戦局の革命人
流れを読み
断ち切り
乗るもの
配点(煽動)
side壮
「いいな、予定通りだ」
「「「「「押忍」」」」」
帰ってきて早速この言葉を言う。
魔法の言葉、計画通り!
テンションが上がる。
「2Qもこの調子で行くぞ」
「「「「「押忍」」」」」
「少しディフェンスをきつくする。いいな?」
「「「「「押忍!」」」」」
「西条は流れに乗せなければ怖くない。智美の爆発だけは阻止しろ。喜美、ファールをしてもいい」
「わかったわ。任せておいて」
試合中は素直な喜美なんだけどなぁ。
「イリヤ、咲。いいか?外れても打ち続けろ」
「「押忍!」」
「っしゃあ行くぞお前ら!」
「蓮里!」
「「「「ファイッ!」」」」
「蓮里!」
「「「「ファイッ!」」」」
「蓮里!」
「「「「「ファイッとおおおおおお!!」」」」」
side健二
相手は何を考えているんだ?
普通なら喜美と沙耶でガンガンせめて来るはずだ。
それをロングレンジのショットを多用している。
なぜだ?
確かにシュートタッチを取られると厄介だ。
しかしこのままウチが点差を広げれば後半での挽回は厳しくなる。
壮がそんな博打を打つか?
いや、或いは……追いつく自信があるのか?
ロングが決まれば外に広がらざるを得なくなる。
そこに喜美か沙耶のアリウープが決まるとメンタルに深刻な影響を及ぼす。
智美以外の4人に鋼のメンタルを求めるのは酷だ。
シュートタッチを取らせるわけにはいかない。
「みんな、ディフェンスをさらに厳しくだ」
「「「「「はい!」」」」」
「とにかくショットにだけ警戒。抜かれたら仕方ないと思っていい」
「「「「「はい!」」」」」
「智美、喜美はたぶんあまり打って来ない。すぐにヘルプに行けるように準備を」
「任せてください」
「前半で点を取りまくろう。この2Qで爆発するよ」
「「「「「はい!」」」」」
「みんな、スクリーンを多用するよ。私は喜美とのマッチアップをずらしさえすれば決められる」
「じゃあ私がすぐにスクリーンに?」
「いや、由利がスクリーンになって。スイッチで咲が私につく。そこでミスマッチができるから」
「いいね、智美。それでもダメならダブルスクリーンをかけよう」
「よし。それで行こう。私が一気に取るよ。15点差をつくる。行くよ!西条ーファイッ!」
「「「「「っとおおお!」」」」」
side智美
2Qが開始する。
「1本決めるよ」
私は奈々子にパスを出して動く。
とにかく点数を取って行かなければ話にならない。
「スクリーン!」
由利がスクリーンに入り、上手く喜美を落とした。
スイッチで切り替わり、咲が私につく。
単純なドライブで抜きに行く。
低く、速く。
咲も弱いわけではない。
しかし相手が悪かった。
この私なのだから。
咲を抜くとイリヤがいる。
私が飛ぶのに合わせてイリヤも飛んだ。
その脇をくぐり抜けるように身を空中で丸める。
腕を引っ込めてボールを守る。
そしてイリヤを通過してからもう1度レイアップの体勢を取り、今度は放った。
決まる。
「ッシ!」
軽くガッツポーズをして下がる。
「ナイス智美!」
「ナイッシュ!」
雪と美奈の声が聞こえる。
みんなと全国に行きたい。
ここで勝てば全国だ。
「慌てることはありません。予定通りです」
織火が声をかけて蓮里を落ち着かせる。
さぁどうだ?
沙耶か喜美を使うのか?
それともまだロングに固執するのか?
「咲」
「御了解」
ノールックのパスが放たれる。
誰もいない空間に放たれたそのボールは同時に飛び込んだ咲の手に吸い込まれた。
由利が追いつく前にシュートを放つ。
「リバンッ!」
急いで美奈と雪を呼ぶ。
シュートの軌道をチラッと見る。
マズイ、入る。
スパッ!という気持ちいい音をたててショットが決まる。
咲がショットを放った姿勢のままで頷く。
「来た」
やらせてたまるか。
「奈々子、私が1人で決める!」
奈々子からボールを貰う。
勝つためにはここでエースが単独で点を重ねなければいけない。
「行くよ」
「来なさい」
喜美とのマッチアップ。
以前なら脅威と感じていただろう。
しかし今はそこまで脅威だとは思わない。
喜美は倒せないほど強いわけじゃない。
天才故の弱点があるのだ。
この高速フェイントはその1つだ。
「ッ!?」
喜美の体がグラリと揺れる。
しかし先ほどより明らかに反応が早い。
抜くことはできない。
だったらここでシュートを打てばいいじゃない!
