食事場の異国人
叫べよ
在るべき理由を
配点(自己紹介)
sideアル
「ということでー!日本にようこそ!アル!」
パーンとクラッカーが鳴る。
「はぁ、どうも」
「いやー、やって5人揃ったわね。よかったよかった」
千里が笑いながらキッチンのほうから料理を持ってくる。
「はいどうぞ!日本の伝統料理、鍋よ」
鍋の中で何かがグツグツと煮えている。
「これは?」
「スタミナがつくように肉がドッサリと健康のために玉ねぎがドッサリとカロリー稼ぐためにクリームかけて日本なら魚でしょってことでドサッと入れて、全てを受け入れる魔法のカレー粉を投入した鍋よ。美味しいわよ、カロリー的に」
「……味的には?」
「そういう質問は嫌いよー」
つまりはマズイと。
日本は飯が美味いという噂だったのだが。
「私のほうもみんなに作ってやったわ。感涙に咽びながら食べることね」
「おかしいなぁ。千里と同レベルの異様な物体が浮かんだ鍋に見えるんだけど」
桜が困った顔で言う。
リールが怪訝な表情をする。
「そうだけど?何でもじっくり煮込んで食えば美味いでしょう?」
「言葉選んで言うとロシア人はどこでも生きていけそうだなぁ」
「あ、あの、ドイツ料理できました……」
と、メリルがキッチンから皿を持ってやって来た。
「この!この!可愛い上に料理が出来るとか何様のつもり!?」
皿の上にはそれはもう美味しそうな厚切りのベーコンが載せられていた。
「嫁にしてほしいの?いいわよ!嫁にしてあげる!いらっしゃい我がハーレムへ!1人だけど!」
「いえ、私は出来れば男の人と……」
「なに!?私とじゃ嫌ってこと?私の酒が飲めんのかオラァ!何コレ寝取り展開?私は目の前で愛しのメリルが奪われていく様子をまざまざと見せ付けられるのね!?」
……メリル。
こちらに目線を寄越さないでほしい。
「いやぁ、メリルがいて本当によかった。やっぱり犠牲者が1人は必要だよね」
「犠牲者って言った!犠牲者って言いましたわよ!?」
「取り敢えず食えるもの持ってきたぞ」
と、そこに大祐が入って来た。
手には料理をテンコ盛りにした皿を持っている。
作ったのだろうか?
みんなはそれを見て、アイコンタクトをして顔を寄せ合う。
「日本人って空気読めるって言うけど嘘よね?」
「しかも普通に美味しそうな料理持ってきたわよアイツ。ここは男の料理全開の壊滅料理を持ってくるべきじゃないの?」
「ははは、大祐は全然ダメだなぁ」
「私も今ちょっとシラけてしまいましたの……」
「待て待てえええぇ!それが寮長かつ教師かつコーチに対する態度かああ!?」
「……寮長?」
「……教師?」
「……コーチ?」
「「「「……あぁ、そういえばそうだった」」」」
「負けねぇ……負けねぇぞ……」
部屋の隅に座り込んでそんなこと言っている時点で負けではないでしょうか?
「というか皆さんこの春休みという期間に来たんですよね?その度にパーティー開いていたのですか?」
「そうよ。まず私が最初に来て、次に桜が来て、そのあとにリール、メリルが来たわね」
千里が答えてくれる。
その度にパーティーとかこの人達は飽きないのだろうか?
「まぁ5人集まったことだし正式に挨拶するか」
大祐が復帰して立ち上がる。
かっこよくはない。
「海外組、まずはようこそ日本へ」
「ええ。ようこそしているわ」
「お前達にはお前達の留学する理由があったんだろう。そうでもなければこんな極東の外れ小島にくる訳がない」
日本人は自虐が好きなのだろうか?
「だが、ウチとしてはお前達に頼みたいことがある。だから来てもらった訳だが」
学校で留学の案内を見つけて、その資格を見たときは我が目を疑い、その後に喜んだものだ。
「お前達に、この学校をバスケで日本1にしてもらう」
「簡単な仕事ねぇ」
リールがうそぶく。
「ま、頼むぜお前ら。自己紹介だ。俺は川口大祐。この学校の理事長の息子だ」
「開き直りおった……!」
「アレはね、恥ってやつがないんですよ」
「ちょっと失望です……」
「お前らなぁ……まぁいい。お前らの寮長にして、英語教師にしてコーチだ」
「小学校の英語教師なんて大したことしないですよね」
「歌うだけだから余裕じゃないかなぁ」
「それで教師だって。笑えるわね」
「日本の英語教育もお先真っ暗ね」
ヒソヒソ囁く4人。
何がそこまで彼女達を反大祐にしているのだろうか?
