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惨劇の開幕場

弱点がないなど

ありえません

配点(天才対決)

sideメリル


喜美さんもやりますわね


アルのあのプレッシャーを受けながら決めて来ますか。


流石は喜美さんですわ。


でも、バスケに関してだけは貴女を上回ってみせますわ!


「メリル。やりなさい」


「わかりました」


リールからのパスを受け、前を見る。


相手は織火という複雑な髪型の女性。


いったいどうなっているのでしょうか……?


間近で見てもよくわからない。


右に手を上げてボールを呼ぶ千里の姿が見える。


私はそちらを見て、右に切り出した。


「抜かせませんって!」


ついてくる織火に左肩をぶつけながら押し進む。


千里がターンを決めて、沙耶を引き離した。


そこにパスを出す。


速いパスを千里はしっかりと取り、そのままジャンプする。


中距離のここからのショットなら、まず落としませんわ。


その通り、決まった。


これが千里の強さだ。


「Nice」


千里と拳をぶつけて戻る。


さぁ、相手のオフェンスは誰で来るんですの?


蓮里は5人全員がそれぞれ30点超えできる得点力がある。


誰で来ても不思議ではない。


しかし、このような序盤に任せられる人物はイリヤだろう。


今までの試合を見ていても、序盤はイリヤが得点を取るパターンが多い。


その通りにイリヤにパスが渡った。


イリヤとリールのマッチアップだ。






side大祐


何やらリールとイリヤの間にはただならぬ因縁があるらしい。


と言ってもただ旧友というだけらしいが。


しかしリールがイリヤに対して並々ならぬ執念を燃やしているのは事実だ。


「来なさい、我が友」


「行くよ、リール」


イリヤの特徴はそのクイックネスと高身長、左利きから放たれるミドルからのショット。


この2つが合わさるとかなり強い。


抜きに来るのか、ショットなのか。


どちらも警戒しなければいけないからだ。


これをディフェンスするにはそれ相応の実力が求められる。


「ヤッ!」


イリヤはドライブを選択した。


「知ってるわよ!」


しかしそこはリール。


読み切ってコースを塞ぐ。


「まだ!」


イリヤはそこから急ストップ。


その速度差から独特な間合いのショットが放たれる。


「しまったわ」


リールが呟く先、綺麗にショットが沈んでいた。


「リール、私は強くなったよ。リールに負けないくらい、ね」


「言いおるわこの娘……」


リールは嬉しそうに笑う。


「でも、これは1対1じゃないから」


と、リールは落ちてきたボールを拾って外に出る。


そしてアルに投げ入れた。


「ウチのチームは強いわよ」


アルが前を見る。


ここから、ショータイムが始まる。






side喜美


目の前にアルが立つ。


身長は私と互角ね。


何を考えているのか、まったく表情を浮かべない。


「皆さんが貴女を強いと言います」


と、前のアルが呟く。


「あら、光栄なことだわ」


当然、とも思うが。


「私に言わせれば、これほど楽な相手もいないのですが」


トラッシュトーク?


そういうタイプには見えなかったけれど。


「証明しましょう」


アルが動きはじめる。


感覚が右に来ると告げる。


左に来そうなのはフェイント、ということね?


