南国の雪妖精
挨拶のために
手を上げる
その振り下ろす先は
配点(呪い)
sideアル
その後もインハイ見たり那覇小学校と試合をしたりと忙しかった。
那覇小学校は弱くはなかったが、私とリール、アメリカとロシアの間にホットラインが開通してしまったので余裕で勝てた。
そして少し泳いだりして楽しく過ごし、インハイは3回戦を迎えた。
まったく同時刻に男子と女子で死闘が開始される。
注目は何と言っても横浜羽沢VS浦話と、女子の沖縄だ。
「アルはどっち見る?」
「私は男子のほうを見ようと思います。桜はどうするのですか?」
「僕も男子を見るつもりだよ」
「そうなんですの?私は女子を見ようかと」
「私は男子ね。壮を見にここまで来たんだし」
「私は女子かな?」
「……メリルと千里だけっつうのも不安だから俺は女子のほうに行こう」
「ハハハ、正直にスポーツしている女子が見たいって言いなよ」
というわけでちょうど3人ずつで分かれて試合を見ることになった。
「始まるかな?」
何とか最前席を確保した。
私がお願いします、と頭を下げると座っていた男子が全員笑顔でどいてくれた。
「是非!是非この席を!」
「いえいえ!この俺が座っていた席を!」
「温めておきました、殿!」
「今夏なんだけど……」
荷物が置かれていた席に座ったら全員が膝を着いた。
忙しい人達だ。
「サンキュー」
お礼を言うと全員笑顔で親指をあげる。
ふむ、いい人達だ。
コートに目を戻す。
「浦高!」
「「「「「ファイッ!」」」」」
あそこで凄まじい声を上げているのが浦話だろう。
あの図抜けて背が高い猿のような顔をしているのが壮に違いない。
ボールが上がる。
壮が弾き、ポイントカードが手にした。
しかし相手のポイントカードが強いですね……
楽々自分で決めていく。
しかし対する壮の動きもかなりのものだ。
運動量が豊富だし、身体能力も高い。
相手ポイントカードと壮の対決。
とても面白いものになりそうだ。
sideリール
いいわ。
いい動きよ!
それでこそ私の見込んだ男!
強いのはいいことだ。
見ていてスカッとする。
その点において壮のプレイは完璧だった。
豪快なオフェンスを立て続けに行って会場を沸かせる。
相手ポイントカードの冷静な返しも盛り上げる要因となる。
すごい舞踏だ。
「さぁ、行きなさい兄さん!」
と、歓声に沸く会場に響き渡る声があった。
声の発信源を見ると右のほうに女子がいた。
背は高い。
憎々しいことにオパーイもデカイ。
髪は軽くウェーブのかかったロングだ。
目もパッチリしていてとても綺麗な人だ。
こ、この私が気圧されるとは……!
兄さんとは兄のことを指す言葉であったはずだ。
ということはアレは壮の妹ということか。
挨拶でもしておこうか?
「動きますよ」
アルの言葉で視線をコートに戻す。
壮からセンターへのパスが繋がり、相手の激しいプレッシャーを押しのけて決める。
ようやく壮以外が上手く決めた。
しかし浦話の劣勢かしら?
壮が動き回っているが相手は全員が強い。
ここは私が叫んでアピールを……!
と、その時懐かしい香りを嗅いだ気がした。
故郷の懐かしい思い出の中の匂いだ。
この匂いは……いや、でも沖縄にいるわけない?
視界の端に、同じ色を持つ私でさえもウットリするような輝くばかりの銀髪。
白い肌が引き立てる真紅の瞳。
間違いない。
旧友だ。
私の唯一仕留め損ねた旧友だ。
イリヤだ。
「イリ……」
「喜美!どうなってる!?」
「イリヤ!さぁ声出して!」
イリヤがコートに目をやり、壮を見る。
口を大きく開けて息を吸い込み、
「頑張ってえええぇ!!お兄ちゃん!!」
綺麗な声が体育館に響き渡った直後、
「「「「「頑張ってえええぇ!!お兄ちゃん!!」」」」」
体育館の男どもが一斉に唱和した。
「む!?」
「わッ!」
アルと桜がビックリして飛び上がる。
しかし私にはそうする余裕さえなかった。
間違いない。
間違えようがない。
イリヤだ。
我が旧友だ。
私の親友だ!
しかしどうしてここにいるのか?
