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詰め場の逆襲者

希望

そこからのひっくり返しを

なんと言うか

配点(再逆転)

side大祐


「しっかりしろ!お前らの実力はこんなものか!?」


「はぁ……はぁ……」


「……」


「プライドを傷つけられているんだぞ!?もっと激しくだ!全力を尽くせ!」


ここまで来たら後は気持ちの戦いだ。


言葉で奮い立たせるしかないのだ。


こいつらを負けさせたくない。


勝たせてやりたいんだ。


こいつらがどんだけ努力してきたか知っているから。


「別に、負けるとも思いませんが」


そこにアルの静かな声が響く。


「勝つのは春沼です。それは決定事項です」


「……そうよね。勝つのは、ウチよね」


「負けるなんて思いませんわ」


「勝つぞ!」


「よし。じゃあ4Q、僕たちの本気を見せよう」


こいつらは自分達だけで立ち直ることができる。


本当に強い奴らだ。


「よし。じゃあ勝ってこい、お前ら!」


「1、2、3」


「「「「「Fight!」」」」」






sideイリヤ


そして、最後のQが始まる。


「ヘイ!」


素早くリールを振り切りながらボールをもらおうと手を伸ばす。


「そう何度もさせないわよ!」


しかしそこにリールが食らいついて来る。


この4Qでまだこれだけの力を持っているなんて……


やっぱりリールは強いね。


「でも私のほうが強い!」


そこからさらにターンを入れて、同時に喜美から飛ばされたパスを受け取る。


そこからシュートフェイクを1回入れてリールを飛ばせる。


そこに体をぶつけながらシュートを打つ。


決まって、さらにフリースローを貰う。


そのフリースローも決めて3pプレイ。


一気に4点を突き放す。


しかし、


「お返しよ!」


リールがボールを持ち、一気に走り出す。


単騎突撃ッ!?


「対応2回!」


そこに壮の指示が飛ぶ。


対応、2回?


1回はメリルを防ぐことだ。


もう1回は……


「喜美、裏ッ!」


言いながらリールを止めに行く。


体を張って止めに行くが、リールも躊躇なく体をぶつけにきた。


激突が生じ、そこから次の攻防が生まれる。


その途中で、リールがアッサリとボールを手放した。


あまりにも速く、低い軌道だ。


アリウープは不可能だ。


リールがパスミス?


そんなわけなかった。


壮の言葉通りアルが走り込んでいた。


低い、速いパスに飛びつく。


飛んだまま片手でボールをキャッチし、そのまま左に離れたリングへと押し出す。


決まった。


「……わぉ」


もはやそんな言葉しか出ない。


あれは防ぎようがないでしょ。


2点差に戻された。






sideリール


そこから一進一退の攻防を続ける。


蓮里はイリヤと沙耶を中心に得点を重ねつづける。


私がイリヤを止められないのが原因だった。


しかしこちらもアル、メリル、私の3人が取りつづける。


そして残り3分の時点で試合が動いた。


蓮里87ー85春沼


「さて、どうしましょうかねぇ」


織火が息を切らしながらその場でドリブルをする。


目はあちこちをキョロキョロ見ており、フリーの選手を探そうとしている。


私はイリヤをピッタリマークしながら織火の目の動きに注意を払う。


やはり沙耶をよく見ているわね。


ペイントエリアに入ったり出たりする沙耶をよく見ている。


そしてメリルが焦れたように寄った瞬間に、織火が飛び出した。


「えっ!?」


メリルはその意外な行動に驚くが、すぐにピッタリとつく。


織火はそれでも強引に体を当てながら押し進み、飛ぶ。


織火はさらに空中で体を捻る。


……織火って空中機動できたかしら?


