魔女の箱庭
ようこそ皆さん
混沌へ
配点(魔女の茶会)
side咲
『指揮者は全てを操る』
美紗の手の動きに合わせて周りの家やビルが一斉に浮き上がった。
ビルの上から狙撃を行っていた私はすぐに飛び降りて、空中に飛ばされることを回避した。
『炎は伝播する』
しかしそこに織火の炎が燃え上がる。
地面一帯を業火に包もうとしているのだ。
魔弾の射手は防御に関しては特に条文を持っていない。
耐久性は並の人間と一緒だ。
それでも私は勝たなければいけない。
全てを倒して壮を奪え。
この夢はつまりそういうことなのだろう。
いいだろう。
受けて立とうではないか。
『魔弾の射手は違えない』
走りながらライフルをコッキングする。
弾丸を込める必要はない。
条文が発動すれば弾丸も生成される。
引き金を引くと弾丸が銃口から飛び出す。
それは真っ直ぐ飛んだと思うと一直線に上に向かって行った。
「私ということですね」
美紗に向かって唸りをあげて飛ぶ弾丸。
美紗は持ち上げた建物を盾にするように配列する。
弾丸が建物にぶつかった瞬間、その建物を潰した。
美紗が右手を丸めると、建物も握り潰されるようになったのだ。
『魔弾を止めることはできず』
しかし追加条文を発すればいい。
弾丸は再び力を得て、建物から飛び出す。
「ぬ……しつこいですね!」
『全ては指揮者の手の平に』
美紗が弾丸に対して条文を発する。
しかし、
『魔弾は何者の支配も受けず』
追加条文でそれも解除した。
「あっれぇ!?これピンチじゃないですか!ちょっと織火、頼みます!」
「うおおおぉ!ここにも理不尽野郎が!何ですか?バスケ上手い人はみんな理不尽なんですかッ!?」
ちょっと掠ってる気がする。
「しょうがないからやってやりますよ!」
『炎は包み込む』
織火の手から飛び出した炎が広がって魔弾を飲み込む。
『魔弾は屈せず』
その包みをも突破した。
「ぬおおおおぉ!理不尽!理不尽ですよコイツら!」
あれ?
私も理不尽なの?
「美紗、やっぱ撃たれる前に撃つ方式で倒すしかありませんよ!」
「だよね!じゃあ一気にカタをつけるよ!」
『魔弾の射手は違えず』
さらにもう1発を撃った。
「理不尽だああぁ!!フツー1発だけとか制限あるでしょ!」
織火が喚くが気にしてはいけない。
私は踵を返して一気に離脱する。
「あ、待て咲!」
『炎からは逃れられず』
『指揮者は全てを見通す』
まず美紗の条文で私の周りの建物、どころか電柱まで全て浮いた。
こうなると狙撃手が身を隠す場所などない。
「夢の中だから容赦はしませんよ!」
そこに私の周りを囲むように炎が殺到する。
「むぅ……悪夢だ……」
炎に焼かれるより先に、上空から降ってきた建物に潰された。
side織火
ふぅ、何とか倒しましたね。
それにしても自分の夢なのにここまで疲れるとは……
「ねぇ、美紗……?」
上を浮遊しているはずの美紗を見上げると、美紗が落ちて来るところだった。
胸に穴が空いている。
まるで、弾丸が当たったかのような……
「え?」
そういえばさっきからこの空気を切り裂くような音はなんでしょうか?
あ、アハハ……ありえませんよ。
撃った人が死んだのに飛ぶ魔弾って何ですか。
あは、アハハ……
「理不尽だああぁ!!」
ズドンッ!
