召集の異国人達
彼の者の武器は
自己中
我が儘
屁理屈
配点(交渉人)
sideアル
「じゃあ早速始めるか」
そう言われて私は目の前の相手を見る。
男子5人。
春沼の男子生徒であろうか?
みんな日本人の顔立ちだ。
「……シャッチョサンヨロシクネ」
知っている日本の挨拶をしてみる。
相手が驚愕の顔になったのは私の日本語の上手さにだろうか?
そうに違いない。
「ハハハ、ブッチノメス」
「隠させて頂きますわ!」
「お手柔らかにね。どっちにしろ君ら負けるんだから」
「ま、軽く捻り潰してやるわ」
メリルが予想外に日本語が上手かった。
「アメリカだかドイツだか知らんが、簡単に勝てると思うなよ」
男子が何か言うが理解できない。
「じゃあ、試合開始と行こうか」
仲間のこともよくわからず、ポジションすらまともに決めず、私の日本での初試合がこうして幕を開けた。
sideアル
「誰がジャンプボール跳びます?」
「そこから決めるんですか」
「千里、アンタ行きなさい」
「まぁそうだろうと思ったわ」
千里がセンターサークルに着く。
審判役の男子生徒がボールを上げて、千里が軽くコチラにボールを放って寄越した。
「Nice!」
ボールを取り、ドリブルする。
リールがボールを呼ぶ。
リールはポイントガードらしい。
よし。
私はリールにパスを出す。
リールがボールを受け取り、相手のプレッシャーを軽くいなして上がる。
ターン、ビハインドで押し込んでいく。
止まらない、止まらない……
「こんなもの!?」
止まらなかった!?
そのまま1人でペイント内に侵入して決めてみせた。
「……リール、ナイス」
「いいんじゃない?」
「じゃあ次私ね」
男子がスローインでボールをコートに入れる。
ポイントガードがボールを受けとったところに、リールと桜がダブルチームに入った。
「ぬお!?」
「ハイハイ、ちょっと頂戴ねー」
桜が奪い、その場でシュートを放った。
中距離のシュートが綺麗に沈む。
「ナイス」
桜と手を合わせる。
今度は相手も無事、こちらまで踏み込めた。
しかし、
「さぁ抜いてみなさいよ!」
「私のところに来てくれて構いませんよ?」
「情けないわね!」
鉄壁のゾーンディフェンスを前に男子は外でボールを回すだけで時間が経つ。
「来ないならこっちから行くわよ」
リールの近くの相手にボールが回った瞬間、リールの手がスッと伸びた。
ボールがリールの手にわたる。
メリルがスタートを切る。
同時にリールが思い切りボールをぶん投げた。
パスを出すのが早過ぎるし、軌道も無茶苦茶だ。
あれで取るのは難しい……
「余裕、ですのよ!」
しかしメリルはそのギリギリのパスを受け止めた。
最後の一歩、メリルの姿がぶれて見えるほどの俊足だった。
「Easy!」
飛び上がり、ボールをリングに叩き付けた。
「ナイスパス、リール!」
「アンタもよく取ったわね、メリル。流石、神速と呼ばれているだけはあるわ」
再び相手が攻め上がる。
相手のエースらしき少年がその場でのドリブルからのジャンプシュートを放つ。
飛び上がった千里に余裕で受け止められた。
リールにパスが出され、リールが上がる。
sideリール
流石はメリル。
遠くロシアにさえその名が轟いているだけはある。
私はボールを突きながらチラッと横目でコートを把握した。
フロアバランスは悪くない。
1回も合わせたことがないのに、個人で考えて上手く形作っている。
私は右に逸れていく。
左から2人のプレッシャーを受けているせいだ。
そうねぇ。
私のチームメイトだったらこれくらい取ってほしいわね。
飛び上がり、ノールックでフックパスを出す。
リング付近に勢いよく放り込まれたボール。
取るのは当然……
「はいゲットおおおおお!!」
空中で掴んだ千里だ。
ネットで彼女のプレイは見ている。
これくらいはやってくれるだろう。
いいわね。
今、私は全力でプレイできる場にいる。
相手が弱すぎるのが残念だけれど、チームメイトとのコンビネーションを確かめるだけならこちらのほうがいい。
ディフェンスにしても信頼できる。
私以外のところで抜かれまくっていらつくということがない。
桜がボール弾いた。
それを空中でアルがキャッチする。
アルがこちらに目を向ける。
パスしますか?
