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修行場の嫁姑

お互いに認め合う

永遠のライバル

配点(嫁姑)

sideイリヤ


「……どうでしょうか?」

「……こんな飯が食えるかぁ!」

「チックショオオオオ!!」


現在、花嫁修行中です。


おはようございますイリヤです。


朝ごはんを作ってます。


泣きながら作ってます。


「飯も炊けないなんてねぇ……」

「何のための炊飯器ですかッ!?」

「やかましい。鍋で炊かないかい」

「理不尽だ!」

「アァン?ウチのやり方に文句あんのかい?」

「ありません!」


ご飯炊き直し。


さっきからお腹ペコペコなんですけど。


「イリヤ……お願いだから早く……」


喜美もちゃぶ台に突っ伏している。


「初めチョロチョロ中パッパ、赤子泣いても蓋取るな!」

「そんな絵かき歌みたいなノリで出来たら苦労しませんよ!」


花嫁修行とは、朝ごはん作りから始まる。


沢木家の味を再現しなければいけないのだ。


40分後。


「フン、まぁいいね」

「ありがとうございます!」


ついに最初の関門を突破した。


「飯だあああぁ!」


喜美がいつもの余裕をどこかに置き去って飯に食らいつく。


「美味しいわよ!ええ!白米だから味ないけど!」

「というわけで次は漬物だね」

「ぎゃああああ!!」


私知ってるよ!


これが姑の嫁いびりってヤツだよね!


お母様と昼ドラ見て教わったよ!


現実やられると辛いね!


壮。


ちょっと心折れそうです。






side壮


「はいアーン」

「アーン……意味なくね?織火」

「ダメです。お兄さんはまだ体調がよくありません」

「いいよ?ピンピンだよ?」

「ダメったらダメです!」


俺は未だ織火の看護を受けていた。


「織火。学校は?」

「今は学校よりもお兄さんです」

「学校のほうが大切だからね?」

「それに母も許可をくれましたし」

「織火ママン!」


あの人はもう!


それに織火はどこから引っ張り出して来たのかナース服を着ている。


何故?


「織火、その服……」

「はい?」

「なんでもありません」


怖くて聞けない。


「とにかくお兄さんは動くの禁止!私がやりますから!」

「何でそんなに看護に目覚めたんだお前……」


将来看護士にでもなるつもりか?






side織火


お兄さんは頑張りすぎなのだ。


昨日、お兄さんのお父さんと共にお医者さんに呼ばれた。


「体に相当負担がかかってますね」

「負担?」

「一体何をやっていたらこうなるんですか?動けることに驚きですよ」


そ、そんなに悪いの!?


「何故か動けるみたいですけど、休ませたほうがいいです」

「それは入院という形で?」

「はい。息子さんには入院してもらいます」

「……わかりました。よろしくお願いします」


お父さんが頭を下げたので私も下げる。




「悪いな織火。壮が迷惑かけた」


お父さんに頭を下げられて慌てた。


「いえいえ!私のほうこそすいません……」

「何でだ?織火はよくやってくれた」

「いえ。たぶん体がボロボロなのは私たちのせいですから……」


そういえば気になっていた。


お兄さんは朝5時から私と喜美と練習をする。


それから浦話体育学校に登校し、厳しい授業をこなす。


放課後に2時間、密度の濃い練習をする。


すぐに私たちのところに来る。


当然チャリで全力だ。


そして私たちの練習を9時まで見て、ウェイトの日はお兄さんの家でさらに練習する。


みんなでご飯を食べて帰るのは10時半だ。


そこから風呂で11時。


そこから勉強もしているに違いない。


それに高校での練習や私たちの練習メニューも考えているに違いない。


エロゲもしているに違いない。


そしたらお兄さんの睡眠時間は何時間だろう?


むしろ寝ているのだろうか?