私はその感覚に従い右に出る。


アルは当然のごとく左にいた。


「え?」


2歩を踏んでトップスピードに乗ったアルを止めることはできない。


そのまま飛ばれて、ボールを流し込まれた。


「まず、証明しました」


「……寄越しなさい、織火」


「頼みます、喜美」


織火からボールを受け取り上がっていく。


アルはあまりプレッシャーをかけず、3pライン付近にいた。


そこまで上がり、対峙する。


ダブルチームで来る気配はない。


ナメているのか、それともアルをそれほど信頼しているのか。


どちらにしろここは私が取る場面だ。


いつだってこういう状況を戦ってきた。


私の双肩に勝利が懸かっている。


そんな修羅場もくぐり抜けてきた。


もう慣れた。


「行くわよ」


「証明2つ目です」


ドリブルのペースを変える。


少しでも相手を揺さぶろうとする。


右に出て、


左に切り返し、レッグスルーで引き付け、そこから右に飛び出す。


その尽くについてくる。


「そして左にターンです」


私がターンをしようとするのと、アルの言葉は同時だった。


「ッ!?」


慌ててスピードを上げる。


そのまま左のイリヤを見て、


「フェイクで、ステップを踏みます」


先を完璧に読まれた。


なら、その上を行けばいいだけのことだ。


しかし、ステップは一歩で。


不意をついたフローター。


不意をついた、そのはずだった。


「一歩でフローター。なんとわかりやすい」


「嘘……」


手からボールが放たれた瞬間を抑えられた。


「速攻です」


アルが飛んでボールをキャッチしたその姿勢から、ボールをそのままぶん投げた。


「戻ってッ!」


言うが遅い。


メリルがスタートを切っている。


「Dunk!」


そのまま確実にレイアップで決めてきた。


「私が……この私が……」


「証明2つ、どんどん積み重ねて行きましょう」






side楓


「喜美が止められたッ!?」


後半に調子を上げる喜美の序盤とは言え、ああも完璧に止められるなど初めて見た。


私がどうやってもできなかったことだ。


「流石はアル、ということでしょうか?」


知美が聞いてくるが、美紗は少し微妙な顔をしていた。


「いえ、アルは栄光戦の時はあれほど楓を止めることはできていませんでした。まだ1回止められただけだからなんとも言えませんが……」


そこで1回言葉を切って、自分の中で確かめるように頷いた。


「相性とか、あるいはあのレベルの戦いというものがあるのかもしれませんね」






side壮


喜美が止められた。


あれはまぐれでも偶然でもない。


喜美が自分を変えない限り何度やっても結果は同じだ。


俺がもっとも危惧していた形で、しかしもっとも望んでいた形で喜美は止められた。


さすがにあのアルが相手だとごまかしは効かないか。


世界最強の面目躍如と言ったところか。


ここでタイムアウトを取って、喜美に攻撃をするなと伝えることはできる。


しかし、それをすれば得点の負担はイリヤに掛かる。


たとえ他の3人で取ろうとしても限度がある。


だからイリヤに40点以上を取ってもらう必要が出てきてしまう。


しかしリールを相手にそれは酷だ。


というか無謀だ、無理だ。


蓮里には喜美の得点力が必要なのである。


喜美とイリヤでとにかく相手より多くの点を取る。


それが蓮里の基本方針だ。


その主砲の1つを潰されて春沼に勝てるとは思えない。


だから、喜美に攻撃をやめさせることはできない。


しかし俺から喜美にアドバイスしてやることもできない。


これは本人の心の持ちようの問題なのだ。


俺がとやかく言ったところでどうしようもない。


本人が気づくしかない。


知らず知らずに、焦りを感じる。


相手の術中に完全に嵌まっている感じがする。


嫌な感じだ。


相手の手の平の上で踊っている感覚だ。


それだけは避けなければいけないのに。


喜美を潰されただけで蓮里はカードをほとんど失った。


失策だ。


俺の初ミスだ。


猿も木から落ちる。


俺は椅子に腰を降ろすしかない。


5人に、喜美に任せるしかない。


それにしても相手のコーチ、なかなかやるじゃねぇか……





side織火


「喜美!無理しないでください!」


「そう言ってもコイツ……しつこいわよッ!」


喜美にアルがぶつかっている。


ぶつかっていると言っていいだろう。


激しいディフェンスだった。


容赦を見せるつもりはないらしい。


「出してください!」


私は急いで喜美の後ろに回る。


嫌な予感がする。


なんだか、捕われているような……!


と、咲が飛び出してきて、サインを出す。


アルからは見えない位置だ。


私は頷く。


その頷きから喜美も読み取ったようだ。


喜美は私に出すフリをしてアルをひきつけてから、


「左に飛び出す咲にパス、ですね」


ボールが取られていた。


「あ……」


「ふむ。では、証明を続けましょうか。貴女の心が折れない限り、ね」

試合は続きます。


まだ1Qも終わってないんですよ……



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