いらないわ。
頷いたアルが前を見る。
アル。
メリルがヨーロッパにその名を轟かせる俊足なら、アルは全世界にその名を轟かせる天才だ。
アルが1人で突っ込む。
1人目の相手をただのドライブで抜き去り、次に来た2人目の相手をスピンムーブでかわして飛び上がる。
レイアップをしようとした手を曲げて3人目のブロックをかわした。
さらに体ごと捻って4人目の追撃を逃れ、後ろに行ってしまったリングを見ずに後ろ側にボールを放り込んだ。
まったく。
何回空中でフェイクを入れる気なの?
相手が何人だろうと切り裂く最強のスモールフォワード。
「こんなものでしょうか?」
対するアルはまったく気負ったところがない。
いつも通りのプレイを決めたと、そんな感じの表情だ。
私を超えるかもしれない化け物。
それがアメリカの生んだ天才アルだった。
side大祐
母も妙なところでアタリを引く。
まず母が学校経営で成功しているというのが信じられない。
入学させる親は馬鹿なのだろうか?
こんな女が理事長している学校など最低最悪もいいところだ。
なのに何故か成功していた。
まぁそのおかげで俺は大学に行けたし、留学まで出来たのだし、就職先まで見つかったのだからこんなこと言う筋合いはないのかもしれないが。
母のエキセントリック発言が飛び出したのは1年前のことだった。
「ねぇ大祐君!バスケで日本一取れば入学者増えると思わない?」
「思わねぇ」
「だよね!思うよね!」
「俺は母さんの無視スキルがとても羨ましい」
「もう!照れるじゃない!」
このポジティブ過ぎて馬鹿なところが羨ましい。
母さんの巻き起こした騒ぎのほとんどの苦労が俺に降り懸かるのだが。
「というわけで強い選手集めてきて!」
「んなもん栄光とか桐生院が取ってるだろ」
「わかってないなぁ大祐くん!いい?小学生の可能性は無限大なの。小学校2年生くらいまでパッとしねぇなぁコイツとか思っていても小学6年生くらいで化けてる子もいるの!そういう子にチャンスを与えようという訳だよお母さんは!」
「考えてしゃべれ」
「ひっどーい!酷すぎ!こんな息子に育てた覚えはないよ?」
「育てられた覚えがねぇよ」
「親不孝め!お母さんの思い通りの子に育ちなさい!」
「アンタいっそ清々しいな!」
俺が子供の頃はまだ春沼の経営も大変で、母さんは俺を育てるヒマなどなかった。
「だいたい、こんな5年生とか6年生で転校したいと思うヤツがいねぇよ」
「ふむ。確かに」
ようやく母さんはそこで考えるフリをした。
どう見てもフリだ。
今までノリで学校経営してきた母親は伊達ではない。
パッと思いついたことしか言わないのだ。
そしてそのパッと思いついたことが最善策だったりするのでタチが悪い。
「なら外国から引っ張ってくればいいだけだよね」
「母さん。馬鹿だろ?」
「失礼な!私は頭いいよ!」
嘘付けと思う。
「小学生で外国から日本にバスケをしにくるヤツがいねぇだろ」
「いるよ。日本は魅力的なはず!」
「だいたい、6年生で留学してきて中学はどうするんだよ?ウチに中等部はないぜ?」
「ああ、じゃあ作っちゃおう」
「ハ?」
次の日。
「さて!中等部も、ついでに高等部もできたことだし!」
「待て待てええ!?今日1日で何が起きた!?」
「中等部の校舎も作ったし高等部のほうもできそうだし」
「早ぇよ!怖いくらい急ピッチだよ!」
「大丈夫よ。私の知り合いの裏社会の建築士と裏社会の設計士と裏社会の棟梁と裏社会の不動産屋と裏社会の弁護士と裏社会の教師陳を配備したからね!」
「1人くらい堅気を混ぜろよ!」
母さんの謎の人脈はいつ形成されたものなのだろうか?