最後の1つは自業自得だが、他のは私たちが関係するものが多い。


しかもイリヤ、沙耶の直接的暴力に見舞われ、喜美の精神攻撃にも耐え、たまに。えぇ、たまに私の口撃にも晒される。


しかも私たちの行事に巻き込まれる。


お兄さんの休日は全て私たちの行事で消えている筈だ。


つまり、お兄さんをボロボロにしたのは私たちなのだ。


それが原因だ。


絶対にそうだ。


私たちのせいでお兄さんは倒れたのだ……!


「ごめんなさい。本当にごめんなさい……!」

「謝るなよ織火。断らなかった壮が悪いんだ」

「いえ。私たちが、断ったらエロゲを全て処分すると脅したんです……」

「何て奴だ!この極悪人め!」


お父さんにも叱られた。


そりゃそうだ。


「だいたいね、何かあったらエロ本を人質にする風潮はよくない!僕は反対だよ!エロ本の気持ちになったことがあるか!?」

「ありませんよ」


しかし、私たちが悪いのは確かなのだ。


「本当にすいませんでした」

「構わないさ。まぁ、なんだ?」


と、お父さんが私の頭に手を置く。


「起きたらちょっと優しくしてやれ。それでいいだろ?」






「ほら、お兄さん!アーン」

「ちょ、やめろ織火」

「あー、零しちゃダメです」


口に鮭を突っ込む。


「ぐおおおお!?詰まる!詰まる!」

「ほら、暴れちゃダメです」

「むぐううう!?」


鼻を摘むと途端に大人しくなった。


白目を剥いている。


そんなに嬉しいですね?私の介護が!


どうしましょう!


将来は看護士にでもなりましょうか?


さて、学校のほうはどうなっていますかねぇ。


喜美と、イリヤと、私がいないクラスが想像できない。


きっと静かなんでしょうねぇ……





side沙耶


「すげぇ!授業が進むぜ!」

「先生も生き生きしているぜ!」

「男子の時代がついに来た……!」


教室はガラリと変わっていた。


喜美とイリヤと織火が欠席。


ほとんど休んだことがない3人が休んだことは大きく報じられた。


具体的に言うと、放送で告知された。


喜美が隠れてドッキリを仕掛けようとしているわけではないことを知らせるためだ。


1回だけそんなこともあった。


「お代わりができるぞ!」

「すげぇ!」


給食になると男子のテンション最高潮。


日頃は喜美と織火と私で根こそぎ奪っている給食も今日は男子のぶんが残されていた。


「だいたいあいつら食べ過ぎなんだよ!」


喜美と織火がいないことでテンション上がった男子の1人が叫ぶ。


そうだそうだと同調する男子。


「このままだったらなぁ!給食でお代わりできるんだけどなぁ!」


テンションが上がったせいか、そんな言葉がポロッと漏れた。


私の中で変換が行われる。


このまま→織火休んだまま→コーチ入院したまま→寝たきり


コイツら……!


「ちょっとッ!」

「や、やめようよ。そういうこと言うの……」


私の叫びが途中で遮られた。


誰?


「本人がいないところで、そういうのよくないよ」

「何だよテメェ!女子の味方かよ!」

「そういうのじゃないよ……ただ、よくない」

「おい!コイツ女子の味方だってよ!ギャハハハ!」


お前は日本語がわからないのか?


「だから……やめてあげてよ。喜美さんの悪口言うの……」


あ、思い出した。


転校生君じゃん。


6年生からウチに転校してきた子だ。


地味だったから覚えてなかったわー。


「何だよテメェ。転校生のクセに調子乗ってんじゃねえぞ!」


転校生関係ないでしょうが……


「ちょっと来いよテメェ!ぶっ飛ばしてやる!」


先生がため息をついて拳を固めながら立ち上がる。


放っておけば先生の鉄拳制裁だが、それじゃあ私の出番がない。


「いいわよ」


私がその男子に近づく。


「はい。ぶっ飛ばしてみなさい」


思いっ切り上から見下ろす。


小さいなぁ……


「な、何だよ!誰もテメェなんか呼んでねぇよ!」

「私、転校生君の味方だから」

「は?」

「よし!来ないか。じゃあ行くわよ!」

「え?ちょ!おまっ!」


最近は私が殴る前に織火が口で解決できるようになっていたからね。


殴るのご無沙汰なんだわー。


大丈夫かな?