出来るのでは、と思わせてしまうところがタチが悪い。


当然、できるわけないのだ。


織火はそこから沙耶にパスを出す。


沙耶がそれを受け取り、思いっ切りのダンクを叩き込んだ。


再び、4点差。


残りは2分半チョイだ。


厳しいわね……


負ける、とは思いはしない。


しかし、ここから勝つのは大変だ。


しかしこんな時はいつだってこの子がいる。


「ヘイ」


この状況にも特に感情を抱いていないのか、無表情だ。


その無表情は頼もしかった。


「頼むわ、アル」


だからアルにボールを託す。


ここで決めるのが彼女だと知っているから。


「決着をつけましょう」


そう言ってアルが3pラインに寄る。


「望むところよ」


それに対する敵のエースが立ち塞がる。


アルがドリブルを続ける。


背を丸めて、前屈みになる。


獲物を狙う猫のような姿勢だ。


アルの目は喜美の瞳を覗き込み、ぶれない。


何の色も浮かべない青の瞳が喜美を目を射抜く。


そしてまったくの唐突に、アルがその場でジャンプした。


「なッ!?」


アルはここまでずっとドライブでの切り込みを選択し続けた。


喜美がそれに慣れていたのも無理はない。


アルはここまでを読んでプレイをしてきたのだ。


飛び上がり、放たれたボールを喜美は遮ることはできない。


脅威になることさえできない。


そして放たれたボールは当然の如くリングを射抜いた。


「1点差です」


静かにそう告げてアルは戻っていく。


その表情に昂揚はない。


「1回落ち着きましょう、みんな」


織火がそう言って一度ゲームを止めた。


織火が壮のほうを見る。


壮から何かサインが出て織火が頷く。


織火からイリヤへパスが出る。


さぁ、ここからは1点が重要になってくる。


フリースローすら与えるわけにはいかない。


「……」


「……」


睨み合い、ジリジリとにじり寄る。


一線を超えないように注意する。


「……さて」


その言葉に私の体がピクリと反応する。


その僅かな隙をイリヤは拾った。


「ラッ!!」


イリヤ独特の間合いから一気にトップスピードに乗る。


「止めて!」


「御了解」


そこにアルがブロックに入った。


完璧なタイミング。


それを見たイリヤは、そこからリングに向けてボールを放つのではなく、真上に放った。


「?」


アルはそれを止めることはできない。


それは空中に置かれたパスだった。


「ナイスパス!」


後ろから走り込んでいた喜美が飛び上がりそのボールを掴む。


「入ってなさいッ!!」


そのままアリウープを叩き込んだ。







side楓


「なんちゅう連携だ……」


「早過ぎなのと、予測不可能ですね。さしものアルも気づけませんでしたか」


私の言葉に美紗も頷く。


「これでまた3点差、まだわからないね」


知美の言葉に頷く。


ここでまた桜が3pを決めれば同点になるのだ。


3点ならどの状況からでもひっくり返せる。


「春沼のオフェンスですね」


美紗の言葉で目線をコートに戻す。


春沼はまずリールがボールを持った。


そのままオールコートでディフェンスを続けるイリヤを何とか凌ぎながら持って上がる。


3pライン付近に来たところでアルがリールの後ろに来た。


リールがイリヤに背を向けてアルにボールを差し出す。


アルはそれをリールの手から直接取って、右に動き出す。


それを見た喜美と織火が僅かに動いた。


アルは右に動き続け、リールがターンを決めて左へと動き出した。


「ボールが戻ってる」


知美の指摘通り、ボールはリールに返されていた。


「「!?」」


喜美と織火が気づいた時にはもう遅い。


そのままリールが素早く切り込んでレイアップを決めてしまった。


再び、1点差。


残り1分。


壮はタイムアウトを使わなかった。


蓮里はあと1回してタイムアウトを使うことができない。


もっと相応しい場面が来る。


壮はそれを予想しているようだった。


代わりに壮は指示を出す。


織火が頷き、喜美にパスを出す。


喜美に勝負を決めさせるか……?


違う、よく動きを見ろ。


2回の真剣勝負をした私ならわかる。


この状況ならイリヤだ。


イリヤがカールムーブという、弧を描くような軌道で走り出す。


途中で沙耶と咲をスクリーンとしてリールをこそげ落とす。


喜美からのパスが通った。


「ッ」


そこからイリヤは一瞬でシュート体勢を作る。


しかし、世界最強はその一瞬を凌駕した。


「嘘でしょッ!?」


知美の叫びも正しい。


どうしてあそこから、アルがブロックを決めているのだ?