sideイリヤ
「静かになったね……」
遠くに行ってしまった喜美と楓と知美がどうなったかはわからない。
「ま、私の夢だしね。私の都合通りみんなどこかに行って私と壮の二人きりってことだよね壮!」
「ウフフ……初対面が夢の中なんてロマンチックだと思わない?」
「ちょ、近い!近いって!」
「何をやってるのーッ!」
壮に目を戻すと何と、リールが壮に抱き着いていた。
むむ、私の不安の顕在化ってことだね。
「壮から離れてよリール!」
「嫌よー。だってソウは私のモノだもの」
「壮は私の婚約者だよリール!」
「えっと、2人とも日本語で……」
「「ソウは黙ってて!」」
「……」
壮が膝から崩れ落ちて目から水滴を落としているが知ったことではない。
「どかないと実力行使だよ。私を昔の私と思わないで!」
「それでもイリヤじゃ私には届かないわ」
『氷は固める』
『魔女は笑う』
氷の槍を作りぶん投げるが、リールが魔法陣を展開して防御した。
リールの条文は魔女か。
リールらしい。
「ウフフ、夢の中ってのも乙なものね。夢の中。夢のナカとかどんな漢字振るつもりよ男の子の夢ねでも幻想よねそれって自分の理想の女の子がいるとか思ってるところがマジ爆笑ものよ」
「変わってないね、リール……」
『氷は流転する』
水の鞭を形成する。
『魔女は焦らず』
リールの手から魔法陣が展開される。
『魔女は鏡』
そこから水の鞭が飛び出す。
こちらも反撃し、お互いに相殺した。
「さぁ、カタをつけるわよ!」
『我は魔女。戦いにて最初に背を見せた卑怯者なり。されど、生きた者なり』
「奥義条文!?」
『全てが正逆であることに頷きます。この世は地獄だと認めます。我こそは魔女と認めます』
マズイ!
奥義条文は生半可な力では避けることもできない!
『魔女は笑う。魔女は鏡。魔女は逃げる者。魔女は不意を打つ者。されど、魔女は死なず』
「起動しなさい……、魔女箱庭ッ!」
魔法陣がパッと広がる。
一気に私とリール、壮まで巻き込んだ。
『氷は場を支配する』
『ここは魔女の箱庭。全ては我の思い通りに。舞い踊れよ三千世界!』
「私の条文を巻き込んで展開したッ!?」
世界が書き換えられる。
絵の具で塗り潰すようにアッサリと、世界はひっくり返った。
「ようこそ、魔女のお茶会へ」
そこはカオスな空間だった。
キリスト式の墓場だ。
十字架が立っている。
仏教式の墓場もある。
ストゥーパが立っている。
墓石も立っている。
上空は茜色とも黒ともオレンジとも区別のつかない、血のようなどす黒い空だった。
空一帯には蝙蝠とカラスが飛び回り、不吉な鳴き声が響き渡る。
墓石には蜘蛛が巣を張っている。
あたり一面にカボチャが散乱している。
原形を留めているものはほとんどなく、すべて砕けたり割られたりしている。
顔の形にくり抜かれたカボチャもあり、顔半分が怪しく笑っている。
ツンとした臭いが漂っている。
これが魔女箱庭……絶対にこんなところでお茶会なんてしたくない。
それだけは確信できる場所だった。
「どう?気に入ってもらえたかしら?」
「本気で言っているの?」
「さぁ、どうかしら?」
そして私の真正面でフワフワと浮いているリールと言葉を交わす。
私の中ではリールはこんな印象だったんだね……
「ここは私の箱庭。もう誰も私には勝てない」
それはわかる。
奥義条文とはそれだけのものなのだ。
「そうだね。潔く負けを認めるよ。展開される前に倒すべきだったね」
「あら?アッサリと認めるわね」
「うん。認めるよ……壮は譲らないけどねッ!」
『氷は固める』
「おぅ!?」
私は条文をリール、ではなく壮に対して起動する。
私からの奇襲に壮はなす術もなく氷漬けにされる。
「ちょ!?イリヤ!あなた何をッ!?」
「私をロシアの時の私と思わないことだよって言ったでしょう!」
『氷は喰らう』
私の手から飛び出した氷。
リールが介入にようとするより速く、壮の胸を貫いた。
「アハハ……アーッハッハッハハハアア!殺した!私が殺した!壮は他の誰にも渡さない!渡すくらいなら壮を殺して私も死んでやる!」
「イリヤ、あなた!まさか……ヤンデレ!?」
『氷は喰らう』
「アーッハッハッハハハアア!じゃあねリール。私の愛の重さ、実感してくれたかなぁ!?」
上から氷が降って来る。
壮のいない世界に未練はない。
一瞬の停滞もなく、氷の刃が私の首を切り裂いた。