3pラインより後ろにいることを確認。
右手にボールを乗せ、左手は添えるだけ。
ジャンプしてボールを額ほどの高さに持っていく。
「フッ!」
そのまま手首のスナップを効かせてボールを放る。
弧を描いたボールはリングの奥に当たり、跳ね返り、そしてリングの中央を通った。
「っしゃあああぁっ!!」
蓮里どころかチームメイトもビビるほどの大声を出した。
突然の咆哮に会場もざわつく。
構いやしない。
ここだ。
私の感覚が流れを捉えた。
ここが勝負所だ。
ここで一気にやれれば勝てる。
「ディフェンス!ここ1本死守するッ!」
「「「「おうッ!」」」」
私の思いが伝わったのか、みんなの構えが変わる。
この1本、絶対に止める。
さぁ、織火はどうやって攻撃する?
織火はイリヤにボールを託した。
イリヤと雪のミスマッチを使う気だ。
「さぁ行くよ」
4人が配置についたのを見てイリヤが攻撃を開始する。
完全に静止した状態から一気にトップスピードに持っていく。
雪がそれを見て抜かれないように下がった。
違うッ!
健二さんは抜かれてもいいからシュートに警戒しろと言ったのに!
「間に合えッ!」
喜美へのマッチアップは甘めにしていた。
すぐにヘルプに行けるようにしていたのが上手くいった。
イリヤの前に駆け込んで、ジャンプ。
イリヤの手からシュートが放たれる前にブロックをした。
転がったボールをすかさず由利が拾い上げる。
「ディフェンス!」
「由利、寄越して!」
織火と喜美が戻るのが見えた。
由利からボールを貰い、一気に上がる。
左に奈々子がいるはずだ。
パスをして中央で貰って決める。
左に目をやる。
それを見た喜美がそちらへ動く。
こういうフェイントにも引っ掛かるのね!
少し左に体が行った喜美の右を抜き去る。
後は織火1人だ。
強引に決める!
織火にぶつかりに行った。
ぶつかって、体が揺れながらボールを勘で投げた。
決まれ決まれ決まれ決まれ!!
ボールがリングに乗っかり、そのままコロンとリング内に落ちた。
「ッシャアアアアアアッ!!」
もっとだ。
もっと流れを引き寄せろ。
織火が落ちてきたボールを取ってコートの外に出ようとする。
私の肩をドンと突き飛ばした。
思いっきりその織火の持ったボールをぶったたいてやる。
「ちょっ!?」
笛が吹かれ、テクニカルファールを取られる。
知ったことか。
「ナイス!ナイス智美!」
「よく決めた!」
「流石ね智美!」
「こっから一気に突き放すぞ!」
会場もこっちの騒ぎに気づいて声を上げはじめる。
私への避難ではない。
むしろ西条に対する声が大きくなった。
観客は派手なパフォーマンスを見せれば喜ぶ。
会場の空気は一変した。
「「「「「西条!西条!西条!西条!」」」」」
もっと派手なパフォーマンスを見せてくれとせがむような声が響き渡る。
心が奮い立つ。
やれる。
私はこんな大舞台でもやれる!
「智美、ナイスファール」
健二さんの横を通る時にソッと声をかけられる。
さらに心が奮い立つ。
勝てる。
この試合、勝てるぞ!
side織火
マズイですねぇ。
爆発しちゃいましたね、西条。
お兄さんがすぐにタイムアウトを取った。
「今のは仕方ない。智美の読みが上手かった」
さて、これからどうするのですか?
「少し早いがここでやらないとマズイな」
お兄さんの発言に全員が頷いた。
昨日はあまりの疲れでバタンキュー
風呂に沈んだのは初めての経験でした。




