルじゃない。
「おかげで掃除費浮きましたからねぇ」
ということらしい。
器のデカイ住職には頭が上がらない。
「肉がない!肉がねぇぞ!?」
「馬鹿野郎!浦高生たるものその程度想像で何とかせんかい!」
「臨海学校より100倍美味いぜ!」
「飯が暖かい!奇跡だ!」
「みそ汁もあったけえぞ!うめぇ!」
「貴方達、臨海学校のときどんな監獄に閉じ込められていたのよ……」
お寺らしくお肉がない。
そんなものはジャガ芋でカバーだ。
貧乏人の強い味方ジャガ芋。
俺の弁当にもよく入れられる。
ポテトサラダなんかもあった。
「沢庵で飯を食う!最高じゃねぇか!」
「押忍ッ!やる気沸いて来ましたッ!」
「住職!優勝して帰ってきますッ!」
「今日1回だけ……」
「細けぇこたぁいいんだよ!」
「押忍ッ!すんませんしたッ!」
「飯残したら試合前に外周30周走らせんぞッ!」
「みそ汁を茶碗にかけろ!沢庵でヌメリまでキッチリ取れ!片付けする人のこと考えろ!」
「部長!皿洗い俺達ですッ!」
「だったらいいや」
「部長おおおおおぉ!」
ハハハ、我ながらひどい部活だ。
「リール。大丈夫か?男子校菌に感染してないか?」
「感染はしていないわ。だいぶヤバいけど」
「気をつけろよ。感染すればまず助からない。毎日男ばかりの教室で『オナニーは勉強の前にやるか、後にやるか』なんてことを熱く討論することになるぞ」
「死ねばいいのに」
至極当然のように言われた。
ちなみに、さっきの議題については30年以上議論が続いているが未だに決着はついていない。
浦高を共学にしようぜ案は俺の代でついに決着がついて否決となっていた。
何だかんだで面白いじゃん、というのが理由らしい。
sideリール
「よし。じゃあ行くか!」
「ええ……それにしても大変だったわね」
「まさかまだ仏像が眠っていたとは……」
しかも前田先輩が隠し扉を発見したりその奥から源氏物語雲隠れが出てきたりしてイロイロあったのだが割愛。
私はその価値がよくわからない。
お寺をじっくり見るのも初めてだ。
春沼はなぜか修学旅行が卒業してからあるのだ。
「えー?だって修学なんだから卒業してからじゃん。常識的に考えて」
という常識的に考えてありえない方針を理事長が打ち出してこうなったらしい。
教師生徒共々大迷惑である。
道すがらそんなことを話したら壮は爆笑してくれた。
何だかいい雰囲気だ。
ひょっとして私たち……相性がいい?
「おー、やってるなぁ」
会場に行くと既に他の試合は始まっていた。
「いい空気ね」
「そうだな。いいテンションだ」
2人頷きながら観客席の最前列に降りる。
壮は身長のせいで目立つため、イロイロ声をかけられていた。
そして私を知っている人も何人かいて、「リールちゃん」と声をかけられたがその先の日本語を聞き取れなかった。
「お、始まるな」
アナウンスで沖縄の試合が告げられる。
会場も沸き立つ。
いよいよ、あの夏を最高に熱くした2人のうち1人。
東雲知佳がウィンターカップに出場するのだ。
side知佳
「知佳ちゃん。試合、始まるよ」
「ありがと、凜ちゃん」
呼びに来た同級生の言葉で私は試合の時が来たことを悟る。
どうやっても緊張するね……
どれだけ強くたって、どれだけ小さい大会だって、1回戦だって、私は緊張してしまう。
試合が始まるとそんなものは吹き飛ぶけど、試合前はかなりガクガクしている。
私は落ち着かなく歩き回っていた廊下を後にする。
ロッカールームから出てきた先輩達と合流。
廊下の先、光が差している。
コートへと続く廊下だ。
「よし。じゃあ行こうか」
「「「「「はい!」」」」」
部長の合図に叫ぶ。
「沖縄ッ!」
「「「「「ファイトッ!」」」」」
飛び出すと一気に視界が明るくなる。
フラッシュが瞬く。
その光景が目に焼き付く。
「帰ってきた……」
思わず声が漏れだす。
「私は帰ってきたぞッ!諸君ッ!」
「「「「「うおおおおぉ!」」」」」
いっせいに会場が沸き上がる。
帰ってきた……懐かしい戦場に帰ってきた!
side京香
「や、壮君」
「うん?お、京香じゃねぇか」
沖縄の試合を見ようと最前席に行くと知った背中2つを見つけた。
壮君と、
「リールちゃん」
私が声をかけると銀髪が振り返る。
どこか人を小馬鹿にしたような表情だが、これが通常なのだろう。
楓や美紗達の冬を終わらせた春沼のポイントガード。
視野の広さ、得点能力の高さ、クイックネスの速さ。
自己中心的な発言を繰り返すクセにやたら献身的なプレーをするポイントガード。
リール、ね。
「久しぶりだね」
「……」
「あれ?」
「京香、リールは日本語が上手くない」
「え?ホント?えっと……ボンジュール?」
「……ッ!」
うわぁ!
なんかリールちゃんかなり怒ってる!?
「お前なぁ……ロシア人にその挨拶をするとは……」
「え、ロシア人?ロシア語!?」
「英語で通じるよ」
ああ、英語ね……英語……英語……
「……」
「……」
「ち、違うよ!?英語が出てこないわけじゃないからね!?馬鹿じゃないからね!?ちょっとど忘れしてるだけだからね!?」
一緒だ……と壮君とリールが俯く。
「ほ、ほら!知佳が出てきたよー出てきましたよー」
「逸らした……」
「Oh……」
き、厳しいね2人とも!
しかし知佳が出てきたのは事実だ。
私のこのウィンターカップ、ライバルとなる2校のうち1つ。
沖縄のスーパーエース、東雲ステップ使いの知佳。
「さぁて、行こうか」
知佳の大きな声がハッキリと聞こえた。
昨日は更新できなくてすいませんでした。
私のパソコンがいよいよブロークンしそうでした。
何か奇跡の復活を遂げました。
よくやった私のパソコン……!
お前の犠牲は忘れないぞ……!
というわけで今日は2連続投下です。