アルが出した手によってギリギリ弾かれたボールはリングに当たり、しかし入りはしない。


「リバウンドッ!」


イリヤの声に沙耶と織火が反応する。


そこに春沼からは千里とメリルが反応した。


4人が一斉に飛び上がり、ボールは誰かの指先に当たって弾かれる。


目を追った先に、桜と咲が飛び込んでいた。


「寄越せッ!」


桜が完全に余裕をかなぐり捨てて叫びながらボールに飛びつく。


桜がダイビングキャッチでボールを拾い上げた。


そのまま全身を床に思い切り打ち付ける。


しかしボールは絶対に手放そうとはしなかった。


「こっちですわ!」


そこにリバウンドから復帰したメリルが呼ぶ。


桜が声のしたほうにがむしゃらにボールを投げて、メリルはそれを何とかキャッチした。


「対応ッ!」


そこに壮の声が響き渡る。


織火がメリルの後を追い、追い越した。


すぐにディフェンスが開始される。


しかしメリルはそこで無理に行こうとはせず、後ろから駆け込んできたリールにパスをした。


リールとイリヤが一瞬にらみ合って、そこからさらにもう1本パスが出る。


出る先は当然、


「どうも」


アルだ。


リールより後ろから走りこんできてパスをキャッチする。


3pラインを割った。


そのままドライブに行こうとする。


喜美が反応して1歩下がる。


そこを見抜いてアルは止まった。


しかし喜美もそこまでを読んでいた。


ブロックに飛び上がる。


止められるだろう。


もし、アルが2pシュートを打っていたなら。


アルは止まるとすぐに躊躇無く3pラインより後ろに戻った。


「3p!?」


喜美とアルの間に空間が広がる。


その空間のため、喜美はそのシュートをブロックすることができなかった。


放たれたシュートは真っ直ぐにリングに向かって飛び、リングの奥に当たって決まった。







side喜美


逆転……!


しかも3pを決められたから2点差だ。


あの状況で3pを打った。


その選択に恐怖を感じる。


あれだけ切羽詰った場面で、2pでも逆転できるのに、アルは3pを打った。


外れたらなど考えてもいないようなシュートだった。


そしてさらにゾッとしたのが、それを決めた後もアルの表情がピクリともしないことだった。


喜んでくれるなら、まだよかった。


吼えてくれるならありがたかった。


こちらも呼応してテンションが上がるから。


しかしアルはまったくの無表情で、特に動作もしなかった。


まるで当然の仕事をしたまでた、という風に。


兄さんがタイムアウトを取る。








「喜美、お前が決めろ」


「ええ」


「よし。最後、決めて来い」


「「「「「押忍」」」」」


そこからは話す必要も無い。


息を整え、イメージを完成させる。


笛が鳴る。


ラスト15秒の攻防が開始される。






私が最初からボールを持った。


相手はそれぞれのマッチアップ相手に付き合って隅に展開している。


しかし相手もわかっているだろう。


最後は私が決めるということが。


だから誰もが私を警戒していた。


メリルや桜でさえもピリピリしている。


しかしそれでもアルは自然体だった。


タイマーを見る。


カウントダウンが刻まれていく。


10、9、8の時点で私は動き出した。


右に切り込みに行く。


アルを誘い、すぐにターン。


視界が一気に回転する。


そして私はターンを決めてすぐに飛び上がる。


空中で姿勢が安定した。


シュートフォームをセット。


いつもどおりの動きだ。


残り4、3、の時点で腕が動き出す。


2、で手首が返った。






1、の時点で視界の隅からアルの腕が伸びてきた。







0、の時点でボールがアルの手によって弾き飛ばされていた。








sideイリヤ


「……え?」


体から力が抜ける。


試合は終わった。


笛は鳴った。


じゃあ、どうして私たちに3点が入らない?


「……なんで」


わかっている。


頭ではわかっている。


喜美のシュートはアルによってブロックされていた。


だから3pは決まらず、2点差で私たちは負けた。


だが心はわかっていなかった。


「嘘……でしょ……」


それでもやはり事実は私の心を侵していく。


そして、納得した。


「私たちが……負けたの?」


今度こそ全身から力が抜けた。


立っていられず膝から床に崩れ落ちる。


「嘘だ……嘘だよッ!!」







side織火


すぐに理解した。


私たちは負けたのだと。


天井を仰ぎ見る。


思わず息が漏れる。


「あぁ……負けましたねぇ……」


視界がゆがむ。


目から涙が零れ落ちるのがわかった。


「負けちゃいましたね……」







side壮


負けた、か。


俺は理解していた。


最後のショット、完全にアルに読みきられていた。


アルの最初の動きは喜美のあのショットを導き出すための布石でしかなかったのだ。


「……」


沙耶がフラフラとこちらにやってきて、俺の隣のベンチに腰を下ろす。


そのまま顔を下に向けて手で覆った。


「沙耶」


俺は声をかけるが、沙耶は首を振るばかりで何も答えない。


沙耶の指の間から涙が零れ落ちているのがわかった。


咲は腰に手を当てて、歓喜する春沼を睨み付けていた。


そして喜美は、


「……どうしてよ……どうして私が……」


放心したようにコートに立ち尽くすつぶやき続けている。


「どうして……どうしてよ……どうしてよおおおおおおぉぉぉ!!」


喜美の泣き叫びが体育館に響き渡った。

さすがは化物アルさんやでぇ……

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