ちゃんと殴れるかな?


「痛くなかったらゴメンね」

「やめけえええ!?」


拳が頬にのめり込んで、男子がぶっ飛んだ。


飛距離、1メートル。


「鈍ったわね……まぁいいわ。次は誰?本人がいない所でコソコソ悪口言うような卑怯者は誰だッ!?」

「「「「「こ、コイツです!」」」」」


男子が一斉に別々の奴を指す。


「よし!お前らか!」

「「「「「ふざけんなよお前ら!」」」」」


指された男子全員、転校生君以外全員を殲滅するのに10分も必要なかった。




sideイリヤ


「……」


お義母様が床を指で擦る。


そしてその指をまじまじと見て……


「やり直しだ。イリヤ」

「ノオオオオオ!」


あんまりです!


もう虐めの領域に入ってませんか!?


「家を綺麗にするなんて基本中の基本だよ。その程度もできないのかい?」

「うぅ……」

「嫌ならやめていいんだよ」

「やりますッ!」


これはただ技術を叩き込まれるだけではない。


私の覚悟を試すテストでもあるのだ。


この程度で弱音を吐く女は沢木家に相応しくない。


「あの……喜美は?」

「喜美は今滝に打たれてるよ」


マジですか!


あれって漫画の話だと思ってた!


「ボロボロになるまで修行してくるよ、喜美は。それよりイリヤだ。さぁ、さっさとやりな」

「はい」


朝ごはんからずっと掃除をしている。


掃除機かけるだけでも一苦労なのに、そのうえ雑巾がけだ。


しかもお義母様のチェック付きで。


気が狂いそうだ。


「これが終わったらトイレ掃除して風呂掃除してもらうよ」

「ひええええぇ……」


壮。


心が折れます。






side壮


「お、織火……ヤバいってこんなとこで」

「お兄さんは嫌なんですか?」

「嫌じゃねえけど……」

「じゃあいいじゃないですか……」

「うわっ!ヤバい!それマジでヤバい!死んじゃう!」

「アハハ、お兄さん……こういうのには弱いんですね」

「織火……これ以上は……死んじゃううううう!?」


死んだ。


「くそぅ!織火にゲームで負けるなんて!真面目ちゃんの織火にゲームで負けるなんて!」


しかも男のフィールド格ゲーで負けた。


病室まで持ち込んできたコイツがすごい。


「ふぅ。喜美とやってればこの程度は身につきます」

「畜生……」


しかし織火、本当に学校に行かなかったな。


そろそろ放課後なんだけど。


「織火。いつまで俺の看病を続ける気だ?」

「そんなの、ずっとに決まってるじゃないですか」

「俺何日間入院するか知ってる?」

「1週間ですよね?知ってますよ。ほら、ここに書類が」

「何で織火が持ってるのッ!?」

「いやぁ、お父さんに頼まれまして」


1番渡したらダメな人に渡しやがった!


責任感強いから完遂しようとするじゃん!


「アハハ、そんなに嬉しいんですか?」

「いや、嬉しいけどさ……お前、学校行かないとダメだろ」

「私、学校行く必要ないですし。頭脳的に」

「学校は協調性とか養う場でもあるんだぞ!」

「私に言いますか?お兄さんが?」

「すんませんでした……」


小学生にあるまじきハイスペックだった。


「1週間、私がお兄さんを優しく看護してあげます!」

「う、うん……」


織火が優しい……怖い。





side織火


お兄さんと1週間ベッタリできる権利を得た。


よしっ!


よくやった私!


喜美とイリヤがいないタイミングでよくこの状況を手に入れた!


誰の目も気にせずベッタリできます!