死んだ親父が多分に関係ありそうだが怖くて聞いていない。
「というわけで大祐くん。君には裏社会のスカウトマンとして外国に行ってもらいます!」
「待て。俺は英語教師になるんじゃないのか?」
「そんなものは小さなことだよ大祐くん。はい、チケット」
「おぅ……って仕事早過ぎねぇか!?」
「向こうの学校にも話つけてきたから。ちゃんと説明してくるのよ?春沼小学校がいかに素晴らしいところか!」
「それは自虐か?」
「えー?本気に決まってるじゃん。じゃあ行ってらっしゃい大祐くん」
「はぁ……ってこれ、出発4時間後じゃねえか!何考えてんだアンタ!?」
「賢者は拙速を貴ぶのよ」
「ウゼェ……」
しかし母さんにケツを蹴られて渋々いくはめになった。
目的地を見てみる。
ドイツだった。
「母さん!俺が喋れるのは英語であってドイツ語じゃねえぞ!?」
英語が通じるという奇跡のおかげで無事交渉を進めることができた。
費用は全部こっちで持つ。
バスケの腕があり、日本語を学ぶ意欲があり、日本で勉強したければ来るといい。
要するにそういうことだった。
サポートとして英語が喋れる俺が付くし、他にも留学生が一緒に住む(予定)だから寂しさもないだろう。
さぁどうだ。
頭の固いドイツではなく日本に来ないかハッハッハ。
相手の学校は受けるということで、無事募集の張り紙をはることができた。
留学生募集!
オタクの国、ニッポンへ留学しませんか?
今ならなんと留学費タダ!
初等部のみ、中等部まで、高等部までを選ぶことができます。
寮も完備で各国からの優秀な留学生も集まります(予定)
こんな方、留学にチャレンジしてみませんか?
最近、右腕が疼いてお困りの方
猛烈に人を殴りたくなる方
三度の飯よりバスケが好きな方
超能力が使える方
ドラゴンボールにハマったそこの貴方
旧友が日本に行ってしまった方
おばあちゃんが日本人な方
自分の実力を世界で試したい方
参加資格
バスケが上手いこと(州トップレベル)
日本語を学ぶ意欲があること
英語が話せること
協調性があること
張り紙を作ったのは俺ではない。
念のために言っておく。
各校を飛び回って受け入れてもらったり拒否されたりとして、さぁ日本へ帰ろうとした時にさっそく応募者がいたということで俺はその子に会いに行った。
「め、メリルです!よろしくお願いします!」
「あぁ、よろしく」
応接室でその子と握手をする。
両親が両側に座っている。
「それで、留学をしたいということだな?」
「はい。是非お願いします。一度日本に、外国に行ってみたかったんですの」
メリルが強い語調で言う。
「なるほど。お父様とお母様のほうは」
「メリルがそう考えているなら、バックアップしてやるのが親の務めだと思っています」
「いい経験になると思いますので」
両親もかなり乗り気であるようだ。
「それで、バスケのほうですが……」
「は、はい。一応、これでも自信はありますの」
「ほう。見せてもらっても?」
「構いませんわよ」
ということで体育館に移動して見せてもらうことにした。
「これは……!」
「どうですの?」
何と言う俊足だ。
むしろ陸上選手を目指せよお前というレベルの健脚っぷりだ。
何せジャンプボールを取ってポイントガードがボールを投げたときにはすでにゴール下まで侵入しているのだ。
しかもオフェンスが失敗してメリルがこけて、相手が速攻で決めようとすると、立ち上がったメリルがそこからダッシュして相手のレイアップを弾いたのだ。
圧倒的な速力だった。
聞けば新聞にも何度も乗ったことがある超有名プレイヤーらしい。
小学生で俺が知っているプレイヤーなど、今アメリカで騒がれているアルという子だけだ。
「どうですの?」
「合格だ」
こうして俺はドイツから1人を確保した。
「帰ったぞ母さん」
「あ、大祐くん。次はロシアね?」
「どうしてそう仕事は早いんだよ!」
ロシアで英語が通じたのは驚愕だった。
敵性言語ではないのか。
同じ要領で各校を回っていると、またしても1人名乗り出たヤツがいるそうだ。
行ってみて、応接室に通されると少女が1人座っていた。
そして俺をチラッと見て一言。
「ようこそイエローモンキー。我がロシアへ」
躊躇なくぶん殴った。
「アンタ幼女に暴力を振るうとか最低の男ねなんて男なのあの世に行けばいいのに。私が行かせてあげようかしら?」