この南国に住んでいるにしては肌が白過ぎる。
それにあの喜美とかいう壮の妹と親しげに話している。
私の日本語のリスニング能力はそこまで高くないので何を言っているのかわからない。
私は帽子を取り出して銀髪を隠すと同時、桜に耳打ちする。
「桜、あそこの銀髪の子と隣の綺麗な女の子と……アイリさ……あのもう1人の銀髪のお母さんの会話を通訳して頂戴」
「え?何でだい?」
「いいから」
「ま、いいよ」
ここで深く尋ねずにやってくれる桜はいい人だと思う。
「えーっと?どう喜美、お兄ちゃんの様子は。一気によくなったわイリヤ」
イリヤの名前が出てきた。
確定だ。
「イリヤ、お兄ちゃんは勝てそう?」
アイリさんだ。
「勝てるよ私の彼氏だも……ん?」
桜が怪訝な顔をする。
それは私も同じだった。
「ねぇ桜。彼氏ってボーイフレンドという意味よね?」
「うーん、確かそれ以外の意味は持っていなかったはずだね……」
どういうことだ?
イリヤが壮と付き合っているということか?
まさか、あのイリヤが。
「フフフイリヤ。惚気は後でね。今はとにかく応援しないとね喜美」
「フフフッ……あんにゃろう……!」
「うわ!?リール、どうしたんだい?」
「何でもないわ。なんでもない。ええ、ホントよ?」
side大祐
「このッ!このッ!こんのおおおおおお!!」
ガン!ガン!ガン!ガン!
「これでもか!これでもか!!」
ガン!ガン!ガン!ガン!
「やめろ!やめるんだリール!」
「放しなさい大祐!」
現在、俺は修羅場のただ中にいる。
試合を見終わった後、みんなでホテルに集まった。
そこからリールが出掛けると言いだし、桜が不安だからついていくと言った。
10分後、桜が見たこともないような焦った様子でホテルに飛び込んできた。
「リールが狂ったッ!」
「ついにか!」
俺は急いでホテルから出て、桜の案内で近くの森に入った。
「フフフッ!生意気な女め……!大人しく私の後にくっついていればいいものを!この!」
ガン!
リールが釘を藁人形に打ち付けていた。
桜の伝達は間違いなかった。
「リール!正気を保て!大丈夫だ。俺の母の知り合いに裏社会の心理学者がいる!」
「その人絶対にダメでしょう」
アルが冷静に突っ込むが気にしてはいられない。
俺のさして長くもない教師人生最大のピンチだ。
「アッハッハ!可哀相にね、イリヤ!アンタは親友に男を奪われるのよ!アーハッハッハ!!」
狂ったように藁人形に釘を打ちまくるリール。
どこで覚えてきたんだそんなもん。
「郷に入れば郷に従え。極東式の呪術を掛けてやるわ!」
「いい加減にせんか!」
俺はリールを持ち上げて金づちと釘を落とさせる。
「む!?大祐!放しなさい!」
「誰が放すかバカ。おいアル。この釘と金づち、おまえが保管しておけ。おい桜。たぶんこの辺りに神社があるからコイツを焼いてもらっておけ」
桜ができるかぎり藁人形を遠ざけながら歩いて行くのを見送って俺はリールを抱えたままホテルに戻ることにした。
「この!この!放しなさい!キャー!人さらいー!」
慌てて駆け寄ってきた警察に頭を下げる。
「あぁ、あなたたちでしたか。先生、頑張ってください」
敬礼された。
「何でー!?どう見ても人さらいでしょコレ!」
「お前ら悪目立ちし過ぎだ。俺が教師でお前らが生徒なんてことはこの島の全員が知っている」
「キーッ!これだから情報の回りの早い田舎は!」
「おら、帰って説教だ」
sideメリル
大祐さんは説教だと言っていたが、あれは拷問ですの。
拷問以外の何物でもありませんの。
お尻をペンペンしたり、爪の間に薄いナイフを入れたり、太ももに棘のついたベルトを巻き付けたり。
それと同レベルの拷問が今、目の前で行われていた。
「……反省しているか?」
「……するわけないでしょ」
「そうか……仕方がない」
「嫌……やめて……嫌あああああぁ!!」
大祐が正座したリールの足をくすぐる。
「のおおおお!!あーははっははあるあじぇおあ!!」
笑ってるのか泣いているのか微妙な顔で悶絶するリール。
ひとしきり転がると大祐が再び正座をさせる。
「反省したか?」
「しました……」
日本教育の闇を見た。
「どうしてこんなことをしたんだ」
「ムカムカしてやりました。殺す気はありませんでした。反省はしていますけど後悔はしていません」
「そんなさわやかに前を見るんじゃねえよ……!」
「ごめんなさい反省しているからそれは止めてええええええぇぇ!!」
涙を流しながら身をよじるいたいけな少女と少女に覆いかぶさるようにして襲っているようにしか見えない男。
これは写真を撮れば大祐を脅すネタになると思いますの。
これから私があの拷問にかけられそうになったらこの写真をネタに自己防衛をしよう。
知佳姉さんは東雲ステップを連発して余裕勝ちしています。