「バスケの経験は……まぁ、あるな。一応、優勝もしている」
「ハハハ、自慢かこの野郎」
「自慢じゃねえよ。バスケで食っていくような能力もなかった。その程度の人間ってことさ」
「……誰か突っ込みなさいよ」
「僕はゴメンだよ?あそこまで浸っている人を追撃する趣味はないよ」
「シッ!ああいう人はね、自分を悲劇の主人公にして浸るのよ!虚無主義ね虚無主義!」
「……お前ら、俺のこと大嫌いだろ?」
「「「「ハハハ、何を今さら」」」」
「負けねぇ……絶対負けねぇぞ……」
大祐が机の端を掴んで何とか踏み止まる。
「アメリカに留学もしていたから英語はできる。何か困ったことがあったら俺に言ってくれ」
「留学したくせに教師……」
「しかも私立の……」
「しかも聞いた?何かあったら俺のところへ!ですって。美少女を1人で独占する気ね!」
「自分で美少女って言うかお前」
「事実よ」
すごいなぁ、この人達。
「リールはどうしてここに来たんだい?」
桜がリールに尋ねる。
「聞きたい?本当に聞きたいの!?いいわよ教えてあげるわ。日本に逃げたかつての旧友を仕留めに来たのよ」
「旧友を仕留めるのかい?」
「そうよ。その子は小学2年の頃に日本に行ってしまったの。私と唯一張り合えた子だったのに……」
リールが落胆の表情を見せる。
「へぇ……リールにもそんな子がいるんだね」
「もうロシアに敵はいないわ。あんな所にいても実力は伸びない。だから日本に来たのよ」
思ったより普通の理由だったのでビックリした。
「まぁアンタ達にも期待しているわよ?一応、アンタ達も理由なんだからね?ガッカリさせないでよ」
「君がどれだけ素晴らしいポイントガードかは知らないけど、パスなら取ってみせるよ」
「ナメないでよね」
「取れると思いますわ」
「私も、どんなパスでも取れますが」
「もう!最高ねアンタ達!これだけでもここに来た甲斐があったというものだわ!」
「ハハハ、それで、その旧友ってのは誰なんだい?」
桜が尋ねるとリールが口の端を上げる。
「イリヤ。石田イリヤという名前よ」
sideメリル
「じゃあメリルはどうしてここに来たの?」
千里さんに言われて私はどう答えようか逡巡する。
やっぱり正直に言うのがいいですよね。
「私のおばあちゃんが日本人でして」
「おばあちゃんが日本人?それって第二次世界大戦のときの話?」
「はい。詳しいことはよくわからないんですけど。でも、おばあちゃんはとても素敵な人なんです。ですから、おばあちゃんの祖国のことを知りたいな、と思っていまして。その時にちょうど留学の募集があったので来たんです」
バスケはそれなりに得意だったので条件も満たしていた。
日本一とかにはあまり興味はないけれど、やるからには勝ちたいですよね。
「アルさんはどうしてこちらに来られたのですか?」
さっきからムッツリと黙っているアルさんに声をかける。
綺麗な金髪碧眼だ。
「私は……皆さんのような理由はありません。ただ」
「ただ?」
「私は外を見てみたかったのです。アメリカだけで一生を終える。みんなと同じようにハイスクールに行って、大学に行って。それだけは嫌でした」
アルさんが強く言う。
「その気持ち、わからないでもないわ」
リールさんも頷く。
「私は普通が嫌いです。ですから、よろしくお願いします。貴方達とならば退屈せずに済みそうです」
「なんて上から目線の女なのかしら。でもいいわ。気に入った」
リールさんが不敵に笑って言う。
「僕も歓迎するよ。それは立派な理由だ」
「私もアンタと似たようなレベルよ。ま、何かの縁で会ったわけだし。仲良くしていきましょう?」
桜さんと千里さんもアルさんを認めたようだ。
私も当然、アルさんに好印象を抱いていた。
面白い人です。
「アルさん。これからよろしくお願いします」
sideアル
「さて、一応今日から練習開始な訳だが……」
大祐がやる気なさそうな面で言う。
私達は全員着替えて体育館に集まっていた。
「その前にお前らの実力が知りたい」
「人間風情がこの私を試すつもり?聖書にも書いてあるわ。神を試してはならない」
「俺の目には生意気なガキしか映らないが」
「聖書にはこうも書かれているわ。神は私に宿る」
「書いてねぇよ!」
しかし実力が知りたいというのはもっともだ。
「それで、どうやって調べるつもりだい?」
桜が尋ねて大祐が頷く。
「お前らに今から試合をしてもらう」
「……は?まだ何の練習もしてないんだけど」
「合わせも何もしていないんですけど……」
「だから今やるんだ。いいな?」
大祐に言われて皆で顔を見合わせる。
答えは当然一緒だ。
「「「「「私達が負けるわけないですし」」」」」
リールとイリヤは幼馴染かつ友達。
小学2年生にして上級生と張り合っていた奴らです。
この5人の中で誰が一番酷いって実は桜さんじゃないですかね?
地味にトドメさしてるの桜さんのような気が……