「仮にも面接官相手によくそれだけの暴言を吐けるものだ」
「アンタが何を勘違いしているのか知らないけれどね、選ぶのは私よアンタじゃないわ」
「へぇ、面接って逆だと思っていたが」
「アンタは目の前に巨大なダイヤの原石が落ちているのに拾わない愚か者?」
「よくもまぁそれだけの大口が叩けるものだ」
「さぁ、自己アピールをしなさい。私が留学してやるほど魅力のあるところなのかしら?」
「……メリルが来るぞ」
「メリルが!?それはいいわね!あの子と同じチームでやれるんだったら。そうね、いいわよ。行ってあげる」
メリルが来てくれることが決まっていて助かった。
まぁこんな少女を引き受けるのはお世話係の俺としては心配でしかないのだが。
「それに日本にはイリヤもいたはずね……いいわよ。旧友を仕留める仕事もあることだし。留学してあげるわ」
「そりゃどうも。両親は?」
「私の意向が最優先だそうよ」
「両親も大変だな」
やれやれと首を振って出ようとする。
「あぁ、アンタ。アルも誘っておきなさい。私と、メリルと、アル。絶対最強のチームになるわ」
「アルが受けるとは思えないんだが」
「私は受けると思うわ。あ、それと」
「まだなにかあるのか?」
「イタリア人とフランス人は絶対呼んじゃダメよ。得にフランス人とか止めて頂戴。あいつら、自国が最高だと信じて疑わないから」
「フランスじゃ英語は通じないからな」
「底意地悪い連中よ。絶対いれるんじゃないわよ。いいわね!?」
「へいへい」
こうして俺はロシアを後にした。
そして最後、俺は母さんに言われるまでもなくアメリカに来ていた。
アメリカでも同じ要領で各校を回った。
今回は名乗り出るヤツはいなかった。
ダメか、と落胆した9月のこと。
俺のもとに1通の手紙がきた。
アルが、留学をしたいという手紙だった。
まさかアメリカの生んだ天才が来るとは。
そのときの俺の驚愕っぷりはすさまじいものだった。
メールでそのことをメリルとリールに伝えた。
メリルはひっくり返ったがリールは当然、という反応だった。
「流石ねアル。やはり私が来るということで決めたのでしょうね」
募集要綱にはお前のことなど書いていなかったがな。
というとひと悶着ありそうなので黙っておくことにした。
国内のほうは母さんが飛び回ったらしく、桜と千里という日本人としては破格のプレイヤー2人もつれてきたのだ。
こうして無事に5人となり、そうして今こうやって、
ピピーッ!
審判約がホイッスルを鳴らしてゲームの終わりを告げる。
俺が点数版に目を向けると、そこには187ー31という数字が書かれていた。
強すぎる……それがハッキリとわかった。
sideアル
「というわけでー!戦勝記念!乾杯!」
「「「「乾杯」」」」
この人達はたんに宴会が好きなだけらしい。
練習試合が終わり、その後に少し体を温めて寮に帰ると再び宴会となった。
「いやー、余裕も余裕でしたわね」
「僕的には少しつまんなかったかな?まぁ6連続3pを決められたから満足だけどね」
「私もけっこう中距離も遠距離も決められて満足」
しかしリールは満足ではないようだ。
「リールは?」
「不満足よ!アンタ達が全部決めるから私の出番がないじゃない!ボール寄越しなさいよ!」
「だってリールに渡すとリール1人で決めちゃうしなぁ」
アハハと朗らかに笑う桜。
「まぁ、何だっけ?イリヤちゃん、だっけ?マッチアップするときが来たら好きにやらせてあげるよ」
「そういえばイリヤさんを仕留めるって具体的にどうするつもりですの?」
メリルの質問に全員がリールを見る。
「そうねぇ………まぁバスケで捻り潰すのは当然でしょ?後はそうね……あの子の大切なモノを奪いたいわね」
「ハハハ、嫌な女だ」
「そりゃ褒め言葉よ」
「何て女だ」
「大切なモノとはなんですか?普通はどんなものを大切にするのですか?」
「アルにとっての大切なものってなに?」
「家族です」
躊躇なく言える。
「そう。でも私はこう答えるわ。それは愛だと」
リールもほうも恥ずかしげもなくそんな言葉を口にした。
「愛を奪うのかい?」
「そうよ。もし、もし万が一に、イリヤに恋人がいたとしたら……」
そこで言葉を切ってリールがニヤッと猛禽類を思わせる笑顔になる。
「私が奪い取って、あの子に見せ付けてやるわ」
「「「「……何て女だ」」」」