心の中でガッツポーズ。


「あの……織火さん……優しくね?」

「ええ!優しくしますともッ!」





sideイリヤ


お昼ご飯もビシバシ指導を受けながら作る。


朝ごはんよりは指導回数が減った。


いつか我が家の味を作ってみたい。


こんにちは、イリヤです。


お昼ご飯を食べ終わると外に連れ出された。


次は何?


山篭もり?


「イリヤ。これを渡しとくよ」


お義母様が2つのモノを私に向かって放つ。


「これは……!?」


短剣と銃だった。


「危ない!危ないですよお義母様!」

「弾は入ってないよ」


なんだ。


初めて銃を見た。


試しに撃鉄を起こして引き金を引いた。



バァン!!



「……」

「入ってたみたいだね」


ちょっとお義母様あああぁ!?


「沢木家の女なら持っておきな」

「えっと、銃のほうは法律とかに……」

「沢木家と言えば許される。わかるかい?アンタはそういう人間になったんだよ」

「そうですか」


でも銃なんて使う場面ある?


「人前で撃ってどこで習ったの?とか聞かれたら……」

「そん時は『親父にハワイで教えてもらったんだよバーロー』とでも言っておきな」


おお、それはよさそうな言い訳だ。


「今からソイツの撃ち方を教えてやる。来な」


それから2時間、銃を撃ちつづけた。


最初は撃つ度に取り落としていたが、次第に定まって撃てるようになった。


「でも銃なんていつ使うんですか?」

「襲われた時に決まってるだろう?レイパーだったら射殺して構わないよ」

「痴漢は死刑ですか」

「短剣で切り落としてもいいよ」

「アグレッシブな……」


それから短剣の使い方も一通り教わった。


結局夜まで喜美は帰ってこなかった。





side壮


夜。


寝れない。


理由?


決まってるだろ。


「どうしたんですかお兄さん?寝ていいですよ?寝たほうがいいです。さぁさぁ!」

「寝れるか!」


隣で織火が俺の顔を見ているのだ。


寝れるわけがないだろう。


「お兄さんは睡眠不足だったんですから。寝ないとダメです」

「だったら席外してくれませんかねぇ!?」

「嫌です。お兄さんの寝る所が見たいんです」

「お前なぁ……」


もうどうしようもない。


やけくそで寝るしかない。


必殺、円周率。


3.142318495768694726475……






side織火


お兄さんが何かブツブツ言いながら目をつぶり、やがて眠りに落ちた。


「お兄さん。寝ましたか?」

「……」


寝たらしい。


ここでシラを切り通せるほどお兄さんは演技が上手ではない。


そうであったら1度くらいイリヤの追求を逃れられそうなものである。


「お兄さん、お疲れ様です」


お兄さんの寝顔は穏やかだった。


いつも笑ってるか怒ってるか泣いているかという喜怒哀楽が激し過ぎるお兄さん。


お兄さんの落ち着いた穏やかな表情というのはレアだ。


お兄さんがスースーと寝息をたてる。


今、私の目の前でお兄さんが寝ている。


あの強いお兄さんが無防備に眠りこけている。


「……いやいや、ダメですよ織火」


一瞬ゾクゾクっと来た。


今ならお兄さんを好きにできる。


この油性ペンで落書きしてやることだって……!


「むぅ……」


お兄さんが私の殺気を感じたのか嫌そうに身をよじらせる。


その様子も弱弱しいもので、いつものお兄さんとは思えない。


可愛い……!


「お兄さん……」


周囲確認。


誰もいない。


気配確認。


オーケー。


「ちょっとだけです……」


お兄さんの頬に軽くキスをすることに成功した。


佐藤織火。


人生で5番目くらいに嬉しい出来事となりました。

転校関係ないじゃんとか言いながら転校生君呼ばわりする沙耶です。


1度つけたあだ名は変わらないんです。


次回で花嫁修業編終わりにできたらいいですねぇ

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